【ネタバレあり】『友罪』感想・考察:キャスト陣の熱演を空回りさせた瀬々監督の功罪

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね5月25日より公開の映画『友罪』についてお話していこうと思います。

ナガ
期待値は高い作品だったんですけどね…。

昨年末の『8年越しの花嫁』瀬々敬久監督への期待値が上がり切っていたので、余計に裏切られたような気がしました。

この記事では作品の感想と、さらに内容に踏み込みつつの考察を加えていこうと思っております。

そのためネタバレになるような内容に触れるかと思います。作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




 映画『友罪』

あらすじ・概要

「64 ロクヨン」瀬々敬久監督がミステリー作家・薬丸岳の同名小説を実写映画化し、生田斗真瑛太がダブル主演を務めた人間ドラマ。

ジャーナリストの夢を諦めて町工場で働き始めた益田は、同じ時期に入社した鈴木と出会う。無口で影のある鈴木は周囲との交流を避けている様子だったが、同じ年の益田とは少しずつ打ち解けていく。

しかしある出来事をきっかけに、益田は鈴木が17年前の連続児童殺傷事件の犯人なのではないかと疑いを抱くようになり……。

益田役を生田、鈴木役を瑛太が演じるほか、共演にも佐藤浩市、夏帆、山本美月、富田靖子ら実力派キャストがそろう。

映画comより引用)

 

予告編

ナガ
というかこの手の邦画、最近多すぎないか…(笑)




映画『友罪』感想・考察(ネタバレあり)

瀬々監督はやはり当たり外れの差が大きい

本作の監督は瀬々監督ですね。この監督に対して個人的にあまり良いイメージが無かったんですよ。

彼の作品で初めて見たのが上映時間が4時間強ある『ヘブンズストーリー』ですね。

罪と罰、被害者家族にフォーカスした物語なんですが、テーマ的には今作『友罪』に通じる部分も大きいと思います。ただ4時間強の尺が意味を成していたかと言うと、微妙なラインの作品でしたね。

その次に見たの悪名高き『ストレイヤーズクロニクル』でした。これはもう言うまでもなく酷い映画です。私のオールタイムワースト邦画ランキングTOP10には必ず入ります。

彼の得意分野ではない映画だったというのもありますが、アクションを撮るのが本当に苦手なんだなぁと痛感させられますし、何よりもう映画として完成していないとすら思わされました。それくらいにこれは酷いです。

そして『64』ですかね。日本アカデミー賞なんかでは高評価されていましたが、これも個人的には酷いもんだと思いました。

監督がキャスト陣の演技を全然コントロールできてないんですよね。そのため役者を集めてもその演技合戦が空回りし続けているんです。そして蛇足感のある演出やセリフなどがもう鼻につきまくりで、邦画の悪いところを凝縮したような作品でした。

そして私が瀬々監督に対する見方が大きく変わったのが『8年越しの花嫁』という作品です。

よくあるお涙頂戴映画だろうと思って見に行ったら完全に裏切られました。

こんなにレベルの高い邦画大作は滅多に見れないぞと言うくらいに、脚本、キャストの演技、演出、セリフ、映像でのストーリーテ―リングなどあらゆる要素が洗練されていて、極めてハイレベルな映画だと思いました。詳しくは単独の記事で解説しています。

さて、ここから『友罪』のはなしに入っていきますが、まあとにかく酷かったですね。完全に悪い方の瀬々監督だと思いました。

ここからは本作に感じた駄目駄目さを徹底解説していきます。

 

脚本の空中分解とそのフォローが生んだ蛇足感

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(C)薬丸岳/集英社 (C)2018 映画「友罪」製作委員会

まず本作の脚本は瀬々監督が自ら書いているようですが、これがまあ酷いです。本作の作品構造って邦画の中で比べると『怒り』に近いのではないかと思います。

3つの物語が1つのテーマの下にある種の同時進行型オムニバス形式で描かれたのがこの『怒り』という作品です。

ただこの作品は「犯人は誰なのか?」という命題の元に1つの映画の中でも各エピソードの繋がりが感じられて、一貫した緊迫感がありました。

ただ『友罪』に関してはそれが無く、あくまでもテーマが繋がっている独立したエピソードに留まっているんですよね。

3~5つくらい存在している独立した物語が相互に連携していないんです。原作がどんな構成なのかは知りませんが、2時間弱の映画の脚本に起こす際に、まずどの人物のエピソードにフォーカスするのかを明確にした方が良かったと思います。

本作の内容を鑑みて、益田と鈴木のエピソードや関係性の変化にしっかりと尺を割けていればもっと完成度の高い作品になっていたような気がします。

正直もう大胆に佐藤浩市演じる山内の家族の話とか完全にカットしてしまえば良かったんじゃないでしょうか。

確かにテーマは繋がっていますが、正直全く益田たちのエピソードに絡んでこないので、あんまり必要ないんじゃないかと思いました。

正直もっと益田と鈴木の物語として見たかったと思うばかりですね。2人がメインキャラクターなのにも関わらず全然キャラクターを掘り下げられていないので、本当に終盤のカタルシスに繋がらないです。

そしてそういう脚本の欠点を補おうとしたのか、冒頭で徹底的に抑えた演出と演技、韓国ノワール風の撮影で傑作感を出していたのに、後半で一気に過剰演出、過剰演技、テロップ、ナレーションに依存するようになってしまいました。

ラストシーンも本当に素晴らしかっただけに、あのナレーションは蛇足すぎます。しかもナレーションを挿入しなくとも全然意味は伝わるでしょうみたいなところにまでナレーションしているので、本当に作品に厚みがなく安っぽいです。

 

キャスト陣の熱演は素晴らしい

本作のキャスト陣の演技はやはり名俳優が揃っていることもあって、非常に高水準です。

ただ『64』の時と同じで、監督がそれをコントロールしきれていなくて、すごく空回りしている印象が強いんですよね。

生田斗真って『彼らが本気で編むときは、』のような作品でもう既にその実力は証明済みです。彼は徹底的に抑えた演技をしても作品の中で存在感を放てるくらい素晴らしいものを持っています。

しかし、本作ではいちいちオーバーすぎる演技を強いられており、それが作品の中で上手く絡まっていない印象を受けました。特に終盤の絶叫するシーン。邦画の悪いところを詰め込んだようなシーンでした。

キャスト陣の演技って俳優の実力だけで決まっていると思っている方は多いと思いますが、決してそうではありません。

ヒッチコック監督なんかはキャストから演技を引き出すのが上手い監督とも言われていました。

かの有名な『サイコ』で圧巻の演技を披露したアンソニー・パーキンズとジャネット・リーはそれほどまだ俳優としては名を馳せていませんでしたが、ヒッチコック監督の指示で実力の最大値を引き出されたとも言われます。

結局素晴らしい俳優を集めても、それを作品にうまく溶け込ませるのは監督の役割なんだと思いますよ。監督が使いこなせないと、俳優の名演がただの空回りになってしまいます。




原罪に立ち返る物語

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(C)薬丸岳/集英社 (C)2018 映画「友罪」製作委員会

本作『友罪』の1つの大きなテーマが「罪」ですね。「ヘブンズストーリー」では被害者側にフォーカスしていましたが、今作では加害者側にスポットが当たっています。

そして問われるのは、加害者が罪をどう償うのかという部分ですね。現在日本には死刑制度があります。命を奪ったものは命でもってその代償を払うのだという考え方が死刑には通底しています。

しかしそれに対して本作『友罪』が突きつけるのは、生きて償うこと、罪を背負って生きることなんだと思います。そのため本作に登場する多様な人物がそれぞれが過去に犯した自分の罪と向き合いながら、何とか前に進もうとする姿を描いています。

さらに本作は「旧約聖書」のエデンのような雰囲気を感じさせますよね。それがラストのあの草原でのシーンです。

益田と鈴木はそれぞれ違う場所にいます。

しかし2人が自分の原罪が眠る場所であるとして戻ってきた土地は草原でした。

だからこそ2人は違う場所にいるにもかかわらず、同じ場所にいるようにすら感じられます。

2人は自分が犯した「罪」に向き合い、それを償うために生きること、そしてその罪をもう繰り返さないことを誓い合うんですよ。

また本作で子供を産むと、自分の子供が犯罪者になる恐怖があるというセリフを鈴木の先生の娘の口から言わせていました。確かに本作では子供の「人殺し」が印象的に描かれています。

これもまた「旧約聖書」のカインとアベルを想起させます。彼らはアダムとイブの息子であり、そして人類最初の殺人の加害者・被害者となりました。

加えて本作では「罪」という概念を普遍化しています。つまりラストシーンでエデンを想起させ、「原罪」に立ち返ることで、人類は誰しも罪を抱えながら生きているということを明確にしています。

ヨハネの福音書に「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」というイエスの有名なセリフがあります。この言葉を聞いた律法学者やパリサイ人は彼女の罪を不問としました。

「罪」は1度犯すと無くりません。一生消えることなく、その人について回るものです。しかし大切なのはその「罪」と向き合い、逃げずに生きていくことでしかありません。この世界に生きとし生ける人々はみな罪人なのだから自分の罪を自覚し、そして背負って生きていくのです。

 

昨今の週刊誌事情に物申す


(C)薬丸岳/集英社 (C)2018 映画「友罪」製作委員会

この映画ってよくよく考えると昨今の日本のジャーナリズムや週刊誌等について言及していますよね。近年週刊誌は芸能人の恋愛事情を調べ上げて、世間の知るところとし、過激でセンセーショナルなネタで読者を荒稼ぎしました。

ただ最近どうもそのジャーナリズムが暴走を始めて、スクープや注目を集めることにばかり執心して、本来の意義を見失っているんですよね。もはや真実ですらないことをでっちあげて過激に書き綴っては世間の関心を集めるんですよね。

アメリカのジャーナリズムの暴走を描いた『ナイトクローラー』という作品が印象的ですが、日本でももはや同じようにショッキングで過激な情報をひたすらに追い求める傾向が存在しているんだと思います。

彼らは撮られる側にも人としての権利があるのだということを完全に放念しています。それが仮に過去に殺人を犯した人物であったとしてもその権利は平等に在ります。

真実を伝えることで誰かを救いたいと願い続けた主人公の益田のジャーナリストとしての信念こそが昨今の日本のジャーナリズムに必要なものなのだと思います。誰かを辱める記事で購買させるのではなくです。




おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『友罪』についてお話してきました。

いやはやかなり期待して見に行ったんですが、これは完全にダメな方の瀬々監督でした。とにかく邦画大作らしい悪点が目立ち放題でした。

瀬々監督は映像でもしっかりとストーリーテ―リングできる手腕を持っていますから、ぜひとももっと良い意味で邦画らしくない映画を撮って欲しいです。

演出、演技、セリフ、などすべてをしっかりと抑えめに留め、その分作品の余白を増やすようにしてほしいです。

やはり『8年越しの花嫁』のインパクトがとてつもなく強いので、今作の『友罪』が多少駄目でも瀬々監督を信じてしまいます。ですので次回作も見に行くことでしょう。

キャスト陣の演技が素晴らしいだけに本当にそれを空回りさせてしまった瀬々監督は、もっと演技をコントロールできるようにしてほしいと思いました。それが出来ないとせっかく名俳優を集めても、魅力ある演技合戦を演出することはできないんですよね。

素晴らしさもありつつ、ただそれ以上に欠点も多い映画『友罪』を良かったら劇場で見てみても良いのではないでしょうか。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

 

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4件のコメント

ドストライクの解説でした。
まだ友罪は観ていないのですが、ナガさんのブログ踏まえた上で楽しみに観てきます!

@いつもみてますさん
ありがとうございます!!
もちろん良い部分もたくさんある映画ですんで楽しんでくたざい(^^)

論評、拝見致しました。
他の映画レビューサイト等も拝見して、総じて貴殿の仰ることに集約しているのですが、今作品そんなに評価が低いとは自分は思えないのですが、間違った観方をしているのでしょうか?正直、映画の観方に自信喪失しております。
私個人は、色々な話の筋をあれだけゴッタ煮にしながらもしかし溶け込ませないストーリーデザインに、逆に感心したのですが・・・
とかく、すぐカタルシスを得たがる風潮自体に疑問をもっていて、映画はもっと観客に疑問符をマシンガンのように叩き打つ気概が拡がって欲しいのですが・・・ やはり、時間と金がその余裕を奪っているんでしょうかねぇ・・・

@通りすがりさん
コメントありがとうございます。
映画の見方も評価基準も人それぞれですし、間違いなんてないですよ。私は私の評価基準と見方でこういう感想になりました、というだけの話です。

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