映画『ビルドアガール』感想・解説:実話を基にしたあまりにも愛おしい青春成長譚

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『ビルドアガール』についてお話していこうと思います。

ナガ
『ブックスマート』で注目を集めたビーニー・フェルドスタイン主演の新作です!

話題作が目白押しの10月の中で、密かに楽しみにしていた新作を試写会にて一足先に鑑賞させていただきました。

『ブックスマート』で主人公を演じ、多くの人を虜にしたビーニー・フェルドスタインは今回も本当に魅力的な主人公像を作り上げてくれましたね。

やはり映画を見て、そのキャラクターのことを「愛おしく」思えるのはすごいことで、彼女の演技にはそういう類の魅力があるんですよ。

スクールカースト底辺の人間を「演じて」いる感がまるでなく、肌感覚として劣等感や自身のなさを身に纏っているようなリアリティがあり、不思議な親近感を抱きます。

そして、もう1つこの映画について調べていて驚かされたのが、『ビルドアガール』って実話に基づく物語なんですよね。

イギリスのコラムニスト、キャトリン・モランが自分の学生時代の経験を綴った2014年の自伝小説『How to Build a Girl』を実写映画化したのが、今回の映画なのだそうです。

1990年代というまだまだ女性への社会の風当たりが強かった時代に、悩み、失敗しながらも「自分自身を作り上げていく」物語は、非常に力強く、勇気を与えてくれます。

ぜひ、この愛おしくも力強い作品が1人でも多くの人に届くことを祈りながら、今回は作品の感想をネタバレなしで書かせていただこうと思います。

良かったら最後までお付き合いください。




『ビルドアガール』感想・解説

「自分を形作る」とは何かを考えさせる成長譚に!

(C)Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019

今作の主人公は貧しい境遇に生まれ、そうした状況を打破するべく、音楽ライターとして活動を始めます。

しかし、そうした財政的な困難を打破することに注力してしまい、自分が本当にやりたかったこと、望んでいたことを見失っていきました。

それでも、両親や兄弟、自分の思い人に感化され、自分なりのやり方で新しい自分を作っていく、そのプロセスは音楽が物語のフックになっていることもあって、どこかジョン・カーニー監督の『シングストリート』を思い出させます。

自分の好きなことに夢中になったり、好きな人に出会って盲目になったり、貧しい境遇から脱出するために懸命になったり、失敗と挫折を経験しながら少しずつ前に進んでいく主人公を思わず応援したくなるんですよね。

『ビルドアガール』は成長譚であることに間違いないのですが、その上で「自分を形作る」とは何なのか?を考えさせてくれる作品だと思っています。

ビーニー・フェルドスタインが演じる主人公のジョアンナ・モリガンは、何の特徴もない普通の女子学生で、自分の人生にどこからか転機が訪れることを期待していました。

しかし、それでは何も変わらないと焦り、行動を起こすわけですが、これによって多くの人から評価を得られるようになります。

働き始めた出版社でも人気のコラムニストとなり、賞を受賞し、稼ぎが増えて家の家賃を負担するようになり、男性からも求められ、学校でもイケてるグループの仲間入り。

彼女は自分の自信の無さを他者の評価や視線で補い、他者から求められる自分を「作り上げる」ことで自分を変えようとするのです。

本作では、主人公のジョアンナが「ドリー・ワイルド」というペンネームを使って活動したり、奇抜な衣装を着てピエロを演じるという形で、そんな彼女の「自分作り」を描写しています。

しかし、そうした他者によってもたらされる要素で自分自身をいくら武装しても、それは中心が空洞になったままの張りぼてに過ぎず、彼女は自分で自分に自信を持つことができていません。

だからこそ『ビルドアガール』は、他者からの評価や他者からの視線で自分自身の価値を「形作る」ことの危うさを描いています。

もちろん他者から認められることは大切なのですが、その前提にはまず「自分」がないとダメなんですよ。

じゃあ、その空洞になっていた「自分」をどうやって見つけるのか、はたまた再発見していくのか?

それこそが『ビルドアガール』が描こうとした本当の「自分を形作る」ということなのです。

生きていれば、誰しもが他人から求められる人間になりたいと思うはずですし、それ自体は決して悪いことではありません。

しかし、「求められる自分」を演じようとするがあまり、「なりたかった自分」を見失っていくことがしばしばあるのではないでしょうか。

本作では、ペンネームの「ドリー・ワイルド」と本名の「ジョアンナ・モリガン」が使い分けられ、そうした2つの「自分」の存在を可視化します。

そんな2人の「自分」のジレンマに悩みながら、ジョアンナはどんな答えを見つけ出していくのか。

主人公がどんどんと成功していくサクセスストーリーというよりは、その過程で生じる痛みや苦みにキチンと向き合い、自分の望む成功とは何かを探っていくような物語であり、笑えるけれど、すごく奥深い映画だと感じました。

そして、その痛みや苦みをリアルな温度感で物語に息づかせることができるビーニー・フェルドスタインが主演を演じたことが本作のテーマを確固たるものとしています。

少しだけ自分を好きになる。

自分に自信が持てるようになる。

きっとこの映画はやさしくその後押しをしてくれるはずです。



注目していただきたいのは「扉」のモチーフ!

(C)Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019

では、ここからは本作『ビルドアガール』を見る際に注目していただきたいポイントについてご説明させてください。

物語の序盤に音楽ライターとして駆け出しのジョアンナがアーティストのジョン・カイトに出会い、彼とのやり取りの中でこんな発言をします。

ジョアンナ「扉が好き。扉は私を外界と隔ててくれるから。」

ジョン・カイト「今、扉が好きになった。」

この言葉が象徴するように本作においては、「扉」のモチーフが作品の至るところで顔を覗かせます。

例えば、ジョアンナが通う学校では、スクールカースト上位の学生たちが集っている部屋があり、物語序盤の彼女は自分はそこには入れないだろうと悲観していました。

しかし、徐々にライターとしての活動が軌道に乗り始めると、彼女は颯爽と「扉」を開け、学校のイケてるメンツと交流を持ち始めるのです。

他にも、彼女の子ども部屋は弟と相部屋で部屋の中にしきりと扉を設けることでスペースを隔てています。

物語の序盤の彼女は弟と仲が良く、空間を隔てた彼の部屋と自分の部屋を頻繁に行き来しているようでしたが、徐々に2人の間に溝が埋まれ、その「扉」は開かずのものへと変わっていきました。

また、彼女の自宅の玄関の「扉」は幾度となく映し出され、彼女が自宅の外に新しい居場所を見出し始めると、その内と外が強調されるようになるのです。

外の世界で活躍し、名を馳せれば馳せるほどに家族との関係はぎくしゃくしていき、その「扉」は重たく、閉じたもののように感じられ始めます。

このように『ビルドアガール』において「扉」というモチーフは、その内と外を隔てるモチーフとして登場し、と主人公のジョアンナがどんどんとその「外」に飛び出そうとする中で、「内」に大切なものを置き去りにしてしまうという状況を演出していたのです。

どんどんと「扉」の向こう側の世界を見出していくのですが、そうすればするほどに自分の部屋に閉じ込めた本当の夢は腐敗していき、家族との関係は険悪なものになっていきます。

そして、物語の後半。まさしくジョアンナの物語の転機ともいえる瞬間に、この「扉」のモチーフが最高に効いてくる演出があるのです。

「扉」の向こう側に憧れ、そこを目指すがあまり、自分を見失い、家族を見失い、ボロボロになっていくジョアンナ。

そんな彼女を大きく変える瞬間。人の温もりや優しさを感じずにはいられない瞬間。

そして何より「扉」の内側と外側がつながる瞬間。

ナガ
ぜひ、その詳細は劇場でご確認くださいませ!

『ビルドアガール』を鑑賞する際には、「扉」というモチーフがいかに視覚的な演出として重要な意味を持っているのかを考えながら見ていただけると、物語をより深く味わうことができると思います。



おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『ビルドアガール』についてお話してきました。

ナガ
とにかくキャラクターの魅力がさく裂した素晴らしい成長譚でした!

主人公のジョアンナを演じたビーニー・フェルドスタインも素晴らしいですし、ジョン・カイトを演じたアルフィー・アレンもすごく良かったです。

(C)Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019

この2人が演じたキャラクターは、どん底の境遇から這い上がって成功していくのですが、そうした輝かしい成功の陰に悲しみや苦しみが見え隠れしています。

ただ、そうした暗い部分が描かれることで、『シングストリート』のヒロインだったラフィーナに感じたような「Happy Sad」を2人にも感じました。

幸せや成功と悲しみが同居する。でもそれが人間の味になり、その人にしか出せない魅力になっていくんですよね。

そういう意味で、すごく映画の中でキャラクターが生きていると感じられましたし、ジョアンナやジョン・カイトといったキャラクターたちを愛おしく思いました。

ナガ
気になったという方は、ぜひ劇場でご覧になってみてください!

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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