アイキャッチ画像:©高樹のぶ子・マガジンハウス/「マイマイ新子」製作委員会 「マイマイ新子と千年の魔法」ポスターを引用
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
先日塚口サンサン劇場さんの方で、「マイマイ新子と千年の魔法」という作品を見てきた。この作品は今話題の「この世界の片隅に」で監督を務める片渕須直さんが2009年に作り上げたアニメーション映画だ。
今回はその「マイマイ新子と千年の魔法」についてお話していこうと思います。
良かったら最後までお付き合いください。
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作品概要
昭和30年の山口県を舞台に、空想好きで頭に2つのマイマイ(つむじ)を持つ主人公の新子が出会いと別れ、さまざまな事件を経験しながら成長していく。そしてその土地で1000年前に生きた少女の物語と新子の物語がリンクする物語構造となっている点も非常に面白い。
すでにパッケージ版も発売され、公開当時は一部のファンの間では話題になったものの、これまであまり話題に上ることがなかったこの作品がなぜ今になってこれほどまでに話題になっているのか?同監督が手がけた「この世界の片隅に」が話題になっているから?物事はそんなに単純ではない。
ある監督が作ったある作品が話題になったとして、その監督が作った過去の作品がここまで再注目されることは珍しい。では、なぜここまで注目されるのか?それはこの「マイマイ新子と千年の魔法」という作品が、現在話題になっている「この世界の片隅に」の世界観と非常に近いものがあり、片淵須直監督の世界観を理解する上で非常に重要な役割を果たしているからに他ならない。
昨年「君の名は」という作品が大きな話題になったが、監督の新海誠さんの過去作品も大きな注目を集めた。これは、「君の名は」という作品を理解していく上で、彼の過去作品の見ておくことが欠かせないという性質ゆえだったと私は考えている。
現在、同作品のデジタルリマスター版の整備が進められ、各地でリバイバル上映の動きが起こっている。「この世界の片隅に」を見た人にこそ、この「マイマイ新子と千年の魔法」という作品を見ていただきたい。
片渕監督の凄みについて
独特の世界観
まず、片淵監督は、ある種の五次元のような世界観を作品に反映させているように感じる。彼が生み出したこの2つの作品では、時間も空間も超えて、我々がまさに今生きる世界にその登場人物が息づいているかのように錯覚させるのである。
「マイマイ新子と千年の魔法」では1000年、2000年前という長きに渡って続いてきた人間の歴史のその地続きの世界に生きる新子とそして見ている我々自身の存在を知覚させてくれる。この作品を見ている間、我々は時間を超えて、あらゆるものたちと空間を共有するのである。
そして「この世界の片隅に」では、空間を超越した世界観を感じさせてくれる。日本における戦争は確かに70年前に終結したが、世界のどこかではまだ戦争が行われているし、その傍らでは、すずさんたちのように懸命に日々を生きていく人たちがいる。この作品を見ていると、我々の世界というものがいかに広く、そこで起こる出来事やそこにいる人は目には見えていなくとも同時多発的に自分と空間を共有しているのだということを痛感させられる。
このように、片渕監督の作品には、時間や空間を超越する魔法がかけられているのだ。
非二元論的な善悪観
そして、私が片渕監督が扱う作品に共通する点で一番感銘を受けた点を挙げたいと思う。それは、彼の作品中において、「100%の善」、「100%の悪」というものが描かれない点にある。
「この世界の片隅に」においては「戦争」がそれに当たると考えている。ユリイカの11月号の作者のこうの史代さんと、ディエンビエンフーの作者西島大介さんが対談されていた時にこの話題が上がっていたのだが、「この世界の片隅に」という作品は戦争の「わくわく感」みたいなものも描き出しているのである。
「戦争」によって日本は技術的にも国際的な地位においても飛躍的な発展を遂げた。そして庶民の暮らしも豊かになった。序盤では、反映した広島の街や軍港に所狭しと並ぶ軍艦の生き生きとした姿を描きながら、終盤では「戦争」というものが庶民の生活を命を奪っていく残酷な面も描いている。
このように、物事に絶対的な善悪の評価をつけることはできなくて、全てのものは、善と悪、その両面性を持ち合わせているのである。
「マイマイ新子と千年の魔法」でもまさにその考え方は共通している。ネタバレになるので詳しくは触れられませんが、美しいもの・公正なものにもどろどろとした醜さは付きまとっているし、逆に一見絶対悪に見えるようなものにも善良な部分は必ずある、そんな両面性が丁寧に描き出されている。
この両面性をきちんと誠実に描くということは非常に大切なことだと思う。これは今を生きる我々にまさに必要な視点なのだ。物事の良い面、悪い面、そのどちらかだけを見てその物事に結論をつけてはならないのである。
今、「マイマイ新子と千年の魔法」を見るべき理由は、「この世界の片隅に」という作品と関連付けて考えてほしいと言う事と今を生きる我々に大切な視点が込められているからなのである。スマートフォンやメディアの発達で、世界はどんどん「狭く」なっている。しかし、そのニュースは、画面の中ではなく、現に我々が生きるこの世界の同じ地平で起こっていると言う事を知覚せねばなるまい。そしてその傍らに懸命に生きる人たちがいることを知覚せねばならないのである。
「この世界の片隅」にはそんな場所や人々が確かに存在しているのだ。
「マイマイ新子と千年の魔法」と「この世界の片隅に」はそれぞれ別の作者の作品ではあるが、片渕監督によって映画化されたという点で一つのくくりで語られても良いだろうし、ここで描かれていることは紛れもなく彼の思想であり視点なのである。
おわりに
今、各地でDCP版でのリバイバル上映に向けての動きがあると言う事だが、ぜひ見ていただきたい作品である。「この世界の片隅に」を見た方には非常に理解しやすい世界観になっていると思う。
ぜひ劇場で「千年の魔法」にかかってきていただきたい!!
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