【ネタバレ・感想】映画「メッセージ」:ラストシーンの解釈・原作との違いを徹底解説

アイキャッチ画像:©2016 Paramount Pictures  from “Arrival” Trailer

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

日本では5月19日より上映がスタートします、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の最新作「メッセージ」ですが、北米版のブルーレイを仕入れまして、一足先に鑑賞することができたので今回はこの作品を語りつくしていきたいと思います。

略感を最初に述べておきたいのですが、正直今まで見てきたSF映画の中で最高傑作だったと言っても過言ではないほどの出来だったと思います。映画のジャンルで一番好きなのがSFで、もう数多くの作品を見てきましたが、これを上回る作品を挙げてみてくれ、と言われても挙げる自信がありません。

2017年1本だけ映画を見れるとしたら、この作品を選ぶと思います。あまりの完成度の高さは他作品の追随を許す余地もありません。

アカデミー賞音響編集賞を受賞!一体何がすごいの??

本作は、第89回米国アカデミー賞において、「音響編集賞」という賞を受賞しました。これに関して、何がすごいのか?という点はおそらく多くの方がピンと来ないと思います。私自身も最初にこの作品を見た時に、音がすごいなあと漠然と感じていたのですが、どうすごいのか?と聞かれると説明できませんでした。しかし、何回か作品を見直し、ブルーレイに収録されていた特典映像を見ているうちに本作の音響編集がどうすごいのかが掴めてきました。

本作の音響編集において、素晴らしい点は以下に挙げる3点が主なものだと思います。

音が作り出すムード

本作ほど、音響というものが作品に大きな影響を与えている映画は無いんじゃないかと思います。まず素晴らしいのは、「沈黙」の力なんですね。SF映画となると派手な音楽や機械音、操縦音なんかがパッと頭に思い浮かぶことと思いますが、本作では一切そういった音を扱わないんです。

機械音よりも我々の身の回りにあるような自然の音をアレンジして作品に用いています。そのため、キャラクターたちがペプタポッドのいる宇宙船に足を踏み入れるときなんかも、「沈黙」や「心臓の音」のような自然な音が印象的に感じられるように設計されています。

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©2016 Paramount Pictures  from “Arrival” Trailer

音響監督は、ルイーズたちとヘプタポッドのファーストコンタクトに細心の注意を払っていたそうで、「音が我々を高次の認識レベルへと導くのだ」という考えのもと、徹底的に神聖なムードを作り出すように音響を調節したそうですみ。そしてたどり着いた答えが「沈黙」という音だったのです。

また、劇中でルイーズがベットにいると、鳥のさえずりが聞こえてきて、突如ヘプタポッドのイメージが現れるシーンでありましたよね。あのシーンはまさしくヘプタポッドとのコンタクトの時に、ルイーズたちがガス検知用に連れて行く鳥のイメージとヘプタポッドを重ねているわけです。音と認識を結びつけているんです。

コミュニケーションの音

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©2016 Paramount Pictures  from “Arrival” Trailer

これは本当にぼーっと見ていると全く気付かないんですよ。ただ我々が気づけないところにその魅力があるんです。あまりにも現実に近すぎて、我々はスムーズに認知できてしまうんですね。

その正体は何かというと、コミュニケーションツールの音響に尋常ではないほどのこだわりが込められているのです。

本作ではさまざまなコミュニケーションツールが登場しますよね。もちろん人と人との対話もそうですし、人とペプタポッドの対話、無線機器による会話、テレビやラジオ、スカイプ、通信。本作ではそんなさまざまなツールによるコミュニケーションをすべて実演したうえで録音しているんですね。

ゆえに少し聞き取りにくかったりもするわけですが、それが究極のリアルなんですよね。あまりにもリアルすぎて、我々はそのこだわりに気づくことすらないんですね。言われて注意を払って見ると、そのこだわりにいったいどれだけの労力と時間がかけられたのだろうかと気が遠くなることと思います。

ヘプタポッドの音声言語

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©2016 Paramount Pictures  from “Arrival” Trailer

ヘプタポッドは完全に想像上の産物であるわけです。そしてその体の表面には口のようなものがありません。そのため、その音声言語をいかにして表現するかというのが本作最大の難関だったと音響監督も語っていました。

重要なのは、未知の音であることです。未知の生命体との遭遇を描く以上、誰もが効いたことも無いような音を選ばなければなりません。

そのため音響監督たちはニュージーランドを初めとする島々を巡って、希少な鳥の鳴き声や数々の自然の音を集めてきて、それをアレンジすることで、誰も聞いたことがないような音声言語を作り上げました。また本作で登場する2体のヘプタポッドの音声言語の音がそれぞれ微妙に違う点も細かいですが、特筆しておくべき工夫点だと思います。

あらすじ(ネタバレあり)

世界の各地に突如として、謎の宇宙船が現れます。言語学者のルイーズと数学者のイアンはアメリカ軍大佐ウェバーの要請で、アメリカに現れた宇宙船の下へと赴きます。2人は宇宙船の内部へ入り、そこで「ヘプタポッド」と呼ばれる未知の生命体との邂逅を果たします。

ルイーズは彼らがなぜ地球にやって来たのかを理解するためには、彼らの言語を理解しなければならないとして、彼らの言語の研究を始めます。

彼らの言語を研究するうちに、ルイーズの頭には自分が夫や娘と過ごしているヴィジョンがよぎるようになります。そしてそのヴィジョンには夫との破局、娘の死という破滅的なエンディングをも知ります。

イアンの協力もありながら、ルイーズは彼らの言語を解読していきます。そして、「WEAPON」という言葉にたどり着きます。これを聞いた世界各国は「ヘプタポッド」たちが人類を侵略しようとしているとして中国が攻撃の準備を進めます。

刻々と迫る中国の攻撃開始、そんな中でルイーズは「WEAPON」とは「武器」ではなく「ギフト」を意味しているという答えにたどり着きます。そして、自分に見えていたヴィジョンは自分の未来であったことを悟ります。

そんな時、彼女の頭に、自分がこの事件を解決して、中国の国家主席と対話している未来のヴィジョンがよぎります。そのヴィジョンからルイーズは国家主席の私用電話番号と攻撃中止のための暗号を読み取ります。そしてルイーズは中国の国家主席に電話をかけます。かくして中国の軍事攻撃は中止されたのでした。

地球から去っていく宇宙船を見送りながら、自分の未来のヴィジョンに映っていた夫がイアンであることを悟るルイーズ、それでも、悲しい未来が待っていると知りながらもルイーズはイアンと生きることを選びます。

解説1:思考は言葉によって規定される

皆さまは伊藤計劃氏が著した「虐殺器官」というSF小説をご存知でしょうか?そこには非常に重要な考え方が出てきます。この「虐殺器官」という作品の根底には「思考が言葉によって規定される」という考え方が存在します。ゆえに言葉を操ることによって、人間の思考に働きかけ、虐殺に向かわせることができるという点を描き出したプロットなのです。

参考:映画『虐殺器官』を見るべき理由とは?

本作「メッセージ」においてもこの「思考が言葉に規定される」という考え方は非常に重要です。これがいわゆる「サピア=ヴォルフの仮説」というものなのですが、彼は「どのような言語を媒体としても現実世界を正しく知覚することができる」という考え方に反論する形でこの説を提唱しました。つまり、言語はその話者の世界観や思考に大きな影響を及ぼすということですね。

本作ではルイーズとイアン、言語学者と数学者という全く異なる立場にあるふたりが物語を展開していきます。そして、二人が言語学者と数学者であるという点が本作においてはかなり重要な要素なのです。

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©2016 Paramount Pictures  from “Arrival” Trailer

まず言語というものは、「ステップバイステップ」ですよね。何かがあってそれに続くものがあって、さらにそれに続くものがあって、を繰り返していきます。基本的には未来に向かっての矢印の一方通行です。過程があって結論があるという流れだけです。

一方で、数学がどうかと言うとこれは逆に結論があって過程を探求するという研究が存在します。つまり未来から過去へという矢印をも持っているのです。結論ありきで過程を探求していきます。

今回登場する「ヘプタポッド」の言語というものは、人類の言語には備わっていない、未来から過去へという矢印を備えた言語なんですね。昔、インディアンのホピ族の言語には「時間概念」が存在していないなんて研究が話題になりましたが(後にこの研究の誤りが証明されました。)、「ヘプタポッド」の言語というものはまさに「時間概念」を持たない言語なんですね。

つまり未来と過去が現在に同等の影響力を持つ言語というわけです。

そんな人類の言語学では説明もつかないような言語をルイーズは解読していくのですが、それをサポートする役どころとして、数学という未来から過去への矢印を備えた学者がいる点は非常に重要なのです。

そしてルイーズは物語が進むにつれて、自分の未来のヴィジョンを少しづつ鮮明に見れるようになりますよね。これはルイーズが「ヘプタポッド」たちの「時間概念」に縛られない言語を習得していっているからなんですね。

ゆえに彼女は「過去から未来へ」という人間の時間概念から解き放たれていくのです。「ヘプタポッド」が地球に到来した目的もこの言語を人類に伝えることで、人類にやって来る危機から救いたいというものでした。

つまり新たな言語の習得は新たな世界観や思考の獲得を意味しているのです。

解説2:ラストシーンの解釈:不幸が待つ未来を選択すること

ルイーズは「ヘプタポッド」たちの言語を習得するにつれて、自分の未来を知っていきます。そしてそのヴィジョンは悲しい未来を映し出していました。夫のイアンとは破局、娘は亡くなってしまいます。しかし、ルイーズはその結末を知ったことで、その未来を選ばないという選択肢を手に入れたのです。

未来を知ってしまったら、そしてその未来が不幸なものであれば、それを変えようとするのはある意味当然のことですよね。映画「アバウトタイム」なんかでも未来を知って、それが自分に不幸なものなのであれば、過去に戻ってやり直してなんてことを主人公は繰り返していました。

これはある意味普通の考え方ですよね。創作物において、未来を知る事ができて、それが不幸なものであれば、それを避けようとするパターンがほとんどなのです。

しかし、本作「メッセージ」のラストシーンにおいて、ルイーザが選ぶのは不幸な未来なのです。彼女は不幸な未来が待っていると分かったうえで、イアンとの未来を選ぶのです。イアンとの子供をもうけるという決断をするのです。

私もこの決断にどういう意味があるのかと考えていたのですが、作品を見ていてもなかなか良い解釈が浮かびませんでした。そんなある時、「小林さんちのメイドラゴン」というテレビアニメを見ていたのですが、その最終回を見ていて、私はこれは映画「メッセージ」に通ずるものがあるぞ!とヒラメキました。

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©クール教信者・双葉社/ドラゴン生活向上委員会「小林さんちのメイドラゴン」OP映像より引用

「小林さんちのメイドラゴン」は異世界からやって来たドラゴンと人間の共同生活を描いた作品なのですが、その最終回ではドラゴンと人間の寿命は大きく異なっていて、一緒に暮らしていてもいつか人間は死んでしまい、残されたドラゴンは悲しい思いをするだけであるという事実が突き付けられます。

しかし主人公のドラゴンはそれでも人間と一緒に暮らす道を選びます。これはそのドラゴンがたとえ悲しい未来が待っているとしても、その人間と暮らしていくことで得られる一瞬一瞬の幸せを失いたくないという理由でした。

映画「メッセージ」のラストでルイーズがイアンとの未来を選択するのも全く同じ理由ですよね。確かに夫との破局、娘の死という悲しい未来は避ける事ができないものです。しかし、その未来を選ぶことで得られる夫や娘との幸せな時間と天秤にかけた時に、彼女はその幸せを手放したくなかったんですよ。そうして彼女は悲劇的な結末をも全て知った上で、イアンと共に生き、彼と子供をもうける決断をするのです。

解説3:原作「あなたの人生の物語」との違いについて

本作「メッセージ」はかなり原作であるテッド・チャン著の「あなたの人生の物語」に忠実に作られています。ただ映画という媒体で観客にわかりやすく伝えるために、理論チックな部分はいくつか改変されています。この決断は、非常に素晴らしいものだと思います。原作はかなり科学的、数学的な用語が多く登場するため、映画の中で説明するには情報量がいささか多すぎます。

そしてそんな中でも個人的に最も印象的な改変が一つあります。それは、主人公のルイーズに「ヘプタボット」たちの言語の「時間概念」が存在しない性質を気づかせるきっかけが変わっているのです。

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©2016 Paramount Pictures  from “Arrival” Trailer

映画版「メッセージ」では、「Palindrome」つまり回文がそのきっかけの役割を果たしていました。娘のハンナのスペルが「Hannah」で、前から読んでも後ろから読んでも同じように読めるんですねこれがつまり現在に過去と未来が同等の影響力を持つ「ヘプタポッド」たちの言語の特性を象徴していたのです。

一方原作の「あなたの人生の物語」では、「フェルマーの最小時間の原理」が重要な要素として登場します。この定理というのは、空気中に存在するA地点から水中に存在するB地点に向かって光が進むとき、光は常に可能な限り最小で、最短なものになるという定理です。つまりは、光は目的地をあらかじめ知った上で、進路を取っているのではないか?といった類の仮説が立てられるわけです。

この定理から、ルイーズは「ヘプタポッド」たちの言語が、未来を知った上でそれを表現するためのツールという特性を持っているのではないかということや、自分が見ていたヴィジョンの真相にたどり着くことになります。

正直な話をすると、SFとしての説得力は原作の「フェルマーの原理」を用いたプロットの方が優れています。しかし、映画として表現するときに回文という比較的わかりやすい要素に変換した点は非常に好感が持てますし、英断だったと思います。

本作は言語学や数学と言った理論チックな内容になりがちな要素を扱いながらも、できるだけそういった部分を抑え、映像で魅せてやろうというドゥニ・ヴィルヌーヴ監督を初めとするスタッフたちの意気込みが感じられました。そんな意気込みがこういった細かい改変にも表れているように思いました。

まとめ

この映画はSF史に残る傑作、いや大傑作だと思います。SF映画の一つの到達点を見たように思いました。

これを撮ったドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が「ブレードランナー」の続編を撮影するというのですから、いやでも期待が高まりますね。

皆さまもこの素晴らしい作品に自分なりの解釈を見つけてみてください。

何といっても本作は「あなたの人生の物語」ですからね。

映画「パッセンジャー」の考察記事で本作「メッセージ」と絡めた理系文系論争に関する考察を書いているので良かったらそちらもご覧ください。

参考:【ネタバレ解説・考察】映画「パッセンジャー」はSFか?ラブストーリーか?

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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1 個のコメント

  • 『メッセージ』
    私も公開初日(先週の金曜日)に観てきました。
    いやあ、傑作ですね、これは…
    宇宙人と地球人の交流を描いた作品はこれまでにも数多くありましたが、それを根本から描いた作品と言うのは実を言うと、あまり観た事がないように思います。
    その1つがヘプタポッド音声言語を人間がどう理解するかの過程をきちんと描いた事
    そして、その交流だけで終始せず、言語を理解しつつある事によって生じた「サピア=ウォーフの仮説」が齎す影響にストーリーを移らせた事
    これには私もナガさんと同じく、伊藤計劃作品群を思い出しました。
    『虐殺器官』でジョン・ポールが虐殺言語について言っていた事然り、『ハーモニー』で御冷ミァハが物語について語っていた事然り、『屍者の帝国』でワトソンとフライデーが魂の在り処を議論した事然り(『屍者の帝国』は円城塔氏が殆ど作った物ですが、それでも)
    「言語」と呼ばれる存在の奥深さを改めて感じた116分だったと思います。
    『ブレードランナー2049』に更なる期待が持てますね(笑)

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