【ネタバレ感想/解説】映画「エルネスト」:フレディはなぜチェ・ゲバラに魅せられたのだろうか?

アイキャッチ画像:(C)2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS. 映画「エルネスト」予告編より引用

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね、本日公開になった映画「エルネスト」についてお話していけたらと思います。

史実に基づく内容ですので、ネタバレも何も無いような気はしますが、ゲバラやフレディについて知らない方にとっては、ネタバレになってしまうような内容が含まれますのでご注意ください。

良かったら最後までお付き合いください。

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あらすじ・概要

 キューバ革命の英雄チェ・ゲバラと共闘した日系人の生涯を、オダギリジョー主演、阪本順治監督で描いた日本とキューバの合作映画。フィデル・カストロらとともにキューバ革命を成功させ、1967年にボリビア戦線で命を落としたエルネスト・チェ・ゲバラ。医者を志してキューバの国立ハバナ大学へ留学した日系2世のフレディ前村ウルタードは、キューバ危機の状況下でゲバラと出会い、彼の魅力に心酔した前村はゲバラの部隊に参加し、ボリビアでゲバラとともに行動する。ゲバラからファーストネームである「エルネスト」を戦士名として授けられた前村は、ボリビア軍事政権へと立ち向かっていく。オダギリが主人公の前村を演じ、日本からは永山絢斗が記者役で出演。
映画com.より引用)

予告編

チェ・ゲバラに関する予習は必要か?

この映画を見るに当たって、皆さんが心配しているであろうことは、おそらくチェ・ゲバラについて何も知らないんだけど大丈夫なのだろうか?ですよね。

正直、私もあまり詳しいわけではないです。彼に関する映画を2本見たのと、関連書籍を1冊読んでいる程度の知識しか持ち合わせていませんでした。

 ただ、映画「エルネスト」を見てみて、チェ・ゲバラに関する知識を僅かばかりでも持っておいて良かったと感じました。

本作は、あくまで日経ボリビア人の青年フレディの人生にスポットを当てた作品です。ただもちろん彼の人生に多大な影響を及ぼした人物としてチェ・ゲバラが登場します。

チェ・ゲバラを扱う作品を撮るとなれば、普通は彼を中心に据えますよね?ただ本作において彼はメインキャラクターではありません。あくまでフレディの物語なんですよ。これが何を意味しているかと言いますと、チェ・ゲバラについては鑑賞する側がある程度知っているという前提条件があるということです。

 むしろ知っていなければ、本作「エルネスト」はただの物足りない映画になってしまうように思います。「エルネスト」を鑑賞する前でも、後でも構いませんので、彼について調べておくことをお勧めいたします。

私が以前に鑑賞した映画2作品と関連書籍1冊を紹介しておきますね。

「チェ:28歳の革命」

「チェ:39歳 別れの手紙」

「チェ・ゲバラ」

史実考証・舞台考証が素晴らしい

「エルネスト」という作品は、実話に基づく映画ですから史実考証や舞台考証をしっかりするのは当たり前ではあるんですよね。ただ、数多く実話に基づく映画を見ていますと、結構細かい部分で手を抜いている描写が見られるんですよね。史実をベースにするのであれば、細かいところまで徹底的にこだわってほしいと思うんですよね。それができていないと、それだけで作品の質がワンランク下がって見えてしまうんです。

これに異常なほどにこだわるのが、昨年「この世界の片隅に」で大ブレイクした片渕須直監督ですよね。あの作品の舞台考証・史実考証は本当に素晴らしいと思います。ちょっとした生き物や小物に至るまで全てを調べ上げたうえで、作られているんですから衝撃的ですよね。

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そして、この「エルネスト」という作品も、綿密な調査と考証を経て作られたのだということが強く伝わってきました。特に冒頭の広島パートのこだわりはすごかったですね。

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(C)2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS. 映画「エルネスト」予告編より引用

まずは、冒頭の夜行列車のパートです。一般的には、チェ・ゲバラは大阪から広島まで飛行機で飛んで、そこから県の職員を伴って平和記念公園を訪れたと言われています。ただ、この「エルネスト」の映画では、夜行列車で大阪から広島まで向かっていました。ではこれは史実に背くのか?と言うと必ずしもそうではありません。

実は、ゲバラに付き添っていたオマール・フェルナンデスさんが、大阪のホテルを夜中にこっそりと抜け出して、ゲバラと共に広島に夜行列車で向かったという旨の主張をしているんですね。ただ、残っている証拠から考えても、この説の妥当性は低いです。

では、なぜこちらの妥当性の薄い説を採用したのかと言いますと、こちらのストーリーの方が、ゲバラの人間性が表現しやすいんですよ。周囲の利害など気にせずに、自分のやりたいことをして、行きたいところに行くという彼の考え方がより反映されるんですよね。2時間程度の映画で、ゲバラの人間性をできる限り映し出そうと考えたならば、史実的に妥当性の高い前者のストーリーよりも、後者の映画映えする虚構を選び取るという選択肢は個人的には正しいと感じました。

他にも、しっかりと考証されていることが伺えるシーンが多くありました。ゲバラって来日した時、日本での知名度は皆無に近かったんですよね。そのため、日本では「カストロ・ヒゲ」などという揶揄染みたニックネームがつけられていましたし、彼が何をした人なのか?という点も知らない人が多かったそうです。冒頭の広島パートでは、それが伺える描写が散見されました。

また、ゲバラが宿泊したホテルの名称がきちんと今は無き「新広島ホテル」になっていたり、平和記念公園を訪れた際のゲバラのセリフなんかもしっかりと調べ上げられたうえで選定されているんだなと感じました。ホテルでは、ゲバラの日課であった日記をつけるシーンも映し出されていました。

ここまでしっかりと史実に基づいて作ってくれていると見ていてすごく安心しますし、作り手の誠実さがうかがえるんですよね。当たり前なところで手を抜かないところにすごく好感が持てました。

怒りと憎しみ

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(C)2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS. 映画「エルネスト」予告編より引用

本作において、チェ・ゲバラが言っていた印象的なセリフがありましたよね。

「私は常に怒っているのだ。憎しみから始まる戦いは勝てない。」

ここでふと考えてみたいんですが、怒りと憎しみってどう違うんでしょうか?個人的にも考えてみたのですが、これは非常に難しい問いですよね。

私の個人的な意見としましては、前者は時が経てば和らいだり、癒えたりするものだと思うんですよ。いわば一時的な感情です。後者は時が経っても和らいだり、癒えたりするものではないと思うんです。つまり長期的に持続する感情です。要は、憎しみで戦争をすれば、それは憎しみの連鎖になってしまうということなのではないかと個人的には考えました。

他にも、アリストテレスの弁論術なんかを見てみますと、興味深いことが書いてあります。

 怒りという感情は、相手が報いの苦しみを味わうことを望んでいるが、憎しみという感情は、相手がいなくなることを望む感情である。

これってまさにゲバラ自身の思想だと思うんですよね。彼は人道主義の観点から捕虜を得ても装備だけを奪って釈放したりしていました。彼はあくまで、農民を初めとする民衆の苦しみを政府に訴えかけるために武力を行使しているんです。ですので、ゲバラが持っているのは憎しみではなくて、あくまで怒りなんだと思いました。




フレディはなぜチェ・ゲバラに魅せられたのか?

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(C)2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS. 映画「エルネスト」予告編より引用

さて、ここからが今回の記事のメインになります。

本作「エルネスト」において、もっとも分かりづらく描かれていたのが、フレディがなぜゲバラに魅せられたのか?この部分なんですよね。実はすごく観念的に描かれていたので、特にゲバラについてあまり知らないという方には、伝わりにくかったように思いました。

ですので、今回はその点について個人的な解釈ではありますが、お話ししていけたらと思います。

まず、そもそもフレディとゲバラの経歴が少し似ているんですよね。2人とも医者を志していて、そして革命やゲリラ戦へと身を投じていったわけです。ここは当然押さえておきたい点ですね。

「生」の中の「死」

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(C)2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS. 映画「エルネスト」予告編より引用

そして、本作でフレディとゲバラについて理解する上で、一番大切なのは、ゲバラがどういう人物だったのか?という点をしっかりと押さえておくことです。

 私は、ゲバラという人物を「生」の中の「死」を生きていた人物だと解釈しています。

この点については最初に挙げた関連書籍の中でも扱われていました。

 


 これはどういう事かと言いますと、死んだように生きていたということです。つまり、命を失うことを、死ぬことを全く恐れていないということですね。ですので、ゲバラは自分の命を捨てて、生きながらにして死んだような状態でゲリラ戦に身を投じていたのだと思います。

そしてフレディもゲバラと全く同じような考え方をしていたと思うんですよ。それを観念的に表していたのが、映画「エルネスト」の作中で、何度も登場したフレディが自分を水の中に転がる石のように錯覚するシーンですよね。

 水というものは、「生」の象徴です。そしてその中に、石という生命を持たない存在として、「死」した存在として自分があるわけです。この観念的なシーンはまさに「生」の中の「死」を表しています。

そしてこのシーンがフレディの思想を強く反映したものであり、同時にゲバラの思想との強い結びつきを示すものでもあったわけです。

「死」の中の「生」

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(C)2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS. 映画「エルネスト」予告編より引用

また、本作「エルネスト」ではフレディとルイサとの愛の物語が散りばめられていますよね。「エルネスト」のレビューを眺めていますと、この恋愛関係のシーンが不必要だったと言っている人が意外と多くて驚きました。個人的にはこのシーンがあるからこそ、この映画は傑作だったのだと確信しています。

ゲバラにも愛する家族がいたんですよね。そして、フレディにもルイサとその子供という愛する人たちがいたわけです。この「生」の中の「死」を生きた2人にとって、この「家族」という存在は、まさに「生」そのものだったんですよね。「家族」と一緒に小さな幸せを享受して生き続ければ、彼らは普通の人生を送ることができるわけです。

ただゲバラもフレディも、葛藤し、苦悩しながらもその普通の幸せを、「生」を捨てて、「死」して戦場へと身を投じていくんですよね。

皆さんは、マーティン・スコセッシ監督の「最後の誘惑」という映画を知っていますか?キリスト教社会に大きな波紋を呼んだ問題作と言われていますが、個人的には大好きな作品です。

最後の誘惑 (字幕版)
ウィレム・デフォー
2013-11-26

 

 


簡単に説明しますと、キリストには、マグダラのマリアと結婚して子供をもうけて、普通の人間としての生涯を送るという最後の誘惑があったのではないか?というキリスト教神話の解釈に由来して作られた作品です。

この「最後の誘惑」におけるキリストの立場と、ゲバラ、フレディの立場は非常に近いものがあると思います。愛する女性と共に幸せな生活を送るという道が開かれているのに、最終的にはそちらを選ばないのです。

この点もゲバラとフレディの観念的な共通点として作品に反映されているのだと思います。

そしてラストシーンで、フレディは「死」してから、ルイサの中で「生」き続ける存在になりました。もっと言うなれば、友人たちの、そして世界中の人々の心の中で「生」き続ける存在になったわけです。

また、ゲバラも同じで、「死」した後に、世界中の人々の間で今も「生」き続けているんですよね。

 つまり、「生」の中の「死」を生きていた2人は、「死」の中で今も「生」き続けているんですよね。この点を明確にするために、作中でフレディにとっての「生」を象徴する存在であったルイサとのシーンを多く描く必要があったのだと私は考えています。

それはボリビアのゲリラ戦の描写を削ってでも、間違いなく描く必要がありました。

 結論づけるなれば、フレディがゲバラに惹かれた理由というのは、表層的なものではないということです。人間性の深い部分で彼らは共通点を持っていて、だからこそフレディはそんなゲバラにシンパシーと憧れを感じたのだと思います。2人は「生」の中の「死」という次元に生きていた存在だったのです。そこにフレディがゲバラに惹かれた真の理由が内包されています。それは観念的なものなので表現することは難しいように思います。ただ、本作「エルネスト」では水の中に沈むようなイメージという描写を媒介として、2人の生きたその世界を象徴的に描き切って見せたのです。

おわりに

個人的には、あまりマークしていた映画では無かったのですが、想像以上の出来栄えにただただ驚かされました。

確かにゲバラを扱った映画の中では邪道な作品だとは思います。ゲバラに影響された人物の人生を描く映画ですからね。

ただ、ゲバラとフレディの深いリンクを観念的かつ象徴的な映像で表現し、ゲバラがフレディに「エルネスト」という名前を授けるシーンでそれを形にした、その描き方に感激しました。

 この作品は、チェ・ゲバラという人物を深く理解した素晴らしいスタッフたちによって製作された映画なのだと強く感じています。

この週末は、「あゝ荒野:前編」「アウトレイジ:最終章」「ナラタージュ」といった邦画大作が一挙公開となりますが、私は断固「エルネスト」推しですね(笑)。

素晴らしい作品をありがとうございました。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。




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