『スキャンダル』ネタバレ感想・解説:民主党寄りハリウッドから保守党寄りFOXへのカウンター

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『スキャンダル』についてお話していこうと思います。

ナガ
アメリカを震撼させた一大スキャンダルが映画化ですね!

ハリウッド映画界では、2017年に映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが告発され、そこから一気に「Me too運動」が広がりました。

実は、その少し前、2016年にFOXニュースのCEOであるロジャー・エイルズに対してグレッチェン・カールソンがセクハラを告発し、それに賛同した女性が立ち上がり、CEOの座から引きずり下ろしたという一件がありました。

今回の映画『スキャンダル』はまさしくその一件をベースにして、作られた作品となります。

原題となっている「Bombshell」は英語圏のスラングで、女性のセックスシンボルを表す言葉で、魅力的な女性のことを指して用いられました。

それは、まさしく今作の中でも描かれた白人ブロンドの美しい女性が「脚」を出して番組に出演するのが、当たり前だったFOXニュースへの皮肉でもあり、同時にそんなステレオタイプ的な型にはめられていた女性たちが立ち上がったことを表現する意味合いも含まれています。

『スキャンダル』というタイトルにしてしまうと、原題のニュアンスは失われてしまった感じはするので残念ですが、ぜひこの記事を読んでいただいている方は、原題の意味も知っておいていただければと思います。

それでは、ここからはそう少し掘り下げて作品について語っていきたいと思います。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




『スキャンダル』

あらすじ

FOXニュースの本社ビル2階は、CEOであるロジャー・エイルズの絶対領域となっていた。

そこで起きたことは外部には漏れず、そして女性キャスターの昇進にも大きく影響するのだという。

グレッチェン・カールソンは、ロジャーからの性的な欲求に応じなかったことで、人気番組から引きずり下ろされ、不人気番組への降格を余儀なくされた。

このことを受け、彼女は虎視眈々と彼へのリベンジに向けて証拠集めに奔走していたのだった。

そして2016年に満を持して、彼女はロジャーをセクハラ行為で告発する。

グレッチェン・カールソンは、彼の被害に遭った女性は多数存在しており、きっと自分が声を上げれば、彼女たちも立ち上がるだろうと予見していた。

しかし、FOXニュースの女性たちは、ロジャーを恐れていたり、自分を抜擢してくれた恩があったりして、告発するには至らない。

彼女が不利な戦況を覆すには、不穏な沈黙を貫いていたFOXの人気ジャーナリスト、メーガン・ケリーの動き次第というところになっていた。

一方のメーガン・ケリーは、自分自身の地位と名誉、そして自分の弱さの象徴でもあるロジャーとの過去の一件への後悔の狭間で揺れ動いていたのだった・・・。

 

スタッフ・キャスト

スタッフ
  • 監督:ジェイ・ローチ
  • 脚本:チャールズ・ランドルフ
  • 撮影:バリー・アクロイド
  • 美術:マーク・リッカー
  • 衣装:コリーン・アトウッド
  • 編集:ジョン・ポール
  • 特殊メイク(シャーリーズ・セロン):カズ・ヒロ
ナガ
カズ・ヒロさんアカデミー賞受賞おめでとうございます!

本作の監督を務めたのは、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』ジェイ・ローチですね。

そして脚本には『マネー・ショート』チャールズ・ランドルフが起用されています。

今作『スキャンダル』は、もうアメリカのニュースを毎日見ていて、今作の中で起きる出来事もあらかた知っていることが前提ですと言わんばかりのテンポで作られています。

そういう意味でも、『マネー・ショート』を彷彿とさせるような実話ものではありましたね。

また、作中で印象的だった衣装を手掛けたのは『ファンタスティックビースト』シリーズでも知られるコリーン・アトウッドです。

本作では、衣装が1つの物語のキーになっていますので、その役割は重大でした。彼女の仕事ぶりなしでは、成立し得なかった演出も数多くあるのではないかと思います。

そしてアカデミー賞を受賞したのが特殊メイク担当のカズ・ヒロですね。

彼は『ウィンストンチャーチル』の時にも、注目されましたが、俳優を実在の人物そっくりに変身させてしまう天才です。

キャスト
  • メーガン・ケリー:シャーリーズ・セロン
  • グレッチェン・カールソン:ニコール・キッドマン
  • ケイラ・ポスピシル:マーゴット・ロビー
  • ロジャー・エイルズ:ジョン・リスゴー
  • ジェス・カー:ケイト・マッキノン
ナガ
名女優3人が揃い踏みですね!!

グレッチェン・カールソンを演じたのは、ニコール・キッドマンですね。

ベテランの風格とロジャーを訴え出る際のクレバーさ、さらには弱々しい母としての顔を持ち合わせる女性キャスターを見事に演じ切っており、流石の演技だと感じました。

そしてメーガン・ケリー役にはシャーリーズ・セロンが起用されました。

カズ・ヒロさんの特殊メイクによって、本人そっくりとなっていたのは衝撃的でしたね。

また、マーゴット・ロビーが演じたケイラ・ポスピシルは映画オリジナルキャラクターです。

スタッフがFOXの社員たちに聞き取り調査をする中で、女性たちの人格や被害を少しずつ吸い上げて作り上げた女性像だということですね。

ロジャー・エイルズ役には、『人生は小説よりも奇なり』などで知られるジョン・リスゴーが起用されています。

ナガ
ぜひぜひご覧になってみてください!



『スキャンダル』感想・解説(ネタバレあり)

1つ1つの諸要素の完成度が高い作品

本作『スキャンダル』は何かが傑出して素晴らしいという印象を受けるタイプの作品ではありませんが、1つ1つの映画に関わる諸要素が非常に丁寧に構築されている点に好感が持てます。

まず、編集や撮影についてですが、テレビ業界を舞台にした作品と言うことで、テンポ感やアングル、クローズアップショットの撮り方はロケ映像を見ているかのように錯覚させる作りとなっています。

冒頭から「第4の壁」を超えるような、劇中のキャラクターが作品を鑑賞している私たちに問いかけてくるという演出が非常に多く取り入れられていましたよね。

これにより、ニュースリポートを見ているかのような感覚で、作品の世界に没入していくという効果がありましたし、編集のテンポ感もめまぐるしく情報が流れていくテレビを意識し、かなり速い作りでした。

このテンポ感の作品で、しかもFOXニュースに馴染みのない日本人が見て、普通に面白いと感じられる脚本は素晴らしいと思いますね。ただの内輪ノリのような内容にはなっていません。

ナガ
これは相当なバランス感覚ができない芸当だよ・・・。

カメラワークも特にズームアップの仕方が特徴的で、俯瞰で撮影しながら、登場人物にスポットを当てる時にカットを切り替えるのではなく、そのままのアングルからクローズアップするという挙動がテレビっぽさを醸し出していました。

また、編集の面では、実際のニュース映像や監視カメラの映像、そして異なる人物の物語といった多岐にわたるタイムラインを見事に1つの線に集約し、理路整然と受け手に伝えるという技を披露してくれました。

そして本作『スキャンダル』の見どころは何と言っても衣装とメイクですね。

まず、衣装についてですが、登場人物の置かれている状況や地位、性格や気質を反映したものとなっておりましたし、女性たちが内心では嫌がりながらも社内で「脚」を見せたファッションをしなければならないという状況もリアルでした。

加えて、メイクは本当に素晴らしかったですよね。

カズ・ヒロさんが担当した特殊メイクは、シャーリーズ・セロンをまさにメーガン・ケリーそっくりに仕立て上げていました。

(C)Lions Gate Entertainment Inc.

今回彼は、3Dスキャナ・プリンターを使って、シャーリーズ・セロンの顔を徹底的に分析し、彼女の演技が最大限に活きてかつメーガンの特徴である鼻を最大限再現するというタスクに取り組んだそうです。

演技に支障をきたさず、それでいて見た目は完璧にという難しいタスクを見事にやってのけた手腕は評価されるに値しますね。

ナガ
ちなみにこの特殊メイクは毎回施すのに3時間かかったんだとか・・・?

また、特殊メイクに限らずとも通常のメイクに関しても本作は非常に優れていました。

というのも、メイクを見るだけで登場人物の立場の変化や明確には描かれずとも彼女たちに何が起こったのかが伝わって来るんですよね。

特にケイラ・ポスピシルのメイクの変化は重要で、彼女がロジャー・エイルズにキャスターとして抜擢されるに至ったセクハラ行為の実情は描かれません。

しかし、その苦しみや葛藤を覆い隠すかのように、彼女は終盤にかけてメイクが濃くなっていくんです。

ただ、その苦しみを抱えきれず、友人に相談し温かい言葉をかけてもらった時に、思わず涙がこぼれ、そのメイクが崩れていくんですよね。

ナガ
この演出は本当に見事だと思いましたし、感情がダイレクトに伝わってきました!

自分の苦悩や葛藤、後悔を押し殺すために上塗りした「鎧」がボロボロと崩れていくようなそんな印象を受けましたね。

もちろんキャスト陣の演技は素晴らしく、世代の異なる3人の女優たちが、それぞれの苦悩や葛藤を抱えながらも、ロジャーに立ち向かおうとする姿勢に痺れました。

傑出して何かが素晴らしいというタイプの映画ではないように感じましたが、それでも1つ1つの要素が丁寧に作りこまれ、それがきちんとかみ合った見事な作品だと思います。



民主寄りハリウッドから保守寄りFOXへのカウンター

FOXと言えば、保守党寄りのメディアとして有名で、いろいろと問題も散見されてはいます。

劇中ではそんなFOXニュースに対する皮肉が多数登場しました。

例えば、作品の冒頭でジェスがケイラに情報源が分からなければとりあえず「関係者筋の情報によると・・・」で構わないというようなソースは適当で良いというようなアドバイスをしていたと思います。

これは取材をおざなりにし、デマや誤報をしばしば流すFOXニュースに対する揶揄ともとれる発言です。

またLGBTQに対する否定的な論調が社内の空気を作っている点や、銃規制への圧倒的な反対、有色人種への差別的な目線とその正当化など、保守寄りのメディアならではの思想をかなり批判的に描いているようにも感じますね。

なぜ、今作『スキャンダル』がそうした保守寄りのFOXニュースをアイロニックに描くのかと言うと、当然劇中でも述べられていたようにハリウッド映画界は民主党寄りなんですよね。

だからこそLGBTQや人種差別への向き合い方であっても大きな違いがありますし、その点で政治的思想の観点では対立していると言っても過言ではありません。

そして、ハリウッド映画界は、そんな保守寄りのFOXニュースに対するカウンターとして、ケイラというキャラクターとその物語を作り上げたのだと思います。

(C)Lions Gate Entertainment Inc.

ケイラは劇中でキリスト教福音派であることが明かされていましたが、福音派はドナルド・トランプの支持層の中心の1つでもあり、保守的なプロテスタントとして知られています。

だからこそ彼女の両親が保守的なメディアであるFOXニュースばかりを見ているというのは当たり前ですし、そこで活躍したいと願う彼女の夢もまた至極真っ当です。

しかし、そんなFOXニュースで女性蔑視やセクハラが蔓延しており、自分を犠牲にしなければ活躍できないような環境だったら・・・。

FOXニュースは世論に反応して、ロジャー・エイルズを解雇する決断を下しましたが、その結果はどうだったでしょうか?

結局は、同じような白人の老人の支配層がやって来て、今まで通りのFOXニュースを維持しようとするだけで、何も変わらないのです。

そんな環境でもまだ、女性たちは自分の心身をすり減らして、男性至上主義、女性の性的搾取上等の世界で生きていくのかと、ハリウッド映画界がFOXニュースに痛烈な批判を叩きつけています。

そういう意味でも、ケイラというキャラクターはある種のシンボルです。

キリスト教福音派という保守党寄りの家庭に生まれ、その思想に影響されて育ち、ロジャー・エイルズに優遇されてキャスターとして抜擢されたという状況であっても、それを全て捨ててあの環境から去ろうと決断したのです。

ただ、この映画もまたハリウッド映画界という民主党寄りの派閥からのメッセージであり、結局はハリウッドの政治的思想の主張のための映画ではないかという印象も受けてしまいます。

ある種、FOXニュースにいる女性が自分らしく生きるということは、あの環境から去ることだ!と高らかに宣言してしまっているようなものですからね(笑)

その点で、今作が全面的に正しいんだと肩入れしすぎるのも良くないと思いますし、あくまでもこの作品はハリウッド映画界という民主党寄りの派閥から、保守党寄りのメディアへのカウンターなのだと認識するにとどめるのが懸命かと思います。

 

おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『スキャンダル』についてお話してきました。

何が個人的にグッときたのかと言いますと、女性たちがチームで戦って勝利した作品というわけではない点なのだと思います。

FOXニュースには、ロジャー・エイルズへの密告体制が整っており、女性たちがチームで立ち上がることは難しい状況でした。

それでも、自分の尊厳や名誉、家族を犠牲にしてでも勇気と誇りをもって立ち上がった1人1人の女性の物語が束になることで、メディアの帝王を打ち負かしたのです。

チームVSロジャー・エイルズではなく、1人1人の女性VSロジャー・エイルズの構図で描き切り、それが結果的には大きなムーヴメントになったという描き方に胸が熱くなりました。

アメリカであの時、何が起こっていたのかを知る上でも重要な作品ですので、ぜひ日本にいる私たちも見ておきたい作品だと思います。

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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