【ネタバレ感想/解説】映画『新感染』:原題の「釜山行き」に隠された意味とは?

アイキャッチ画像:©2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD&REDPETER FILM. 映画「釜山行き」予告編より引用

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね、9月1日公開の映画「新感染:ファイナル・エクスプレス」について語っていきたいと考えています。

正直ですね、作品としてはあんまり面白くなかったです。出来が良いか?と聞かれたら、個人的には良くないと思います。

当ブログ管理人は否定的な感想を書くことには消極的なので、今回はあまり感想をメインに書くつもりはありません。

この記事で書いていきたいのは、なぜ本作の原題が「釜山行き」だったのか?ということについてです。

邦題は「新感染:ファイナル・エクスプレス」に変更されてしまいましたが、実はこの原題には大きな意味があったということを個人的な考察も交えつつ、解説していけたらと思います。

良かったら最後までお付き合いください。

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なぜ「釜山行き」という原題だったのか?

朝鮮戦争の背景が関係している

これはすでに一部の批評家さんや映画ファンの方からも指摘されていることですので、自分の考察というわけではありません。そのため、朝鮮戦争と本作がどのように関連しているのかということを解説していきたいと思います。

みなさん、朝鮮戦争という言葉は聞いたことがあると思いますが、その戦争がどのようなものだったのか?ということに関して知っている方は少ないように思います。

朝鮮戦争とは

朝鮮戦争を簡単に説明してしまうならば、冷戦における西側陣営と東側陣営の対立をも包含した南北朝鮮の戦争ということになります。

第2次世界大戦終了後の1948年に李承晩が大韓民国、金日成がソ連の後援を得て朝鮮民主主義人民共和国を成立させました。

これにより、朝鮮半島が北緯38度線を境に2つの国家に分断されました。そしてそれぞれの国がもう一方の国を軍事力でもって屈服させて、朝鮮半島を統一することを目標としていました。

金日成は大韓民国への侵攻をしきりに主張していましたが、アメリカとの対決を望まないソ連は朝鮮民主主義人民共和国の攻撃を許可しませんでした。

しかし、状況が後に変化していき、ソ連は毛沢東の許可を得ることで、朝鮮民主主義人民共和国の大韓民国への侵攻を容認すると態度を一変させました。そして、金日成は中華人民共和国と支援協定を結び、開戦に踏み切ります。

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http://www.kyoritsu-wu.ac.jp/nichukou/sub/sub_gensya/history/Cold_War/Division_of_Korea.htmより引用

1950年に宣戦布告を行うことなく、北朝鮮の爆撃が開始され、その後北朝鮮軍が国境を越えて侵攻し始めました。

軍隊が整っていなかった大韓民国に対して、中国やソ連の後押しを受けた北朝鮮軍は圧倒的な軍事力を誇っていて、たちまち首都のソウルは陥落しました。これを受け、大韓民国は首都機能を水原に移しました。

また、首都陥落と同時期に、韓国軍が漢江にかかる橋を避難民もろとも爆破してしまう、漢江人道橋爆破事件が起き、韓国軍の士気はどん底まで低下してしまいました。

その後も北朝鮮の南進はどんどんと進んでいきました。

それに対して、国連安保理の決議により、国連軍が大韓民国を支援するために参戦しました。

しかし、準備不足が顕著だった国連軍は、北朝鮮軍に敗北し、どんどんと追い詰められ、最後の砦である釜山の陥落が目前に迫っていました。

しかし、それでもアメリカ軍を中心とした国連軍が、釜山橋頭堡の戦いでなんとか釜山を死守し、その後の仁川上陸作戦で、戦況は一変し、大韓民国側攻勢となっていくのでした。

北朝鮮危機の高まり

近年、北朝鮮が核兵器やミサイルの開発を進める中で、朝鮮半島の情勢は緊迫したものとなっています。

そんな中で、やはり韓国人の頭の中をよぎるのは、朝鮮戦争の時の北朝鮮軍の破竹の勢いではないでしょうか?

北朝鮮は、その圧倒的な戦力差で、短い期間の間に一気に南進し、大韓民国を陥れる寸前まで迫りました。

映画「釜山行き」におけるゾンビパンデミックは、そんな韓国人の脳裏に焼き付いて離れない、北朝鮮軍の脅威を象徴的に表したものだと考えられます。首都ソウルが陥落して、どんどんと南へ南へと逃亡していって、最後の砦である釜山へとたどり着きます。

「釜山行き」の電車はまさにこれを表現しているように思います。

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韓国経済と関係している?

こちらは、私が個人的に考察してみたパートになります。

内容としましては、韓国の近年の経済状況と本作を関連付けて考える事ができるのではないか?ということです。

近年の韓国経済

みなさん、韓国の経済と聞くとどんなイメージを持っていますでしょうか?正直ピンと来ないという方もいらっしゃるかとは思います。

韓国の経済状況を一言で表すならば、超貿易依存型経済だという風に捉えられると思います。

韓国経済は、不調だったかと聞かれると、実はそうではありませんでした。

2010年には実質GDP成長率6%を記録していて、韓国経済はどんどんと発展を遂げていました。

ソウルのGDP規模は世界の都市の中でもトップクラスとも言われています。このように近年まで、韓国経済はどんどんと大きくなっていました。

韓国経済の行き詰まり

しかし、リーマンショックを経て、経済発展の勢いが著しく落ちていきました。

2011年以降の実質GDP成長率は2%付近にまで下落し、貿易依存度がなんと90%超というとんでもない状況になってしまいました。

またソウルでは、過剰に人が集まりすぎた弊害からか、若年層の失業率が高騰し、深刻な問題となっていました。

つまり、韓国経済は目覚ましい躍進を遂げていましたが、ここにきて行き詰まりを見せていることが分かります。

というのも韓国の超貿易依存型の経済は、世界経済の影響をもろに受けてしまうというデメリットを抱えています。

それに加えて、韓国は自国製品の内需が非常に低いため、必然的に輸出で利益を得るしかなくなってしまうのです。よって韓国にとって貿易というのは経済の要でもあるわけです。

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©2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD&REDPETER FILM. 映画「釜山行き」予告編より引用

韓国では今、いわゆる「ゾンビ企業」が急速に増えています。

「ゾンビ企業」というのは、営業利益から銀行融資への返済に充てる事ができない限界企業のことです。

韓国では今、10社に1社がこの「ゾンビ企業」に当たると言われています。

そんな中で、韓国最大手であるサムスンや現代自動車が近年、厳しい状況下にありました。

韓国を支えるこの一大財閥企業は近年の業績悪化から倒産するのではないかという憶測まで飛び交い始めたのです。韓国最大手までもが「ゾンビ企業」に?という大きな危機に瀕しているわけです。

ソウルに拠点を置く現代自動車の業績悪化、水原に拠点を置くサムスンの業績悪化、どんどんと南進していく経済悪化の波。そして、その波が韓国南部の釜山にも迫ろうとしていました。

国内最大手の業績悪化により、もちろん貿易収支は悪化の一途をたどっていきました。

そうなってくると影響を受けるのが、海運なんですね。釜山には韓国の海運の60%を占め、世界でもコンテナ所得量第5位に位置付けられている韓進海運という韓国海運の最大手があります。

釜山ないし韓進海運は東アジアの海運の拠点として、目覚ましい躍進を遂げてきたわけですが、近年の国内大企業の不振の影響もあって、どんどんと収支が悪化していきました。

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©2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD&REDPETER FILM. 映画「釜山行き」予告編より引用

映画「新感染:ファイナル・エクスプレス」が韓国で公開されたのは、2016年の7月です。

製作や撮影が行われたのはもちろんそれよりも前のことです。

つまり、本作は、急速に拡大するゾンビ企業や経済危機、貿易収支赤字の波から、韓国貿易依存経済の要である釜山ないし韓進海運を守り切れるのか?という裏テーマのようなものも隠されていたのではないか?と私は考えています。

映画のラストがどうなったのか?ということに関しては、皆様自身の目で確かめてみてください。

しかし、皮肉にも映画公開直前の2016年4月には韓進グループの会長が、経営権を放棄し、韓国内の銀行が自主再建は困難と推測し、資金支援をストップさせました。

その結果、映画公開後の8月31日には、経営破綻してしまいました。

さらに大量のコンテナを引き受けた状態での最悪の状態での破綻となったため、世界中の企業からの超高額訴訟は避けられないでしょう。

自国の経済の要であり、貿易の重要な役割を担っていた韓進海運が崩壊してしまった韓国経済はこれからどうなってしまうのでしょうか?

こんなことを考えながら今回の「新感染:ファイナル・エクスプレス」ないし「釜山行き」を見ると、違った楽しみ方ができるかもしれませんね。

おわりに

今回は朝鮮戦争と韓国経済の2つの面から、本作の原題がなぜ「釜山行き」だったのか?ということについて考えてみました。

朝鮮戦争においても近年の韓国経済においても、釜山という都市は非常に大きな意味を持つ都市だったんですね。

それを踏まえたうえで、本作を見ると、ただのゾンビ映画ではなく、いろいろな含みを持っている映画であるということが見えてくるかもしれませんね。

個人的にはあまり評価は高くない映画にはなってしまうのですが、いろいろと考察しながら見ると、興味深い点もたくさんあります。ぜひ劇場で「新感染:ファイナル・エクスプレス」ないし「釜山行き」を体感してみてはいかがでしょうか?

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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