(C)2018「旅猫リポート」製作委員会 (C)有川浩/講談社
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『旅猫リポート』についてお話していこうと思います。
本作は作品の核心に触れない程度のネタバレを含む感想・解説記事になります。作品を未鑑賞の方にも読んでいただけるよう配慮しながら書いていきますが、前情報なしでご覧になりたいという方はご注意ください。
良かったら最後までお付き合いください。
『旅猫リポート』
あらすじ
野良猫のナナと彼に餌をあげて可愛がっていた青年の悟。
ある日ナナは夜道で車に轢かれてしまい、重傷を負ってしまいます。
偶然か必然か、その現場に駆け付けた悟の対応もあり、ナナは一命をとりとめました。
その自己をきっかけとしてナナは悟の飼い猫になります。
それから5年間、ずっと一緒に暮らしてきた1人と1匹。
しかし、とある事情がきっかけで悟はナナを手放さざるを得なくなります。
これまでの人生で出会ってきた友人たちを訪ね、ナナの引き取り先を探す中で悟は自分の本当の思いに向き合っていくこととなります。
そこには悟という穏やかな青年像からは想像もつかないような暗い過去がありました。
1人と1匹が迎える旅の結末や如何に?
スタッフ・キャスト
本作の原作は有川浩さんの同名小説となっています。
劇作品の脚本を執筆した経歴があることでも知られる有川さんが、舞台化することを目標にして書き始めたのがこの『旅猫リポート』であると言われています。
舞台版は2013年の上演されていますが、この時にも有川さんは脚本として参加されています。
そのため映画版にも有川浩さんの名前が脚本クレジットされていますよね。
そして彼女の劇作品向けの脚本を映画用にコンバートする上で一躍買ったのが、平松恵美子さんということになるんでしょう。
平松さんは近年の山田洋次監督作品の脚本を担当されていることで知られています。
『小さなおうち』や『母と暮らせば』、『家族はつらいよ』といった作品の脚本を担当されているんですね。
そうでした。本作『旅猫リポート』の監督を務めるのは、三木康一郎さんです。
やはり彼の代表作と聞かれると同じく有川浩さんの小説を映画化した『植物図鑑』ということになるでしょう。
正直に言わせていただくと、この映画版はあんまり好きではなかったですね。
小説は大好きだったんですが、その良い材料を映画としてあまり調理しきれていない感が強かったです。
まず、本作の主人公である悟を演じるのが福士蒼汰さんですね。
正直に言わせていただくと、福士さんにあまり演技が上手いイメージがなかったんですよ。
『江ノ島プリズム』ですとか『好きっていいなよ。』、『ストロボエッジ』等に出演されていた時って演技が「金太郎飴」状態で、どの作品を見ても同じだなぁと思っていました。
あとは中川大志と見分けがつきませんでした(笑)
ただ、ここ最近は演技力がすごく上がったなと感じさせられることも多いんですよ。
三池崇史監督の『無限の住人』『ラプラスの魔女』ですとか、三木孝浩監督の『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』といった近年の作品では好演を立て続けに披露していて、役者としての成長が顕著です。
特に素晴らしいと感じるのが「眼」の演技なんですよ。これは『ラプラスの魔女』や『無限の住人』の時に顕著でしたね。
眼力が凄いというよりも、「眼」で心情を語れるんですよね。ぜひ注目して見て欲しいと思います。
参考:【ネタバレあり】『ラプラスの魔女』:注目してほしいのは福士蒼汰の「眼」の演技だ!!
そんな福士蒼汰さんの演じる悟の幼少期を演じるのが田口翔大くんという子役なんですが、彼がまた凄いんですよ。
福士蒼汰さんの独特の眼の演技や、表情の作り方をしっかりと研究していて、それを自分の演技にきちんと反映させているんですよね。
そして猫のナナの声を演じるのが高畑充希さんですね。
ナナは自称「誇り高きオス猫」ということで、性別はオスになるのですが、高畑さんの声なら問題ないですね。
またネタバレになるので役どころの解説はできないんですが、とある役で竹内結子さんが出演されています。
いや・・・嘘でしょ・・・。アラフォー?若すぎるでしょ!!美人すぎるでしょ!!
竹内さんを久しぶりに映画で拝見したような気がするのですが、あまりの「若々しさ」に驚愕でした。
他にも悟の高校時代の同級生役として広瀬アリスさんが出演していますね。
本作の劇伴音楽を担当されたのはコトリンゴさんです。
アニメ映画版の『この世界の片隅に』に参加されていたことで大きな話題になりましたよね。
後ほど詳しく解説していきたいと思います。
より詳しい作品情報を知りたい方は公式サイトへどうぞ!
ここからは映画の感想や解説になります。
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『旅猫リポート』感想
人と人との繋がりが希薄な社会になりつつある今だからこそ見たい映画
保健所に捨てられた犬や猫が殺処分されるという事実をおそらく多くの人がご存じかと思うんですが、実は近年は殺処分されるケースが年々減少傾向にあります。
これは動物愛護団体やその他の団体の功労あってのものなのですが、その一方で年々件数が増加している目を塞ぎたくなるような事実があります。
それは児童虐待や育児放棄の件数なんですよ。特に児童虐待は約30年近く、増加傾向にあるという異常事態です。
今、我々が生きている社会というのは「血縁家族」ですらも繋がりが保証され得ない時代へと突入しつつあります。
人と人との、家族と家族との繋がりが希薄化する時代の中で『旅猫リポート』という作品は優しいタッチで我々に寄り添ってくれるような映画に仕上がっていました。
悟という青年が「家族」のように大切に思っている猫。
そんな大切な猫を引き受けても良いと言ってくれる彼の小学校、中学校、高校時代の友人たち。
そういう友人がいてくれるということがどんなに大切で、心強いかということを感じさせられます。
また、見終わった後に無性にかつての友人や自分の家族に、そしてペットに会いたくなる映画でもあると思います。
人は気がつかないうちに誰かと関わりを持っていて、誰かに支えられて生きている、そんな当たり前だけれども、普通に生きていると気がつかない事実をふと思い出させてくれます。
悟が自分が今まで生きてきた道のりを辿るような物語であり、そうすることでかつては気がつかなかった自分の思いや相手の思いに気がついていくようなロードムービーになっていると思います。
ぜひ劇場でご覧になってみてください!!
喋る猫はミスマッチ?
本作『旅猫リポート』は個人的にも非常に感動した映画なのですが、それでも本作の「喋る猫」が映画にマッチしていないことは指摘しなければならないでしょう。
まず第一に動物がベラベラと喋る演出があまり感動的な物語に適さないと思うんです。
動物がしゃべる映画と聞くと、『ドクタードリトル』や『キャッツ&ドッグス』、『ベイブ』のような作品を思い出すんですが、どの作品も結構コメディ要素が強めです。
もちろん『ベイブ』なんかは感動要素もありますし、動物が話す映画であっても感動系の映画はあります。
ただ『旅猫リポート』ってかなり重たい映画でして、中盤くらいまではしゃべる猫のコミカルさも悪くはないんですが、終盤になってくるとひたすらに映画から浮いていてくどいんですよね。
『旅猫リポート』はロードムービーという性質もあるので、かなり映像的にも力が入っていて、美しい風景のショットも多く登場するんですが、その度に高畑充希猫のセリフがダラダラと垂れ流されるので、映画としての「味わい」が乏しいです。
さらに言うと、ただでさえ高畑充希猫がうるさいのに、劇中では他の動物まで喋り始めるので、いい加減にしてくれよ・・・となってしまいました。
またもっと言うなれば、高畑充希のボイスアクトは間違いなくコメディ向きです。あれはどう考えてもヒューマンドラマ向きの演技では無かったです。
もう少し声に癖がない女優か声優が配役されていれば、もう少し映画に入り込めたと思うんですが、良くも悪くも高畑充希さんの印象が強すぎて映画にはミスマッチだったと思います。
もっと映像で語って欲しい
元々有川浩さんが舞台で上演するために脚本を書いたのが、本作が執筆されることとなった経緯だということですが、それが本作の映画としての完成度の低さに繋がっているような気がします。
演劇においては、映像はありませんので基本的には役者の言動が作品を表現する大半の役割を果たすこととなります。
その上、見ている人にどんな状況なのか、どんな心情なのかを伝えようとすれば、やはりそれは口に出して、身振り手振りで示さざるを得ないわけです。
一方で映画には映像があります。そうなってくると、必ずしも俳優陣にセリフで状況説明や心情表現をさせる必要はありません。
映画の「見える」という特性を全く生かし切れていないと感じました。
そして観客を惹きつける「パンチライン」になるような映像もありません。
とにかく登場人物がひたすらに話して話して、そのセリフで全てが進行していきます。
最近の邦画大作はこういう「安っぽい」脚本や演出に従属している傾向が強いですが、『旅猫リポート』はそのど真ん中を突き進んでくるような「よくある邦画大作」でした。
日本映画はもっと物語や”泣ける”ではなく、映像で人の心を動かしていかないと・・・。
『旅猫リポート』の宣伝も、モニター上映で泣いている人たちの映像を採用していました。
泣ける=映画的に素晴らしいに直結するかと言われたら、それはしません。
ただ日本ではどうやら「泣ける=良い映画」といった風潮が根強いんだと思います。
ちなみに私は『旅猫リポート』に関しては感動はしましたが、映画としてはイマイチという総評です。
せっかく映像的には「パンチライン」になりそうな素材も転がっていたわけですから、もっとそこで俳優のセリフに頼るのではなくてじっくりと映像を見せる「勇気」があっても良かったんじゃないかと思います。
どこか舞台的な脚本だったので、映画としては映えないものになっていた印象です。
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映画『旅猫リポート』解説
コトリンゴという涙腺破壊機!
やはり映画『旅猫リポート』を語る上で欠かせないのが、コトリンゴさんによる劇伴音楽です。
正直に言うと、私個人的にはこの映画の素晴らしいポイント、感動ポイントは「コトリンゴ」一択ですよ。
まず、「コトリンゴ」という特徴的な名前は彼女が好きな「コトリ」と「リンゴ」を組み合わせたものです。
ちなみに注目され、デビューするきっかけとなったのは、坂本龍一さんのラジオ番組に楽曲を送ったことだったそうですよ。
コトリンゴさんの曲の最大の特徴は、日常の何気ないことに楽しみを見出していくようなメロディと歌詞にあると個人的には考えています。
例えば映画『マイマイ新子と千年の魔法』の主題歌にもなった「こどものせかい」は子供視点で見た美しい風景の機微を瑞々しいタッチで切り取った一曲になっています。
他にも2017年に発売された「雨の箱庭」というアルバムは「雨」というモチーフを準えた楽曲たちが収録されています。
これを雨の日に聞くと、憂鬱な気分が晴れて思わず軽快なステップでも踏みながら、外を散歩してみたくなるような楽曲たちが耳に心地よいです。
このようにコトリンゴさんの楽曲というのは、優しいメロディの中に「日常の機微や隠された楽しさ」みたいなものが宿っていて、聞いていると自然と頬笑んでしまうような不思議な魅力に満ちています。
猫と人が戯れているような掛け合いの曲にもなっている一曲もあれば、映画の終盤の空気感に合わせた讃美歌の様にも聞こえる美しい一曲もあり、文字通りこの映画を音楽で「彩って」います。
今回の劇伴音楽に関して監督からコトリンゴさんには次のような要望があったと言います。
またコトリンゴは「今回、音楽を作っていく上での監督さんからのアドバイスの一つに、観てくださったお客さんが思わず口ずさんでしまうようなテーマだといいな、という言葉がありました。シンプルなようでいて難しく、でもとても大切な事だと思い、制作中は何度も振り返っていました」と語っている。
このコメントを踏まえて楽曲を聞いてみると、すごく口ずさみやすい歌詞とメロディラインになっていることに気がつきますね。
分かっていたけれど、奇跡は気まぐれなんだもの。
キャッチーなフレーズなんですが、映画を見終えてからこの一節を聞くと、無性に涙がこぼれます。
親しみやすさとコトリンゴらしさを兼ね備えており、それでいて映画に寄り添った楽曲になっているので、完全に涙腺を破壊しに来ています(笑)
皆さまも映画『旅猫リポート』を見る際は、ハンカチのご準備の方をよろしくお願いいたします。
一人と一匹、リンクする生き方(一部ネタバレ注意)
悟とナナ。その1組のコンビは何とも不思議な繋がりによって結ばれています。
元はどこかの飼い猫でしたが、捨てられてしまい野良猫として生きていたナナ。
そんな1人ぼっちで生きるナナを救ってくれたのが悟でした。
一方で、悟には暗い暗い過去があります。
両親を早くに失くしてしまい、親戚が自分という存在を押しつけ合っている様を見せつけられた経験は彼の心に大きな影を落としていたのでしょう。
そしてどん底の悟の希望になったのが、当時彼の飼い猫だったハチでしたよね。
だからこそ、あの日悟が交通事故で瀕死の状態になったナナを見つけたのは偶然ではないんだと思えます。
出会うべくして出会い、寄り添うべくして寄り添うことになった1人と1匹なのです。
バディムービーと呼ばれるものはこの世界に数え切れないほど存在しています。
その中でも『旅猫リポート』のコンビが無性に愛おしく思えるのは、彼らが同じ境遇であり、お互いに相手を自分を救ってくれた存在だと認識しているからなんだと思います。
同じ苦しみを味わったからこそ、同じ喜びと幸せを共に噛みしめることができる。
最高の似た者同士コンビだと思いました。
また、本作は有川浩さんらしい「家族再生劇」とも言えますよね。
『フリーター家を買う』や『ストーリーセラー』、『ヒア、カムズ、ザ、サン』、その他の作品でもですが、有川さんはしばしば家族のテーマを作品で扱います。
そして、物語の冒頭時点では決まって家族の間には軋轢があったり、問題が生じていたりします。
そんな立ちはだかる壁を物語を通じて乗り越えていき、家族としての連帯を強めていくというのが有川さんの「家族再生劇」の雛型でもあります。
『旅猫リポート』という作品もまた、「家族再生劇」なんでしょう。
幼い頃に両親を失った悟にはおおよそ「家族」と呼べるに値する存在がいなくなってしまいました。
さらに当時大切にしていた猫でさえも一緒に暮らすことはできなくなり、1人ぼっちで生きてきました。
そしてそんな悟と似たような境遇を辿ってきた猫のナナ。
同じような道を歩んできたからこそ、2人は「家族」のような繋がりを形成していくことになるわけです。
だからこそ『旅猫リポート』という作品は、旅を通じて、昔の仲間と再会する中で、悟が少しずつナナに対する気持ちを変化させていき、1人と1匹が本当の家族になるまでを描いた「家族再生劇」なのです。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『旅猫リポート』についての感想や解説を書いてきました。
公開からしばらくしましたら、もう少し踏み込んだネタバレを含めた解説も書いていこうかと思います。
秋の涼しくなった季節にゆったりと映画館で見るには悪くない作品です。
ぜひ日頃の疲れをナナの愛らしい姿を見て、癒してきてください!!
割と映画としては良くないだのなんだと書いてきましたが、そんな当ブログ管理人ですら号泣しておりました。
私の隣に座っていた人なんかポップコーンをモリモリと食べながら号泣してましたからね・・・。
映画『旅猫リポート』ぜひぜひご覧ください。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。