実写『ムーラン』ネタバレ感想・解説:ディズニー実写映画史上最高の映像とアクション!そして脚色!

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね実写映画版の『ムーラン』についてお話していこうと思います。

ナガ
文句言っていた割には結局見てしまったね…(笑)

まあ、1人だけで鑑賞するのは金額的にも勿体ないので、複数人で鑑賞する前提で購入させていただきました。

そもそも今作がディズニープラスでの独占有料配信へと移行する形となったのには、いろいろと経緯があるようです。

まず、『ムーラン』は日本でも今年の4月ごろに公開を予定された作品でして、ディズニーとしても上半期の興行の目玉に据えていたであろう1本です。

アメリカでは初週興行収入9000万ドルに迫る大ヒットになるのではないかという前予測も出回り、非常に盛り上がっていました。

しかし、新型コロナウイルスの影響で劇場の営業も危うい状況となり、限られた座席しか販売できない、観客の映画館へ訪れることへの抵抗感もまだまだ残っているという状況で上映しても製作費が回収できません。

ちなみに今回の実写版『ムーラン』にかかっている予算は2億ドルとされていて、これを回収しようと思うと興行収入ベースでは4億ドル以上は稼ぎ出す必要があります。

それを今の世界情勢で達成するのは、いくらディズニー映画と言えど容易ではないことが明白です。

そして、もう1つ劇場公開するうえでネックになったのが、主演女優の中国出身、米国籍のリウ・イーフェイのSNS上での発言です。

彼女は、中国が香港に対する支配力を高め、国家安全維持法を定めて支配に反対する者を次々に取り締まるという非人道的な振る舞いをしている時に、そんな中国とそして香港警察の動きへの支持を仄めかす発信をしたわけですよ。

これによりアメリカでは彼女に対して、そして彼女が出演した『ムーラン』という作品に対して激しい非難の声が上がり、SNS上では「#BoycottMulan」というハッシュタグも拡散される始末でした。

こういった経緯が重なった結果、映画館での上映で製作費を回収することが難しいと踏んだディズニーは自社サービスへの誘導のためのフックに『ムーラン』を活用するという戦略も込々で有料配信に切り替えました。

ただ、これに対して納得がいかないのは、年明けから懸命にムーランの販促・宣伝を行ってきた映画館でしょうね。

海外でも映画館のオーナーがムーランのポップに怒りをぶつける動画が拡散されていましたが、散々宣伝をして映画館で作品を見てくれるように促していたのに、ふたを開けてみると劇場公開なしだなんて簡単に受け入れられるはずがありません。

そのため、本作を見ないことでディズニーに対して抗議をしたいという思いは当然私もあります。

しかし、それ以上に本作は後程詳しくお話しますが、これまでのディズニー実写映画と比較しても、際立ってアクションとそして美術にこだわった作品なんですね。

だからこそ、映画館で見られないのは残念ですが、作品としてチェックしておきたかったのです。

映画ファンの方の間でもいろいろな意見や思いがあると思いますが、私は今回については「見る」という選択をすることにしました。

ディズニープラスオンリーでの配信であり、通常の月額料金に加えて、プレミアム鑑賞料金の課金が必要で、合計すると4000円を少し上回るという強気の価格設定です。

しかも日本のディズニープラスは、海外のサービスと比較して画質・音質共にかなり劣っているという有様です。

それでも、この『ムーラン』を見ても良いと思えた方は、鑑賞するという選択をするのは全然ありだと思います。

そしてここからは当ブログ管理人が鑑賞してみて自分なりに感じたことや考えたことを綴っていきます。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事です。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




実写『ムーラン』

あらすじ

ファ家の長女であるムーランは、幼少の頃より「気」に満ちており、家の屋根や草原を走り回って過ごしていた。

しかし、結婚の適齢期に差しかかり、父ファ・ズーは彼女に「気」を隠して過ごすように伝える。

ある日、彼女の見合いが決まり、ムーランは化粧をして、一張羅を着て仲人のところへ向かうが、そこでひと騒動起こしてしまい、「家の恥」だと罵られて、失敗してしまう。

その頃、都には柔然族のボーリー・カーンを頭とし、異民族の連合軍が通商の要所を次々に占領し、破竹の勢いで迫って来ていた。

皇帝はそんな状況を憂い、国中の家から男子を1人徴兵することを決断する。

しかし、ファ家には息子がおらず、徴兵には足の悪い父ファ・ズーが応じる他ない。

ムーランは父が戦場に行けば命を落とすことは避けられないだろうと推察し、自らが男性のふりをして戦場へ赴くことを決断する。

何とか軍の拠点に辿り着き、訓練を開始するムーラン。しかし、軍隊は男性のみのコミュニティであり、彼女は女性であることを隠すために苦心する。

「気」を解放し、その圧倒的な実力を披露し、台頭していくムーランは徐々に仲間や上官からも認められていくのだが…。

 

スタッフ・キャスト

スタッフ
  • 監督:ニキ・カーロ
  • 脚本:リック・ジャッファ / アマンダ・シルバー / ローレン・ハイネック / エリザベス・マーティン
  • 撮影:マンディ・ウォーカー
  • 美術:グラント・メイジャー
  • 衣装:ビナ・ダイヘレル
  • 編集:デビッド・コウルソン
  • 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
ナガ
やはり注目はアクションと美術でしょうね!

本作の監督を務めたのは、『クジラの島の少女』『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』などを手掛け、しっかりと監督としてのキャリアを積んできたニキ・カーロですね。

今回いきなりディズニーの超大作映画に抜擢されましたが、これまでの作品の出来栄えを鑑みても安心して見られそうです。

脚本には4名がクレジットされていますが、主には『ジュラシックワールド』『猿の惑星 創世記』の脚本を手掛けているリック・ジャッファアマンダ・シルバーが主として進めてきたものと思われます。

撮影には2017年に日本でも公開され、話題を集めたNASAでの女性たちの知られざる活躍を描いた『ドリーム』をはじめ、女性が主役の物語を多く手掛けてきたマンディ・ウォーカーが抜擢されました。

ちなみに撮影はALEXA65というを使用して行われ、4Kにも対応した映像となっているだけに日本のディズニープラスでは、その魅力を味わいきれないのが残念です。

そして何と言っても美術のグラント・メイジャーが非常に素晴らしい仕事をしてくれましたね。

単なるかつての中国の再現というだけではなく、赤を基調とした映像全体の色使い、金を贅沢に使用した華のある舞台装置の演出など、映像の荘厳さないし壮大さが際立っていました。

彼がインタビューの中で語っていることでもありますが、今回の『ムーラン』は大規模なセットを組み、とにかく映像のディテールに宿る美、質感、彩度(色)に徹底的にこだわっているそうです。

ナガ
だからこそ、見ていて惚れ惚れするようなクオリティになっているわけだ!

編集には、これまでの作品でもニキ・カーロ監督を支えてきたデビッド・コウルソンが、劇伴音楽には『シュレック』シリーズ『オデッセイ』などで知られるハリー・グレッグソン=ウィリアムズがクレジットされています。

また、今作はアクションに携わるスタッフが非常に豪華でして、スタントコーディネーターには『007 スカイフォール』や『ジョンウィック』などに携わったスタントマンが選ばれ、戦闘シーンのコーディネーターには『アベンジャーズ』シリーズハイディ・マネーメーカーが起用されています。

一流のアクション映画に携わった方々が今作のアクションを手掛けているということで要注目ですね。

キャスト
  • ムーラン:リウ・イーフェイ
  • タン司令官:ドニー・イェン
  • ボーリー・カーン:ジェイソン・スコット・リー
  • シェンニャン:コン・リー
  • 皇帝:ジェット・リー
  • ホンフイ:ヨーソン・アン

主人公であるムーランを演じたのは、これまで多くのドラマに出演し、そしていきなり今作で大抜擢される形となったリウ・イーフェイですね。

記事の最初にも書きましたが、彼女が香港警察の対応を支持することを示唆するような発信をしたことで、バッシングが生まれています。

中国公開を見据えての発言だったのかもしれませんが、タイミングが悪かったとは思いますね。

タン司令官の役にはドニー・イェンが、皇帝の役にはジェット・リーが起用されるなどアクションに定評のある役者陣は非常に魅力的です。

映画com作品ページ
ナガ
ぜひぜひご覧ください!



実写『ムーラン』感想・解説(ネタバレあり)

アニメ版とどう違うのか?

さて、今回の実写版『ムーラン』を語る上で欠かせないのが、やはりオリジナルのアニメ版との違いでしょう。

ディズニーのこれまでの実写版は原作に忠実なものから大幅に違うものまで、かなり差があるという印象です。

その違いを生んでいるのは、ポリティカルコレクトネスの考え方による描写のアップデートであります。

『マレフィセント』なんかは『眠れる森の美女』と大幅に違っていましたが、『美女と野獣』『シンデレラ』『アラジン』なんかは多少描写に違いはあれど、大きく改変されたという印象は受けませんでした。

今回の実写『ムーラン』はどれくらいアニメ版から改変されているのか、見ていきましょう。

 

リー・シャンが消えた

(C)2020 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

やはり実写とアニメの『ムーラン』におけるその最大の違いは、アニメ版のメインキャラクターであり、主人公ムーランの夫となるリー・シャン隊長が実写版では登場しないことでしょう。

この改変についてはもちろん賛否あると思いますし、アニメ版のリー・シャン隊長が好きだった人からすると、堪ったものではありません。

しかし、これはアメリカのビジネス界における近年の暗黙のルールを踏まえて考えると、それほどおかしな改変というわけではなく、むしろ為されるべくして為された改変です。

皆さんは「マクドナルド」が2019年の秋に、イースターブルックCEOの解任を発表しましたニュースをご存知ですか?まさしくこの時に彼が解雇された原因となったのが、「部下と恋愛関係を持ったため」というものでした。

アメリカの企業では、社内で多様な人材が個人的な感情に左右されずに力を発揮できるよう、内規で社内恋愛を「禁止」しているケースが多々あります。

そういう風潮があるからこそ、アニメ版の『ムーラン』で描かれたような男性の隊長が部下の女性兵士と恋愛関係になるという描写は社会的に受け入れられづらくなっているんですよね。

だからこそ、今回の実写版ではリー・シャン隊長をカットすることになったわけで、彼のポジションには代わりに2人の新キャラクターが配置されています。

まずはドニー・イェンが演じたタン司令官ですね。高潔で倫理観が強く、ムーランを厳しく指導し、精神的にも成長させていく純粋なメンターとしての役割を果たしており、リー・シャンの「師」としての側面を継承しました。

もう1人がムーランと同じ舞台に配属された同期兵士のホンフイですね。彼はムーランのライバルでもあり、ぶつかりながらも心を通わせていきます。彼はリー・シャンの「私」の部分を継承していますね。

このようにリー・シャンが担っていた役割を2人の新キャラクターに分散させることで、近年のアメリカの社会風潮的にも受け入れられうる物語へとアップデートしたわけです。

 

シャン・ユーも消えた?

(C)2020 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

さてアニメ版の『ムーラン』におけるヴィランと言えば、シャン・ユーであるわけですが、何と驚くべきことに実写版に彼の姿はありません。

彼も現代の社会状況を鑑みると、悪役として据えるといささか問題がありそうなんですよね。なぜなら彼は単なる「異民族の長」だからです。

近年のアメリカではまさしくトランプ大統領が移民に対して強硬的な姿勢を貫き、アメリカから追い出そうと画策しています。

こういった状況下で、シャン・ユーのようなヴィランを据えて、単純な勧善懲悪をやってしまうと、どうしてもそうした動きを肯定するような描写に見えてしまいます。

だからこそ悪役の現代的なアップデートは『ムーラン』において必須だったと言えるでしょう。

ナガ
そして今回はヴィランに関しても、2人に増やし、それぞれに役割を据えましたね!

まずは、北方の柔然族の首領であるボーリー・カーンですね。彼が言わばアニメ版におけるシャン・ユーに当たるのですが、彼には女性蔑視的な性格が付与され、もう1人の女性ヴィランを自分の野望のために利用しているという設定が与えられています。

そして彼に利用されているもう1人のヴィランが魔女でありシェンニャンというキャラクターですね。

アニメ版のシャン・ユーは非常に魅力的なヴィランですから惜しいという声があるのも理解できますが、個人的にはこの悪役の改変・追加は非常に良かったと思っています。

とりわけシェンニャンが魔女であるが故に虐げられてきたマイノリティであり、だからこそ何とかボーリー・カーンの力を借りて存在を示そうとしながらも、最終的にはそこからも脱却するという展開が非常に良く出来ていました。

つまり、女性が今の社会において力を示すためにすべきことは男性優位社会に迎合することでは断じてないのだと実写『ムーラン』は高らかに宣言しているわけですよ。

 

 

ムーランが髪を切り落とすシーンがない

さて、アニメ版の名シーンの1つとして語り継がれているのが、ムーランが男性の兵士になりきるために髪を断つシーンでしょう。

ナガ
これが実写版においてはカットされているんです。

これについて製作に携わったジェイソン・T・リードが、インタビューで語っていたのはそもそも当時の中国では男性も髪が長かったわけで、髪を切ることで男性に近づくという考えそのものがアメリカ的だったということです。

確かにアメリカの文化圏において、髪を切るという行為がムーランが男性兵士として戦地に赴く覚悟を表現するうえで有効なシーンであったことは間違いありません。

それでも中国の本来の社会や文化の在り方を優先させ、そうした印象的なカットをバッサリと失くしてしまうという決断は、題材に対しての真摯さの表れとでも言えるでしょうか。

他にもアニメ版と比較すると、同じく人気キャラクターのムーシューが削除されていたり、ムーランの祖母が登場しなかったりと違いは散見されますね。

ただ、ムーシューに関しては美しい不死鳥に姿を変えて、登場しておりますし、映像的にもシェンニャンの鷹と対比的に描かれているのがお見事でした。

 

ミュージカル的な部分は削除

『ムーラン』と言えば、無論ディズニー映画ですので、ミュージカル的な演出がありますし、ファンとしては名曲『リフレクション』を期待していたところでしょう。

ただ、今回の実写版ではそういったミュージカル的な演出は一切が削除されており、アニメ版では比較的序盤に使われた彼女の男性として戦場へ行く際の葛藤を映した『リフレクション』のシーンもカットされました。

実写版を製作するにあたって、アクション映画として、そして戦争映画として確立していくために、あえてディズニー映画のアイデンティティとも言える演出を捨ててきたのは驚きでしたね。

ただ、後程お話しますが、今回の実写版『ムーラン』は、ムーランの映し鏡を水面に映る自分としてではなく、シェンニャンというヴィランとして描いています。

正義と悪。女性であるが故に、「気」という不思議な力を有しているが故に受け入れられない者同士。

ナガ
そこにこそ本作の「リフレクション」があるわけだ!

この改変もお見事でしたし、『リフレクション』の楽曲をアレンジして劇伴の一部に据えるという勇気ある改変にも敬意を表したいですね。



ディズニーが描く新しい女性ヒーロー譚として

(C)2020 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

さて、今回の実写版『ムーラン』は言うまでもなくディズニー実写映画の中では最高峰とも言える出来でしょう。

近年のディズニー映画は基本的に女性の主体性を打ち出す方向へと過去のアニメーション作品を次々に脚色していっておりますが、どうも不自然に改変されてしまった印象が強い作品の方が多いのが事実です。

その中で、『ムーラン』はかなり巧く脚色されていると思いましたし、素材を活かしつつ、現代的な物語に仕上げてきたと言えるでしょう。

まず、素晴らしかったのは先ほども書きましたが、「リフレクション」を物語の思わぬところに込めてきた点でしょう。

アニメ版では水面に映る姿を見たムーランが自分の心情を吐露する形で歌うのですが、今回は楽曲として明確に物語に登場することはありません。

しかし、その「リフレクション」がムーランシェンニャンの対比関係に反映されていました。

シェンニャンはある種の「前時代的な活躍する女性」の在り方なんですよね。男性優位社会の中で、男性の言いなりになり、その配下で力を発揮します。

ナガ
どこまで言っても、どれだけ力を発揮しても男性の支配下から逃れられないのです…。

ただ彼女は「気」を有する存在であるが故に、周囲のコミュニティから断絶され、居場所を失った存在です。

そのために、彼女が自分の居場所を手に入れるためには、ボーリー・カーンの忠実なしもべとなる道しかありませんでした。

一方で、ムーランも「女性としての生き方」を強いられ、父からも「気」を封じ込めて生きるように言われました。

「女性らしく」生きなければ、結婚して子を成さなければ、あなたの居場所はないと言わんばかりであり、ムーランは自分の居場所がどこにもないような感情に襲われていたことでしょう。

このようにシェンニャンムーランは似た者同士として演出されており、まさに「リフレクション」の関係にあります。

それでも「忠勇真」を信じ、そして家族への「孝」を常に持ち続けたムーランと一度はそれを信じたことがあるも絶望して道を踏み外したシェンニャンは、明確に対比されていますよね。

ただ、2人はお互いにそういう関係にあることが分かっているからこそ、相手を「殺す」ということをしないんですよ。

シェンニャンはムーランがかつての自分に重なって見える一方で、ムーランにはシェンニャンがなり得たかもしれない自分に見えていることでしょう。

だからこそ、ムーランは最後の最後までシェンニャンに手を差し伸べますし、そんな姿にいつか捨ててきた希望を取り戻したシェンニャンボーリー・カーンの支配から解放されました。

今回の実写版『ムーラン』はここで、明確に前時代的な男性優位社会における女性の活躍の在り方を脱構築しています。

ムーランが男性のふりをすることを止めたのと同様に、シェンニャンは自らの意志でかつて捨ててしまった希望の続きを彼女に託しました。

ここでシェンニャンが命を落としたのは、ムーランが新しい女性を率いる旗手になることを明示するうえでも重要だったと思います。

なぜなら、シェンニャンはまさしくそうした男性優位社会の中で搾取され、疲弊し、自分らしさを喪失して自分をすり減らしていった人たちのアイコンであり、ムーランがそうした人たちの思いをも背負って立ち上げるのだというコンテクストが強く打ち出されているからです。

そして、ムーランボーリー・カーンの最終決戦が始まりますが、ここで彼女は父の剣を失いますよね。

この描写が思い出させるのは、『スターウォーズ 帝国の逆襲』にてルークVSダースベイダー戦の中で、ルークが自分の腕と共にアナキンのライトセーバーを喪失するシーンでしょうか。

ここで象徴的に描かれたのは、ムーランが旧来的な「家」の価値観から解放されたことと、父親のオルタナティヴとしての自分から解き放たれ、自分自身を確立したということです。

だからこそ、ラストシーンでは彼女が新しい剣を皇帝から贈られるシーンがインサートされています。

そこには、父の剣とは違う4文字目の徳が刻まれており、そこにムーランが他の誰でもない自分自身を確立させたことが明確に描かれていました。

「気=自分らしさ」を封じ込めて「女性」の役割を受け入れるのでもなく、シェンニャンのように男性優位社会の枠組みの中で利用される形で居場所を得るのでもなく、たった1人の自分として生き、そして居場所を得るムーランの描き方は、全く新しい女性ヒーローの誕生とも言えるものだったのではないでしょうか。

彼女の守護霊でもあった不死鳥は、その尾が虹色にも見えるルックスだったのですが、レインボーはLGBTの象徴とも言われますし、同時に「多様性」の象徴とも言えるカラーです。

そんな虹色の不死鳥を背負って立つ彼女は、まさしくこれからを生きる女性たちの生き方の多様性を保証する旗手たる存在と言えるでしょう。



圧倒的なアクションと美術

今回の実写版『ムーラン』が素晴らしかったのは、これまでのディズニー実写映画と比較しても比にならないほどの圧倒的な美術とそしてアクションです。

「気」を駆使したムーランの戦闘シーンは、そのダイナミズムと衣装の活かし方、色遣い、スローモーションのタイミングを含めて非常に見応えがあります。

個人的に感動したのは衣装の魅せ方なのですが、ムーランは中盤くらいまでは鎧を身につけているので衣類がタイトなんですよね。そのためアクロバティックな描写は控えめにしてありました。

その一方で、終盤に近づき、ムーランが男性のふりから脱し、女性として戦うようになると彼女は鎧を脱ぎ兜を脱ぎ、長い髪の毛とひらひらとした着物を露わにした状態で戦います。

そこで、アクロバティックなアクションを一気に増やしていくことによって、髪の毛や着物が大胆に風に靡くようになり、視覚的に彼女の「変化」が明確になるんですよね。

これまでのタイトなアクションとは打って変わって、華があるアクションシーンへと変貌させていくことで彼女の髪や衣服を強調し、アクションシーンにアクセントをつけてきたのは巧かったです。

また、美術の面で言うと、映像の色遣いが非常にリッチで見ていて、惚れ惚れしましたね。

ムーランたちの軍服の赤色が雪の白色によく映えますし、ムーランシェンニャンが対話をする夕焼けのシーンも何ともお見事でした。

この白色の昼間の光と夕暮れのオレンジ色の光はかなり効果的に使い分けられていました。

というのも、彼女が自分に嘘をつくことを止め、戦闘へと舞い戻っていくシーンでは白色光と白い雪の中で、その衣服の赤色がコントラストで際立つように演出されています。

その一方で、彼女が軍から追放され、どう生きるべきかと葛藤し、自分を見失いかけているシーンでは夕暮れの「オレンジ色=赤と同系の色」がムーランを包み、コントラストを弱める形で彼女の存在感を弱めているんです。

(C)2020 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

こういった映像による心情の変化の演出が本作は抜群に上手いのです。

その中でも個人的に感動したのは、暗い室内のシーンでして、篝火の中でぼんやりと闇の中にいる装飾品や登場人物たちの衣装が非常に重厚感をもって描かれています。

本作が基調とした赤色と金色は、とにかく暗闇で炎が放つ光に照らされることで、ぼんやりと照らし出され、「重み」を有する色でもあります。

(C)2020 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

冒頭のムーランが父の刀を持ち、鎧を身に纏って家を出るシーンでの、重たい赤色と金色に裏打ちされた映像は、彼女がこれから背負う運命の大きさとそしてそれに立ち向かう覚悟の強さを視覚的に感じさせてくれました。

こうした美術面での素晴らしさが際立つ作品だからこそ、映画館で見たかった思いは非常に強いです。

いつか本作を映画館で上映してくれるのであれば、自分は今回わざわざ有料で鑑賞した身ですが、足を運ぶと思います。



おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は実写版『ムーラン』についてお話してきました。

ナガ
正直ディズニー実写作品では最高傑作間違いなしの1本なんですよね…。

とにかく美術・VFX・セットの織りなす豪華絢爛な映像のクオリティには脱帽ですし、アクションシーンはどれも抜群の出来栄えです。

それだけにこれほどに素晴らしい映像作品を映画館で見られないということが悔しくて仕方がありません…。

これまでのディズニー実写映画と比較しても、最も映画映えする作品ですし、巨大なスクリーンと最高の音響で体感してこその作品であることは間違いないです。

また、アニメ版からの脚色に関しても、これまでのディズニー実写映画とは比にならないほどによく練られており、改変に関しても納得のいく仕上がりでした。

ナガ
ぜひ、アニメ版のファンの方にもご覧になっていただきたいですね!

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

関連記事