【ネタバレ感想】『響け!ユーフォニアム/番外編:かけだすモナカ』:日本アニメ史に刻まれる神回!

アイキャッチ画像:©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム」より引用

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

私は現在は基本的には映画を中心に見ているが、映画に本格的にのめりこむ前は、深夜に放送されているテレビアニメシリーズを頻繁に見ていた。「響け!ユーフォニアム」という作品は、放送当時も見ていたのだが、その当時はあまりハマらず、5話くらいで見るのをやめてしまった。

現在テレビシリーズ第2期が放送スタートしている本作品。たまたまその第1話を録画したので、ストーリーは分からなかったが、とりあえず見てみることにした。すると、自分のこの作品に対する印象が大きく変化していることに気がついた。こんなに面白かったっけ?と。

そして、この作品を第2シリーズからは追いかけていきたいということもあり、ちょうど1~13話を配信していたGYAO!で全話追いかけた。

作品概要・キャラクター

この作品は、京都北宇治高等学校吹奏楽部が全国大会を目標に、悩みや葛藤、衝突を繰り返しながらも成長していくといういわば王道中の王道な内容である。テレビシリーズ第1期ではメインキャラクターである久美子、麗奈、葉月、緑輝の4人の入部から京都府コンクール制覇までを描く。

まず、メインキャラクター4人はとても魅力的である。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム」より引用

中央右側のキャラクターが本作の主人公である黄前久美子である。このキャラクターは小学生時代からユーフォニアムを演奏し続けてきた。だが、そのドライな性格とユーフォニアムを不本意ながら演奏し続けてきたこともあって、あまり吹奏楽に情熱をもっているタイプではない。

しかし、親友の特別になりたいという思いとコンクールで難関パートの演奏から外されるという屈辱を機に、自分もうまくなりたい、特別になりたいという感情に目覚める。

中央左側のキャラクターが本作のもう一人の主人公ともいえる高坂麗奈である。このキャラクターはトランペットを幼少期から演奏してきており、その技術は卓越している。それゆえにコンクールにおけるソロパートを1年生にもかかわらず演奏することとなり、先輩との確執に苦しむ。しかし自分の特別になりたいという信念を曲げることなく邁進する。

一番左側のキャラクターが川島緑輝である。このキャラクターも早くからコントラバスを演奏してきており、部内唯一のコントラバス奏者となる。本編であまりその葛藤や悩みにスポットが当たることはないが、コンクール当日の彼女の指がそのすべてを物語っているだろう。

そして一番右側のキャラクターがこの記事で扱いたい加藤葉月である。このキャラクターはメインキャラクターで唯一の吹奏楽初心者であり、楽器は低音のチューバを選択する。結果的にコンクールメンバーに選ばれないが、コンクールメンバーを支えていく覚悟を決める。

『響け!ユーフォニアム』と葉月

ここからは先ほど述べた通り加藤葉月というキャラクターにスポットを当てていきたい。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム」より引用

加藤葉月はメインキャラクターの中でも唯一の初心者である。そのため、全国大会を目指すという高い目標を掲げた吹奏楽部において、そのコンクールメンバーに選ばれることはない。つまり彼女は「座席」につくことができなかった側の人間なのである。

しかし、本編を通して、私は彼女こそがこの作品で一番輝いているキャラクターなのではないかと感じた。

葉月というキャラクターはいわゆる「滑り台」ヒロイン的な役どころでもある。同じ吹奏楽部でトロンボーンを担当する塚本というキャラクターに次第に好意を持つが、その塚本は幼馴染である主人公久美子に好意を持っているのである。そのため、お祭りに誘ったときに葉月は塚本に告白するも玉砕してしまう。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム」より引用

ここで葉月が取った行動に私は涙をこらえきれない。彼女は塚本の久美子に対する思いも悟っており、その思いを応援し、そしてコンクールメンバーである塚本をサポートメンバーとして支えるという決意である。

おそらく現実にこんな聖人みたいな考え方ができる人間はいない。かくいう葉月もそうである。支えると言ったものの、塚本のことを意識してしまう。彼女が塚本の大好物であるソーセージパンを一人で頬張るシーンがあるが、そういった何気ない描写がとてつもなくリアルである。彼女の塚本に対する捨てきれない思いがちょっとしたシーンからもうかがえる。

彼女も一人の弱い人間である。しかしそれ以上に健気で仲間想いな性格が彼女にそんなできそうもないほどの強がりを強いる。気丈にふるまうその心の内は壊れそうである。自分が失恋したにもかかわらず、それを心配する仲間を逆に気遣ったり、自分の好きな人の恋を応援するなんて強がりがどうしてできようか?自分がコンクールメンバーに選ばれなかったにもかかわらず、サポートメンバーをあんなに全力で支えたいと心から思えるのだろうか?

彼女は自分の弱さを人に見せまいと虚勢を張っているのである。いつも明るく元気な自分でいたいと努力し続けているのである。

だからこそ、そんな彼女が、人生で初めての失恋に思わず涙を流す、仲間に弱さを見せてしまうあの一瞬。あの一瞬にこれほどまでに心惹かれるのである。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム」より引用

そしてその後、自分がチューバを演奏する意義すら見失いそうになる彼女を今度は仲間が支えてくれる。崩れそうになる自分を本気で心配し、支えてくれる仲間。音楽の楽しさと喜びを再確認させてくれた仲間。そんな自分を支えてくれた仲間を全力で支えるのが、コンクールメンバーに選ばれなかった自分の役目だと自負し、彼女は再び邁進していく。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム」より引用

と、ここまでがテレビシリーズ13話で描かれた葉月の姿である。ここからが表題のとおりDVD第7巻に収録された番外編である。

『かけだすモナカ』と葉月

番外編では、サポートメンバーチーム、通称モナカがコンクール練習とそして当日の舞台裏で何をしていたのか?と言うところにスポットが当たる。

個人的にだが、この番外編は日本アニメ史に刻まれる神回の一つだと考えている。

アニメや映画では基本的にストーリー展開に必要な人物にのみスポットが当てられる。それは限られた時間で必要な要素と展開をすべて描き切るために当然のことである。

しかしこの番外編では、そんなメインストーリーでスポットの当たらないメンバーに、とりわけ葉月にスポットが当てられる。

この番外編においても葉月はやはり塚本を意識している様子が見て取れる。どこか久美子に嫉妬しているような表情を見て取れる。そんな人間らしい一面も見せつつ、この番外編では葉月に一つのカタルシスがもたらされる。

言ってみれば、彼女は吹奏楽部に入ってからいい経験をしてきたとはとても言えない。部内の男子生徒に失恋し、自分はコンクールメンバーから外される。どう考えても後悔がないなんて言えないだろう。

しかし、彼女は述べる。

「でも、良かったなって。もう一度選びなおせても、たぶん吹奏楽やってると思います。」

どうしてこんなセリフが何のためらいもなく出てくるのだろうか?

そして塚本への手紙に込める。

「全力で支えるから、行ってこい!」

どうして自分の失恋相手にそんな言葉を心の底からの本心で送れるのだろうか?

もう私は涙なしに見ることができなかった。

そんな言葉が出てくるのは、人一倍挫折して、人一倍成長した彼女だからこそなのだろう。この「響け!ユーフォニアム」という作品は確かに吹奏楽部の全国大会までの軌跡を描く物語である。しかし、その本筋から離れたところに、こんなに魅力的な一人の女の子の成長物語が存在している。

確かに物語の本筋には関係がない。描かなくとも何の支障もない。しかしこれを描くという決断を大いに評価したい。

コンクール会場へとひた走る彼女の迷いのない姿。吹奏楽部に入部したこと、チューバという楽器を選択したこと、コンクールメンバーに選ばれなかったこと、塚本への恋がかなわなかったこと。そんなことには少しも後悔を感じていない。ただ今自分ができる精いっぱいのことをする。そしてそこに自分の存在意義と有用感を見出す。そんな彼女の姿は眩いほどの輝きを放つ。

青春には光と影があり。始まりと終わりがある。たとえ自分がどんな立場であっても、その有限の時間の中をただ駆け抜けていく姿。これはやはり「けいおん」や「たまこラブストーリー」でも描かれていた京都アニメーションの真骨頂である。

この番外編は葉月の「始まる」という言葉と共に幕引きとなる。これは単にコンクールが始まるということだけはなく、彼女の新たなるスタートでもある。終わりの始まり。

現在テレビシリーズ第2期が放送されている。そんな新たなスタートを切った葉月というキャラクターはどんな姿を見せてくれるのだろうか?

チューバの重みを、仲間を支えることの重みを知った彼女の次なる一歩から目が離せない。

おわりに

葉月の物語はテレビシリーズその後も続き、原作の第2楽章ではまた新たな展開を魅せています。

参考:2度目のコンクール「もなか」の明暗?

ぜひこちらの記事も併せて読んでいただけたらと思います。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

3件のコメント

頷きながら読ませてもらいました。ありがとうございました。現実にはいそうにない,いれば,いずれ,ココロのバランス崩して燃え尽きそうな感じですが,だからこそ,このような理想的な人柄が我々の心を打つのでしょうね。

チュパカブラさんコメントありがとうございます!
現実にいたら聖人君子ですよね…笑
フィクションの中だからこそのキャラクターではあるんですが、あの懸命な姿を見ると思わず応援したくなってしまいます!

@ぴちょんさん
コメントありがとうございます!
かけだすモナカ最高ですよね!これを見ていると、原作の続編である第2楽章も一層感慨深いです(^ ^)

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