【感想・解説】映画「ポルト」:名匠の面影を感じさせる新鋭監督ゲイブ・クリンガーの傑作

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね「ポルト」という映画について語っていきたいと思います。

 作品の性質上、ストーリ面でのネタバレは実質存在しないような気はしますが、前情報をシャットアウトしてご覧になりたい方には、読むのをオススメはしません。

よろしければ、最後までお付き合いください。




あらすじ・概要

 ジム・ジャームッシュが製作総指揮を務め、ポルトガル第2の都市ポルトを舞台に、異国の地で再会した孤独な男女を描いたラブストーリー。ポルトガル北部に位置する港湾都市ポルト。26歳のジェイクは家族に勘当されたアメリカ人。32歳のマティは恋人ともにこの地へやってきたフランス人留学生。それぞれの事情でこの街にやってきた2人には、かつて束の間の肉体関係を結んだ過去があった。ある日、考古学調査の現場で互いの存在に気づいた2人はカフェで再会し、軽い気持ちで一夜の関係を結ぶ。その一夜が2人の人生を大きく変えていく。ジェイク役に2016年に自動車事故で亡くなったアントン・イェルチン。マティ役に本作が初主演作となるルシー・ルーカス。監督は第70回ベネチア国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、本作で長編劇映画デビューを果たしたゲイブ・クリンガー。
映画comより引用)

予告編

感想:クラシカルながら独自色アリの良作

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(C)2016 Bando a Parte – Double Play Films – Gladys Glover – Madants 映画「ポルト」予告編より引用

ざっくり言いますと、この映画って一組の男女がある夜に出会ってそして別れる、それだけの物語なんですよね。それ以上でもそれ以下でもありません。70分ほどの短い映画で、ジェイク側の視点とマティ側の視点、そして2人の視点で一晩の物語を捉えていきます。

本作の監督はおそらく長編映画初監督のゲイブ・ブリンガーというブラジル人です。しかし、この人の手腕にジム・ジャームッシュ監督が惚れ込んで、製作総指揮を名乗り出たというのも頷ける圧倒的な才能を感じました。こういう本物の「映画」を撮れる監督って少ないんですよね。

一組の男女のある夜の物語をさまざまな視点と、時系列から描いている心理群像劇のような作品なのですが、実に上手く作られている。回想シーンでクラシック映画のような4:3に近いアスペクト比の映像と現代映画に多い16:9の比率の映像を使い分けた点などは非常に興味深かったと思います。

また、作風や演出、人物描写、舞台設定、撮影方法などの多岐にわたって、映画界の名匠と呼ばれる人たちの面影を感じさせるものとなっていました。

これからの作品が非常に楽しみであると共に、本作で既に熟練の映画監督が撮影した映画かのような風格を兼ね備えていました。

 私の今年のマイベスト映画ランキングTOP10には間違いなく絡んでくる作品です。

ポルトとは?

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(C)2016 Bando a Parte – Double Play Films – Gladys Glover – Madants 映画「ポルト」予告編より引用

ポルトというのは、ポルトガルの都市名のことです。首都のリスボンに続く第2の都市です。サッカーの「FCポルト」というチームは日本でも比較的有名ですし、「ポートワイン」の発祥の地でもあります。

ポルトは大航海時代以来、港湾都市として栄えてきました。そのため交易が盛んでしたし、今もなお港町として栄えています。

ブラジル監督が作品の舞台にポルトガルを選ぶというのは、ブラジルがポルトガル語圏である事を考えると自然です。そして本作の登場人物であるジェイクとマティがそれぞれポルトガル人ではないのも重要なポイントです。ジェイクはアメリカ出身で、故郷を追われてこの町にやって来ました。またマティはフランスからの留学生です。「よそ者」を受け入れやすい風土と歴史を持つ街ということで、「ポルト」が本作の舞台にチョイスされたのではないでしょうか?

温故知新の新鋭ゲイブ・ブリンガー

本作の監督ゲイブ・ブリンガーはとあるドキュメンタリー映画であの名匠ジム・ジャームッシュ監督の目に留まった新鋭の監督です。

そのため、彼の作風は幾何かジム・ジャームッシュ監督の作品に似ています。しかし、それだけではありません。彼の作品は、他にも多くの名匠の面影を感じさせてくれます。

・ジム・ジャームッシュ監督:「パーマネント・バケーション」

 

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名匠ジム・ジャームッシュの長編デビュー作である「パーマネント・バケーション」という作品ですが、本作「ポルト」に非常に通じるものの多い作品です。

特に舞台設定や画作りと言った面で共通点を感じます。ある街のある人物にひたすらスポットを当てて、物語を進行させていく手法はジム・ジャームッシュ監督の十八番です。

また、「パーマネント・バケーション」で非常に印象的なあの部屋と今作「ポルト」で登場するマティの部屋はそっくりですよね。あの床に敷くスタイルのベッドが共通しているのが非常に面白いです。

加えて、歩くシーンを多く採用したり、ベッドでの会話シーンなどジム・ジャームッシュ好みの画が多く登場します。

・リチャード・リンクレイター監督:「ビフォア・サンライズ」

 

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映画ファンの間では有名な「ビフォア」シリーズの監督リチャード・リンクレイターですが、彼は人生の一瞬を切り取り、その瞬間の輝きや美しさ、尊さを描き出すことに長けた監督です。そして彼が映画の中で描く一瞬は、まるでそれが永遠かのように感じられるんですね。まさに「一瞬の永遠」を描く映画監督だと思います。

本作「ポルト」も一組の男女が過ごす一夜の物語という点で「ビフォア・サンライズ」に非常に通じる点があります。それだけではなく、二人の過ごした時間が、一晩の、ほんの一瞬の時間がまるで永遠に続くかのように演出しているんですよね。リンクレイター節の片鱗をこの映画にも垣間見る事ができます。

・サタジット・レイ:「大樹のうた」

 

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サタジット・レイ監督はインド映画界の巨匠です。彼の作品の中で有名なものの一つがこのオプー3部作です。この「大樹のうた」はその最終作に当たります。

このサタジット・レイ監督は、心情説明・状況説明を全て、語ることなく映像で魅せてしまう稀有な監督なのです。特にこの「大樹のうた」で素晴らしいのが、オプ―とオプルナが初夜を経て迎えた朝のシーンですよね。何も語られずとも、その夜どんなことがあって、2人の心情がどう変化したのか、全てが透けて見えるように緻密に演出されています。

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(C)2016 Bando a Parte – Double Play Films – Gladys Glover – Madants 映画「ポルト」予告編より引用

本作「ポルト」もいきなり、朝のベッドでジェイクとマティが見つめ合っているシーンからスタートするんですよね。そして、その夜何が起きていたのかは映画の終盤まで語られません。しかし、冒頭のあの見つめ合うシーンで2人がどんな思いを持っていて、どんなセックスをして・・・なんていう状況が自然と浮かび上がってくるんですよね。

長編デビュー作でこんな芸当をさらりとやってのけるゲイブ・ブリンガー監督には脱帽です。

・ロベール・ブレッソン:「スリ」

 

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ロベール・ブレッソン監督はこの「スリ」という作品で、視線の魔術を見せてくれました。登場人物の性質・考え・心情、その他多くの情報を「視線」でもって表現して見せたんですよね。この作品が高い評価を獲得しているのは、その点が非常に大きいと思います。

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(C)2016 Bando a Parte – Double Play Films – Gladys Glover – Madants 映画「ポルト」予告編より引用

今作でも「視線」が一つ重要なポイントになっていました。ジェイクとマティはお互いがお互いに一方的に視線を送り続けていました。しかし、時々交錯する程度で、見つめ合うまでには至りませんでした。そして夜のカフェでその視線がようやく結びつきます。

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(C)2016 Bando a Parte – Double Play Films – Gladys Glover – Madants 映画「ポルト」予告編より引用

そして長回しのカットで2人が見つめ合うシーンを多用しています。この2人の視線を見れば、初対面にもかかわらず、お互いがお互いを分かり合っているような印象を与えますし、愛し合っているように感じられます。

その他のシーンでも、「視線」がとても効果的に機能していて、「視線」でもって登場人物の関係性の変化や心情の変化がうっすらと読み取れるようになっていました。これはとんでもない芸当だと思います。

名匠のパクリ?それだけじゃない!

ここまで、名だたる映画界の名匠の作品に通じる要素が多いということを説明してきました。しかし、ゲイブ・ブリンガー監督は古きを温めるだけの監督ではありません。

画角や映像の解像度に変化をつけた意味

今作「ポルト」ではしばしば、4:3のアスペクト比の映像と16:9のアスペクト比の映像が入れ替わりながら進行していました。また映像も前者の時はクラシックフィルムのように粗くなり、後者では美しい映像になるように設計してありました。

この演出は作中のセリフにすごく関係があるように思います。

「人はあらゆるものを忘れてしまうけど、忘れられたものは失われない」

勉強の記憶力の話なんかでこのエビングハウスの忘却曲線のグラフをよく目にしませんか?人間の脳って近くした矢先にどんどんと物事を忘却していってしまうんですね。

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フリージュニアアカデミーより引用

そのため、過去の物事はどんどんと色褪せて、忘却の彼方へと追いやられていくのです。

本作はジェイクとマティの回想劇の様相を呈していました。そのため。あの4:3のクラシック映画のような映像は、2人の記憶から少しづつ忘れられていく思い出のシーンを表しているのだと思います。ただ失われるわけではなく、2人の過ごした時間は確かに残っています。

さらに言えば、16:9の比率で映し出されたあの美しい映像たちは、2人にとって忘れようにも忘れられない瞬間を映し出しているのだと思います。

 カフェで2人見つめ合ったこと、情熱的なセックスをしたこと、2人で迎えた美しい朝。これらはどんなに時間が経っても色褪せず、「永遠の一瞬」として2人の中に鮮やかに残り続けるのでしょう。

孤独を癒す物語

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(C)2016 Bando a Parte – Double Play Films – Gladys Glover – Madants 映画「ポルト」予告編より引用

本作は、孤独な男女が出会って、孤独を癒し、そしてまた孤独へと戻っていく物語なんですよね。

ですので、2人は結局孤独なままなんじゃないか?と思ってしまうのですが、それは違いますよね。どんなに時が経っても「あの夜」を過ごした「あの人」は色鮮やかに心の中に残り続けて、孤独を癒し続けるのです。

ある意味では、今年大きな話題になった「ラ・ラ・ランド」にも似ている物語なのかもしれません。この作品は、あの頃一緒に夢を追いかけた「あの人」を描いた作品ですよね。

参考:『ララランド』を「夜」と「ブルー」の側面から読み解く!

 孤独な男女が一緒になることで、孤独を癒し合うのではなくて、2人が過ごしたあの美しくも甘美な「あの夜」だけが2人の孤独を癒し続けるという物語になっているわけです。

お互いこれからもずっと愛し合うわけではありません。2人はお互いに過去の人になっていくことでしょう。でも「あの夜」2人が愛し合っていたことだけは「嘘」じゃないんです。

この切ないビターエンドを見ると、映画「ポルト」は大人のラブストーリーなんだなあと感じます。


おわりに:アントンイェルチンに捧ぐ

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(C)2016 Bando a Parte – Double Play Films – Gladys Glover – Madants 映画「ポルト」予告編より引用

 本作でジェイク役を務めたアントンイェルチンという役者さんは2016年に亡くなってしまぅったそうなんですね。ただ、本作で魅せた素晴らしい演技は、作品を見た人の心の中に美しい映像と共に刻まれることでしょう。

ご冥福をお祈りいたします。

そして、数々の名匠の遺伝子を受け継ぐ新鋭ゲイブ・ブリンガー監督のこれからの作品から目が離せません。次はどんなアプローチで仕掛けてくるのか?今から楽しみです。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。




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