Netflix映画『オキシジェン』ネタバレ解説・考察:幸福な余韻に満たされるラストを信じるか?

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですねNetflixで配信がスタートした映画『オキシジェン』についてお話していこうと思います。

ナガ
映画館が休業してるから全然新作見れないんだけど!!(泣)

5月いっぱい映画館に行けそうにないので、Netflixオリジナルに救われているのですが、とにかく今月の配信ラインナップは豪華ですね。

その中でも個人的に楽しみにしていたのが、今回お話していく映画『オキシジェン』です。

なぜ、今作の公開を心待ちにしていたのかと言いますと、監督がアレクサンドル・アジャだからなんですよ。

ナガ
いや、それ誰よ?

そう思われた方も多いかもしれませんね(笑)

アレクサンドル・アジャ監督は、終止不穏な空気に満たされた独特のサイコムービー『ルイの9番目の人生』やデカいワニが人間を食らっていくパニックムービー『クロール 凶暴領域』などで知られる監督です。

この2本も1つの主軸となる設定ありきで、その「見せ方」で観客を惹きつける作風で、『クロール 凶暴領域』なんかは人喰いワニだけで87分の映画が撮れるんだ!と驚かされました。

そして、今回の『オキシジェン』もまたワンシチュエーションスリラーなんですよね。

主人公のエリザベス・ハンセンという女性が記憶喪失の状態で謎のポッドに閉じ込められている状態で物語が始まり、徐々にポッド内の酸素が減少していき、窮地に追い込まれます。

そんな状況で彼女が記憶を取り戻していく過程とポッドから脱出する方法、そしてポッドの正体の開示がリンクしていく不思議な物語になっていました。

とりわけ、序盤も序盤で残りの酸素が「20%」とかになってるので、「ここからなにやるんだよ!」と思わずツッコミを入れたくなってしまったのですが、なかなかそこからの展開も意外性があり、何と言ってもラストがすごく良かったです。

映画館に行けないという方は、「おうち映画」ということで、ぜひ『オキシジェン』ご覧になってみませんか?

ということで、今回はそんな本作について自分なりに感じたことや考えたことをお話していきます。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事です。

ナガ
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




Netflix映画『オキシジェン』解説・考察(ネタバレあり)

謎めいているが核心に迫るファーストカット

(Netflix映画『オキシジェン』より)

映画『オキシジェン』のファーストカットは、最初見た時は謎めいているのですが、一度見終わってから見返すとその意味に気がつけるものになっています。

ナガ
このタイプの映画のファーストカットは作品のその後の展開を象徴するものになっていることが多いよね!

ジョーダン・ピール監督の『Us』もそうでしたし、2021年に日本で公開された『ビバリウム』なんかもそうでした。

『オキシジェン』のファーストカットは、ウサギが迷路の中を歩いていくというものでしたが、みなさんはこの描写の意味が分かりましたか?

端的に言うと、

  • ウサギ=クローン=主人公のエリザベス・ハンセン
  • 迷路=脳=主人公の記憶

ということになりますね。

エリザベス・ハンセンは、自身が開発したクローン技術と記憶の転送技術によって、自らのクローンに自分の記憶を移植しました。

そのため、クローンの視点で言うと、エリザベス・ハンセンの記憶を生まれた瞬間から埋め込まれており、それが自分の記憶として蘇ってくるという感覚を味わうわけです。

この感覚を視覚的に表現したのが、まさしくファーストカットだったんですね。

クローンのエリザベスは、埋め込まれた記憶の迷路をうろうろとしながら、自分の存在について知ろうと試みました。

ナガ
こういう後から真意が分かるファーストカット、個人的に大好物です!

 

モロー大尉と謎の声の正体

(Netflix映画『オキシジェン』より)

本作の物語の展開のさせ方は、トム・ハーディー主演の『オン・ザ・ハイウェイ』に非常に似ています。

電話通信によって以外で主人公以外のキャラクターが登場することはなく、彼らとの交信を通じて、少しずつエリザベスの置かれている状況が変化していくのです。

そんな中で、序盤の重要な通信相手がモロー大尉でした。

彼は警察組織に属している人間で、警察に通報してきたエリザベスを救おうと親身になってくれています。

しかし、途中から彼の通信の背後に謎の声が紛れ込むようになり、モロー大尉はエリザベスを混乱させるような発言を繰り返すようになりました。

ナガ
エリザベスに結婚していた経歴はないと言った発言をしていたよね!

このモロー大尉に指示を出している謎の声の正体が何者なのかが1つ物語の謎になっていたわけですが、終盤にかけてその正体が明かされていきます。

彼は当初純粋にエリザベスを救おうとしていましたが、捜査の過程で、地球外への植民プロジェクトを進める組織に感づかれ、いわゆる「口封じ」をされてしまったわけですね。

というよりは、エリザベスが記憶を取り戻して、自分の現状を地球の人間にリークするような事態になってはいけないので、必死に記憶を取り戻すのを妨害しようとしていたのです。

ナガ
後から見返すと、こうした謎めいた展開がきちんと1本の線で繋がっていくのが心地良いですね!

ちなみに、彼女が物語の中盤で話をしていた女性が後にクローンではないエリザベスのオリジナルだったと分かるのも面白かったですね。

オリジナルがクローンに生きて欲しかったのは、自分にはもう更新することのできない夫との思い出を遠い世界で更新して欲しいというささやかな願いだったのではないでしょうか。



閉じ込める側が閉じ込められる側に

(Netflix映画『オキシジェン』より)

そして、本作『オキシジェン』の中では、しきりにマウス(ネズミ)のカットが登場します。

マウスはエリザベスの記憶の中のラボでも登場しますし、彼女の幻覚としてポッドの中にも姿を現しました。

ナガ
このマウスは一体何を意味していたのでしょうか?

端的に言うと、このマウスというのは、エリザベスの置かれている状況、とりわけ彼女がクローンであるということを暗示するモチーフですよね。

彼女は実験の最中に、透明なケースに被験体のマウスを閉じ込めて、それを外から眺めていました。

しかし、ポッドの中にいる彼女はマウスと同じ空間を共有しており、それが閉じ込める側から閉じ込められる側へと立場が変わったエリザベスの状況を表しているわけです。

ナガ
自分の意志とは無関係に薬剤を投与されるという環境が何とも示唆的だよね!

また、マウスは彼女の記憶のコア、つまりエリザベス自身がこの計画の発起人であり、考案者であるという事実に強く結びつくモチーフになっています。

彼女はクローン技術を開発する過程でたくさんのマウスたちの命を奪ってきました。

そうしたマウスの命に対する罪悪感のようなものを抱いている節が見え隠れしており、それ故に自分の正体に関する記憶が鮮明になればなるほど、ポッド内のマウスが増えていったわけです。

このようにファーストカットから一貫して、マウスというモチーフを作品の中に散りばめてあったのは、非常に巧い演出だったと思います。

 

ラストシーンは本当にハッピーエンドなのか?

(Netflix映画『オキシジェン』より)

そして、何と言っても素晴らしかったのが、本作のラストシーンです。

ナガ
美しく、それでいて深い余韻に満ちたラストシーンになっているのですが、個人的にはみなさんがあれをどう解釈したのかが気になります。

というのも、エリザベスのクローンって本当に生き残って、あの惑星に辿り着くことができたんですかね?

単純にハッピーエンドだと解釈するのであれば、ポッドのAIが酸素の便宜を図ってくれて、彼女は蘇生することができたということになるでしょう。

しかし、『2001年宇宙の旅』を思わせるような構図をいくつか採用しており、設定的にもリンクを感じさせる本作がそんな素直な展開を描くだろうか?と疑問に感じたのです。

何となくですが、あのAI、『2001年宇宙の旅』のHALみたいに裏切ってそうじゃないですか?

というのも、彼女がハイパースリープにつく直前に「鎮痛剤を打ちますか?」と聞かれていて、それに対して彼女が返事をすると、静脈に流入する管に青い色の液体が流れ込んでいるんですよね。

これって、多分「安楽死」させようとしたときに使われた薬剤と同じじゃないですか?

ここからは僕の独善的な解釈なので、半信半疑で聴いていただけるとありがたいのですが、僕はエリザベスは目的の惑星に辿り着けていないのだと思います。

つまり、ラストシーンは、彼女がAIから目的地の惑星の様子を聞いて、それを基に作り出した「夢」に過ぎないのではないかという解釈です。

彼女は、ハイパースリープではなく、本作のラストの時点で「安楽死」の処理をされており、その死の間際に幸せな夢を見たということなんじゃないかと。

ナガ
「おやすみ、リズ」というセリフが急に恐ろしく聞こえてきたんだけど…。

本作は、そもそも肉体と言うよりは、記憶の話でした。

つまり、肉体として救われるというよりは、記憶ないし心が救われることが何よりも大切だといこうことです。

そう考えると、エリザベスが仮にAIから「安楽死」の処理を受けていたとしても、それがバッドエンドだとは思いません。

そこに至る過程で、彼女の記憶は亡き夫と目的地の惑星で過ごすというゴールに到達しています。

だからこそ、その肉体が辿り着けていなかったとしても、あれが彼女にとっての「ハッピーエンド」なんですよ。

ファーストカットで本作が「記憶」を巡る迷路を描いていることは明かされていましたし、だからこそ彼女の記憶がゴールへとちゃんと辿り着いたと言えるあのラストは完璧だったと言えるのではないでしょうか。



おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『オキシジェン』についてお話してきました。

ナガ
序盤は退屈かな?と思ったんですが、終盤にかけて一気に引き込まれました!

終盤にかけて、一気に世界観がSFチックになり、私の大好きな「2001年宇宙の旅」を思わせるものになっていくので、目が離せなくなっていきましたね。

とりわけ、主人公を演じたメラニー・ロランの演技も卓越しており、一人芝居であそこまで魅せられると、圧巻の一言です。

また、本作はワンシチュエーションの低予算でも、壮大な世界観のSFが撮れるという興味深い例になったと思います。

映画のほとんどがポッドの中の会話で進行しているにもかかわらず、世界観は人類が滅亡の危機で、はるか遠くの惑星に移住しようと試みているという壮大なものです。

使い古された設定やシチュエーションで、ここまで新しいものを見せてもらえるとは思っていなかったので、非常に良かったですね。

ぜひ、まだご覧になっていない方がいれば、チェックして欲しいです。

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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