【ネタバレあり】『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』感想:特別料金と言えど、これに1400円?

アイキャッチ画像:(C)2018 STUDIO PONOC

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですねスタジオポノックの新作短編映画『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』についてお話していこうと思います。

あまりネタバレになるならないというタイプの物語ではないんですが、一応ネタバレありということで話を進めさせていただこうと思います。

良かったら最後までお付き合いください。

カニーニとカニーノ

あらすじ

小さな清流の下にサワガニの家族である父トトとその子であるカニーニとカニーノが暮らしていました。そんなある日嵐がやってきて、川の流れは激しくなってしまいます。

弟のカニーノは母のカカの存在が恋しくなって、思わず巣から出てしまいます。激流に流されそうになっているところを父のトトが助けるのですが、代わりにトトは激しい流れに飲まれてしまいます。

果たしてカニーニとカニーノは無事カカを見つけ出すことができるのか?

キャスト・スタッフ

カニーニとカニーノの声優を務めるのは木村文乃さんと子役の鈴木梨央さんなんですが、正直この作品はほとんどセリフが無いので、あんまり声を聞くことはないですかね・・・。

監督・脚本は米林宏昌監督ですね。かつてジブリで『借りぐらしのアリエッティ』や『思い出のマーニー』の監督を務めた実力派で、昨年の夏にスタジオポノック作品として『メアリと魔女の花』の監督を務めました。

米林監督が参加しているということで、やはりこの短編集の中ではこれが一番力が入っているのかな?とは感じさせられました。

感想:正直3つの短編の中で一番見所がない

率直に言わせていただくと、今回のポノック短編劇場の中で一番見応えがないのがこの『カニーニとカニーノ』だと思います。本当に何の掴みどころもないんですよ。物語が秀でているわけでもなく、ハッとさせられるような驚きがあるわけでもありません。ただ取り立てて悪いところがあるわけでもないので、本当に何も残らないと言いますか。

ナガ
まずサワガニの生態を知っておかないと理解できない行動が多すぎるよね(笑)

そうなんですよ。一体どれくらいの方がサワガニの生態なんてものを把握しているんだろうかということが気になるところですが、一応当ブログでも簡単にだけ解説しておきますね。

まず多くの人がこの『カニーニとカニーノ』を見ていて、気になるであろうポイントがなぜ母親のカカが水中の巣からいなくなっていたのかということについてです。

これって実はサワガニのメスはタマゴを抱卵すると、陸に上がって、そこに巣穴を作って産卵までの時期を過ごすという習性があるからなんです。そのため母親のカカは水中にはいなくて、終盤に陸から赤ちゃんを抱えて戻ってくるという描写になっていたわけです。

また終盤のカニーニとカニーノが巣から旅立つ、ないし他のカカとトトの子供たちが巣ではなく、自立して暮らしている世界観に関してですが、これもまたサワガニの習性でして、サワガニの子供は生まれてからしばらくすると自立して親とは離れて暮らすようになる習性があるんです。これも劇中で表現されていました。

こういう少し込み入った知識がないと、全く理解しがたいシーンがいくつかあったのではないかと思います。

ナガ
あとなぜ擬人化したのかが謎だよね(笑)

物語を描く上で誰が主人公なのかということを明確にするために、擬人化するというアプローチが間違っているとは言いませんが、それならそれでもう少し世界観をはっきりさせて欲しいですね。

中途半端に擬人化されていたトンボが不可解ですし、それ以外の生き物は特に擬人化されていなかったのも謎です。なぜサワガニとトンボだけ・・・?

それに加えて、カニーニとカニーノの家族以外のサワガニは擬人化されていなくて、普通のカニなんですよね。ここが非常に世界観をぼんやりさせています。カニーニとカニーノたちを登場させるのであれば、普通のカニは登場させたらダメだったのでは?と思ってしまいます。

テーマとしては大自然の中での「弱肉強食」「食物連鎖」というものが1つ根底にあったのではないかと推察できますが、それにしてもちょっと弱いかなぁ?

個人的にこの『カニーニとカニーノ』の中で良かったポイントは、彼らを襲う巨大な魚をCGで表現したところですね。基本的にこの短編アニメは風景画のような美しい作画に裏打ちされていて、見ているだけでも癒されるような映像なのですが、そこに現れる魚がCGになっていることで、異質感が増して、恐怖が倍増されます。

こういうアニメーション的な側面で見ると、魅力もあった作品ではあると思います。ただ全体として、見どころに欠けると言いますか、可もなく不可もなく感が強かったという印象です。

サムライエッグ

あらすじ

東京で両親と暮らす小学生のシュンは生まれつき卵アレルギーを持っていて、卵(卵製品)を食べたり、卵に触れたりすると、アナフィラキシーを起こして、全身に発疹が出てしまいます。

彼はある日の野球の練習帰りに、何気なく冷蔵庫のバニラアイスを食べてしまうのですが、その成分表示を見てみると「卵黄」の文字が。果たして、その時シュンはどう行動したのか?

アレルギーに悩まされる少年と、その母親の物語を生き生きと綴った短編です。

キャスト・スタッフ

母親役を演じたのは、女優の尾野真知子さんでした。今作の母親はまさに「なにわの母ちゃん」という印象で、基本的に関西弁なんですが、尾野さんが奈良県出身ということもありその辺りのイントネーションや言い回しなんかも完璧でしたね。シュン役には子役の篠原湊太さんが参加しています。

今作の監督・脚本を務めたのは百瀬義行さんでして、この方も長らくジブリに携わられていて、後のポノックに移ってきたクリエイターのようですね。

劇伴音楽には、日本の音楽シーンを支える島田昌典さんが参加しています。aiko、いきものがかり、back numberといった人気アーティストの楽曲のアレンジやプロデュースを担当されているようですね。

感想:終盤のクレヨンの作画に引き込まれる秀作

本作『サムライエッグ』は現在日本でも大きな問題となっているアレルギー問題を題材としています。厚生労働省の調査では都心に住む4歳以下の子供は2人に1人の割合でアレルギー症状を抱えているという状況が指摘されています。

当ブログ管理人も3歳ぐらいまで牛乳アレルギー持ちだったんですが、幸いなことに完治しまして、現在では乳製品を食べても何の症状も出なくなっています。そのためアレルギーに悩んだという記憶は私自身にはあまりありません。

ただ、私が小学校教育の現場を何度か見させていただく機会がありまして、その際に給食の時間に給食そっくりのお弁当を母親が作ってくれて、それを給食の時間に食べているという光景を何度も見ました。これは『サムライエッグ』の中でも使われていたシーンですよね。子供が他の子供たちと違うんだということを気に病まないようにということで、母親が子供のことを思って、一生懸命作ったその弁当を見ていると、いつも目頭が熱くなったのを今でも覚えています。

百瀬監督が最近のアレルギーと子供の関わりについて、しっかりと自分の目で調査して、この作品を作り上げたんだということが作品から伺えて、その誠実な姿勢に感激しました。

ナガ
そして終盤のクレヨンの作画は凄かったよね!!

あのシーンで、なぜお母さんは卵黄の含まれるバニラアイスを冷蔵庫に入れておいたんだという疑問が尽きないのですが、シュンが「いつものバニラアイス」と発言していたので、これはあのバニラアイス自体の仕様が変わってしまったがゆえに起こってしまったことだったのかな?と何となく推察しています。

そして素晴らしいのがクレヨンの作画ですよ。このシーンは本当に魅せるアニメーションだったと思います。アレルギー食品を食べてしまったことによる焦燥と熱で自分の世界がどんどんと輪郭をぼんやりとさせていき、身体から浮き出てくる発疹がシュンの意識を朦朧とさせ、映像を溶かしていきます。

そんな中でエピペンを持って必死に走るこの一連のシークエンスは驚くべきアニメーション映像だったと思います。

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透明人間

あらすじ

他の人と同じように服を着て、会社へと向かうその男は何と透明人間でした。しかし、他の人はおろか、自動ドアやATMも彼を人として認識してはくれません。

ある雨の日に彼はトラックに轢かれそうになっている赤ん坊を発券します。果たして彼は赤ん坊を救うことはできるのか?

透明人間のある1日の物語を大胆なアニメーションで描いた意欲作です。

キャスト・スタッフ

主人公の透明人間の役を演じたのは、オダギリジョーさんでした。社会の片隅で暮らす青年の悲哀が絶妙に醸し出されていて、素晴らしいボイスアクトでした。

監督・脚本を務めたのは、山下明彦さんでした。彼もまたジブリからポノックへと移ってきた人物で、米林監督の作品ではその作画を支えてきたクリエーターです。

劇伴音楽を担当したのは、Perfumeのプロデューサーとしても有名な中田ヤスタカさんですね。彼は映画『何者』なんかでも劇伴音楽を担当されていました。

感想:3作品の中ではこれが一番面白い

ナガ
正直言うとこの『透明人間』が3作品の中で一番面白かったです!!

まず前提となる設定が肝要です。青年はある日突然透明人間になってしまったという設定なんですかね?と疑問に思われるでしょう。ATMのカードを持っていることとか、仕事をしている描写にどう説明をつけたらよいのでしょうか?でもそうだとしたらなぜ彼が来ている服が他の人には見えないのという矛盾が発生しているようにすら感じられます。

ただこういった不可解なポイントを結んでいくと、この青年は自分で自分のことを「透明人間」であると認識していないという事実が浮かび上がってきます。つまり青年は自分では透明人間ではないと思っているのに、周りからは透明人間扱いされているということになります。

そう考えると、現代を生きる何者にもなれない、何者にも取って代わられる「代替可能な他者」として生きる自己を「透明人間」という形で表現したのが非常に巧かったと思います。重たいものを背負っておかないと、重さを失って空へと飛ばされてしまうという設定も斬新で、「透明」な自分は簡単にこの世界から切り取られてしまうんだという恐怖感がありました。

そんな中で、かけがえのない、唯一無二の自分として生きていくにはどうすれば良いのか?という主題が確かに根底にあって、現代を生きていく我々にとっての希望であり、ヒントになるような作品だったと感じました。

ラストシーンでもう消火器の「重さ」に頼らずとも、自分の「重み」で地に足をつけて生きていけるようになった「透明人間」の青年の描写があり、ここが本当に素晴らしかったです。

設定や世界観の構築に難があるとは思いましたが、長編化されても見てみたいと思えたのは、この『透明人間』だけでした。

おわりに:3作品を総括して

ディズニーやピクサーでもそうですが、短編アニメーションの位置づけというのは、あくまでも長編アニメーションを担当できる監督探しという側面が強いです。

例えば映画『トイストーリー』で一躍有名になったジョン・ラセター監督は、『トイストーリー』の監督を務めるに至るまでに4本の短編映画の監督を務めています。ですので、短編映画というのは、長編のように「かっちりと」作り込むというよりは、物語やアニメーションにおいて自分をアピールできるような観客を短い時間でアッと言わせるような「驚き」大切なんですよね。

「完成度」云々は二の次でいいんですよ。ただこの監督が長編映画を作るのであれば、見てみたいと思わせるだけの「驚き」を提供できるかどうかがすごくキーになってくるんです。そういう意味でディズニーやピクサーにおいて短編映画で評価された監督が長編を担当するという流れは至極当然の流れです。

最近であれば、『モアナと伝説の海』と同時上映されたレオナルド・マツダ監督の『インナーワーキング』という人間の体内の臓器器官に生命を付与したアニメーションは斬新で、驚かされました。こういうワンアイデア勝負でもいいんです。短編映画には「驚き」が欲しいんです。

そういう視点で見た時に今回のポノック短編劇場『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』は明らかに平凡すぎるというか、「攻め」が足りていない印象をぬぐいきれません。短編だからできる大胆なアプローチが物語にもアニメーションにも見えてこないんです。唯一『透明人間』は気を吐いていたような印象ですが、それでもやっぱり弱いと思います。

短編3本で一般料金1400円(特別料金)を取ろうというのであれば、もっと「攻めた」短編を揃えて欲しかったですしこれを劇場で見て良かったと思わせてくれるだけの魅力が欲しかったと感じずにはいられません。

ナガ
見終わってから、これで1400円??ってどうしても思ってしまう。

見た人にこう思わせてしまったら、もう「負け」だと思いますよ。

ただ短編劇場自体は面白い試みですので、これからはポノックが長編映画を作る時に、その同時上映なんかで1本ずつ公開すればよいと思います。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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2 件のコメント

  • サムライエッグのバニラアイスについては、
    パッケージに「リニューアル」と書いてあったことから、成分が変わってしまったという認識で合っていると思います。

    • 柚子さん、コメントありがとうございます!
      リニューアルって書いてたんですね!見落としてました!ありがたいです。

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