【ネタバレ感想・解説】映画「全員死刑」:笑えるバイオレンス映画のラストに待ち受ける悲哀。

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね、映画「全員死刑」についてお話していこうと思います。

個人的には本作は、今年度新作映画の中でもぶっちぎりでナンバー1の問題作だと感じております。これは作品を批判しているのではなく、純粋な褒め言葉です。

もう道理も仁義もモラルも常識も、何もかもクソ食らえな世界観がそこにはありました。まさに「秒でアガる。」映画だったと思います。

今回はそんな映画「全員死刑」がなぜこんなにも面白いのか、徹底的に解説していこうと思います。

あらすじ・概要

 本物の不良少年たちを起用して描いた「孤高の遠吠」で注目された小林勇貴監督の商業映画デビュー作で、2004年に福岡県大牟田市で発生し、被告である家族4人全員に死刑判決が下った強盗殺人死体遺棄事件を映画化。死刑囚として獄中にいる次男の手記をベースにした「我が一家全員死刑」を原作に、未だその真相が解明されていない凶悪事件が描かれる。借金を抱え、困窮した生活を送っていた4人の家族。近所の資産家一家が脱税で蓄財していることを知った彼らは、資産家一家の金を強奪する計画を企てる。無謀な計画から1人が殺害されたことをきっかけに家族はさらに暴走。最終的に4人を殺害するまでエスカレートしていく。主人公の次男タカノリ役を「帝一の國」「トリガール!」の間宮祥太朗が演じるほか、長男役を毎熊克哉、両親役を六平直政、入絵加奈子、タカノリの恋人役を清水葉月がそれぞれ演じる。(
映画com.より引用)

予告編

解説:開始1秒で笑わせてきやがる

この映画の最初のカットが何かというと、女性の下着の股間部分の超クローズアップショットなんですよね。もうこの時点で、我々が普段から見ている映画とは、一線を画すものであるということが一目瞭然です。そしてそこから数十秒ほど、女性の股間部分を強調するようなカットが続きます。

映画「全員死刑」はR15指定の映画です。こういう作品を見に行く我々は、特に男性はどこかで期待しているんですよね。全年齢指定の映画では見れないエロい映像が見れるのではないかと期待しているわけです。もちろん私も期待しておりました。


ですので、あの開始早々のピンク映像は、「R15指定」という魔性の響きに誘惑されて劇場に迷い込んだ我々、とりわけ男性に対してのつかの間のサービスシーンだったんですよね。そして我々、特に男性は「良いものが見れそうだ・・・。」と鼻の下を伸ばすわけです。

しかし、少しづつクローズアップショットから遠巻きからのカットへと移行していくと、そこに鼻の下を伸ばして、グヘグヘと奇声を発しながら、彼女たちの股座を撮影している男性が映し出されます。

 これってまさしく映画を見ている我々(特に男性のことを指す)なんですよね。

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(C)2017「全員死刑」製作委員会 映画「全員死刑」予告編より引用

そしてその男性は、盗撮が発覚して別室に連れていかれると、巨漢の男にボコボコにされます。

 R15指定というエロスが漂う魅惑の響き。それにつられて劇場に迷い込んだ我々(特にオスのことである)。それが劇中でボコボコにされているあの男なのです。

 だとすると、男をボコボコにしているあの巨漢は、まさにこの映画「全員死刑」そのものなのだと思います。

冒頭のサービスシーンに鼻を伸ばし、更なるサービスシーンを期待している我々♂に、そんな映画じゃねえんだよ!!と言わんばかりの鉄拳制裁。映画「全員死刑」から観客の♂に向けた盛大な先制パンチが繰り出されたわけです。

この映画のとあるモチーフに観客を重ねるという解釈は、町山さんの映画「ブレードランナー」の冒頭の目のカットの解釈がとても印象的でした。あの目は、我々が近未来の世界をのぞき込んでいる目であると解釈されていました。


 

 映画「全員死刑」の冒頭の発情男性ボコボコシーンは、まさに煩悩とエロスに溢れた我々に対する映画からの目の覚めるような一撃だったわけですね。

解説:劇伴音楽が絶妙すぎる

まず本作では、クラシック音楽が印象的に使われています。ドボルザークの「スラブ舞曲第10番」であったり、ショパンの「バラード」であったり、リストの「愛の夢」といった何ともバイオレンス映画には不揃いなクラシックの名曲たちが、多数登場します。

クラシック音楽というと厳かで、荘厳なイメージを持っている方が多いと思います。1人で静かに、リラックスした環境で聞くというイメージが強いクラシック音楽が、あろうことか暴力映画に散りばめられているのです。

この音楽の使い方は映画「キングスマン」の教会での戦闘シーンで「威風堂々」が使われたところに似ていますよね。この「威風堂々」という行進曲は、イギリスで「イギリス愛国歌」や「第二の国歌」として非常に大切にされている曲です。それが流れているシーンで、しかも教会という舞台で、あろうことか英国紳士が大量虐殺をしてしまうという何とも不謹慎すぎるシーンに仕上がっていたわけです。

コリン・ファース
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2016-07-06


 映画「全員死刑」でも、クラシック音楽を全く不謹慎な使い方をしているわけですが、それがむしろ効果的だったんですよね。クラシック音楽が持つ独特の雰囲気や荘厳さが、映画そのものないし作中の暴力描写に付与されたのです。

また、人を殺して、薬で錯乱状態のタカノリが病院で待つ恋人のものに走っていくときに、テクノ調のラブソングを使っているところもトリップ感があって面白かったです。

加えて、ベッドシーンで流れていたのは「夜感リサイタル」ですかね?あれはベッドシーンがすごく滑稽に見える珍妙な演出でした。

そして一番面白かったのは、ラストですよね。タカノリがその後どうなったのか?という説明がスクリーンに映し出されます。その説明の最後にはこうありました。

 「彼は法廷でメリークリスマスと叫んだという。」

その刹那流れるクリスマスソング・・・。完全に笑いを取りに来てますよね。

この映画の音楽の使い方として目立ったのが、シーンの性質とは真逆の性質を持つ音楽を当てはめるという手法を取っていた点です。明るいシーンで敢えて暗い音楽を流したり、暗いシーンで敢えて明るい音楽を流したりしています。このギャップがまた面白いんですよね。

感想:間宮祥太朗の演技が突き抜けている

間宮祥太朗がこれまでどんな作品に出演していたのかを知らなかったので、調べてみました。「ヴァージン」「黒い暴動」「ライチ光クラブ」「高台家の人々」「帝一の國」「お前はまだグンマを知らない」「トリガール」・・・。なんと見事に1作品も見たことがありません。

ということで、今作「全員死刑」が初めて鑑賞した間宮祥太朗出演作品になりました。

 正直言って度肝を抜かれました。狂っていく人間を演じさせたら日本の俳優で右に出る者はいないんじゃないかと感じさせてくれるほどに強烈で、鮮烈な演技でした。

タカノリは冒頭では普通のチンピラと言いますか、不良的なイメージを出ないキャラクターです。パッと見は、好青年にすら見えますし。友人を殺すことに躊躇いを見せたり、恋人との関係に悩んだりする普通の青年なんですよね。ただ家が家なだけにしぶしぶそうせざるを得ないということで犯罪の片棒を担いでいるという印象でした。

しかし中盤に、友人の弟ショウジを殺害したあたりから完全に狂気へと真っ逆さまなのです。

特に素晴らしいと感じたのが、ベッドで寝ている恋人に話しかけていた時の完全に薬でラリっている表情ですよね。殺人という心的外傷が、彼を薬へと溺れさせ、どんどんと人格を蝕んでいっている様が端的に表されています。

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(C)2017「全員死刑」製作委員会 映画「全員死刑」予告編より引用

 全体的に見ても、前半部分と後半部分ではタカノリの顔つきが完全に変わっています。そして間宮祥太朗の演技の素晴らしい点は、明らかに狂っているというよりも、静かに内面的な「狂気」を視覚的に表現している点なんですよね。

前半部分では彼の中にあった、彼の精神を支えていた何かが静かに音も無く壊れていく様を、その圧倒的な演技力で表現して見せた点は言うまでもなく素晴らしいです。

今後の出演作にも期待が高まる邦画史に名を刻む怪演でした。

小ネタがどれもハイセンス

映画「全員死刑」は最初から最後まで、小ネタの連続連続で劇場を笑い声に包み込みます。ここではその中のいくつかを小見出し的に紹介していこうと思います。


・首塚家のリビングは格言だらけ!?「感謝は大切」?「隣の人を愛せよ」?

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(C)2017「全員死刑」製作委員会 映画「全員死刑」予告編より引用


・ボコボコにされて寝たきりになってるタロちゃん自慰行為しすぎ!!


・ピンクバックの挿入節がいちいち秀逸すぎ!!

・ユーチューバー「おわりたいちょー」は草!!

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(C)2017「全員死刑」製作委員会 映画「全員死刑」予告編より引用


・〇ェラした後は、イチゴ練乳に限るよね!!

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(C)2017「全員死刑」製作委員会 映画「全員死刑」予告編より引用

・サトシの恋人、ミニトマトの食べ方がエロすぎる事案!!

・「死体としたい」おじさんが怖すぎる件!!


・国民的ふりかけ「のりたま」が熱い風評被害に!!

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(C)2017「全員死刑」製作委員会 映画「全員死刑」予告編より引用


・母ナオミ、パトラを薬で昏睡させて歓喜の雄たけび!!


・パトラの首締めながらタカノリが飲んでいた謎のジュースの正体とは!?

・母ナオミ、息子に「しっかり(首を)締めなさい!」と教育的指導!!


・タロちゃんミュージカル仕立てで美女とベットイン!!


・アイスピックは心臓を突くものじゃありません!!

いやはやもう劇場が終始笑い声に包まれていたのが、本当に印象的でした。小ネタが散りばめてあるので、エンドレスでゲラゲラ笑い続けてしまうんですよね。

(C)2017「全員死刑」製作委員会 映画「全員死刑」予告編より引用


考察:ショウジの幻影の正体とは何だったのだろうか?

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(C)2017「全員死刑」製作委員会 映画「全員死刑」予告編より引用

タカノリは友人の弟ショウジを殺害します。その時のショウジの眼球の飛び出した異形の表情が幻影となって、作中で何度かタカノリに襲い掛かります。

いったいこの幻影とは何だったのだろうか?と言う点については考察の余地が残されているように思います。

まず一番現実的な説が、薬で興奮状態にあるときに見る幻影ということですよね。これはもちろん考えられます。あとは、「死のイメージ」という抽象的概念として存在し、人殺しをするたびに彼に迫って来るという説も考えられますね。この2つは十分に可能性のある説ですよね。

 そして私が今回提唱したいのは、あの幻影はタカノリの善の心、良心だったという説ですね。

これを考えるに当たって、今回の考察は本作が大牟田の殺害事件に関連しているという事実を一旦無視しているものとします。あくまで本作「全員死刑」という映画作品の中で起こった事件ないし、出来事として仮定した上で進めていきます。

人は先天的に「殺人犯」なのではなく、後天的に「殺人犯」になるという意見があります。つまり生まれながらに「悪」を内在させた人間は存在していなくて、その人が育った環境が「悪」を生み出し、そして「殺人犯」を生み出すのであるということです。私は、個人的にこの考え方を支持しています。

昨今のイスラム教界隈を巡るテロ問題にもこのことが当てはまりますよね。テロ問題にはイスラム教徒が関わっているというイメージが先行して、テロ問題には関係の無かったイスラム教徒たちまでもが不審の目で見られ、虐げられ、差別される社会風潮がさらなるテロを引き起こしているのです。つまり「環境」がテロを産んでいるという見方も十分に可能というわけです。

本作「全員死刑」の主人公タカノリには、すごく優しい一面と言うか常識的な一面もあるんですよね。前半部分ではそういった彼の普通の人間らしい側面も垣間見る事ができました。

しかし、彼の家庭環境は彼がまっとうに生きることを許してはくれません。そんな家族と言う悪しき環境への強い依存性が徐々に彼の中に「悪」を生み出し、彼を「殺人犯」へと変えていくのです。

そしてタカノリは、ショウジを殺したことで完全に精神的に崩壊してしまいます。彼の中にあった何かがぽっきりと折れてしまい、「悪」が彼の心を支配してしまいました。

 「悪」に身を委ね、狂気の闇へと堕ちていくタカノリ。次々に殺人を繰り返し、その心は完全に壊れてしまったのでした。しかし、彼の中にはまだ「善なる心」が「良心」が残っていたんでしょうね。「悪」に支配されつつある彼の中で、「良心」が悲鳴を上げているのです。

そしてその悲鳴がイメージとして現出したものがショウジの幻影だったと思うのです。どんどんと狂っていくタカノリ。何人もの人を殺した自分は、もうまっとうな人間に戻れないことは明白です。しかし、彼の中に残ったもう表出することもない「良心」だけがショウジの幻影を現出させることで、空しい抵抗を繰り広げているのです。

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(C)2017「全員死刑」製作委員会 映画「全員死刑」予告編より引用

 こう考えてみるとラストシーンも切ないですよね。もはやタカノリは逮捕されることも悟っていたでしょう。水の中に潜ると、ショウジの幻影がまたもや現れます。彼の中にある「良心」はもはや彼を救えないのです。家族という「環境」が生んだ「殺人犯」の悲哀があのシーンに垣間見えます。

タカノリも普通の家族の下に生まれて、普通の生活をしていたら「殺人犯」になることは決してなかったでしょう。しかし、あの家族の下に、あの「環境」に生まれてしまったことが運の尽きだったのです。

私は殺人を犯した人を擁護したいわけではありません。ただ生まれつき「殺人犯」である人などいないということは確かだと思います。「殺人犯」を作り上げるのは、その人自身ではなく、その周囲にいる人なのかもしれません。

 ショウジの幻影に苦しむタカノリの姿は不幸の星に生まれた者の悲哀に満ちていたようにすら見えました。

おわりに

終始恐ろしい作品ですし、グロテスクなシーンも多数登場します。しかし、ゲラゲラと笑えてしまう。このギャップがすごく心地の良い作品だったと思います。

そしてラストシーンのフィルム・ノワール的な悲哀に満ちた雰囲気もすごく印象的で、良い意味で余韻を生んでくれました。

また主演の間宮祥太朗の演技は今年の邦画男性俳優の演技の中でもトップクラスのものだったと思いますし、間違いなく邦画史に名を刻む名演技でした。

小規模上映作品ながらこれほどまでに素晴らしい作品を作り上げてくれた小林勇貴監督に拍手を贈るとともにこの記事を締めくくらせていただこうと思います。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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2 件のコメント

  • どうでもいいことですが、キングスマンにおける威風堂々が使われているシーンは教会での戦闘ではなく上流階級の頭に内蔵されたチップが次々と爆発していくシーンなので、不謹慎さを表現しているのは同じですが、身勝手な上流階級へのしっぺ返しにある種の爽快感を込めた演出だと思うので微妙に意味合いが違うような気がします。
    それはそうと、この映画のキャストの演技は本当に素晴らしいですね。
    息子二人の若いヤクザの狂暴さと狂気の表現は凄まじいですし、父親の情けなさとコンビニでのヤクザとしての凄みの演じ分けも目を見張るものがありましたね

  • 通りすがりさんコメントありがとうございます。
    シーンがズレてましたね!失礼いたしました!!
    演技素晴らしかったですね!個人的には母親が凄かったなぁと思いました(^ ^)

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