【ネタバレ】映画「マンハント(君よ憤怒の河を渉れ)」感想・解説:ジョン・ウー健在!最高にアガるアクション映画!

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はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね本日より公開となりました映画「マンハント」についてお話していこうと思います。

できるだけ本編の終盤部分には触れないように書いていくつもりですが、ネタバレを一部含みますので、作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。

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あらすじ・概要

 「レッドクリフ」「男たちの挽歌」シリーズの名匠ジョン・ウーが、「戦場のレクイエム」のチャン・ハンユーと「三度目の殺人」の福山雅治をダブル主演に迎えたサスペンスアクション。日本でオールロケを敢行し、1976年に高倉健主演で映画化された西村寿行の小説「君よ憤怒の河を渉れ」を再映画化した。製薬会社の顧問弁護士をつとめる男ドゥ・チウは、パーティの翌朝、社長秘書・希子の死体の横で目を覚ます。現場の状況証拠はドゥ・チウが犯人だと示しており、罠にはめられたと気付いた彼は逃亡を図る。独自の捜査でドゥ・チウを追う敏腕刑事・矢村は、ドゥ・チウに近づけば近づくほど事件に違和感を抱くように。やがてドゥ・チウを捕らえた矢村はドゥ・チウの無実を確信し、警察に引き渡さずともに事件の真相を追うことを決意する。共演にも「第7鉱区」のハ・ジウォン、「哭声 コクソン」の國村隼、「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」の桜庭ななみら日中韓の人気俳優がそろう。(映画comより引用)

予告編

解説:「昔の映画」って何?

「見たまえ、あの青い空を。歩いていくんだ。君はあの青い空に溶け込むことができる。」

「男には死に向かって飛ぶことが必要な時もある。

冒頭のドゥ・チウとレインの会話に登場した「昔の映画」とは何ぞ?と思われた方が多いかもしれません。これは「マンハント」のリメイク元である「君よ憤怒の河を渉れ」に登場する有名なセリフなんですね。



こういったリスペクトを欠かないところがジョン・ウー監督らしいですね。

感想:映画最大の武器はやはり画力に有り!!

2018年に入って「ジオストーム」という映画を見たんですが、これがどうしても受け付けないんですね。こういう解説・考察テイストのブログを書いている私ですから、「ジオストーム」のような「おバカ映画」タイプの作品はそもそも不向きだろうと思われる読者の方もいらっしゃるかもしれません。

ただ私はいわゆる「おバカ映画」が別段嫌いではないんですね。ジェイソン・ステイサムが出演している「アドレナリン」シリーズですとか、B級サメ映画、あとは「テラフォーマーズ」ですとかこういった類の映画はすごく大好きで、繰り返し見てしまうようなタイプだったりするんです。

しかし、そういうタイプの作品であることを匂わせながら結局全然受け付けなかった「ジオストーム」という作品には何が足りなかったのか?これをずっと考えてしまうんですね。脚本は確かにボロボロですし、ストーリー構成もボロボロ。でもそれくらいで一つの作品をこんなに低く評価してしまうことってめったにないんです。

そして今日、映画「マンハント」を見て、私は「ジオストーム」という作品がどうしてこんなにも受け入れられなかったのかという理由をはっきり自覚しました。

それは「画力」の欠如なんですよ。結局のところ「ジオストーム」はこれまでのSF映画やディザスター映画のシーンのパッチワークみたいなもので、「アガる画」というものが全く見られなかったんですよ。

映画に求めるものって人それぞれだと思うんですが、結局映画最大の武器は「見えること」ですからいくら脚本が良くても、いくら構成が素晴らしくても、いくら役者の演技が秀逸でも、それを「見せる」力が欠如していたら、たちまち総崩れになってしまうんです。ストーリーが良いから、構成が素晴らしいから。これで評価されるのはむしろ活字メディアの方で、映画はあくまでも映像メディアとして「見せること」にとことんこだわらなくてはなりません。

「ジオストーム」はそれが出来ていなかったのです。ストーリーや構成がボロボロなのはまだしも映像単体として全く魅力がありませんでしたから、評価できるはずがありません。

当ブログの映画「ジオストーム」レビューのリンクは以下に掲載しておきますので、良かったら。

参考:【ネタバレ】映画「ジオストーム」:感想・解説:ディザスタームービーですら無いんだけど?

話を本作「マンハント」に戻していくんですが、まあ本作も穴だらけですよ。そもそも脚本はボロボロです。ただこれはリメイク元の「君よ憤怒の河を渉れ」にも言えることですし、そこに比較的忠実に作っている作品なので、あまりケチをつけることでは無いかな?と思います。

ただ酷いのは編集ですよ。時系列や場面転換の仕方がとことん下手くそで、シーンとシーンが全然繋がってないんですね。様々な登場人物のパートを同時進行的に描くという作品の性質上仕方ない編集だったのかもしれませんが、それにしてもお粗末でした。その上、パートの終わりごとに昭和のメロドラマの引き画のようなカットを挿入しているのがまたくどいんです。とにかく編集に関しては終始ため息がこぼれる水準だったと言えます。

 ここまでは「ジオストーム」と同じ条件なんです。ただ「マンハント」にはジョン・ウーが手掛けた最強の「画力」が備わっているわけですよ。いくら他がガタガタでも映像だけで、アクションだけで見ている我々を引き込むような映像を彼は撮れるんです。そしてその一級のセンスは、これまでの作品と比べても遜色無く、錆びついていないことを伺わせてくれます。

個人的に惹かれたのは、真由美とフィアンセとの結婚式会場でフィアンセが射殺された回想シーンの映像ですね。純白のウエディングドレスに広がっていく、フィアンセの血液。ジョン・ウーが平和の象徴とも捉えている「白色」に苦しみ、悲しみ、痛みを象徴するような「赤色」が広がっていくその映像シークエンスはまさに一級品でした。

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他にも予告編映像で印象的だったドゥ・チウと矢村が階段を滑り落ちながら敵を撃っていくシーンも最高に熱くなりましたね。手錠をしているためにお互いに片腕が使えないという状況の中での、2人で2本の腕という条件付きアクションは画力MAXでした。特に矢村の銃にドゥ・チウが弾を装填するシーンですよね。これはクールでした。

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 このようにシーン1つ1つが観客を虜にするだけの「画力」を持っていることこそが本作の素晴らしさなのだと思います。結局映画はどれだけ「見せる」ことができるかなんです。

解説:アクションシーンで語るジョン・ウー監督

アクション映画にありがちなのは、単純にアクションは凄いんだけど、そこ止まりなシークエンスなんです。これってなぜ起こるかと言うと、アクションシーンがただのアクションでしかないからなんですよね。

 アクションシーンに登場人物の人間性、置かれている状況、心理状態、人物同士の関係性等のコンテクストが反映されて初めてアクションシーンはアクションシーンとして映画の中で意味を持つ事ができるんです。

ジョン・ウー監督は、そういう点でアクションシーンの撮り方を本当に深く理解している監督なんだということを本作「マンハント」で改めて実感しました。今作で特に注目したのは登場人物の関係性、そしてその変化がアクションシーンに反映されている点なんですよ。

まず冒頭のレインとドーンの共闘シーンですよね。この2人の関係性は、本作においてもかなり重要な要素です。しかし、本編中で2人の背景についてはあまり言及されないんです。それでも冒頭のあの息のぴったりと合った寸分の狂いもないコンビネーションを見れば、2人がどれくらいの年月を一緒に過ごしてきて、どういう関係性なのかというコンテクストは、はっきりと伝わってくるんです。まさしくアクションシーンが映画の中で適切に機能しているパートと言えます。

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そして何より注目したいのが、ドゥ・チウと矢村の関係性を孕ませたアクションシーンですよね。

まずは矢村がドゥ・チウのモーターボートに飛び乗るシーンです。ジョン・ウー監督お得意のジャンプを多角的にかつスローモーションで捉える映像単体でも一級品のカットなんですが、このシーンが素晴らしいのはそれだけではないんです。

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最初に2人が出会った時に「呉越同舟」という言葉が出てきたと思うんです。これは敵同士が1つの舟に同居し、共通の利害のために行動を共にすることを意味しているんですね。矢村がドゥ・チウのボートに乗り込むシーンってまさにその言葉を視覚的に再現しているわけですよ。つまりこのシーンは単純にアクションシーンとして見栄えがするだけではなくて、きちんと物語の展開の中で機能しているわけです。

そして何より素晴らしいのがドゥ・チウと矢村が手錠をつけて戦うシーンと終盤に敵を打倒するために共闘するシーンの対比なんですよね。

中盤の手錠をつけて共闘するシーンにおいて2人はまさに「呉越同舟」という言葉が似合う関係性なんです。お互いの利害のために戦っているだけであって、心からお互いを信用したわけではないんです。こういったバディアクションムービーの定番と言うと、「背中は預けた!」という定石のシチュエーションがあるんですが、本作「マンハント」の中盤での共闘シーンではそれがほとんどないんです。

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横並びで戦うアクションシーンが非常に多いわけです。この「背中を預けない」という何気ないこだわりが2人の信用がまだ深まっていないこと、真に理解しあった関係ではないことを暗に仄めかしているのです。

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 一方の終盤のアクションシーンでは、まさに「背中は預けた」というような戦い方、シーンが多いんですよね。これは、数々の出来事を経て2人が「呉越同舟」的な利害関係ではなく、強い信頼関係で結ばれたことの表象でもあるんです。

このようにジョン・ウー監督は単純に映像として視覚的にインパクトのあるアクションシーンが撮れるだけでなく、映画の中でストーリーに寄与するアクションシーンを撮れる稀有な才能の持ち主なんです。この点が彼のアクション映画が高く評価される理由でもあると思います。

感想:日本ロケでもこんなアクション映画が撮れるのか!!

最近ですと「アイアムアヒーロー」が公開されたときに盛んに議論された議題なんですが、日本は映画ロケに関する規制が厳しくて、撮れないシーンが多いということですね。有名な話ですと法令順守のために車を運転するシーンではシートベルトの着用が求められるなんてことはしばしば言われますよね。



そういった制約の厳しさがあるためか日本映画界には純粋なアクション映画ってすごく少ないんです。「アイアムアヒーロー」は邦画の中でもかなりアクション映画としてハイレベルなものだったのですが、撮影のほとんどが韓国で行われているんです。

こういう経緯を見てきていますから、日本でしかも日本の市街地で大規模なアクション映画ロケは厳しいんだと思い込んでいました。

ただ本作「マンハント」はそんな不安を他所に日本でも大規模アクション映画撮影ができるということを示してくれたように思います。確かに世界的に有名なジョン・ウー監督作品だから許可が下りたという側面は多分にあるでしょう。しかし、間違いなく道は開けました。

これに続いて日本でもアクション映画が増えてきてくれると嬉しいですね。

解説:大阪民は爆笑必至!!あんな所やこんな所で戦闘が!!

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本作「マンハント」の舞台は大阪です。そのため大阪に住んでいる方は、自分が普段何気なく過ごしている空間で戦闘シーンが行われているという不思議な感覚を味わうことができたのではないでしょうか?

まずドゥ・チウと真由美が待ち合わせをした「時空の広場」はJR大阪駅にあるステーションシティの5階にあるエリアですね。クリスマスシーズンはイルミネーションが綺麗で、多くの人でにぎわっていました。

その後に2人が逃亡していった先にあるのが、うめきた広場ですね。噴水があったり、シーズンによってはクリスマスマーケットやスケートリンクが開設されるような場所です。

この2つは大阪ステーションシネマやシネリーブル梅田といった劇場を利用する関西の映画ファンにも馴染みの深い場所だと思います。

他にもドゥ・チウが迷い込んだホームレス居住区は大阪の西成区でしょうかね?ホームレスたちが車やバスに乗って日雇い労働に向かうという光景は、大阪でも有名です。

ドゥ・チウと矢村がモーターボート対決を繰り広げていた横で行われていたのはだんじり祭りですよね。大阪と言えば、だんじり祭りみたいなところは否定できません。

冒頭のパーティーシーンは天王寺にあるあべのハルカスでしたよね。

あとは、ジョン・ウー監督の白鳩への熱いこだわりに応えたのが、大阪と奈良の県境にある生駒山でしょうか?「白いハトの里」なんて施設はおそらく白鳩フェチであるジョン・ウー監督が組んだセットだとは思いますよ。

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今作の白鳩の登場の仕方はあまりにも荒唐無稽すぎて、どんな手を使ってでも白鳩を作品に出してやろうという監督の執念が伺えました。

他にも大阪上本町の地下鉄駅なんかも登場しましたね。

やはり自分が何気なく利用している場所が映画の舞台になっているというのは不思議な感覚です。

*以下の考察にラストシーンについての言及有ります




考察:戦いの果てに得るもの、その可視化

ジョン・ウー監督の作品で個人的に好きなポイントがありまして、それは戦いの果てに「何を得たのか」をきちんと可視化してくれるところなんですよね。

映画のエンディングはハッピーエンドでもバッドエンドでもいいと思います。ただ2時間近い本編の中で必死に戦った人たちが、そのエンドロールに何を勝ち得ったのかという点が見えないと映画としてどうしてもカタルシスに欠けるんですよね。

 彼の作品はもちろん戦いのパート、つまりアクションパートを描くのは上手いんですが、それ以上にそのアフターケアが上手いんです。彼の代表作である「フェイス/オフ」でもそうでしたし、「レッドクリフ」でもそうでした。戦いがあって、そしてその戦いを通して登場人物が何を勝ち取ったのかをしっかり映像として観客に提示してくれるところに惚れてしまうんです。

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本作「マンハント」のラストシーンも極めて秀逸ですよね。ドゥ・チウ、矢島そして真由美の3人がそれぞれ戦いの果てに何を得たのかがきちんと描かれています。

まずドゥ・チウは自身の無実と愛、真の友情を手に入れたのだと思います。彼は冒頭に心を許していた女性の1人を失いました。そして自分が信用していた人物に裏切られました。彼は失ったものをきちんと取り返したわけです。

そして矢島は妻への思いの昇華と正義の追求を達成したように思います。百田が矢島の妻に似ているというのも重要な設定でしたよね。ラストシーンで彼女が彼の横を歩くことで、矢島が妻の死に誓った刑事としての正義を貫いたことが一層明確になったように思います。

最後に真由美は失った愛する人を得たのだと思います。彼女のフィアンセは結婚式を間近にして死んでしまいました。百田が最後に「最近はレトロ電車で結婚式をするのが流行っているらしいですよ。」と発言するのですが、これは真由美が何を得たのかを示すために重要なセリフでした。彼女は愛する人を失って止まった時間をようやく前に進めることができたのです。

 本作「マンハント」は大切な人を失った者たちの戦いであり、そんな登場人物たちが戦いの果てにそれを取り戻し、それぞれの新たな一歩を踏み出し、時間を解凍する物語だったわけです。

ラストシーンまでジョン・ウー監督らしい良さが詰まってましたね。

おわりに

ちなみになんですが、ドーン役として出演していたアンジェルス・ウーという女優さんは監督であるジョン・ウーの娘さんなんですよ。

こういう自分の家族を作品に出す監督を見ると、いかに自分の妻が映画映えするのかを追求し、挙句の果てには自分の娘までも作品に出し始めた「バイオハザード」シリーズのポール・W・S・アンダーソン監督を想起しますね。

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日本人の女優さんとしては、桜庭ななみさんは非常に存在感がありましたね。実写映画「進撃の巨人」で大半の役者が原作のキャラクターにそぐわないという惨状の最中で唯一と言っていいほどに「サシャ」役にぴったりとハマっていた印象が強いのですが、最近はあまり映画では見かけませんでした。



ただジョン・ウー監督の作品に出られたことで、彼女は女優として大きく成長できたのではないかと思います。アクションシーンこそそれほど無かったものの、新人刑事らしい演技がしっかりとハマっていて、作品を陰ながら支える名演技だったと思います。

総評としましては、やっぱりジョン・ウー監督作品はこれだから止められないということです。彼の持つ「画力」にいつも圧倒されてしまうんですよね。DC映画のザックスナイダー監督に通じるところもあると思います。

脚本や編集に粗が散見されましたが、それを補って余りある映像面の魅力で本作「マンハント」溢れていました。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。




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