【ネタバレあり】『パパはわるものチャンピオン』感想・解説:「わるもの」を受け入れる親子の物語

アイキャッチ画像:(C)2018「パパはわるものチャンピオン」製作委員会

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『パパはわるものチャンピオン』についてお話していこうと思います。

この記事は作品のネタバレになるような内容を一部含む感想・解説記事になります。作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。

 

『パパはわるものチャンピオン』

あらすじ

かつては人気レスラーとして活躍していた大村孝志は膝の怪我と若手の台頭が原因で覆面レスラーへと転向していました。

その上彼は、いわゆる「ヒールレスラー」として活動していました。

その名前はゴキブリマスク。人気レスラーの敵役として登場し、姑息な手を使って彼らを苦しめるも最後には敗北してしまうというポジションでした。

彼の息子の祥太は、小学生になっていましたが未だ自分の父親がどんな仕事をしているのかを知りません。

祥太は父親の仕事を知りたいと思い立ち、孝志がプロレスの試合会場に向かう車に忍び込みます。

その先で見たのは、父親が「わるもの」として闘う姿でした。

父親に憧れていた祥太はそんな父の姿にショックを受け、「大嫌いだ。」と言い放ち去ってしまいます。

孝志祥太は「わるもの」を受け入れることができるのか・・・?

 

スタッフ・キャスト

原作は板橋雅弘吉田尚令による人気絵本「パパのしごとはわるものです」「パパはわるものチャンピオン」ですね。

板橋雅弘「BOYS BE…」シリーズでも知られる作家で、プロレスの大ファンなんだそうです。吉田尚令さんはイラストレーターですね。この2人がコンビを組んで描かれたのがこれらの絵本ということになります。

監督は藤村享平さんですね。と言ってもフィルモグラフィーをチェックして見たところ、私が知っている作品は無かったですね。映画やドラマ、ミュージックビデオなんかも手掛けているようです。

主人公の孝志を演じるのは現役プロレスラーの棚橋弘至さんですね。

41歳になっても現役バリバリでチャンピオンベルトを目指し続けている棚橋さんは一見、孝志とは全然違うプロレスラーに思えますが、そのキャリアの中で何度も大怪我に見舞われ、怪我明けの不調に苦しみながら「プロレスが大好きだ」という思いだけで這い上がってきたという点で共通点を見出すこともできると思います。

そんな孝志の息子祥太役を演じているのが人気子役の寺田心くんですね。

CMなどで一躍時の人となった彼ですが、「演技がわざとらしい」などという理由で容赦のない批判に晒され、苦しい思いをしてきたのではないでしょうか。

ナガ
確かに演技をしている感は花につくかもしれないね。

ただ、私はそんなに違和感を感じてはいません。確かに子供っぽくない雰囲気を彼の演技の中に感じることはあるのですが、彼にとってはもはやあれが素の演技なのではないかと思うんですよね。

ただ寺田くんが「世間の嫌われ者」的な側面を持っていることが、この『パパはわるものチャンピオン』という映画においてはむしろ良い方に機能していたのではないかとすら思えます。

その他にも今や絶大な人気を誇っているプロレスラーのオカダ・カズチカさんも出演していますね。

ナガ
声優の三森すずこさんとの交際報道が出た時は、ネットが騒然となったよね。

『ラブライブ』などに出演し、人気に火がついたアイドル声優の三森すずこさんとの交際宣言をし、話題になったレスラーでもあります。ちなみにオカダカズチカさんと棚橋弘至さんの対決はプロレス界でも1つの名物となっていて、まさに因縁の関係とも言えます。

他にも真壁刀義田口隆祐といった人気プロレスラーが数多く出演し、プロレス映画としてもかなり豪華な内容となっております。

そして孝志ないしゴキブリマスクの大ファンであるプロレスオタクの雑誌編集者、大場ミチコを仲里依紗が演じています。

ナガ
仲里依紗のオタク役って最高だよね!

この映画のキャスト陣のMVPを決めるとしたら、やっぱり仲里依紗さんを挙げたいですね。

圧倒的オタク感ですよ!!好きなものに一直線で他のことは見えないし、ちょっとコミュニケーションが苦手という風変わりな役を見事に演じきっていました。彼女は王道ヒロインよりもこういったちょっと変わった役の方が似合いますね。

豪華俳優陣と、豪華プロレスラーが終結した見応えの映画となっておりますね。

より詳しい情報は映画の公式サイトからどうぞ!

ナガ
ぜひぜひ劇場でご覧ください!!

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『パパはわるものチャンピオン』感想・解説

父親と息子、それぞれの目線から描かれる「わるもの」の受容

私が、この映画『パパはわるものチャンピオン』で素晴らしいと感じたのは、父親と息子の両方からの矢印がきちんと描かれていたことなんですよね。

プロレスラーとして息子のために再びヒーローになろうとする父親の葛藤だけを描いているのでも、「わるもの」の父親をどうやって受け入れるのかに苦悩する息子だけを描いているのでもないんです。

その両方を1つの映画の中で描き切れているからこそ見ていて説得力があるように感じられました。

 

息子の視点から見る「わるもの」の受容

男の子って誰しも最初は父親の背中を見て育つ生き物だと思うんですよ。私自身もそうだったと思います。

でも、そんな父親がみんなの嫌われ者だったらどうしたらいいのでしょうか。

自分が憧れていた父親がヒーローではなく、「わるもの」なんだと知ってしまった時、父親に対する気持ちにどうやって折り合いをつけたらよいのでしょうか。

そんな小学生の祥太の悩みはすごく現実的だと思います。

そして祥太は自分の父親がゴキブリマスクというプロレスラーであることを学校で言い出せずに、なし崩し的に自分の父親がドラゴンジョージ(オカダカズチカ演じるスタープロレスラー)であると嘘をついてしまいます。

しかし、そんな嘘は結局は暴かれてしまうものですし、その結果彼は学校で嫌われ者になります。父親がゴキブリマスクであることが発覚し、思いを寄せていた女の子には、嘘を吐くなんて最低とバッサリと言われてしまいます。

そうしてやっと彼は、自分が父親に言ってきた酷い言葉の重みと「わるもの」として生きることがどれだけ勇気のいることなのかを身をもって知ることになるんですよ。

また、この祥太の物語の興味深いところは、彼が「わるもの」としての父親を小学校というコミュニティを通じて受け入れていくところだと思っております。

小学生の頃ってまだまだ想像力に乏しいですから、自分の身に起こっていないことを想像するのが難しいんですよ。先生がしばしば「相手の立場になって考えてみなさい」なんて言葉を投げかけますが、まだ相手の立場になってという想像が出来ない年齢ですし、自分の見に実際に起こってみないことには理解できないんですよ。

だからこそ祥太も自分が父親に放っている言葉の重みを理解していません。

「わるもののパパなんて大嫌いだ。」

その一言がどれだけ相手を傷つけているのかを理解しきれていないんです。

ただ、自分が小学校というコミュニティの中で「わるもの」になってしまった時に、初めて自分が大好きな女の子から「大嫌い」という言葉を投げかけられてしまいます。

そうなって初めて彼は学ぶこととなりました。

自分が嘘をついたり、卑怯な手を使ってまで彼女に好かれようとしたように、父の孝志だって家族のために必死でプロレスを続けていたことに。自分のためにマスクを脱ぎ捨てて、ヒーローになろうとしたことにです。

そんな父に「大嫌いだ。」と言い放ってしまったこと。

そうしてようやく「わるもの」の父親を受け入れて、父親への憧れと愛情を取り戻す祥太の姿に非常に感動しました。

 

父親の視点から見る「わるもの」の受容

孝志はプロレスが大好きで、プロレス一筋で生きてきた人間です。

かつてはプロレス界のヒーローとして君臨していた彼ですが、膝のけがが原因で一線から退くこととなってしまいました。その後長い間、覆面レスラーとして活動しています。

しかし、自分がゴキブリマスクというヒールレスラー(悪役を演じるプロレスラー)であるということを息子の祥太には言えずにいるんですよね。

それは彼自身がヒールレスラーというものに対してどこか劣等感や負い目を感じているからに他なりません。

かつてヒーローだった彼は、ゴキブリマスクとして戦うことに、それが恥ずべきことであるという意識を無意識に抱いていて、だからこそ息子にそれを明かすことができないでいますし、自室にあるヒーローだった頃の栄光を捨てられずにいます。

「わるもの」として闘いながらも、一番「わるもの」を受け入れられていなかったのは、彼自身なのかもしれません。

Z1グランプリ(おそらくG1のこと)に出場し準決勝に勝ち進んだ際に、マスクを取ってしまった孝志。これはまさしく自分の中で捨てきれなかったヒーローというものへの憧れと、自分の息子のためにヒーローでありたいという思いの表出です。

しかし、そんな時に息子の祥太は必死に「わるもの」の父親を受け入れようとしてくれていました。

それに気がついた時に、ようやく孝志はヒールレスラーとして活動することを一番恥じていたのは自分自身だということに気がついてしまうんですね。

孝志は自分が今、息子に見せなければいけないのはヒーローとして闘う自分の姿ではなく、誇りをもって「わるもの」として闘う自分の背中だとようやく理解しました。

もちろん彼がその答えを出すのはプロレスのリングの上です。大村孝志としてではなく、ゴキブリマスクとしてリングに上がるという選択をすることで、彼自身もようやく「わるもの」であることを受け入れられたのです。

この父親と息子のそれぞれの物語が互いにリンクしていて、自分なりの形で「わるもの」という存在を受け入れていくプロセスに本当に感動しましたし、ぜひとも多くの人に見て欲しい内容だと感じさせられました。

特に原作が絵本ということもありますが、ぜひぜひ親子で見に行ってほしい映画でもありますね。

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プロレスラーと天才子役、2人の「素」

本作で、主人公の大村孝志を演じているのは先ほどもご紹介した現役プロレスラーの棚橋弘至さんです。

一方で、その息子、祥太役を演じているのが天才子役とも言われている寺田心くんですね。

今回は本作における2人の「素」の演技に注目してみました。

 

寺田心君の「素」

芦田愛菜さんと一緒にテレビ出演した際に、寺田くんのオーバーリアクションを見て、笑顔が引きつっている彼女の姿が今でも忘れられない当ブログ管理人です。

寺田心は「あざとい!」「演じている感がある!」などとネット上でも批判に晒されることが多い子役ですが、私はむしろ子役としての寺田君は素晴らしいと思っています。

彼と対照的なのが芦田愛菜さんだと思っていて、彼女は子役時代から「大人と同等の対応をされることを切望していた」と言われていますが、それはひとえに彼女が子役というよりも、女優として見られたいという思いがあったからだと思っています。

そのため芦田愛菜さんのドラマや映画での演技を見ていると、良くも悪くも「子供らしさ」が無いように感じられるんですよ。子役芦田愛菜というよりも女優芦田愛菜の演技を見ているという感覚がどうしても上回ってきます。

というよりもそういう子役特有の「あざとさ」を自分の武器として理解しながらも、それを出さないという演技が出来てしまうのが彼女の才能だったのではないかと思いました。

一方で寺田心くんの映画『パパはわるものチャンピオン』での演技を見ていると、実に「あざとさ」が全面に出ています。俳優の演技として評価するならこれは落第点と言えるレベルの代物です。

ただ、そこに寺田君の子役としての魅力があるのではないかと私は思っております。

芦田愛菜さんも寺田心くんも同じように「あざとさ」を身にまとっています。しかし、前者はそれを作品を見ている人に感じさせないだけの女優としての演技力があります。

一方で後者はまだそれを感じさせないだけの技量が備わっていないように思えます。だからこそ「あざとさ」がストレートに観客に伝わってきてしまい、観客が嫌悪感を抱くという現状があるのではないでしょうか。

でも、それってむしろ「子供らしい」んじゃないかと私は思うんです。そういう点で、私は寺田心君のあのわざとらしいまでの「あざとさ」をみていると、それをオブラートに包むことができない子供らしい「素」みたいなものを感じます。

 

棚橋弘至さんの「素」

彼はプロレスファンであれば、知らない人はいないというレベルのスターですが、俳優という話になるとほとんど素人同然で、まだまだ演技には至らない点も見られました。(プロレスがそもそも演技的な側面を持ち合わせているので、ある程度形にはなっていましたが)

一方で彼が今回演じた大村孝志というキャラクターは、彼自身に非常に共通する点が多い人物です。プロレス界のヒーロー、怪我で苦しんだ経験、そして2人の娘、息子の父親であることなどなど、非常に彼の人生ともリンクが強いキャラクターなんですね。

だからこそこの『パパはわるものチャンピオン』という映画において、棚橋弘至は演技をしてやろうというよりも「素」のままで体当たりしたという印象が強いです。

日刊スポーツのインタビューの中で彼はこんなことを言っています。

ゴキブリマスクというヒールのレスラーの対極として、大村はより優しく家庭的でという方が役作りの上で対比になると思ったんですね。僕はオンとオフがないのが、自分のいいところだと思っているんですけど…オンが、仮にプロレスラー棚橋弘至を演じているとしたら、大村は棚橋弘至というものを脱いだ、素の人間性が出たんじゃないかなという気がします。逆に本当はオンでいかなければいけない劇中が、オフになっている逆転現象があるのかも知れません。スクリーンから出ていましたか? ヤバいな…商売あがったりになるな(苦笑い)

日刊スポーツ『棚橋弘至が語るプロレス愛…映画に出た理由と引き際』より引用)

とにかくありのままの自分で大村孝志になろうという意識が強かったようで、映画を撮影する中で演じているという感覚すら曖昧になることがあったという面白いお話ですよね。

 

未熟な役者だからこその成長譚へ

ここまで棚橋弘至さんと寺田心くんの役者としての未熟さと「素」の演技について語ってきましたが、この映画に関してはそういう至らなさがむしろ良い方に機能していたと思います。

それは一貫した姿勢で孝志と祥太を見守る妻の役にしっかりとした演技ができる木村佳乃さんが起用されていたことでより一層際立っていたのではないでしょうか。

というのも、本作『パパはわるものチャンピオン』は父と子の成長物語なんですよ。お互いに未熟なところがあって、だからこそ一緒に成長していけるというところが1つの魅力となっています。

そういう映画であればこそ、俳優的な演技としてみると至らないプロレスラーと子役という配役にすることで、2人が支え合っていく様が強調されます。

そしてそれを温かい目で見守る女優木村佳乃という構図も良かったですね。

また「演じる」を演じ切れない心くんの「素」と棚橋弘至さんの自分の人生にキャラクターを重ね合わせた「素」が合わさることで、物語がダイレクトに観客に伝わってくる印象があります。

本作はメインとなる家族に女優、子役、プロレスラーという奇抜なキャスト配置を敢行していましたが、その意図が映画を見ていて非常に伝わってきましたし、映画の伝えたい思いを表現するにあたっては効果的に機能していたと思いました。

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プロレスと父親

「プロレス」という競技と聞くと、「やらせ」や「台本」というイメージを持つ方も多いと思います。確かにプロレスというものに演技という側面があることは否定できないでしょう。

これに関して、小島聡というプロレスラーが過去にツイッターでこんな発言をしたようです。

プロレスが、ヤラセかヤラセじゃないか?なんて愚問だと思う。痛くないのに痛いふりをして油断させたり、痛いのに痛くないふりをして意地を張る時もある。相手選手、お客さんとの駆け引きも凄く重要だし、ただ単に勝敗を競ってる訳じゃないから。ただ、どう言われても、命だけは張ってます。

(Tweets from 小島 聡【SATOSHI KOJIMA】)

すごく腑に落ちるお言葉だと思いました。

この映画はそういうプロレスをある種「父親の在り方」に重ねている部分があると思いました。

良い父親を演じようとすることが重要なのではなくて、大切なのは自分のありのままの全身全霊で子供とぶつかること。

子供のヒーローとしての父親であろうとすることにこだわることが全てじゃないよというメッセージを打ち出した『パパはわるものチャンピオン』という作品とプロレスという競技は非常に強い結びつきが感じられました。

 

おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『パパはわるものチャンピオン』についてお話してきました。

確かに映画としても、俳優陣の演技の面でも至らない点はいくつか見えてしまう映画ではありましたが、私はこの作品が大好きです。

今年見た映画の中でも「好き」の度合いで言えばかなり上位に来ると思います。

とにかく今、親子で映画館に行くのであれば、この作品を見て欲しいと思います。親世代にも、そして子供世代にも違った見え方で学びを与えてくれる作品だと思います。

興味のある方はぜひ劇場で鑑賞してみてくださいね。

併せて鑑賞してほしい映画として『ワンダー君は太陽』を挙げておきます。こちらもぜひぜひ親子で見て欲しい内容に仕上がっております。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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