『フェアウェル』ネタバレ感想・解説:アイデンティティ危機とそこに示された温かな希望と救い

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『フェアウェル』についてお話していこうと思います。

ナガ
コロナウイルスの影響で公開が延期になってしまいましたが、2020年4月に最も楽しみにしていた映画でした!

自宅待機になりましたし、英語の勉強も兼ねてと思い、海外版のBlu-rayを購入し、一足先に自宅にて本作を鑑賞しました。

本作はほとんど中国語音声なので、デフォルトで映像に英語字幕が表示されてしまうという性質も相まって、リスニングのトレーニングにはあまりになりませんでした。

ただ、本作『フェアウェル』は、「中国語で作っている」ことにすごく意義がある作品なのです。

オークワフィナ演じるビリーという女性は、中国にルーツを持っているのですが、小さい頃にアメリカに移住してしまったので、自分が「中国人」だという自覚はなく、むしろ「アメリカ人」という自覚の方が強いように見受けられます。

中国語ネイティブではないので、ペラペラと話せるわけではなく、逆に英語はペラペラ。

アメリカの価値観の中で育ってきたこともあり、女性の自立の必要性を強く感じており、それもあって家族から金銭的な支援を受けることにも否定的で、スカラシップに不合格で、家賃も払えず、苦しい中でも自分1人で生きようとしています。

それでも、中国系の両親から生まれていますし、映画の中でも指摘されていたように外見は「中国人」なんですよ。

このようにバックグラウンドと周囲の人が彼女に対して抱く印象に齟齬が生じているが故に、ビリーは強い孤独感を抱えて生活していました。

本作『フェアウェル』の物語としての軸は、主人公のビリーの中に渦巻く西洋(アメリカ)的価値観と東洋(中国)的価値観の衝突と融和です。

だからこそ、中国系であり、英語をペラペラと話す彼女が、生まれも育ちも中国で中国語をペラペラと話す母国のコミュニティを訪れるという設定が非常に重要になって来るのです。

1つの家族のドタバタを描いた非常にミニマルな物語ですが、その向こうには、今私たちが生きている社会が確かに広がっています。

ぜひ、本作を見ながら、いろいろなことを考えて欲しいですね。

さて、本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




『フェアウェル』

あらすじ

ニューヨークで暮らすビリーは、スカラシップにも不合格で経済的にも苦しい中で、何とか自立した女性になろうと奮闘していた。

しかし、幼少期に中国からアメリカへと両親と共に渡った彼女は、自分のルーツやバックグラウンド、価値観が定まらず、どこか孤独感を感じている。

そんな時、中国から彼女の祖母のナイナイが、末期の肺がんに侵され、余命宣告を受けていることを知る。

幼少の頃から祖母のことが大好きだったビリーは、当然彼女に会うために中国へと行きたいと考えたが、両親は彼女を連れて行かないことに決めた。

というのも、親戚一同は、中国の慣習に従ってナイナイ本人に余命がわずかであることを伝えない方針となっており、ビリーがそれに反発する可能性を感じていたからだ。

それでも祖母に会いたいビリーは、自ら飛行機のチケットを購入し、両親とは別で単身中国へと向かう。

親戚一同は、診断書を回収して偽の診断結果を聞かせたり、従妹のハオハオの結婚式を口実に集まったりと、何とかして母に不安を与えまいと振舞う。

しかし、アメリカの価値観の下で育ったビリーは、そんな中国の伝統的なしきたりに違和感を感じるのだった…。

 

スタッフ・キャスト

スタッフ
  • 監督:ルル・ワン
  • 脚本:ルル・ワン
  • 撮影:アンナ・フランケスカ・ソラーノ
  • 編集:マシュー・フリードマンマイケル・テイラー
  • 音楽:アレックス・ウェストン
ナガ
今作は、監督のルル・ワンのルーツや人生が色濃く反映された作品になっているようです!

監督のルル・ワンは中国で生まれましたが、6歳の頃にアメリカのマイアミへの移住しました。これはまさしく主人公のビリーと重なる部分ですよね。

彼女はそうした生い立ちの中で、常に「断絶」や「孤独」を感じてきたと言います。

“I always felt the divide in my relationship to my family versus my relationship to my classmates and to my colleagues and to the world that I inhabit. That’s just the nature of being an immigrant and straddling two cultures,” says Wang, who based the film, starring Awkwafina, on her own grandmother’s illness, a story the helmer first shared with audiences on an episode of “This American Life.”

Varietyより引用)

監督自身が、家族や友人との間に距離感を感じてきたわけで、その「隔たり」を主人公のビリーに投影したのだという点が伝わってきます。

両親は中国で生まれ育ち、大人になってからアメリカへと移住したわけですから、そのルーツも価値観も中国に根づいているため、アメリカにいても自分は「中国人」なのだと何の疑いもなく言えるでしょう。

そして友人の大半は逆にアメリカで生まれ育ったわけですから、自分が「アメリカ人」であるという認識を持っています。

しかし、彼女は中国で生まれ、そこで幼少期を過ごし、まだ子供の頃にアメリカに移住してきました。

だからこそ、自分のアイデンティティに揺らぎが生じているのです。

このどこにも自分の帰属する場所を見出せない孤独感を本作『フェアウェル』は見事に表現していました。

撮影監督には、アンナ・フランケスカ・ソラーノが起用され、彼女はインタビューの中で是枝裕和監督の『歩いても歩いても』リューベン・オストルンド監督の『フレンチアルプスでおきたこと』に影響を受けたことを明かしています。

ドライな演出でありながら、そこに生きる家族の温かい感情を切り取るという映像の撮り方は『歩いても歩いても』にすごく共通点を感じます。

また細かいカットの節々に『フレンチアルプスでおきたこと』との共通点があります。

ナガ
ホテルの明かりの映し方、食事シーンの撮り方、一緒にいるのにひりついている家族の空気感の演出などなど…。
キャスト
  • ビリー・ワン:オークワフィナ
  • ハイヤン・ワン:ツィ・マー
  • ルー・チアン:ダイアナ・リン
  • ナイナイ:チャオ・シューチェン
  • ハイビン:チアン・ヨンポー
  • ハオ・ハオ:チェン・ハン
  • アイコ:水原碧衣

本作で主演を演じたオークワフィナは、ゴールデングローブ賞で主演女優賞獲得の快挙を成し遂げました。

しかし、なぜかアカデミー賞の方には、ノミネートされなかったのが、個人的には残念です。

ただ、その演技はやはり卓越していて、『オーシャンズ8』『クレイジー・リッチ!』で一気に知名度が上がりましたが、今後は役者としての評価もどんどんと上がっていくのではないかと思います。

そして、今作には、ハオ・ハオの花嫁で日本人のアイコ役に水原碧衣さんという日系の女優が起用されています。

彼女は、日本ではなく中国を拠点に活躍している女優でして、今作では日本語しか話せないという設定ではありましたが、実際は中国語もバリバリ話せるバイリンガルなんだということです。

ナガ
公開が延期になってしまいましたが、ぜひ劇場でご覧いただきたい作品です!



『フェアウェル』感想・解説(ネタバレあり)

一見すると冷たく、触れると温かい温度

 

(C)2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

本作『フェアウェル』を見ていて、真っ先に感じたのは、映像や演出による作品の「温度」の作り方の巧さでした。

先ほども書きましたが、本作の撮影を担当したアンナ・フランケスカ・ソラーノは、是枝裕和監督の『歩いても歩いても』に影響を受けた部分があると語っています。

是枝裕和監督の作品は、家族のエモーションに注目した作品でありながら、非常に演出がドライである点が特徴的です。

『フェアウェル』も過剰に観客のエモーションに訴えかけるようなことはせず、非常に淡々と物語の針を進めていきます。

そのため、演出や映像そのものは非常にドライでかつ冷たい印象を与えるんですよね。

しかも、この映画は、物語の都合上、親戚一同がナイナイに病気のことを知らせないために、嘘をついているという設定になっていますので、全員が映画の中で「演じる」を演じているような構造となり、これがよそよそしい空気感を演出しています。

それも相まって、この映画は一見すると非常に「冷たい」のです。

ただ、「演じる」を演じていても、彼らはどうしても時折自分の心の内に秘めた本当の思いを表情や言葉に出してしまうんですよ。

加えて、そういった言葉や表情には、エモーションが強く宿っており、同時に家族や親戚、そしてナイナイに対する本心が宿っているので、すごく「温かい」のです。

映像、演出、物語設定によってドライで冷たい作品に仕上げながらも、そこに血の通ったリアルで温かい感情を宿らせることによって、その絶妙なバランスを実現していると共に、よりエモーションの部分がしっかりと伝わって来る作りになっているのです。

日本の大作ヒューマンドラマでありがちなのですが、エモーショナルを伝えようとし過ぎて、演出や演技が最初から最後まで過剰気味になり、かえってトーンが一様になってしまうことがあります。

一方で、あまりにも最初から最後まで淡々としたトーンを貫きすぎると、観客の心が離れて行ってしまいます。

本作『フェアウェル』はドライな語り口自体は一貫しているのですが、そのエモーションの部分で「温度差」をつけることによって、見事に緩急をつけることに成功しているのです。

 

ミニマルな家族への視座とスピリチュアルで壮大な世界への視座

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当ブログ管理人がMr.Childrenの楽曲の中で特に大好きな1曲『タガタメ』はこんな出だしから始まります。

ディカプリオの出世作なら

さっき僕が録画しておいたから

もう少し話をしよう

眠ってしまうにはまだ早いだろう

(『タガタメ』より引用)

何気ない会話の1コマを切り取ったような、素朴なこの一節。しかし、ここからこの曲は人間ないし子どもたちが戦争に巻き込まれて、加害者ないし被害者になってしまうことを憂いた壮大な歌詞へと移行していきます。

この楽曲の中でも、ミニマルで個人的なテリトリーから世界全体への話題の移行が見られるわけです。

そして、この移行がまさしく本作『フェアウェル』の中でも顕著に見られます。

『フェアウェル』という作品は、基本的にナイナイを中心とした1つの家族にスポットを当てる作品ですので、物語にスケール自体はすごく小さいんですよ。

彼らが集まって、会話をしたり、太極拳をしてみたり、結婚式の準備をしたり、そして一緒にご飯を食べたりしている。そんな日常の連続をただ映像に映し出していくのです。

しかし、主人公のビリーはアメリカで人生の大部分を過ごしたがために、中国の伝統的な慣習や価値観に対してどこか違和感を感じています。

その最たるものが、余命僅かな親族にそのことを明かさないという風潮であり、彼女はそれに反対して、病気のことを打ち明けようとしました。

つまり、彼女の中では確かに文化的な衝突が起きていて、それ故に中国という自分の「故郷」であるはずの場所にいても、帰属意識を感じることができず、孤独なのです。

この1人の女性の中に起きている、小さな葛藤が、実は今世界で課題となっていることをまさしく表現しているんですよね。

移民問題が近年、世界を取り巻く大きな問題となっており、人種、文化、習慣、価値観や宗教、信条を初めとするバックグラウンドが異なる人々が、自分たちの生活圏に入ってくるという事象が、日本ではあまり馴染みがないことですが、頻繁に起きるようになりました。

しかし、そこで衝突が起き、移民に対する恐怖や不安が拡大するとともに、排除しようとする風潮が強まってきたのです。

そうなると、移民をしてきた人々は、祖国に戻ることは叶わないけれども、移ってきた先でも居場所を失ってしまい孤独感と隔たりを感じながら生活することとなります。

そして、そこで生まれた移民2世3世は、当然自分のアイデンティティの乖離を感じることとなります。

移民2世であるための「アイデンティティ危機」(両親の出身国と自分が住む国との価値観や文化の違いの真ん中にいて、どちらにも属さないことへの不安感)、生まれ育った国で感じる疎外感などが青年たちを「自分の居場所」としてイスラム過激主義のネットワークに向かわせるという。

『現代ビジネス』より引用)

つまり、自分が両親のふるさとにも、そして移住先となった自分の生まれ育った国にも帰属意識を感じることができないという状態を生んでしまうわけです。

そして、この帰属意識の欠如がもたらす不安と孤独は、若者を過激なテロ行為へと走らせる可能性があります。現にヨーロッパやアメリカでは、これに起因するテロ事件が起きています。

近年は、人の動きが非常に活発になったということもあり、こういった「アイデンティティ危機」というのは、非常に大きな問題です。

『フェアウェル』という作品は、ミニマルな家族物語でありながら、そこには現代を生きる人々の「アイデンティティ危機」の問題が色濃く反映されています。

ビリーはアメリカにいると「中国人」としての自分を感じ、中国にいると「アメリカ人」としての自分を感じてしまうために、どちらにも帰属意識を感じることができずにいます。

中国に戻っても、どこか親戚の旧来的な価値観に基づく「女性」のイメージに同調することができず、さらにナイナイに病気のことを知らせないのは、犯罪行為だとまで言ってしまいます。

そういったビリーの葛藤に、この作品は、壮大でかつスピリチュアルな視点から、希望を描き出します。

ナガ
まさしくあのラストシーンのことだね…!!



本作のラストシーンに込められた希望

『フェアウェル』のラストシーンは、ビリーナイナイから学んだ太極拳の掛け声をアメリカのストリートで出すと、突然中国でナイナイの家の前の木にとまった鳥たちが飛び去っていくというものでした。

ナガ
最初に見た時は、このラストシーンの意味がいまいち掴めずにいました…。

しかし、見返してみると、実は冒頭と中盤に重大な伏線が貼られたことに気がつきました。

冒頭に、中国に向かう前のシーンで、ビリーの部屋に1羽の小さな鳥が入ってくるという描写があります。

加えて、中国に到着し、ホテルで彼女が休んでいる時のシーンにも再び似たような鳥が窓辺にいるのが分かります。

(C)2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

この2つのシーンがあるということは、間違いなくラストシーンはそれらに呼応しているということが分かりますよね。

ナガ
では、そこには一体どんな意味が込められてるんだろ?

西洋の価値観、とりわけキリスト教の価値観では、「輪廻」という考え方は基本的に為されません。

一方で、東洋の価値観、とりわけ仏教の価値観では、「輪廻転生」の考え方が根づいており、人間も含めてあらゆる生き物は1つの大きな生命のサイクルの中にいます。

これについては、劇中でのセリフでも強く仄めかされていましたね。

本作『フェアウェル』は東洋的でかつスピリチュアルな視点から、ビリーという女性の「アイデンティティ危機」に希望と救済をもたらす映画であったように感じました。

彼女は、どこにも自分が帰属する居場所を見出すことができないという状態にありましたが、ナイナイとの交流の中で、彼女が死ぬまでずっと一緒にいたいと強く思うようになります。

これは彼女にとっても大きな心の変化であり、同時に自分の居場所を見出し始めていることの証拠です。

しかし、ナイナイも彼女にはアメリカに戻るように告げますよね。そして離れていても自分たちには強いリンクがあるのだと語っています。

中国の街並みを眺めながら、アメリカへの帰路へ着く彼女は、自分が生まれ育ったアメリカとはかけ離れたその場所の景色に不思議な愛着を感じるようになったのではないでしょうか。

アメリカに戻った彼女が自分の家に足を踏み入れると、再び孤独な生活が始まります。

しかし、そんな言いも知れぬ寂しさと孤独を、ラストシーンが見事に払拭してくれました。

ナイナイが教えてくれた太極拳の掛け声が大陸を超えて、アメリカから中国に届くのです。

そう考えると、このラストシーンというのは、まさしく中国とアメリカ、大陸と大陸、そして生と死すらも超越して、あらゆる生き物は結びついているのではないかという世界観を表現しているように思いました。

何度も登場する鳥もまさしくそんな目に見えない「繋がり」を視覚化するためのモチーフと言えるでしょう。

私たちは、人種や文化、宗教といった事象の違いによって、ぶつかったり、疎外感を感じたり、連帯感を感じたりしています。

しかし、もっと大きな生命の円環の中で私たちは繋がっていて、いつも共にいるのだと本作『フェアウェル』は伝えようとしているのです。

目に見える部分の違いで、お互いを排除し合うのではなく、同じ人間として、そして生き物として、そのつながりを感じながら、お互いを尊重して生きていこうという実に壮大なメッセージ性を感じます。

何かが大きく変わったわけではないけれども、自分自身が誰かと何かと繋がっているのだと実感できることが、こんなにも温かく力強いのだと、静かに感じさせてくれるラストシーンには脱帽でした。

今年見た新作映画の中では、断トツで最高のラストシーンだったと思います。

 

おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『フェアウェル』についてお話してきました。

ナガ
予告編で期待値を上げに上げていましたが、それを裏切るどころか悠々と超えてくる傑作でした。

正直に言うと、今作がもっとアカデミー賞の賞レースに絡んでくれると嬉しかったですが、今年の「アジア系」枠は『パラサイト』に持っていかれてしまった感はありますね。

ただ、個人的な好みの話をするのであれば、本作の方が好きですね。

まず、映像の作りがすごく巧いと思います。

演出や作劇はすごくドライなのに、エモーショナルを掻き立てるように絶妙に計算されています。

ナガ
例えば、この2つのシーンの呼応なんて、ビジュアルだけで涙が出てきませんか?

(C)2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

まず上のシーンは、ビリーが真実を継げるかどうかで親戚たち口論し、ホテルから居心地が悪くなって去った時のシーンです。

通りを歩く彼女の表情はうつろで、どこか寂しさを漂わせています。

しかし、それと対照的なのが終盤の彼らが結婚式を終えて共に歩いていくシーンです。

(C)2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ナガ
表情は大きく変わってないよね?

そうなんですよ。それは、きっと心の底から彼らが分かり合えたわけではないからなのではないかと思っています。

きっと、ビリーは中国の伝統的な考え方に呼応したわけではないと思いますし、この中には新しく家族になった日本人の女性もいます。

だからこそ、彼らが1つの考えを共有することができたというわけではないと思うんです。

ただ、分かり合えなくとも、彼らは「見えないリンク」で確かに繋がっているんだと感じさせてくれる映像だとは思いませんか。

このように『フェアウェル』はとにかく映像の積み重ねが抜群に巧くて、その視覚的情報だけで見るもののエモーショナルを掻き立ててくれました。

また、1つの家族ないし1人の少女の心的葛藤というすごく小さな世界の話をしているのに、そのメッセージは私たちの生きる世界に向けて発信されているのが素晴らしいですね。

日本で生まれ、日本で育った私自身には、この「アイデンティティ危機」を感じた瞬間ってあまりありません。

しかし、学生時代に留学した時に、すごく自分が「日本人」であるというアイデンティティを感じたことはあって、そこからそういった帰属意識が欠如したと仮定すると、すごく心細かっただろうなと想像できます。

自分は周囲の人間とはどこか違うという意識をどこに行っても感じながら生きなければならないというのは、すごく孤独なことだと思います。

だからこそ、宗教や過激思想がその受け皿になってしまうという現象が、現に今起きてしまっているのです。

どうやって、この問題を乗り越えていくのか、どうやって誰もが「つながり」を感じられる世界を作り上げていくのか。

そんな答えのない問題に挑んでいかなければならない私たちが、見ておくべき1作ではないかと思いました。

 

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