みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『ポプラン』についてお話していこうと思います。
『カメラを止めるな!』で一躍「時の人」となり、その後も『イソップの思うツボ』や『スペシャルアクターズ』などの意欲的な作品を世に送り出し続けてきた上田慎一郎監督。
そんな彼が今回手掛けたのは、構想10年とも言われる企画で、しかもその設定があまりにもぶっ飛んでいます。
©映画「ポプラン」製作委員会
メディアで「イチモツ」なんてフレーズを耳にするのは、どぶろっくの歌ネタぐらいだと思っておりましたが、今作の映画の中心にあるのは、まさにその「イチモツ」です。
流石に「イチモツ」と呼称するのは厳しいのもあり、映画の中では「ポプラン」と呼称されていて、それがタイトルにもなっています。
皆さんは、このポスターを見て、率直に「アホらしい!」と感じましたか?
もし、「アホらしい!」「こんなの見てられない!」と感じた方がいましたら、そういう人にこそ、この『ポプラン』を見ていただきたいと個人的には考えております。
確かに設定はぶっ飛んでいますし、映画が始まってしばらくは「自分は何を見せられているんだ!」という気持ちになるかもしれません。
しかし、この映画が持つ独特の熱に乗せられ、物語が進むにつれて、思わず主人公に自分を重ねて、応援せずにはいられないような不思議な魅力がある作品です。
今回の記事では、そんな映画『ポプラン』について自分なりに感じたことを核心に触れない程度のネタバレを含みつつ、お話させていただければと思います。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
映画『ポプラン』
あらすじ
ある日突然どこかへいってしまった自分のイチモツを捜す男の姿を、奇妙でシュールな世界観とともに描いた。ある時、東京の上空を高速で横切る黒い影が目撃され、ワイドショーなどは「東京上空に未確認生物か」と騒ぎ立てる。一方、漫画配信で成功を収めた経営者の田上は、自分のイチモツがなくなっていることに驚く。自身のイチモツを捜す田上は、やがて同じようにイチモツを失った人々が集まる「ポプランの会」なる集会にたどり着く。
(映画comより引用)
スタッフ
- 監督:上田慎一郎
- 脚本:上田慎一郎
- 編集:上田慎一郎
- 撮影:曽根剛
- 照明:北川泰誠
- 音楽:鈴木伸宏 Lee Ayur
- 宣伝デザイン:ふくだみゆき
『カメラを止めるな!』や『スペシャルアクターズ』でも監督・脚本そして編集までを手がけてきた上田慎一郎さんは、今回もご自身で編集まで担当されたようです。
編集は「ファイナルカット」という言葉もあるくらいに映画の印象を決める重要な要素で、だからこそ編集まで担当したいというのが、彼なりのこだわりなどのだと思います。
『万引き家族』でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した是枝裕和監督なんかも同じく編集まで自分でというタイプですね。
撮影には『カメラを止めるな!』で日本アカデミー賞撮影賞を受賞した曽根剛さんが再び起用されています。
また宣伝デザインには、上田監督の妻で、ご自身も映画監督であるふくだみゆきさんが参加されているようです。
キャスト
- 田上達也:皆川暢二
- 達也の元ビジネスパートナー:アベラヒデノブ
- 達也の元妻:徳永えり
- 女性ジャーナリスト:しゅはまはるみ
- 達也の母:原日出子
- 達也の父:渡辺裕之
主人公の達也を演じるのは、映画『メランコリック』などでも知られる皆川暢二さんです。
冒頭から全裸でとんでもないポーズを決めたり、股間を押さえたり、男性特有の”あの痛”を表現したりと、かなりぶっ飛んだお芝居を求められたことと思いますが、全力でやり切っていたので、すごくグッときました。
他にも『カメラを止めるな!』で話題を集めたしゅはまはるみさんが友情出演的なポジションで出演されています。
主人公の両親役には原日出子さん、渡辺裕之さんと実力派の俳優が揃い、脇を固めていますね。
映画『ポプラン』感想(微ネタバレ)
構成がシンプルだからこそ映える「上田監督らしさ」
©映画「ポプラン」製作委員会
これまでの上田監督の作品、特に『カメラを止めるな!』はあれだけ話題になったので、ご覧になられた方も多いだろうと思います。
そんな『カメラを止めるな!』ですが、やはり皆さんの記憶に残っているのは、その特徴的な物語構造ではないでしょうか?
前半は劇中劇に徹し、後半にかけてその劇中劇の舞台裏を描くという独特の構造は注目を集め、異例の大ヒットを記録しました。
上田監督がそんな「カメ止め」以降に手がけたのは『イソップの思うツボ』『スペシャルアクターズ』『100日間生きたワニ』といった作品です。
この3作品も、やはり物語の構造に特徴があり、見終わった後の感想を見ていても、そこに注目している人が多かった印象を受けます。
こうしたフィルモグラフィー故に、上田慎一郎監督に「物語構成(構造)の人」という印象を持っている映画ファンがほとんどなんじゃないかなとも思うんです。
そうした期待を持っている人からすると、今回の映画『ポプラン』はいささか期待外れに感じられる作品になるのかもしれません。
なぜなら、これまでの上田監督のような「物語構造」に重きを置いた作品ではなく、至ってドストレートなヒューマンドラマだからです。
しかし、だからこそ上田慎一郎監督作品を通底する「人間賛歌」的な部分をダイレクトに感じられる作品ではないかとも思うんですよね。
『スペシャルアクターズ』についての記事でも書きましたが、上田監督は「どんでん返し」の人ではなくて、むしろ役者を活かす天才であり、人間を魅力的に魅せる天才だと思っています。
今作の主人公である達也は、正直いけ好かない人間だと感じることでしょう。上辺だけの薄っぺらいビジネスマンでしかありません。
©映画「ポプラン」製作委員会
しかし、物語を追うごとに、彼の情けなさ、後悔、哀愁、無邪気さ、そして失っていた情熱といった色々な表情が見えてきて、血が通っていくんですよ。
そうして、映画の終盤には、懸命にポプランを捕まえようとする彼を自然と応援してしまっているわけです。
『カメラを止めるな!』や『スペシャルアクターズ』では、特徴的な「物語構造」の陰に隠れてしまっていた、上田監督のそうした「人間を描く巧さ」が『ポプラン』では前面に出ていました。
人間って、最低で、愚かで、情けなくて、それでも微笑ましくて、温かくて、美しい。
映画を見終わると、昨日よりもちょっとだけ人間というものが愛おしく思えるような上田監督らしい「人間賛歌」をぜひ見届けていただきたいと思っています。
懐かしくて、ちょっと泣ける。童心に帰るためのロードムービー!
©映画「ポプラン」製作委員会
映画『ポプラン』は、前述の通りでヒューマンドラマに分類される作品ではありますが、もっと言うなれば「ロードムービー」なんですよね。
ポスターのキャッチコピーにもある通りで、家出をした「ポプラン(イチモツ)」を主人公の達也が追いかける形で物語が始まります。
そして、「ポプラン」が現れる場所は、自身の過去に関連のある場所であるという設定があり、それ故に達也は旅をしながら、自分の過去と向き合い、距離を置いてきた大切な人と再会を果たしていくのです。
会社を大きくするためにリストラした元ビジネスパートナー、東京で会社を興すために離婚した元妻と彼女との間に生まれた1人娘。
©映画「ポプラン」製作委員会
達也はビジネスで成功を収めるために、大切な人を切り捨ててきました。
「他人は自分の映し鏡である」なんて言葉もありますが、彼らは達也の分身ともいえる存在であり、だからこそ彼らを切り捨てることで、達也は自分自身をすり減らしてきたのです。
彼は、そんな大切な人と再会し、時間を戻すことはもうできないことを悟りながらも、置き去りにしてきた「自分」の存在に気がつき始めます。
そんな達也が最後に向き合うことになるのは、地元を離れて以来、疎遠になっていた父親です。
実家に帰り、自分が大好きだったマンガを読み返し、そして自分が幼少期に描いたマンガを見つけ、達也は少しずつ童心に帰っていきます。
それは、マンガを生業とする彼にとって何よりも大切なものなのです。
そうして、彼はようやく家出をしてしまった自身の「ポプラン」を眼前に捉えます。
「ポプラン」を捕まえるために用いられるのは虫網。そして傍らには、息子のために同じく虫網を携える父の姿。
子どもの頃の懐かしい風景が、夏休みの一幕のような光景が再現されるクライマックスを見ていると、映画『ポプラン』はこのイメージを可視化するために作られたのだと思わされます。
達也が虫網を振り回して捕まえようとしているのは自分のイチモツであり、テキストで読むと、こんなに「アホらしい」ことはないでしょう。
しかし、それを視覚的なイメージとして眼前に突きつけられたとき、近所の空き地で虫網を持って走り回ったあの夏の日を思い出さずにはいられなくなり、思わず涙が止まらなくなりました。
あの日から自分は大人になって、一体何を失ったんだろうか。そして何を失わずに持ち続けていられているのだろうか。
映画『ポプラン』は、主人公の達也が童心に帰り、人生の中で置き去りにしてきた大切なものを取り戻していく物語を描いています。
そして、この映画を見たあなたもきっと、ふと「あの日」に立ち返り、温かい気持ちになれるはずです。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『ポプラン』についてお話してきました。
設定こそぶっ飛んでおり、下ネタ全開ではありますが、その物語はすごく誠実な「人間賛歌」だと個人的には思っています。
90分ほどの短い映画なので、少し主人公以外のキャラクターの掘り下げが甘いかなと感じる部分もありましたが、終盤に父親との「共闘」シーンを見せられると、もう拍手を贈るしかなかったですね。
あっ、この光景を描きたくて作られた映画だったんだな…と腑に落ちました!
ぜひ、1人でも多くの方に、映画館でご覧になっていただきたいです。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。