【ネタバレ感想・解説】映画「ゲットアウト(GET OUT)」:伏線張りまくりの傑作ホラーを徹底解剖!

アイキャッチ画像:(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね、アメリカで大きな話題となりました傑作ホラー・サスペンス映画「ゲットアウト(GET OUT)」についてお話していこうと思います。

今回は日本公開前の作品についてお話しするということで、途中まではネタバレ無しで書かせていただきまして、途中からはネタバレを交えながら作品の解説等をお話しさせていただけたらと思います。

ここからはネタバレに触れますよ、という部分でまた注意書きをさせていただきます。

あらすじ・概要

「パラノーマル・アクティビティ」「インシディアス」「ヴィジット」など人気ホラー作品を手がけるジェイソン・ブラムが製作し、アメリカのお笑いコンビ「キー&ピール」のジョーダン・ピールが初メガホンをとったホラー。

アフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、白人の彼女ローズの実家へ招待される。過剰なまでの歓迎を受けたクリスは、ローズの実家に黒人の使用人がいることに妙な違和感を覚えていた。

その翌日、亡くなったローズの祖父を讃えるパーティに出席したクリスは、参加者がなぜか白人ばかりで気が滅入っていた。そんな中、黒人の若者を発見したクリスは思わず彼にカメラを向ける。しかし、フラッシュがたかれたのと同時に若者は鼻から血を流し、態度を急変させて「出て行け!」とクリスに襲いかかってくる。

映画comより引用)

ナガ
ジョーダン・ピール監督はヒッチコックの再来とも言われる才能です!!

彼が製作を担当したスパイク・リー監督最新作『ブラッククランズマン』の記事もぜひ!

 

予告編

略感

北米版Blu-rayで英語音声のみでの鑑賞になったので、1回目はとりあえず話についていこうと必死に英語を聞き取っていたので、ただただ物語に翻弄されるばかりでした。しかし、物語の本筋を理解した上で、2回目を見直して見ますと、実に緻密に計算された脚本設計がなされているということが分かりました。

ナガ
批評家からもすごく高評価されてるよね!!

そうなんです。実は本作って、北米の大手批評家レビューサイトのRotten Tomatoesでなんと99%の批評家から支持を得ているんですね。こんな作品ってそうそうないですよ。

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https://www.rottentomatoes.com/m/get_out/ より引用

しかし、いざ鑑賞してみると、この評価にも納得できてしまう出来なんですよ。アメリカの歴史や社会を作品に反映させつつ、それでいて作品として面白いのです。本作には黒人差別が関係しているというのは、前情報でも繰り返し言われています。ただ、本作で扱われているのは、もっと根深い部分です。見終わった時、身震いしてしまうほどでした。

公開された暁には、ぜひ映画館で楽しんでいただきたいと思います。

*ここからの内容はネタバレを含む内容です。未鑑賞の方は、これより先を読まないことをお勧めします。

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*ここからの内容はネタバレを含む内容です。未鑑賞の方は、これより先を読まないことをお勧めします。

本作の伏線を徹底解説

本作を1度目見た時には、いろいろと驚きの展開だったと思うのですが、2回目に本作を見てみると、序盤から伏線の連続だったということが分かるんですよね。今回はその伏線の数々を解説してみたいと思います。

ローズが警官に詰め寄るシーン

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

クリスとローズが車でローズの実家に向かっていると、鹿が突然飛び出してきましたよね。そして、2人は警察を呼びました。そして警官にクリスは運転をしていないにもかかわらず、州のIDを見せるよう要求されましたよね。

するとローズは警官になぜIDを見せる必要があるのか?と詰め寄ります。1度目を見ていた時は、白人警官の黒人蔑視的な対応に白人ガールフレンドのローズが憤りを隠せないというシーンだと思いますよね。

しかし、全ての顛末を知った後にこのシーンを見返すと、ローズは警官にクリスのID情報が渡るのを避けたかったんですよね。つまり、あの集落へクリスが向かっていたという足跡が残るのを恐れていたのです。

表層的に見ると、白人警官の黒人差別的対応なのですが、その奥底にはローズのとんでもない思惑がすでに見え隠れしていたんですね。

“Missy”(ミッシー)の正体

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

ローズの母親は本作中で”Missy”と呼称されていましたよね。設定上”Missy”という名前であるから、そう呼ばれている、これは間違いではありません。しかし、その”Missy”という名前自体が本作の行く末を暗示する重要なファクターの1つになっているんですね。

“Missy”を辞書で引いてみますと、「お嬢さん」「娘さん」という意味があるそうです。一方で、”Missy”というのは、アメリカでは一般的に”Mistress of a slave-holding”の略称として知られているんですね。つまり奴隷を抱えている家の女主人、女支配人という意味なんですね。

よって、本作でローズの母親が”Missy”という役名にされていることで、すでに物語の展望は暗示されているんですよね。

ローズの父親の家内ツアー

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

ローズの父親がクリスに家の中を案内して、飾られた写真について語っていくシーンがありますよね。ここで、彼は2つの重要なヒントを出しているのです。

1つ目は、彼の祖父が陸上の短距離の選手だったこと、そしてミュンヘンオリンピックで惜しくもジェシーオーエンスに及ばなかったと話していたシーンです。このジェシーが黒人選手であるという点も、考えてみると、いろいろと孕んでいる気はしますが、それ以上に、このセリフと後に登場する使用人のウォルターが庭を疾走していくシーンで本作の謎の全貌が見えてきませんか?

既に、催眠術や精神移植により、ローズの祖父の精神が、使用人ウォルターを支配していることが暗に仄めかされているのです。

2つ目は、”Black mold”という単語です。これは、「黒カビ」という意味を表しています。そしてローズの父親は地下にこの”Black mold”があるという話をしたんですよね。つまり地下はカビだらけだから閉め切っている、と説明しているんですね。

しかしですよ。この”mold”という単語を英和辞書で調べてみますと次のような意味が登場します。「型に入れて作る」「鋳型を作る」「形作る」「練り上げる」。つまり”Black mold”という単語は、本作の終盤で明らかになる、黒人という「型」に白人の人格を入れてしまうあの恐ろしい手術を暗示しているんですよね。さらに言えば、これがこの家の地下で行われているということまでも暗示しているのです。

ジョージィナの紹介シーンとセリフ

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

ローズの父親は、使用人のジョージィナを紹介する直前にこんなセリフをクリスに投げかけているんですよね。「私の母親は、キッチンが好きだった。」と。そしてこの直後にキッチンにたたずんでいるジョージィナが紹介されます。

セリフとカットの絶妙なタイミングで、この一連の流れで、ジョージィナの精神をローズの祖母が支配しているのではないかということを暗に仄めかしているのです。

また、ジョージィナのセリフの中に「彼らは私たち(使用人)を家族のように扱ってくれる。」というものがありました。これって本編を1度見終わった後に、見直してみると鳥肌が立つようなセリフですよね。使用人のジョージィナとウォルターの中に祖父母が入っていることを端的に表しているように感じられるからです。

ロッドの鋭い推理力

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

ロッドというのは主人公クリスの親友で警官です。彼の推理力、洞察力は実は我々が思っていたよりもずっと鋭かったんですよね。結果的には、彼の推理がクリスを救うことにもつながりました。

クリスがパーティーで白人の婦人に体を触られて、「品定め」されるようなシーンがありましたよね。さらに、白人の婦人に連れられたアンドレが家事全般をこなしているほかにも家関係の仕事をしていて、ほとんど外出しないという話がありました。

ロッドってこのあたりの情報ですでに”Sex Slave”つまり「性奴隷」という単語を挙げているんですよね。かなり早い段階で、本作の真相に手を触れていたのかもしれません。

ジョージィナの2つの人格

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

本作では、ジョージィナが2つの人格の間で揺れ動いていた形跡があるんですよね。1度目に本編を見ているときには、その意味に気づけませんでしたが、2回目を見ていると、すごくそれが感じられるシーンが散見されました。

彼女には、ローズの祖母の人格が入っていて、それによってジョージィナ自身の人格は追いやられています。しかし、時々彼女の中で人格の入れ替わり?のようなものが起きているように感じます。

まず、ローズら家族とクリスが会話しているときに、彼女はアイスティーをこぼしてしまいます。この時には、おそらく彼女の中で人格の衝突が起きていたのでしょう。またこの時、実はミッシーがカップにティースプーンを当ててしまい音を立てているんですよね。これによってこの音が催眠術に関係していることも暗示されています。

また、作中でスマートフォンの充電コードが引き抜かれていたり、本作のキーアイテムであるローズと黒人が一緒に映った写真の数々が隠されている部屋の扉が開けられているという現象が2度ずつ起こりました。

前者はおそらく、祖母の人格が行った行動だと思われます。というのもカメラのフラッシュが催眠術を説くために有効な手段だからです。そのため祖母はスマートフォンをできるだけ使えないようにするためにこの行動を取ったのでしょう。

後者はおそらく、ジョージィナ自身の人格の取った行動です。クリスを助けるために、その重要なヒントが隠されているローズの部屋の隠し扉を開けて、クリスにこの家の秘密を伝えようとしていたのです。

このトリックも1回目に見た時にはなかなか気づきにくいですよね。

ジョージィナのヘアセット・ウォルターの帽子

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

本作の終盤では、ジョージィナやウォルターたちの頭に、脳を移植された際の大きな傷跡が残っていることが明らかになります。

そして、この頭部に大きな傷があることを仄めかしていたのが、ジョージィナのヘア(ウィッグ)セットとウォルターの帽子なんですよね。

ジョージィナは鏡を見ながら、しきりに自分の髪を気にしていました。ラストの傷跡の大きさから察するに、彼女は傷跡が髪にちゃんと隠れているか確認していたのでしょう。

また、ウォルターは夜のランニングの時でさえ、不自然にも帽子をかぶっていましたよね。これも見返してみると、間違いなく頭部の傷を隠すためだということが分かります。

本作は本当に伏線の張り巡らせ方が緻密なんですよ。正直1回目観た時には、あまり気づけないのですが、全ての真相を知った上で2回目を見てみると、実は冒頭から伏線のオンパレードだったということに気がついてハッとするんですよね。

この緻密な脚本づくりが、批評家たちからの高評価に繋がっているように感じます。

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ミッシーの催眠術について解説

本作の催眠術はどこから始まっていたの?

この映画をご覧になった方は、本作のキーになっているのが、「催眠術」であることは理解できたと思います。では気になるのが、一体どこからが催眠術だったのか?ということですよね。

察しの良い方は、ミッシーが夜目覚めたクリスを部屋に招いて、あの場で「催眠術」が始まったわけではないことを理解しているかもしれません。

実は、本作の「催眠術」は、ローズとクリスの車が鹿にぶつかった時に、始まったと言えると思います。

 

鹿と当て逃げ、母の死

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

実は、鹿を車で轢いて殺してしまったシーンには重大な意味があるんですよね。

「轢き逃げ」と聞くと、本作の中で何か思い浮かぶものがありませんか?

そうなんです。クリスの母親の死に関係しているのです。

クリスの母親は「轢き逃げ」が原因で命を落としています。クリスはそのことに関して深い悲しみと大きな後悔を抱えています。つまり、鹿を轢き殺すという事案をトリガーにして、クリスに母親の死を思い出させようとしているんですよね。

つまるところこの鹿との事故の場面ですでにアーミテージ家による作為が絡んでいるんですよね。

この一件によって、「鹿=轢き逃げ=母の死」というリンクがクリスの中に生まれたのです。クリスが”SUNKEN PLACE”に沈んだときに「鹿」のイメージを見たり、クリスが閉じ込められた部屋に「鹿」の頭部のはく製があったのは、これが理由なんですよね。

つまり、催眠術はこの時点で既に始まっていたんです。

ちなみにですが、終盤にクリスが車で逃走する際に轢いてしまったジョージィナを車に乗せて逃走しようとするのは彼が洗脳から解けきっていないからなんですよね。

轢き逃げが母親の死を想起させてしまって、自分が轢いたジョージィナをそのままにしておけなかったんですね。

 

カップとティースプーンの音と催眠術

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

今度はまさにクリスが「催眠術」にかけられるあのシーンを解説していこうと思います。

この場面においては、カップをティースプーンでステアする音が非常に重要な役割を果たしています。おそらくこの場面で、ミッシーはクリスの脳内にトリガーのようなものを作ろうとしています。

つまり、カップをステアする音とクリスの母の死をリンクさせようとしています。さらに言うなれば、”SUNKEN PLACE”のシーンがまるでクリスがテレビを見ているような構図になっていたのも関係しています。

クリスにとって母親の死とテレビは大きく関係しているものです。クリスはテレビで放送している自分の母親のニュースを見ていたのに、何もできなかった、何もしなかったのです。そのため暗い部屋で一人テレビを見るあの頃の自分がフラッシュバックしています。

そして「カップをステアする音=母親の死=テレビ」というリンクが出来上がります。

またこの「催眠術」に一度かかってしまったがために、クリスは「カップをステアする音」を耳にすると、すぐにあの日の自分がフラッシュバックし、意識がそこに集中してしまい、”SUNKEN PLACE”に落ちてしまうようになっているのです。

クリスが捕らえられた部屋には、テレビが置かれていましたよね。ここではコアグラメソッドと彼に脳が移植される予定の芸術家ジム・ハドソンの会話ビデオが流されています。

それに伴って、カップをステアする音が流されます。この音を聞いた瞬間に、クリスは「催眠術」にかかり、テレビに集中せざるを得なくなってしまうんですね。

自分の意識が片隅に追いやられた状態で、延々とコアグラメソッドとドナーのジム・ハドソンの映像を見せられることで、彼は徐々に意識を侵されていくんですね。

 

催眠のメカニズム

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

人が「催眠術」にかかるには、そもそも3つの事が同時に起こる必要があると言われています。

  1. 集中
  2. 解離
  3. リラックス

つまり、リラックスした状態で、ある1つの物事に集中し、自分の意識の解離が生じた場合には人は「催眠術」にかかってしまうのです。

本作「ゲットアウト(GET OUT)」での、ミッシーの催眠シーンでは、クリスはリラックスチェアーに腰掛け、カップの音に集中している状態で、母の死のことに思いを馳せていました。これで3つの条件が揃っていたというわけです。

また、一度催眠にかかった者は、次回はこの3つの条件が揃っていなくとも、どれか1つでも催眠術にかかってしまうと言います。

 

カメラのフラッシュ

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

作中で、カメラのフラッシュが「催眠術」から解放される有効な手段であることが示唆されていました。これは本当なのでしょうか?

監督はこれに関して、半分が真実で、半分はフィクションであると言っています。

まず、こういったフラッシュ、光の点滅が「催眠術」を解くために有効であること自体は本当だそうです。これは実証されています。

一方で、作中のように2,3回のフラッシュで「催眠術」が解けるというのは現実的にはナンセンスだそうです。この点に関してはフィクションだそうですね。

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映画『シャイニング』のオマージュ

実はこの『ゲットアウト』という作品はスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』という作品のオマージュが散りばめられています。

まずタイトルロゴの出し方が完全に一致していることに皆さんはお気づきでしょうか。

こちらが『ゲットアウト』のタイトルロールです。

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

そしてこちらが『シャイニング』です。

映画『シャイニング』より引用

山の景色をバックに水色の文字でタイトルをスクリーンに映し出すという非常に細かいオマージュネタなんですよ。これに気がついた方は凄いと思います。

また『シャイニング』と言えばあの数字ですよね。

ナガ
237号室!!

そうですよね。オーバールックホテルの「237号室」は映画『シャイニング』の中でも特に印象的なシーンです。では一体映画『ゲットアウト』のどこにこの「237」の数字が隠されていたのでしょうか。

これ気がついた方意外と少ないと思うんですが、クリスの友人のロッドが空港から彼に電話をかけてくるシーンがありましたよね。

あのシーンで空港内でアナウンスされている飛行機が「237号」になっているんです。これは注意しておかないと見逃し(聞き逃し)がちな小ネタです。

また、終盤の展開は映画『シャイニング』のラビリンスのシーンを彷彿とさせますよね。明確にオマージュとは言いませんが、影響を受けていることは確かでしょう。

当ブログでは映画『シャイニング』を徹底解剖した考察記事を書いております。良かったらこちらも併せて読んでくれると嬉しいです。

 

もう一つのエンディングと本作の主題

もう一つのエンディング

実は本作には、もう一つのエンディングが存在していたんですよね。

Blu-rayディスクの特典としてそれが封入されています。

本編でのエンディングはロッドがクリスを助けに来たところで幕切れます。

一方で、もう一つのエンディングでは、クリスの下に駆けつけたパトカーには警官が乗っていて、クリスは逮捕され、刑務所に入れられてしまいます。ロッドはクリスを刑務所から出すために、あらゆる手を尽くしますが、誰にも取り合ってもらえません。クリス自身も諦めていて、ただ「あの蛮行」を自分が止めたことだけを繰り返し口にしています。

どちらのエンディングが良かったか?ですが、個人的には本編で採用されたロッドが助けに来た展開の方が良かったと思います。ロッドというキャラクターが生きているのもそうなのですが、やはり、クリスが「アーミテージ家」から逃れてきた、「あの蛮行」から逃れたということが明確になったと思うんですよね。彼が逮捕されてしまうエンディングであれば、結局彼は報われないままで、彼が何を勝ち得たのかが、不明瞭になりますよね。

そういう点でも、未公開のもう一つのエンディングを本編に採用しなかった監督の識見を評価したいと思います。

本作の主題とは?

そして、このエンディングを選んだことが監督が本作で表現したかった主題に大きく関わっているのではないかと思いました。

本作で描きたかったのは、2つの主題ではないか?という風に私は推察しました。

白人リベラル層の深層差別

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

本作に登場する白人リベラルたちは、表面的には黒人差別に否定的な姿勢を見せています。しかし、その深層には根強い黒人差別を抱えています。

現在のアメリカ社会でも同じような問題を抱えています。白人リベラルや白人エリート層は、差別に否定的です。しかし、その心理には実は強い差別主義を抱えていたりします。

トランプ氏の大統領選挙で明らかになったのは、まさにそんな白人リベラル層の潜在的差別意識だったのかもしれません。表面的には、人種差別に否定的で、ヒラリーを支持する姿勢を見せながら、実際には、トランプに投票していたみたいな層が大きかったわけです。

こんなアメリカ社会への痛烈な風刺が本作には込められていたのではないかと感じました。

また、ラストでクリスが逮捕されないことで、その風刺がより強まったように感じます。

 

奴隷解放

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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved 映画「ゲット・アウト(GET OUT)」予告編より引用

本作は紛れもなく、帝国主義時代に端を発する奴隷問題、とりわけアメリカの奴隷問題の闇を反映させています。

また今作で登場した「催眠術」ってある意味で、過去に黒人奴隷に対して行われたことに通ずるものがあります。衰弱させ、その人の意識を弱らせて、人格を否定し、労働に集中させる。これはまさしく今作で行われていた「蛮行」に近いものがありますよね。

また、ビンゴカードを使ったオークションも、奴隷売買を想起させます。

このように、本作は奴隷制度を想起させるモチーフをたくさん登場させています。それ故に、あのラストは重要だったんですよね。クリスがアーミテージ家から逃げ出して、何とか自由を獲得したというところに本作を帰結させた点は、この主題を鑑みてもやはり素晴らしい選択でした。

クリスが逮捕されて終わっていたら、この主題は中途半端になっていましたよね・・・。

 

おわりに

本作「ゲットアウト(GET OUT)」は最低でも2回は見ないとその真髄を味わえ切れない映画であると感じています。

1回目はただただ翻弄されて、そして2回目に初めて本作の真の「怖さ」が分かるのです。

ホラー映画って普通は1回目が一番怖いんですよね。そりゃ当たり前ですよね。ギミックや仕掛け、展開が分かればその「怖さ」は半減します。

しかし、「ゲット・アウト(GET OUT)」という作品に関しては、見れば見るほどに「恐ろしさ」が増していきます。登場人物のセリフの一つ一つ、行動の一つ一つに隠されたどす黒い感情が見え透いて、本当に鳥肌が立つのです。


1回目よりも2回目の方が、2回目よりも3回目の方が、恐ろしい。映画「ゲットアウト(GET OUT)」は、そんな特殊なホラー映画なんですよね。

皆さんもぜひ繰り返し鑑賞して、その恐怖を体感してみてください。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

参考にしたサイト

・催眠術に関する内容

https://www.yahoo.com/entertainment/get-out-fact-check-how-accurate-are-the-hypnosis-scenes-spoilers-123906425.html

・黒人差別に関する内容

https://www.economist.com/blogs/prospero/2017/03/not-paranormal

・本作の細かい伏線解説

https://www.buzzfeed.com/erinchack/things-you-may-have-missed-in-get-out

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4件のコメント

皆に挨拶して回るあの「品定め」のシーンで、
なんとなくの展開が読めた為、すごい映画を見た!という感動が正直していなかったのですが、
この考察を読みこの映画の本当の面白さに気づけました。
特に、主題に対する推察は、目からウロコでした。
映画とこの記事に出会えた事に感謝します。

映画初心者さんコメントありがとうございます。
この上ないお褒めの言葉に感謝感謝でございます。この記事が参考になったようでなりよりです(^ ^)

「ゲットアウト」を1度見て、ナガさんのブログを見て、またもう1度見ました。
本当に伏線張られまくりでした。そして、見れば見る程怖くなりますね。
私は主人公クリスの部屋にあった写真からも色々考えてしまいました。
仮面を被った少女…ローズ
白い犬に引っ張られる黒人…白人に操られる黒人
妊娠している黒人女性…新たな人生の誕生
羽ばたく鳥…脱出
父親が邸内を案内してる時に言う台詞「他者の文化を理解するのは貴重な体験だよ。」確かに黒人になるんだから、白人では出来ない貴重な体験をするでしょうね。
ウォルターが木割り中に一種戻ってますよね?最後にクリスに「余計なお世話だった」と訳されていますが、自分の仕事に戻るかな、と言っている気がする…だとしたら、自分の仕事って…裏の顔の仕事?祖父の精神?
ジョージィナは黒人なのに黒人スラングを理解してないんですよね。クリスが「スニッチ(チクる)」って言ったのに全然理解してませんでした。あれも中身は祖母という事を示唆していたんですね。
弟が使ってたラクロスの棒は前の犠牲者の?舌を噛み切られたというラクロス選手のか?
ビデオで祖父が「私の肉体を喜んで捧げた」というのは、黒人になってると言う事だっのですね。
使われてる音楽にも意味があるみたいで、ほんとに怖い映画でした。
ナガさんのおかげで色々理解できました。
私のは少しうがった見方かもしれませんが、楽しめました。
ありがとうございました。

@ぷっぴいさん
素晴らしい分析コメントありがとうございます!
視覚的な面の分析が非常に参考になりました!
> 仮面を被った少女…ローズ
白い犬に引っ張られる黒人…白人に操られる黒人
妊娠している黒人女性…新たな人生の誕生
羽ばたく鳥…脱出< 自分が挙げた伏線はほんの一部でして、本当にこの映画の脚本は緻密ですよね!!(^^) 何度見ても新しい発見があります!

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