【ネタバレ】『アイ、トーニャ』感想・考察:これはアンチモダンバイオグラフィームービーだ!

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はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね本日より公開の映画『アイ、トーニャ』についてお話していこうと思います。

伝記映画なので、ネタバレと言っていいのかわかりませんが、一応本編の内容に言及しつつの感想や考察を書いていきますので、ご了承ください。

さて本作のポスターを皆さんはご覧になりましたか?ご覧になった人、とりわけ男性諸君にお聞きしたいのですが、このポスターを見た時に下から見たらマーゴットロビーのマーゴットロビーが拝めるんじゃないかと期待した人はいませんか?

え~これがまさしく私自身のことです(笑)。ポスターをローアングルから眺めて数秒。我に返った時にあまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になりましたよ・・・。

良い子は真似しないように!!

さて、ここからは真面目に書いていきますよ。良かったら最後までお付き合いください。

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あらすじ・概要

アメリカ人のフィギュアスケート女子選手として初めてトリプルアクセルに成功し、1992年アルベールビル、94年リレハンメルと2度の冬季五輪にも出場したトーニャ・ハーディングのスキャンダラスな半生を、「スーサイド・スクワッド」のハーレイ・クイン役で一躍世界的にブレイクしたマーゴット・ロビー主演で描いたドラマ。貧しい家庭で厳しく育てられたトーニャは、努力と才能でフィギュアスケーターとして全米のトップ選手への上り詰めていく。92年アルベールビル五輪に続き、94年のリレハンメル五輪にも出場するが、92年に元夫のジェフ・ギルーリーが、トーニャのライバル選手を襲撃して負傷させた「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を引き起こしたことから、トーニャのスケーター人生の転落は始まっていた。プロデューサーも兼ねてトーニャ役で主演したロビーは、スケートシーンにも挑戦。母親役のアリソン・ジャネイが第90回アカデミー賞の助演女優賞を受賞した。元夫のジェフ・ギルーリー役は「キャプテン・アメリカ」シリーズのセバスチャン・スタン。監督は「ラースと、その彼女」「ミリオンダラー・アーム」のクレイグ・ギレスピー。
映画com.より引用)

母親役のアリソン・ジャネイがアカデミー賞助演女優賞を獲得したということですが、その名誉に違わぬ圧巻の演技だったと思います。もはや娘のことを愛しているのか、それとも愛していないのかも分からないまさに「怪物」のような母親を見事に演じ切りました。

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そして主演のマーゴットロビーはノミネートされたものの受賞には至りませんでした。ただ彼女の本作『アイ、トーニャ』における演技はこれまた言葉になりません。とんでもない怪演でした。思春期時代から中年の女性になるまでのトーニャを1人で演じ分けているのが衝撃なんですよね。

個人的にサプライズだったのが、幼少期のトーニャ役として出演しているマッケナ・グレイスですね。彼女は映画『ギフテッド』でも高評価を獲得した子役です。良い意味で子供らしくなくて、ませている雰囲気を持っているのがこういう役どころにぴったりなんです。ぜひ映画『ギフテッド』もチェックしてみてください。

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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-06-02

 

 

予告編

感想・考察:これはアンチモダンバイオグラフィームービーだ!

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近年のバイオグラフィームービー、つまり伝記映画を見ていると明らかに以前とは違った傾向が見えてきます。というのも現在世界的にポリティカルコレクトネスやマイノリティの問題が大きなトピックになっていて、それが映画界のトレンドにもなって来ています。

この流れが近年の映画を大きく変貌させています。特に伝記映画においてはその風潮が顕著に表れています。以前であれば当たり前のように受け入れられたであろうアメリカの自国のヒーローを妄信的に賛美する伝記映画はもはやアウトオブデイトと言わんばかりに姿を消しつつあります。

2014年に公開されアメリカないし世界中で高い注目と評価を獲得したクリントイーストウッドの『アメリカンスナイパー』という伝記映画は極めて現代的なバイオグラフィームービーと言えるでしょう。クリス・カイルというパーソナリティーにフォーカスを当て、アメリカを賛美するわけでもなく、彼を賛美するわけでもない、ただ彼の伝記映画でしかなかったこの作品は極めて中流的でモダンな伝記映画だと思いました。

アメリカン・スナイパー(字幕版)
ブラッドリー・クーパー
2015-06-10

 

 

最近公開された映画だと『ウィンストンチャーチル』なんかは分かりやすい例ですね。この映画は第90回アカデミー賞でも高く評価されていましたが、この作品が現代に受け入れられたのは、極めて中流目線で作られていたからなんだと思います。

ウィンストンチャーチルというタカ派の人物を決して妄信的に英雄として讃え上げるではなく、『ヒトラー、最期の12日間』へのオマージュを孕ませつつ、彼が英雄視されるのは戦争に勝利したからと理由によるものだというアンチヒーロー的な視点も持ち合わせています。だからこそこの映画はモダンな伝記映画であり、現代の世界で高い評価を得ることが出来るんです。

参考:映画『ウィンストンチャーチル』が描いたチャーチルの反英雄の側面とは?

これが言わば近年のハリウッドを中心にした映画、とりわけ伝記映画のトレンドなんですよね。1つの利害や1方向からの視点で描くのではなく、多角的かつ多面的にその題材を捉える事で、単純な英雄譚や正義の物語に持ち込まない姿勢が求められています。

ただですよこの『アイ、トーニャ』という作品はそんなトレンドに逆行するかのように極めて1つの視点、1つの方向に偏った伝記映画なんです。ただそれこそがこの作品の面白さだと思います。

この映画において重要なのは本作において語られる「真実」がほとんどトーニャ側の人間によって語られているものであるという点です。つまり「信頼できない語り手」による証言によって本作は構成されているということです。

実際の映像を交えながら、トーニャたちによって語られる偏った「真実」は映画を見ているとどうしてももっともらしく聞こえてきます。しかしこの映画で描かれたことが真実なのかと言うとそうではありません。もしかするとこれが真実なのかもしれませんが、アメリカ国民の間に作り上げられた悪者としてのトーニャこそが真実なのかもしれません。

作中でも語られていましたが、人は自分の都合の良いように「真実」を作り上げます。アメリカ国民は攻撃するべき敵が欲しかった、だからこそトーニャは敵であり悪者であるという「真実」を作り上げました。一方でトーニャはこの映画で描かれたことを「真実」であると語っています。それも自分にとって都合の良い形でです。

本作の素晴らしさは逆に言うと真実を追い求めないところにあるんだと個人的には確信しています。近年のハリウッドを中心としたリベラルな伝記映画のトレンドは、真実に、より本質に辿りつこうというある種の無謀な理想を掲げた方法です。なぜなら万人にとっての真実なんて明らかにしようもないからです。

それとは対照的に『アイ、トーニャ』という作品はアメリカ国民が掲げる「真実」に対して、これが私の「真実」だと言わんばかりにトーニャ側の人々から語られる極めて偏向的な「真実」をぶつけているんですよ。つまりこの映画は真実を追い求めているんではないのです。そこに関して一定の諦念を示したうえで、君のとっての「真実」はどっちだ?と問いかけているわけです。

トリプルアクセルを飛び国民のヒーローとなったトーニャ。

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ボクシング界のヒールとなり、国民から憎まれるヴィランとなったトーニャ。

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あなたはどっちを信じるの?というまさに根源的な問いが為されているわけです。

このベクトルで製作された邦画として『FAKE』というドキュメンタリー映画があります。これはゴーストを使って作曲していたと言われる佐村河内守さんのドキュメンタリー映画です。

FAKE
佐村河内守
2017-07-01

 

 

この映画も極めて佐村河内守サイドに偏った「真実」を提示してきます。かと言ってそれを真実だと断定的に描いているわけではありません。あくまでもあなたはどっちを信じますか?という問いかけになっているんです。

この世界にはたくさんの「真実」があります。そして人はその中で最も共感できるものを真実として選び取ります。しかしそれが絶対的なものだと錯覚するのは危険です。リベラルないし中流的な視点で捉えていると自分は思っていても、そうとは限りません。あくまでもこの世界にはたくさんの私にとっての「真実」が溢れているだけで、その中で大多数が支持したものが世界の主流になっているといるだけです。

『アイ、トーニャ』という作品は仮初めの真実に安住する我々に痛烈なアンチテーゼを突きつけてくるまさにアンチモダンバイオグラフィームービーでした。

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考察:トーニャの魅せる表情について

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本作で印象的なのがやはりマーゴットロビー演じるトーニャの表情ですよね。

今回は私が特に印象に残った2つのシーンについて考えてみます。

まず、1つ目はウエイトレスとして働く母親が勤務中に、テレビに映るスキャンダル後初演技のトーニャの演技後の表情を確認しようとテレビを見つめるシーンです。

後のシーンで彼女が盗聴器を忍ばせて娘の家に上がり込んでくることから考えても、この時母は彼女が事件に関わっていると確信したんでしょうね。おそらく母にはあの笑顔の裏にあるどす黒い「真実」が見えたのでしょう。だからこそ母はトーニャが事件に関わっているという「真実」を自分の真実としたわけです。

そしてもう1つがトーニャが試合前に控室で鏡を見つめながら、笑顔を取り繕うとしているシーンですよね。このシーンを見た時に鳥肌が立ったのは忘れられません。なんとこのシーンは本来撮影される予定では無かったそうなんです。たまたまマーゴットロビーをテスト撮影していた時に偶然撮れた表情とシーンだったそうなんです。

ただこのシーンが作品において果たしている役割はとても重要です。先ほどの母親が見ているテレビに映ったトーニャもそうですが、フィギュアスケートの演技をしている彼女は決まって笑顔なんです。

しかし国民はその笑顔の裏に邪悪な感情があるとして彼女を憎み、糾弾し、嘲笑しました。しかし、もしかしたらその笑顔の裏にあったのは、自分の夢が砕け散ろうとしているフィギュアスケート選手の純粋な涙だったかもしれないわけですよ。本作はトーニャの主観で語られているからこそ、笑顔の裏側について深い悲しみがあったと表現されました。

アメリカ国民の大半は母親のようにその笑顔の裏にあったのは、黒い感情だったと主張します。トーにゃはそこにあったのは深い悲しみと、涙だったと主張します。2つの相反する「真実」がここでもぶつかり合っています。

だからこそトーニャの表情が印象的だったこの2つのシーンは本作のバイオグラフィームービーとしての姿勢を示すに当たって極めて重要な役割を果たしています。

考察:氷を削る音の演出について

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本作で聴覚的に印象的なのがスケートリンクの氷を削る音ですよね。

皆さんはトーニャが滑っている時の効果音についてどう思われましたか?

私はすごく荒々しい音だと思いました。日本でも昨今フィギュアスケートは大変注目を集めている競技ですが、しばしば言われるのが大会で上位にいる選手でもスケーティング技術にバラつきがあって、すごく氷を削る音がうるさい選手と、対照的に凄く滑らかに滑る選手がいるんですね。

例えば日本人の選手でスケーティング技術が高く、氷を削る音がほとんどしないなんて言われていたのが小塚崇彦選手でした。彼のスケーティングは解説者から「氷に吸い付くような滑らかなスケーティング」と言われていました。

氷を削る音が小さいほど高得点を取る選手というわけではないんですが、その音にはフィギュアスケート選手の個々のスタイルが多分に反映される傾向にあるようなんです。

情熱的で荒々しい演技が多くの人を虜にした高橋大輔選手なんかはこの削る音という側面で見るとかなり大きな音を出していたようです。ただ国際大会なんかでも彼は素晴らしい成績を残しています。

本作『アイ、トーニャ』の中で挿入されたトーニャの氷を削る音は非常に荒々しく、野蛮な雰囲気を孕んでいます。彼女は芸術点が伸びないことを審判団に指摘されていましたが、優雅に滑ることがフィギュアでは芸術性に繋がるんですよね。彼女は確かにジャンプに関して卓越した技術を披露していましたが、削氷音がそんな彼女の優雅さの欠如を物語っているように思いました。

彼女は自分が労働者階級で、衣装が優雅でないために得点が伸びていない、審判に嫌われているために不当に扱われていたとしきりに主張していましたが、それが真実なのかについてはあの削氷音が見事にぼやかしているんです。

近年フィギュアスケート界はジャンプ披露会のような競技になっている傾向があります。それは芸術点という評価項目が曖昧で主観に左右されるという見方が広がり、純粋に技術を重視する傾向が強まったことにより生じたトレンドです。今の時代であれば、彼女のスケーティングは当時よりも高く評価されたやも知れませんね。

おわりに

いやはやアカデミー賞界隈でも話題になっていた作品だったのである程度期待感は持って見に行きましたが、ここまで素晴らしい映画だとは想像しませんでした。

近年の多面的で、何事も平等に描こうとするバイオグラフィームービーに少し退屈していた人は本作をチェックして見ると良いと思いますよ。徹底的に偏向的で、徹底的に一方的な「真実」がそこにはあります。

マーゴットロビーという女優さんは『ウルフオブウォールストリート』や『アバウトタイム』、『スーサイドスクワッド』などで知りましたが、本作を見てまた1つイメージが変わりました。

 

 

彼女は間違いなく近いうちにオスカーを手にする女優になると思います。本作『アイ、トーニャ』で魅せた演技はそれくらいに傑出したものでした。

ぜひぜひこのアンチモダンバイオグラフィームービーを多くの人にご覧になっていただきたいです。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。




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2 件のコメント

  • こんばんは。
    スキャンダルな題材を大胆に映画化。
    日本では、絶対に作れませんね。
    コミカルな中に見え隠れする深層心理が、とても印象的でした。
    鬼母にDV夫、妄想性人格の友人のそれぞれの言い分を対比させ、一体誰が悪かったのかを問い質す。スプリット画面で、トーニャと夫の言葉がシンクロしている所や観客に向けて本音を呟くシーンも面白かった。
    インタビューを交え、リアルに迫るドキュメンタリーな作風が、何だか古臭く感じさせるのは、監督の意図するところなのかな?
    エンドロールで流れる「本人」の映像を見て、紛れもなく彼女は、氷上の女神であった事を再認識させて、終演。
    人生って、自分一人では、どうにもならない事もあると、切なく感じました。

  • @ランデブーさん
    コメントありがとうございます!
    > 人生って、自分一人では、どうにもならない事もあると、切なく感じました。< この1文すごくこの作品を言い当ててますね!まさに自分のスケート人生なのに、他人に台無しにされてしまった(彼女の証言によると)トーニャそのものですね。 勢いのある作品ですが、終盤は切なさもありましたね。 素晴らしい映画でした!

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