みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『東京喰種S』についてお話していこうと思います。
正直かなり意外でした。前作の興行収入は確か10億円程度だったと思いますし、内容を見てもかなり製作費はかかっていたような印象を受けました。
そのため、続編にGOサインが出るほどヒットしていたとは思わなかったですね。
そしてメインキャストの一人であった清水富美加さん・・・今は千眼美子さんが出演NGになってしまったという一件もありました。
キャスト変更も余儀なくされる中で、わざわざ続編を作ったということは、かなり勝算とねらいがあってのことなのでしょう。
個人的に原作のお気に入りのキャラクターでもある月山習が登場するエピソードの実写化ということもあり早速見てきました。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『東京喰種S』
あらすじ
カネキとトーカは喰種対策局 (CCG) との戦いを終え、あんていくで平穏に過ごしつつ、次の戦いに向けて訓練を続けていた。
ある日喰種の一人であり20区の厄介者「グルメ」としても知られる月山習(ツキヤマ シュウ)があんていくに現れる。
彼は半分が喰種で、半分が人間というカネキの特殊なにおいに興味を持ち、食べたいという強烈な欲求を抱く。
トーカに彼には警戒しろと言われながらも、本好きということで同好の士ということも分かり、カネキは月山に近づいてしまう。
そして彼はカネキをグールレストランへ招待する。
しかし、彼が招待した目論見というのは、レストランのお客にカネキを食材として振舞うことだった・・・。
喰種対策局 (CCG) の登場で、その場では命からがら逃げきったカネキだったが、「命の価値とは何か」「命を食べるとは何か」に葛藤することとなる。
そんな時、月山は錦の恋人である貴未を誘拐し、カネキをおびき寄せる。
ただ目の前の人を救いたいという自分の中から溢れ出す思いを信じ、彼は戦いへと身を投じる・・・。
スタッフ・キャスト
- 監督:川崎拓也&平牧和彦
- 原作:石田スイ
- 脚本:御笠ノ忠次
- 撮影:小宮山充
- 照明:保坂温
- 録音:田中博信
- 美術:小泉博康
- 編集:武田晃
- 音楽:小田朋美&菊地成孔
『東京喰種S』は前作から監督・脚本スタッフを刷新していますね。
監督には川崎拓也&平牧和彦が起用されていますが、この2人も長編では初監督のようで驚きです。
また脚本にはなんとアニメ版の脚本・シリーズ構成を担当した御笠ノ忠次さんが起用されています。
撮影・照明には、少女マンガの実写化などでしばしば起用されている2人が加わりました。
劇伴音楽担当の2人も完全に刷新されていて、とにかく前作からスタッフが一新されているのが目立ちます。
また本作には怪奇食材制作という部門もありまして、そこには「中西怪奇菓子工房。」というショップが携わっています。
- 窪田正孝:金木研
- 山本舞香:霧嶋董香
- 鈴木伸之:亜門鋼太朗
- 小笠原海:永近英良
- 白石隼也:西尾錦
- 木竜麻生:西野貴未
- 森七菜:小坂依子
- 桜田ひより:笛口雛実
- 松田翔太:月山習
まず千限美子さんの降板のために霧嶋董香を演じるキャストが山本舞香さんに変更されています。
個人的には、やはり千限美子さんの演技力はずば抜けていると思っていますので、やはりキャスト変更が作品に与えたダメージは少なくなかったような気はします。
その他にも『天気の子』でヒロインに抜擢された森七菜さんがトーカの親友でもある小坂依子の役を演じています。
そして何より際立つのが松田翔太さんの存在感ですよね。
予告編の時点で圧倒的な「月山習」だったので、期待していましたが、本編でも最高でした。
より詳しい情報を知りたいという方は映画公式サイトへどうぞ!!
『東京喰種S』感想・解説(ネタバレあり)
原作・アニメとの違いとシリーズ3作目への意図
今作、『東京喰種S』は人気キャラクターである月山との対峙を描いています。
実写版前作も原作に忠実に作ってある印象的でしたが、今作も基本的には原作には忠実でした。
- トーカが友人の依子が持ってきた食べ物を必死に食べようとしている
- カネキのトレーニング相手が蓮示ではなくトーカ
- 喰種レストランの調査シーンがカット(アニメ版同様)
- 喰種レストランの描写が全く違う
- あんていくの冷蔵庫の管理状態がガバガバ
- まさかの宗太登場
パッと目についたものを挙げてみました。
まず、トーカと依子の描き方については決定的に異なっていました。
基本的に原作・アニメ版ではトーカは必死に依子が持ってきた食べ物を食べようとしていて、それを吐き戻さないように必死に努力していました。
ここを映画版では「喰種であることが人間に知られれば危険に陥る」という考え方を前提として、トーカは頑なに依子の存在を拒絶しているんです。
この改変については、映画を1つの物語として完成させるという目的を考えても非常に合理的だったと思います。
人間と交わることの危険性を知っているからこそ頑なに関わりを持つことを拒もうとするんですね。
ただそれに対してカネキは喰種と人間の狭間にある存在として必死に両者を受け入れ、そして両者を守ろうと試みました。
そのあまりにも真っ直ぐで純粋な思いがトーカの心を少しずつ動かしていく過程を1つの映画の中で見せることができたという点では非常に良い改変でした。
取るに足らないレベルの改編で言うと、2つ目と5つ目で挙げたカネキのトレーニング相手が蓮示ではなくトーカになっていたり、あんていくの冷蔵庫の管理状態がガバガバというところが挙げられると思います。
2つ目はやはりキャストが山本舞香さんに変更されているということで、前作を見ている観客にあたらしいトーカを印象づける目的があったのではないかと思います。
3つ目の喰種レストランの調査シーンがカットについてですが、これはアニメ版でも原作からカットされたポイントなので、脚本家がアニメ版と同じということで右に倣えでカットされたのだと思います。
4つ目の喰種レストランの描写が全く違うという点については若干目にはつきましたね。
あまり問題はないと思いますが、マダムの巨漢の処刑人タロちゃんが登場しなかったり、レストランというよりはナイトクラブ的な店構えになっていたりしていました、
これについては実写版で再現しようとすると、無理が生じるとは思うので、登場させないという判断も致し方ないかなとは思いました。
そして最大のサプライズになったのは、まさかの宗太登場!というところでしょうか。
原作の第1部でも多少は登場しますが、続編で旧多 二福として登場してからの方が作品における存在感は強くなります。
そのため、月山編の直後に新田真剣佑を起用しました!!という大々的な発表をすることには違和感があります。
原作で考えると、続編においてはアオギリ編に突入するのが自然な流れです。
つまりここを改変してきた意図はおそらくたった1つでしょう!
アニメでも第2期の『東京喰種トーキョーグール√A』は原作者の石田スイさん原案の下で、主人公が違う運命を辿るというIFの展開を描きました。
このことからも『東京喰種』シリーズはメディアミックス戦略として、必ずしも原作の再現をするのではないという方向性が伺えます。
そのため実写映画版においても月山戦の後からルート分岐させて、リゼ事件の黒幕でもある宗太との戦いを3作目に持ってきて、三部作で完結にしたいのではないかという目論見が見え隠れしています。
おそらく続編がまだ作られることになるのだと思いますが、一体どんな展開が描かれるのか注目ですね。
ブラッシュアップされた脚本とテーマ
今回の『東京喰種S』はやはり、前作の部分で描かれた「人間を食べるということ」についてより深く掘り下げていくような、そんな物語になっていたと思います。
前作の冒頭で半分喰種半分人間という稀有な存在となり、自分がどう生きればいいのかを必死に考えながら、とにかく目の前の人間や喰種を助けようと戦いに身を投じる様が描かれました。
今作においては「人間と喰種の関係」を中心に据えて物語を展開しているように思います。
そのために先ほども書いたトーカと依子の関係性に纏わる描写を改変したんでしょうね。
『東京喰種』という作品は常に人間と喰種を表裏一体の存在として描くことで、食物連鎖や人間が他の生命を殺して食べて生きているという部分に踏み込んでいます。
動物同士が戦って弱い者が捕食されるというのが地球の基本的な生態系であり、弱肉強食の世界です。
ただ、人間の社会はそういった生態系から分離され、地球の頂点に立っています。
私たちは毎日のように他の生物の命を奪い、それを生きる糧としています。
しかし、その「命を奪う」というプロセスを不可視のものとし、スーパーやレストランで既に「食材」と化している「生命」を食べているために「生き物を殺している」という実感が薄いんですよ。
それこそが『東京喰種』の中で描かれている「人間は綺麗に生きている」という部分だと思います。
私たちは毎日のように他の生き物を「殺害」することによって生きているにも関わらず、そのリアルから目を背けることによって、というよりもそのリアルが巧妙に見えなくされていることによって「汚れることなく」生きることが可能になっています。
それにも関わらず、人間が殺されたとなると私たちは突然それを「可哀想」だと感じるようになります。
自分たちが当たり前のように他の生物の「殺し」を容認しているにもかかわらず、人間が「殺し」の対象になると突然その態度を変えるんですよ。
今の世界に積極的に人間を捕食している生命体なんていないわけですが、『東京喰種』の世界には喰種という人間を捕食する生命体が存在しています。
人間と喰種を表裏一体の存在として描くというのは、まさにそういう部分でして喰種という存在は「綺麗に」生きている人間たちに自分たちの「醜さ」を突きつける存在なのです。
その点で貴未というキャラクターの言葉はまさに本作のテーマを表すものでした。
もし自分が『喰種』に生まれてたら、私は人を殺していたと思う。私は・・・たまたま人間に生まれただけで、綺麗に生きることが許されてる。
私たちは、今の社会のシステムによって「綺麗に生きること」が許されているだけであることを自覚する必要があります。
汚く醜い「殺しの過程」を見なくとも生きていけるのです。
しかし、本来生き物とは他の生命を食べることで生きているわけで、弱肉強食の生態系の中に位置づけられています。
人間だけがそこから解放されたある種の特権的な立場に生きているのが今の世界であり、毎日のように「殺し」をしているにも関わらず、人間が「殺され」ると可哀想だと「綺麗ごと」を言うのです。
そこに喰種という人間を捕食する存在が現れ、人間は弱肉強食の生態系の中に組み込まれてしまいます。
グルメと呼ばれる月山習の存在だって、人間の写し鏡です。彼を否定することは今の人間を否定することでもあります。
それでも今まさに目の前の大切な人を傷つけようとしている彼を倒さないわけにはいきません。
私たちは綺麗に生きてなどいけないことを自覚しなくてはなりません。他者の生命を奪って生かされていることを自覚しなければなりません。
他者の命を奪っておきながら、自分の「大切な人」には生きておいてほしいと願うのは、矛盾していて酷く独善的な願望です。
それでも私たちは「汚く」生きていかなければならないのでしょう。
だからこそ他者の命を奪っていく月山という男を否定しながらも、大切な人の命を尊重し、そして関係を結んで生きていくのです。
『東京喰種S』が突きつけたメッセージは「大切な人を守り生きていく」という綺麗ごとを脱構築してみせました。
月山習を演じた松田翔太の品
(C)石田スイ/集英社 (C)2019「東京喰種【S】」製作委員会
今作『東京喰種S』の中で際立っていたのは、やはり月山を演じた松田翔太さんでしょう。
アニメ版で月山を演じていた宮野真守さんの怪演もあり、非常に人気で有名になったキャラクターです。
おそらく狂気性という観点で見た時に、アニメ版の彼の演技を超えることは高すぎるハードルです。
(C)石田スイ/集英社
それ故に、実写版の松田翔太さんの月山はアニメ版とは違ったアプローチで攻めてきました。
実写版の月山は原作やアニメ版にあった狂気的すぎるセリフや行動はかなり控えめにされています。
そこに松田翔太さんという俳優そのものに備わっているクールさやエレガントさ、そして何より「品」が備わったことで「美食家」のヴィランとして確立されています。
実写版の月山が素晴らしいのは、どんなに狂気的で、変態的な行動を取っていても「品」が失われることがない点です。
個人的に好きなのは、貴未の祭壇に置いてあった食器類を錦に荒らされた時の月山の表情です。
自分の用意した格式の高い食事の席を汚され、妨害される、つまり自分の「品」を下げられるような行為に対する嫌悪感をむき出しにする様がすごく印象的なんですよ。
マンガをアニメと実写でメディアミックスした際に、しばしばアニメ版の声優の演技と比較されて、実写版の俳優が貶されることがあるんですが、『東京喰種S』の月山は見事にそこを回避し、新しいキャラクター像で勝負してきました。
このアプローチは間違いなく正解だったと映画を見て、思っている次第です。
アクション・VFXシーンの乏しさ
『東京喰種』の実写版においては、前作でも課題だったと感じたアクションシーンやVFXですが、今回もあまり改善されているようには見えませんでしたね。
実写版の前作においては、とにかくVFX重視で喰種の赫包と捜査官のクインケのぶつかり合いを演出していましたが、やはりチープ感が目立ち盛り上がりに欠けました。
それを回避すべく、今回の『東京喰種S』ではアクションシーンにおいてVFXよりも体術面を重視していたように思います。
月山とカネキ&トーカのバトルの最後の最後こそ前作同様の赫包バトルにはなっていましたが、それ以外の描写については基本的に体術でカバーしていました。
ただ、キャスト陣に本格派のアクション俳優を起用しているわけでもないので、カバーするためにカットをかなり細かく刻んだり、スローモーションを多用したりする方向で逃げていました。
日本映画で言うと、深作監督の時代劇『阿部一族』の中で佐藤浩市が殺陣の技術的に「長回し」での撮影が難しいということで、アクションシーンをカット多めで撮影して、編集の手腕でリズミカルに演出するという手法が取られていました。
ただこの映画がアクションシーンをブツ切りにしても、戦闘シーンでのダイナミズムを失っていなかったのは、撮影や編集、照明といったサポートする側の技術も高く、一貫性があったからです。
『東京喰種S』については、とにかくアクションシーンの撮影アングルや撮り方も視覚的快感を生むものではなく、ただただ分かりにくいだけのものになっていますし、編集のリズム感もカットの多さを持て余していました。
時折、インサートされるスローモーション演出もこの上なくキマっておらず、アクションシーンのテンポやスピード感を損なうだけになっていたので、勿体なかったですね。
言わば『東京喰種S』のアクションシーンはスピード感を志向する編集の思惑と、その流れを断ち切って一瞬をクールに見せようとするスローモーション演出が完全に相反していて、そこに撮影の野暮ったさも加わって相乗的にレベルが下がっていたように思います。
VFXに予算をかけられないからという都合で、体術主体に切り替えた判断自体は悪くなかったと思いますが、アクションシーンの演出に関してイマイチ方向性を絞り切れていなかったのが玉に瑕ですね。
本作はやはりバトル漫画原作であるわけですからアクションシーンで盛り上がれないというのは致命的です。
もし続編を作るということであれば、カネキの覚醒も当然描くことになるでしょうし、もう少し予算がないなりに見せ方や演出の面で方向性を定めてそれをカバーして欲しいと思います。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『東京喰種S』についてお話してきました。
やはり何と言っても月山を演じた松田翔太さんが素晴らしかったの一言に尽きると思います。
アニメ版の月山が最高すぎて、実写版はそれの劣化版にしかならないだろうと高を括っていましたが、見事に裏切ってくれました。
また、前作から改善されない課題としてはVFXやアクションシーンの乏しさというか、見応えのなさですね。
ここを改善しないことには、いくら脚本が優れていても実写版として成功とは言えないと思います。
個人的にはマンガの実写化作品の中でも比較的評価は高めの作品なので、より高いレベルを欲求してしまいます。
ポストクレジットのシーン的にも制作側は続編を作ろうとしているようなので、楽しみに待ちたいと思います。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。