「響け!ユーフォニアム2」第10話 感想・考察 【動線と構図が生み出す境界線演出】

アイキャッチ画像:©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

先日、放送された「響け!ユーフォニアム2」の第10話を鑑賞しましたので、今回はその話をしていければと思っています。

良かったら最後までお付き合いください。




 

『響け!ユーフォニアム2』の第10話に登場するとんでもなく高度な演出

第10話が描いたもの

今回の第10話において非常に印象的だったのが、やはり久美子が3年生の先輩あすかに吹奏楽部に戻ってきてほしい、全国大会でユーフォニアムを吹いてほしいと説得する場面である。この場面は物語の展開的にも、登場人物の心情的にもこの第2シーズン最大の山場とも言えるシーンである。

このシーンで非常に印象的なセリフが登場する。


「いつだって、久美子ちゃんは最後の境界線は越えようとはしいひんかった。傷つけるのも、傷つくのも怖いから、なあなあにして見守るだけ。それやのにどうして相手が本音を見せてくれてると思い込んでたの?」

(「響け!ユーフォニアム3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機」 武田綾乃 P263 より)

この第2シーズンにおいて主人公の久美子に問われ続けてきた問いが境界線を超えるか否かという点であった。北宇治高校吹奏楽部に起こったさまざまな事件に際して、基本的に傍観者的立場、あと一歩のところで踏み込まないという姿勢を取り続けてきた。

しかし、今回、吹奏楽部最大の危機に際して、久美子はその最後の境界線を踏み越えなければならない状況に陥る。そしてこの第10話でついに彼女は自らの意志でもってその境界線を踏み越えるのである。

それをアニメーションという映像メディアで表現する際にあなたならどういう映像表現に仕上げますか?

視覚的に境界線を用意して、それを踏み越える演出というのはすぐに思い浮かぶ演出だろう。しかし石原立也監督は一流のアニメ監督である。それゆえそんな安直な演出には頼らない。

彼は登場人物の動線と構図だけで、久美子が境界線を越えるという重要シーンを演出して見せたのである。

究極の動線と構図の演出とは?

ここからはその動線と構図について解説していきたいと考えている。

まず大前提として、重要なのが、久美子とあすかのユーフォニアムを演奏するときの位置関係を理解しておかなければならない。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

久美子とあすかの演奏時の位置関係は我々から見て、左にあすか、右が久美子。この位置関係が変化することはないのである。この位置関係が彼女たちの当たり前。つまり久美子にとってあすかの右側というのがホームポジションであり、鑑賞者の側から見ても、最も収まりの良い位置関係なのである。

つまり、この位置関係を壊すことが、ある種、この二人の関係性の変化、久美子の変化につながると考えられないだろうか?その前提で話を進めていく。

まず、久美子が3年生の教室に行き、あすかを呼び出して廊下を歩くシーン。この時点での二人の位置関係は、あすかが左、久美子が右である。この時点で、久美子にはまだ境界線を超えるだけの覚悟はなく、あすかに連れられるがままに通用路へと向かっていく。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

そして、通用路で久美子とあすかが向かい合うシーン。ここで初めて二人の位置関係が変化します。久美子が左から、右に位置するあすかに語りかけます。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

しかし、久美子は必死にあすかを説得しようと試みるも、上手くいかない。あすかは自分の復帰が吹奏楽部のためにならないと述べ、この記事の序盤で書いたあのセリフを口にする。

 「いつだって、久美子ちゃんは最後の境界線は越えようとはしいひんかった。傷つけるのも、傷つくのも怖いから、なあなあにして見守るだけ。それやのにどうして相手が本音を見せてくれてると思い込んでたの?」

そしてあすかが教室に戻ろうと移動していく。ここの動線に注目してほしい。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

まず、カメラが逆方向からのショットへと変化する。このことで一時的に変化していた2人の位置関係が再び元通りになるのである。つまり久美子が右、あすかが左という位置関係である。そこからあすかが教室の方向へと移動していく。そして久美子とすれ違う。この瞬間に2人の元通りの位置関係が明確になる。久美子が何かを変えようと臨んだあすか先輩の説得が今まさに暗礁に乗り上げようとしている。その状況説明と心情説明をこのすれ違いの一瞬だけで表現しようとしているのである。

このままでは、久美子はいつまでたってもあすか先輩の右側、結局のところ最後の境界線を越えない、傍観者のポジションに甘んじてしまう。そんな久美子の葛藤と危機感がこのあすかの右から左への動線とそのすれ違いの瞬間の久美子の表情で表されているのだ。

そして、その次の瞬間。ついに久美子が動く。このシーンの構図に注目してほしい。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

この2カット。この2カットの構図は実に興味深いものになっている。確かに久美子とあすかはすれ違っているため、この方向からのショットであれば、2人の絶対的な立ち位置は久美子が右、あすかが左になる。しかし、それぞれの人物を画面からフレームアウトさせることで、画面における相対的な位置関係において久美子が左、あすかが右という位置を実現させているのである。

この2カットに、今まさに、その最後の境界線を超えようとする久美子の姿が映し出されているのである。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

そしてその直後、突如として、逆方向視点のカメラへと映像が切り替わる。この時、完全に久美子の位置はあすかの左側へと変化する。先ほどのシーンでは、画面における相対的な左側でしかなかった久美子のポジションがついにあすかの絶対的な左側へと変貌するのである。

この位置関係の変化により、久美子がついに最後の境界線を越えたことが明確になる。

ここで、久美子とあすかの関係性についても考えてほしい。久美子にとってあすかはやはりどこか特別な存在である。一方で久美子はと言うとごく普通の高校生という見方が当てはまる。つまり、初期の位置関係において、特別な存在であったあすかが左側、ごく普通の高校生である久美子が右側という風にも考えられる。

しかし、久美子はこのシーンであすかを自分の姉の姿と重ね合わせ、まだ子供なのに大人ぶって、自分の欲望を押し殺してまで後悔するとわかりきっている選択肢を取ろうとするあすかを批判する。そして、そんな風に自分を特別扱いせずに、ただ純粋に自分が必要だと言ってくれる後輩にあすかは感激するのである。

つまり最終的に、成立したこの位置関係において、右側に位置するあすかは特別などではないあくまで一人の高校生であり、左側に位置する久美子はあすかにとって特別な後輩へと変化したのである。

ここにこの作品が問い続けた「特別であること、特別になること」というテーマが見え隠れしているようにも推測できるのである。

これだけの情報量を、2人の位置関係の変化だけで示そうと石原監督が意図していたのであれば、これはもう天才的な演出としか言いようがない。

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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用


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©武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会 「響け!ユーフォニアム2」より引用

そして無事、吹奏楽部に復帰したあすか。第10話のラストシーンでは久美子とあすかの位置関係は元通りになっている。

この位置関係に鑑賞者は無意識に安堵する。あるべきところにあるべき人が帰ってきた安心感。先ほどまでのシーンで散々かき回してきた二人の位置関係を元通りに戻すことで、あすかという人物が吹奏楽部に戻って来たということが印象付けられる。

しかし、このシーンの2人の表情を見ればわかるが、2人の関係が元通りになったというわけではない。

少し勝手な深読みで、演出面の考察を進めてしまったが、登場人物の動線と構図だけでここまで多くのことが語れるのだという可能性に大いに惹きつけられた、「響け!ユーフォニアム2」第10話でした。

おわりに

第13話でも同様の視点から考察をしておりますので、良かったらお願いいたします。

参考:「響け!ユーフォニアム2」第13話 感想・考察 【動線と構図が生み出す世代交代演出】

やはり『響けユーフォニアム』シリーズは演出も素晴らしいですね。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。




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