ナガの映画の果てまで

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〇イントロ


 試写会の方で、一足先に映画「パッセンジャー」を見させていただきました。前回の記事で、ネタバレなしで本作の概要や感想等を書かせていただきましたので、今回の記事ではネタバレありきで本作の解説ないし考察をしていきたいと思います。

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©Sony Pictures Entertainment Inc. "Passenger" official trailer より引用 

 概要や感想をネタバレなしで語った記事は以下のリンクからお読みいただけます。

【感想】映画「パッセンジャー」海外の評価低いけど実際どうなの?

 ということで、今回の記事では概要や感想は省略させていただいていきなり本作の考察を始めさせていただきたいと思います。

〇解説1:本作の主題ってどこにある?

・前説
 私自身が本作を見る前に、この映画に抱いていた印象というかイメージというのは完全に「タイタニック」+「2001年宇宙の旅」でした。そして、トレイラーの映像からもガッツリSF映画が見られるものだと思って見に行きました。

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 皆さんはどうでしたでしょうか??どんな期待をもって本作を見に行かれましたでしょうか?

 私はガッツリSFを期待して見に行ったこともあってかすごくがっかりさせられたんですね。

 ラブストーリーを期待して見に行かれた方はどうでしたでしょうか?

 ラブストーリーとして見てもいまいち惹かれないなあと個人的には思ってしまうのですが。

 キャストに惹かれて身に行かれた方はいかがだったでしょうか?

 あ、キャストに惹かれて見に行った方は大満足の内容だったかと思いますね。クリス・プラットはもう最高でしたし、ジェニファー・ローレンスもエッチで最高でしたね!!(ボキャ貧)

 確かに宇宙船のビジュアルや美しいVFX映像、魅力的なアンドロイドキャラクターなどSFとしての要素はもちろん作品には揃っていました。それは間違いありませんよ。

 ただ、ただですよ。目新しい要素が全くなかったんですよね。今までのSF名作の要素要素を切り貼りして再編集したような設定と世界観で、どうしても既視感の塊という印象が拭えませんでした。

 「ARRIVAL/メッセージ」という作品が今年5月に公開になりますね。私は北米版Blu-rayを輸入してこの作品をすでに鑑賞したのですが、本当に全く新しいSF映画に仕上がっていました。ネタバレを言うわけにもいかないので、詳しくは触れませんが、本当に新しい、見たことのないSF作品でした。

 皆さんはSF映画を見るときに何を期待していますでしょうか?まあ作品の出来は置いておいても、私はやはり何か今までに見たことのないものが見たい、つまり革新性を第1に求めてしまいます。ゆえにこの「パッセンジャー」という作品をSF映画として見た時に、どうしても評価できるものとは思えませんでした。

 そして、ラブストーリーとして見ても、すごく都合の良いというか安直な脚本だと思いました。究極の閉鎖空間における一種の「吊り橋効果」だ!と納得しようと思えばできるのですが、それにしても2人の心情が全く描かれていないと感じました。2人が惹かれ合うことの説得力が画面から全く伝わってこないのです。クリス・プラットとジェニファー・ローレンスの演技力をもってしてもいまいち伝わってこなかったのですから、これはもう脚本の仕業ですよ。

・本論
 と、ここまで作品の批判ばかりしてきて申し訳ありません。しかし、この前説ありきでここから解説を始めさせていただきたいと思うのでご了承ください。

 ここまで、SF作品としても、ラブストーリーとしても不十分であると批判をしてきたのですが、ここで発想の転換をしてみることにしました。

 もしかして映画「パッセンジャー」って私が勝手に期待していただけで、その主題は「SF」にも「ラブストーリー」にも無かったのではないでしょうか?

 そこで、この作品の真の主題は何だったのかと考えを巡らせるわけです。そして、私なりの結論を先に述べさせていただきます。

 「パッセンジャー」の主題は、「ジムがオーロラの冬眠ポッドの装置を切った決断が許されざるものなのか?」というところにあるのではないでしょうか。

 こう考えてみるとこの作品はなかなか面白い作品ではないかと思います。まず、本作の宣伝においては、ジムとオーロラの2人が偶発的に目覚めてしまったというイメージが我々には植え付けられていました。

 ゆえにオーロラが目覚めた理由が人為的だったという点に非常に衝撃を受けたと思います。この手の衝撃は映画「君が生きた証」を見た時に感じたものと同種でしたね。この作品にどんな衝撃が含まれているかを語るのは野暮なので、ぜひ自分の目で確認してみてください。

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 私は「パッセンジャー」を見ていて、ジムがオーロラの冬眠ポッドを壊すシーンで、

「そっちかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉおぉぉぉおおぉおお!!!!」と

叫びたくなりましたよ(笑)。

 そうなんです。まずこの点が本作における最大の衝撃と言っても過言ではありません。というか最大の衝撃です。宇宙船故障の理由やジムが目覚めた理由は本当に全然大したものじゃなかったですからね。本作最大の衝撃は間違いなくこのシーンだと思います。

 ということはですよ。このシーンは作品で最も重要な場面だったわけですよ。ここでジムが取った行動が作品を展開し、最終的には宇宙船を救うことにもつながっていきます。

 つまり、今作は、SFメインでも、ラブストーリーメインでも無く、「ジムの決断」の是非を問う人間ドラマだったのではないでしょうか??

 本作における最大の危機はやはり終盤の隕石による船体の破損が原因で起こった、宇宙船の排熱機能の故障です。これを解決することが本作における最大の山場として登場するわけですが、この展開ももはや「ジムの決断」を正当化するための舞台装置の一環です。それは、ご覧になればわかる通り、ジムだけでは宇宙船は救えない状態にあったからです。ジムとオーロラ(そしてクルー)の2人がいたからこそ最悪のケースを切り抜けられたのです。

 また、本作における前半部分でジムとオーロラは恋愛関係となっていました。オーロラは自身の小説でもってそんな幸せを綴っていましたよね。宇宙船で究極に孤独で絶望的な状況に有るにもかかわらず、見ているこちら側にそんな絶望感をほとんど感じさせることなく物語が展開していました。

 と、この作品を見ている観客の目線で語るなれば、本作におけるSF要素や、ラブストーリー要素というのは「ジムの決断」の正当化のために必要な材料だったという見方が出来ます。

 ところで、ここまで「正当化」という言葉を私が使ってきたことにお気づきですか?そうなんです。ここまで私が語ってきたことは、製作側、鑑賞側の視点で「ジムの決断」は正しかったと、客観的に評価しているだけなんですね。

 作中に登場するオーロラの視点で見たら、「ジムの決断」はいったいどのようなものだったのでしょうか??それは作中で述べられていますよね。「人生を奪うこと」「殺人」と語調を荒げて語っていました。

 つまり、本作の主題を表現するには、「ジムの決断」の我々の客観的な視点から見た正当性だけでなく、オーロラというキャラクターから見た主観的な正当性が描かれなければならないのです。

 そして、私は、そのオーロラから見た正当性というのが2つのポイントで描かれているのではないかと思いました。

 まず1つ目は、ジムが冬眠ポッドを壊したという事実を知り、オーロラが彼と距離を置いていた時間ですね。確かにやり場のない怒り、言うなればジムは自分を殺したような存在だったわけですよ。もはや関わりたくない、その気持ちは痛いほどに伝わってきます。しかし、それと同時にこのジムと距離を置いた期間と言うのは、初めて彼女があの究極の隔離空間である宇宙船での「孤独」を体感した期間でもあったわけです。なぜなら、オーロラは目覚めた時点で、すでにジムがいました。つまり、ジムがオーロラを目覚めさせるまでの1年間の「孤独」を推し量ることはできなかったんですね。ところがそのジムとのコミュニケーションを絶ったことで、彼女は初めて「孤独」を味わいます。

 宇宙船を救うためにジムが排熱ポットを開けに行く場面で、オーロラは「あなたなしでは生きられない。」と告げます。確かにこのセリフはラブストーリーとして見るならば、非常に突拍子もない、何の説得力も感じないセリフなんですが、究極の「孤独」を分かち合う2人の間にある、ある種の依存感情の表出なのだとしたら、非常に重みのあるセリフに取る事ができます。

 この依存感情というのは、ジムが冬眠ポッドで眠るオーロラを見て感じていたものでもあります。1年間という長い期間の「孤独」に耐えかねて、彼はもう彼女を目覚めさせることでしか生きられないと思いつめたのです。それこそ「あなたなしでは生きられない。」とジムも感じていたのでしょう。

 だから宇宙船の危機を前にして、2人のお互いを思う気持ちが一致したと取れるのです。これは恋愛感情と切り捨ててよいほど簡単なものではありません。お互いがお互いに必要不可欠な存在であると認めた、「孤独」分け合うパートナーなのです。

 ここで、もう1つのポイントを解説したいと思います。それは、オーロラが「ジムの決断」を殺人行為であるとか、人生を奪う行為であると批判したことに関係しています。

 確かに、ジムはオーロラの冬眠ポッドを壊すという許されざるある種の「殺人」行為をしました。それは確かです。そしてオーロラがそれを許すことができないのもまた当然です。

 しかし、物語の終盤で、オーロラは排熱口から宇宙船の熱を逃がす際に、ジムを「殺す」という決断を迫られるわけですね。

 2人の「殺す」という行為の重みは確かに異なります。ジムの決断は自分のため、オーロラの決断は宇宙船の5000人超の乗客のため。確かに全く重みは異なります。

 でも、ここで重要なのはお互いにお互いを「殺す」という決断を共有したことだと思うのです。

 ジムがオーロラを「殺す」ために押したスイッチと、オーロラが「ジム」を「殺す」ために押したスイッチの重みも目的も全然違います。ただこの決断を共有したことには、2人の関係性を改善する上で大きな意義があったと感じますし、これがオーロラがジムを許す大きな要因の一つになったのではないかと考えられるわけです。

 つまり、整理すると「ジムの決断」の正当性がオーロラ視点で保証されたのは、「孤独」と「殺人」行為を共有できたところにあるのではないかということです!!

 本作の主題は「ジムの決断」の是非ではないかということを語ってきたわけですが、本作が最後に示した「2人だからこそ生き抜けた」というのが一応「答え」だったということにはなると思います。つまり「ジムの決断」は許されざるとは言えないのではないかと。

〇解説2:アンドロイドアーサーの使い方が秀逸

 解説1が長すぎたので、解説2は短めで行きます(笑)
 
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©Sony Pictures Entertainment Inc. "Passenger" official trailer より引用 

 本作で登場する唯一のアンドロイドアーサーですが、本作においてアーサーはとても重要なキャラクターでしたよね。ジムが冬眠ポッドを壊したという事実をオーロラに伝えるという非常に重要な役割を担っていたのですから。

 しかし、映画を見られた方はもちろんお気づきになったと思うのですが、アーサーは決してジムを裏切ったわけではないんですね。ジムの「二人の間に秘密は無い」という言葉を受けて、それに従って「秘密」をオーロラに明かしたわけです。つまりジムに忠実だったわけですよ。

 ここでロボット工学3原則と言うのがあるので、挙げさせていただきますね。

「人間への安全性・命令への服従・自己防衛」

 これがいわゆるロボット工学界における原則と言われているわけです。この原則を守らなかった、おれに背いたことで印象的だった作品の最たるものがやはり「2001年宇宙の旅」だったのだと思います。

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 そして、本作「パッセンジャー」はむしろこの原則に忠実だったと言えるでしょう。なぜならアーサーはジムの言葉をトリガーにしてそれに従って、オーロラに「真実」を伝えたに過ぎないのですから。

 この原則を忠実に守りながらのオーロラへのネタバラシを作中で表現した点は非常に秀逸だったと感じています。


〇考察:文系理系論争

 SFつまりサイエンスフィクションと耳にすると、間違いなく「理系」のイメージを想像しますよね。

 しかし、昨年公開された大作SFアメリカ映画の2台巨頭たる「メッセージ」と「パッセンジャー」は有る点で共通しています。それは問題解決に当たるメインキャラクターの2人が男女のペアであるということではなくて・・・。

 問題解決に当たるメインキャラクターの2人がそれぞれ「文系」・「理系」に当たる人物であるということです。「メッセージ」では言語学者と数学者、「パッセンジャー」では小説家(ジャーナリスト)とエンジニアです。

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©Sony Pictures Entertainment Inc. "Passenger" official trailer より引用 

 そしてそれぞれの作品で、その特性が活かされています。「メッセージ」に関してはネタバレになってしまうので割愛させていただきます。「パッセンジャー」においてですが、エンジニアのジムが作中で問題解決をするうえで必要不可欠だったのは見ても分かる通りです。じゃあ小説家のオーロラはどうなのかと聞かれると、こちらもまた必要不可欠だったと思います。

 文学にはいくつか役割があると言われますが、本作でまず登場していたのは、「祈りとしての文学」の側面だったように思います。これは岡真理さんの「アラブ、祈りとしての文学」という作品で語られた文学の役割になります。




 悲惨で絶望的な状況を前にして、文学に何ができるのか?本作「パッセンジャー」ではオーロラの書く小説が2人の共通言語のようなものとなり、2人の生きる希望になっていたように思いました。

 「グレイト・ギャツビー」という著名な小説がありますが、この作品は戦場の兵士の間で流行したことがきっかけでアメリカ全土で読まれるようになったという逸話があります。このように、絶望的な状況を前にして、文学は確かに無力かもしれない、本で人は殺せません。しかし、ひと時、心を休める事ができる。これは間違いなく文学の存在意義の1つだと思うのです。

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)
スコット フィッツジェラルド
中央公論新社
2006-11



 つまり、本作「パッセンジャー」でオーロラが小説がであることの意義もそこにあるのだと思います。また、本作の後日談で、彼女が記した船内での出来事を綴った小説ないし記事が、人類の未来に与える影響を鑑みても、間違いなく本作には、文学者としてのオーロラが必要不可欠だったように思うのです。

 世界的には今、文系と理系と言う壁を超えた、分野を超越した学問というのがどんどんと進められています。トマ・ピケティの「21世紀の資本」はベストセラーになりましたが、この著書も分野を超越した経済学として大ヒットしたんですね。

21世紀の資本
トマ・ピケティ
みすず書房
2014-12-09



 日本でもそんな動きは進められているのですが、一方で日本では「文系」不要論ないし文系理系論争というのが依然として蔓延っているんですよね。

 人文系の廃止や予算削減なんて動きも出てきています。しかしですよ。そんな動きは少し立ち止まって考えられるべきでしょう。

 この点に関しては内田樹氏が非常に面白い言葉を残されているので、以下にリンクを張っておきますので読んでみてくださいませ。

東洋経済オンライン人文学は「今=危機の時代」にこそ必要だ
「内田樹×白井聡」緊急トークイベント<後編>

 この言説から、重要な部分を要約させていただきますと、学問には平時の学問と非常時の学問があるのではないかと。そして、今の時代において、人文学は需要が薄れていますが、非常時の学問として間違いなく必要であるということです。詳細はリンク先の記事で読んでみてください。

 つまり、文系理系論争、文系不要論なんて不毛なんですよ。需要なんて社会の在り方次第ですから、社会が変化すれば、理系不要論なんてものが出てくる可能性だって大いにあるわけです。

 だからこそ、SFという「理系」の象徴たるジャンルに「文系」「理系」それぞれの役割があって、それぞれが問題に立ち向かっていくという姿勢を示した「メッセージ」と「パッセンジャー」という2つの作品は現代に大きな意義があると思いますし、特に日本における意義は大きいと思います。


〇まとめ

 映画「パッセンジャー」は間違いなく、見る側が何を求めているかで大きく評価が変わってくる作品だと思います。しかし、「ジムの決断」の是非を問う物語と考えるならば、間違いなく興味深い作品ではありました。

 また「メッセージ」と並んで社会的意義のある作品でもあると思います。

 映画として完成度が高いとはお世辞にも言えませんが、酷い映画だと一言で片づけるにはもったいない多くの見どころがある作品だったように思います。

 今回も読んでくださった方ありがとうございました。

 前回の記事から、フェイスブックアカウントとの連動を始めたのですが、本ブログのフェイスブックアカウントでブログ記事にするほどではないけども、ツイッターでは語りきれない微妙なラインの作品の紹介を「1日1回映画紹介」コーナーとしてやっていこうと思います。

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コメント

コメント一覧

    • 1. タイマ
    • 2017年03月24日 19:34
    • ふむふむ。なかなか自分は面白く観ました。この映画では2001年宇宙の旅など今までの宇宙SF映画と比べて違うのは主人公が何か目的や使命感を持った宇宙飛行士、クルーではなくタイトル通りパッセンジャー、乗客であることかなと思いました。観客が感情移入しやすい、同じ感覚であの宇宙船アヴァロンに放り込まれた体験をする。こないだのNASAの発表も含め、来たるべき未来はこんな感じなのかもなぁとボーっと観ているだけでもいい映画なのではと。話は表面上はラブストーリーっぽく取っつきやすいしあんまし難しくも考えず観れるこういう映画がジャンルの入口としてあってもいいのかなと。4DXで体感的に観るのが一番楽しいかもしれませんね。
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