『オリマキの人生で最も幸せな日』ネタバレ感想:フィンランドのロッキーが勝ち取る小さな幸福

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『オリマキの人生で最も幸せな日』についてお話していこうと思います。

ナガ
第69回カンヌ国際映画祭のある視点部門で賞を勝ち取った作品がようやく日本でも公開だね・・・。

2016年に公開されたフィンランド映画でして、非常に高く評価されていたんですが、なぜか日本では、すぐに公開という運びにはならず、2020年に入ってようやく公開となりました。

モノクロ映画で、それほど派手さはないボクシング映画なんですが、じわっと心が温まる非常に素晴らしい映画だと思います。

『ロッキー』が大好きな人はぜひ見ていただきたい作品ですし、個人的にはロッキーバルボアのアナザーストーリーのように感じた部分もあります。

かなり日本での公開規模は小さいですが、見るチャンスがある方には非常におすすめです。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




『オリマキの人生で最も幸せな日』

あらすじ

本作はフィンランド発の世界チャンピオンを目指して、1962年の夏に開催された世界タイトル戦を戦ったオリ・マキの物語を実話ベースで描いています。

パン屋で働くオリ・マキはプロボクサーとしても活躍するようになり、10戦8勝と上々の勝率を維持して、チャンピオンのデビー・ムーアへの挑戦権を獲得した。

彼のマネージャーには元チャンプのエリスがつき、彼はフィンランド発の世界チャンピオンの誕生に向けて、スポンサー集めや伝記映画の撮影などに奔走した。

エリスの下で練習が始まるも、オリ・マキはハードなスケジュールと繰り返される挨拶回り、食事会、撮影に嫌気が差し、集中して練習ができずにいた。

そんな時、彼は同郷の女性ライヤへの恋心を自覚するようになり、練習に支障をきたすようになる。

フィンランド国民の期待を背負って、トレーニングを続けるオリ・マキ

彼はデビー・ムーアに勝利してチャンプになることができるのか?

そして、ライヤへの恋心を成就させることができるのか?

 

スタッフ・キャスト

スタッフ
  • 監督:ユホ・クオスマネン
  • 脚本:ユホ・クオスマネン ミッコ・ミュッルラヒウチ
  • 撮影:J=P・パッシ
  • 編集:ユッシ・ラウタニエミ
ナガ
ユホ・クオスマネン監督は今後が非常に楽しみですね・・・。

ユホ・クオスマネンにとって、商業映画としては、ほとんど初監督作品に近いであろう『オリマキの人生で最も幸せな日』ですが、小品ながら素晴らしい作品です。

専らロッキーを彷彿させる物語ではありますが、それを見事に脱構築し、小さな個人の幸せの物語として描き切りました。

また、今作で注目すべき点は、60年代の空気の再現に徹底的にこだわった映像です。

J=P・パッシは単にモノクロで撮影したというわけでなく、16mmフィルムで撮影することで、味のある映像の質感を演出しました。

キャスト
  • オリ・マキ:ヤルコ・ラハティ
  • ライヤ:オーナ・アイロラ
  • エリス:エーロ・ミロノフ
ナガ
絶妙なナイーブさとシャイな感じが好印象でした!

『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』でも知られるヤルコ・ラハティが主人公のオリ・マキを演じました。

オリ・マキは本作の主人公なのですが、積極的に目立とうとするタイプではなく、むしろナイーブで人付き合いが苦手なタイプです。

そんな彼が仄かにライヤという女性に好意を寄せるわけですが、何だか積極的に迫れない感じもまた愛らしく感じられました。

ナガ
ぜひぜひご覧になってみてください!



『オリマキの人生で最も幸せな日』感想(ネタバレあり)

フィンランドのロッキーが勝ち取る小さな幸福

見ていただけると、すぐに気がつくと思うんですが、この『オリマキの人生で最も幸せな日』という作品は、『ロッキー』を強く想起させるんですよね。

ナガ
イタリア系アメリカ人ボクサーとして有名なロッキー・マルシアノの写真が出てきたのも目くばせなんだろうね。

実際にロッキー・バルボアの部屋には、ロッキー・マルシアノの写真がありましたし、本作でわざわざ彼を写真で登場させるのは、オマージュ以外のなにものでもないでしょう。

そして物語の大筋も、無名のボクサーが、黒人世界チャンプに挑むというメインプロットに、オリ・マキの恋愛を絡めるという構成で、かなり似ていると言えるでしょう。

ちなみに、オリ・マキの相手となったデビー・ムーアは伝説のボクサーと言われています。

彼はオリ・マキとの対戦から僅か7か月後に、ボクシングの試合中のダメージが原因で命を落としており、非常にアイコニックなボクサーとして知られているのです。

ただ力関係からすれば、まさしくロッキーにとってのアポロが、オリ・マキにとってのデビー・ムーアです。

さて、『ロッキー』と言えば、やはり過酷なトレーニングシーンが印象的なのですが、『オリマキの人生で最も幸せな日』はボクシングものでありながら、意外とトレーニングシーンは映し出されないんですよ。

そこよりも彼が、試合直前にも関わらず、ライヤとへの恋心に揺れる様にフォーカスしており、練習をさぼって遊びに興じたり、練習を抜け出して彼女に会いに行ったりと、トレーニングをさぼりまくりなのです。

ナガ
この対比が何とも面白いんだけどね(笑)

そして、試合直前にオリ・マキライヤにプロポーズし、何と彼女もその申し出を承諾するのです。

ナガ
あれ?試合前に結婚が決まってしまったら、『ロッキー』のような劇的な展開がなくないか・・・?

このあたりから、怒涛の勢いで『ロッキー』路線を裏切ってくれるのが非常に面白かったです。

2人は試合前に結婚指輪を買いに行くラブラブっぷりで、2人の恋の結末には、もはや試合の結果は関係ないという驚きの「ハズシ」っぷりを披露してくれます。

しかも、試合のシーンでは、あまりにも会場が広すぎる上に、ライヤからはオリ・マキが豆粒ほどの大きさでしか見えないという状況で、とても彼が勝ったとしてもリングに上がって抱き合うような展開は想像できません。

その上、ロッキーVSアポロと言えば、最終ラウンドまでもつれ込み、最後の最後で判定で勝敗が決定するという熱すぎる展開が魅力でしたが、オリ・マキは2ラウンドであっさりとKO負けを喫します。

ナガ
作品の最大の盛り上がるになると思われた世界戦が全く盛り上がらないよ??

このように、設定や物語の構図自体は強く『ロッキー』を意識させるのですが、中盤以降悉くその予想を裏切っていくという、何とも面白い展開となっていました。

では、そんな『ロッキー』のアナザーバージョンとも言える本作が伝えようとしていたこととは一体何だったのでしょうか?



あなたが幸せならそれで良いじゃない

(C)2016 Aamu Film Company Ltd

今作『オリマキの人生で最も幸せな日』はやはりヒロインのライヤがすごく素敵な女性なんですよ。

ナガ
何と言うか、ただのトロフィーヒロインではないんですよね!

今作のような展開であれば、オリ・マキが世界チャンプに勝利してとか、善戦をして、その結果として2人が結ばれるという展開を描くのが王道だとは思います。

しかし、今作は、2人の婚約を試合前にあっさりと済ませてしまうんですよね。

当ブログ管理人は、オリ・マキが試合前にプロポーズしたときの、ライヤの言葉がすごく胸に響きました。

というのも、彼女は国民や出資者はあなたに大きな期待を寄せているけども、私はあなたに何も期待していないわとはっきり断言しているんですよ。

そして、そう断言したうえで、彼からのプロポーズを了承するのが、個人的にすごく良いなと思いました。

なぜなら、彼女にとってはオリ・マキがどんな試合を演じようが、世界チャンピオンになろうが、そんなことは関係なかったんですよね。

ライヤは、彼といて幸せだから、試合がどんな結果になろうと、結婚することには何の躊躇いもないわけです。

きっと彼女がいなかったら、世界戦の日は彼にとって人生最悪の日となっていたでしょう。

多くの人の期待を裏切り、スポンサーの出資を無駄にし、彼は立ち直ることができなかったかもしれません。

しかし、自分を愛しながらも期待せず、求めずにいてくれた彼女が隣にいてくれたから、彼にとっては「人生で最も幸せな日」になり得たのです。

私たちは他人の期待や喜び、幸せに責任を負う必要なんてないのだと思います。

自分が今日一日幸せに過ごせるのであれば、きっとそれでいいのです。

オリ・マキは確かにデビー・ムーアに見るも無残に敗れました。

もちろんロッキーとエイドリアンのように感極まってリング上で抱き合うようなドラマチックな展開はありません。

しかし、夜の海辺の道をライヤと連れ添って歩いたあの瞬間は、人生の他のどんなことにも置き換え難い、幸福な時間だったのだと思います。

幸せは誰にも決められない、誰にも期待できない、誰にも依存できない。幸せはあなただけが決められる。そしてそれはあなただけのものだ。

ライヤという女性が、そんな幸福のカタチをオリ・マキとそしてこの映画を見ている観客に気がつかせてくれたように思いました。

 

おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『オリマキの人生で最も幸せな日』についてお話してきました。

ナガ
小品ながら、非常に楽しめた映画でした!!

物語的な部分も素晴らしかったですが、同時に映像もすごく良かったんですよ。

特にモノクロで映し出される「水」の描写が、雨が光に照らされて白色に輝いて見えたり、逆に夜の海が墨汁のように黒く染まって見えたりして、非常に美しかったです。

また、16ミリフィルムで撮影したことにより、非常にクラシカルな雰囲気を演出することに成功していて、とりわけ初期のジム・ジャームッシュ作品のような味わいがありましたね。

ユホ・クオスマネン監督の今後の作品も非常に楽しみです。

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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