【ネタバレあり】『ニューミュータント』感想・考察:青春群像劇とサイコホラーが大喧嘩してるぞ!

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね2月3日よりデジタル配信がスタートした映画『ニューミュータント』についてお話していこうと思います。

ナガ
すごく楽しみにしていたのに、まさか日本では劇場公開すらされないとは…。

当ブログ管理人は、これまで『X-MEN』シリーズの映画を紛いなりにも全作品鑑賞してきましたが、その中で予告編時点での期待値が最も高かったのが本作です。

なぜなら、本作『ニューミュータント』の予告編の中で2017年の10月13日に公開された最初の映像が素晴らしい出来栄えだったからなんですよ。

『X-MEN』シリーズの中でも、これまでになかった閉鎖病棟シチュエーションのサイコホラー的な作風を感じさせてくれる映像は、私にこう思わせてくれるには十分でした。

あっ、『X-MEN』シリーズ最高傑作が来たぞ…と。

ナガ
ただですよ、待てど暮らせどなかなか上映されなかったんです。

当初の予定では2018年4月13日公開だったのが、その後、2019年2月22日、8月2日、2020年4月3日と次々に公開日が変更されていきました。

そこには様々な要因が絡んでいます。

まずは、関係者試写会での不評とそれに伴う再撮影を巡るゴタゴタですね。

そして、20世紀FOXがディズニーに買収されたことも絡んできました。

そして、とどめの新型コロナウイルスですね。

もう「公開させないため」に何か大きな力が働いているのではないかと勘繰ってしまうくらいに公開が延期されまくった映画だったわけです。

最終的に2020年8月28日に公開され、日本では配信&ビデオスルーという何とも残酷な扱いになってしまいました。

追加撮影を行うという噂まで上がりましたが、最終的にはジョシュ・ブーン監督が最初に完成させたバージョンにより公開されたようです。

そして、本国での評価も散々なものとなっていて、北米の大手批評家レビューサイトRotten Tomatoesでは批評家からの支持率35%、オーディエンスからの支持率も56%と芳しくない数値を叩き出しました。

ナガ
とはいっても、『X-MEN ダークフェニックス』は批評家支持率22%なんですけどね(苦笑)

ただですよ、こうした酷評はあれど、当ブログ管理人としては、なかなか楽しめる映画だとは思いました。

確かに「サイコホラー」を期待すると、厳しいのですが、「青春映画ミーツX-MEN」としてこれは「アリ」なんじゃないかと。

ここからは、個人的に感じたことや考えたことを綴っていきます。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説きじです。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




『ニューミュータント』感想・解説(ネタバレあり)

「サイコホラー」を期待すると弱い

この映画、記事の冒頭でもお話したように、当初の予告編では、「サイコホラー×閉鎖病棟」の雰囲気を全面に押し出しており、その点が期待されていました。

しかし、関係者試写会を実施すると、鑑賞した人たちから「ホラー映画なのに怖くない」という感想が続出し、その結果製作サイドが「再撮影」を実施すると発表したのです。

ナガ
まあ、これでホラー映画としての強度が増してくれるなら…。

ただ、結局のところ再撮影は、FOXがディズニーに買収されるなどのゴタゴタもあり、実施されなかったようなのです。

その結果、最終的にはジョシュ・ブーン監督が最初に完成させたバージョンにより公開されたというのが事の顛末でした。

そして、『ニューミュータント』を見た、私の率直な感想です。

ホラー映画と言うには、怖くない。

関係者試写で作品をご覧になった方々と奇しくも全く同じ感想を抱きました。

まあところどころホラー映画へのオマージュ要素もあって、そこは楽しめるんですよ。

『Buffy the Vampire Slayer』に登場するThe gentlemenに着想を得たであろうスマイリーマンの登場。

(『Buffy the Vampire Slayer』より引用)

シャワールームで女性キャラクターが襲われるというヒッチコックの名作『サイコ』を想起させるシチュエーション。

(映画『サイコ』より引用)

真っ暗なプールで繰り広げられる『イットフォローズ』を思わせるスリラー。

かなり、それっぽい演出は散見されるのですが、やっぱり全体としては絶望的に怖くないんですよね。

まず、個人的に残念だったのは、あの施設で行われている「医療行為」にもっと嫌悪感みたいなものを出せなかった点だったと思います。

この手の「閉鎖病棟」ものにおいては、人間が子どもの頃に誰しも抱いたことのある「医療行為」への不安と恐怖、嫌悪感をまずは現前させる必要があるでしょう。

それが巧いのが、ルシール・アザリロヴィック監督の『エヴォリューション』のような映画でしたね。

子どもが治療される立場となり、台の上で寝そべって上を見上げる姿勢が醸し出す言いも知れぬ不安感。投薬や血液採取と言った行為に感じる不快感。

そうしたものを淡々と積み重ねていくことによって、じわじわと観客に恐怖や不安を植えつけていくのです。

今回の『ニューミュータント』にも、投薬や血液採取といった「医療行為」のシーンは何度も出てくるのですが、そのどれもが平凡で、特に印象に残りません。

この時点で、閉鎖病棟を舞台にした作品として、まず大失敗していると言っても過言ではないです。

また、今作は全体的にカメラワークが良くない印象を受けましたね。

POV視点のような映像と、それの切り返しを混在させていくような映像が特徴的なのですが、何と言うか映像の視点に一貫性がないんですよ。

つまり登場人物の視点で起きている出来事を体感していくような、POVに近い映像もあるのに、急に編集で、人物の正面からのカットや俯瞰のショットに切り替わったりします。

こうした視点のブレによって、観客があの「閉鎖病棟」に今まさにいるんだという実在感を抱きづらくなっている側面は否定できません。

POVないし、登場人物をひたすらアクションカメラで背後から追っていって、彼らと一緒に恐怖やトラウマに直面していくというシンプルな撮影アプローチで良かったと個人的には思います。

それなら、作品のテーマ性を鑑みても、融和性の高い映像になっていたはずなのです。

しかし、なぜかホラー映画というよりは、アクション映画感満載のブレブレかつ多視点の映像で作品を構築したことで、全体的に散漫な内容になってしまいました。

こうした「ホラー映画」としてのボロが低評価に直結している可能性は高いですね。



弱き悪、弱き正義の物語として

(C)2021 20th Century Studios. (C)2021 MARVEL.

期待していた「サイコホラー」要素は薄く、その点では非常に残念だったのですが、それでもこの『ニューミュータント』という映画は十分に楽しめる内容でした。

本作のテーマは作品の最後に流れるこの言葉に集約されていると言えます。

「パパは言った。こころのなかに2頭のクマがいる。1頭は善良で、同情と愛をもたらす。もう1頭は邪悪で、恐怖と恥辱と自己破滅をもたらす。どっちが勝つの?と私が聞いたら、パパは答えた—お前が育てるクマだ。」

(映画『ニューミュータント』より引用)

近年の映画では、「絶対悪」というものを描くことが少なくなってきました。

それは、ポストモダンの時代を経て、絶対的な悪ないし正義というものが徹底的に脱構築されてきたからとも言えます。

そんな中で、エポックメーキングだったのが『スターウォーズ フォースの覚醒』『スターウォーズ 最後のジェダイ』の2作品ではないでしょうか。

この2作品は、弱きシス=悪、弱きジェダイ=善の対立を描き、その不安定さの中で、レイとカイロ=レンという2人の主人公が、その境界で揺れ動く様を描きました。

『ニューミュータント』という作品も、そうした「弱き悪、弱き正義」の物語の系譜に該当する作品ではないかと思います。

主人公たちは、ミュータントとしての力を発現し、訳も分からないままに閉鎖病棟に閉じ込められ、厳格な管理を受けることとなりました。

ここで、観客も含め、彼らは自分たちが「X-MEN」を育てるための施設にいるのだと思い込んでいるんですよね。

まあ『X-MEN ファーストジェネレーション』のような作品の先入観もあるでしょうから、当然と言えば当然です。

ナガ
しかし、作品の途中でサプライズがあります。

何と、彼らが収容されていた施設の管理会社がなんと「エセックスコーポレーション」

これは『X-MEN アポカリプス』のラストや『ローガン』でも登場した会社で、原作に登場するヴィランミスターシニスターに関係が深いと言われています。

つまり、今作の主人公たちは、X-MENという正義の側ではなくて、むしろその過去のトラウマや不安、怒りを施設で増幅させられ、エセックス社側の悪のミュータントとして暗躍する未来を定められているんですよね。

そういう状況下で、ミュータントたちは、自分の過去のトラウマと向き合い、怒りと向き合い、恐怖と向き合っていきます。

そして、それに勝利する形で、彼らは「弱き悪」と「弱き善」の揺れの中から、後者を掴み取ることに成功したのです。

「New Mutants」というタイトルは、まさしくまだ「善」にも「悪」にも毒されていない「まっさらな」状態のミュータントたちという意味なのだと思います。

そして、彼らが様々な外的要因の中で、どちらに揺れるのか…を描いたある意味で実験的な映画なのではないでしょうか。

あのドーム状の結界は、彼らと社会を隔てる壁です。

つまり、その中に閉じこもるということは、すなわち社会との繋がりを断ち、ヴィランの道へと堕ちていくことを意味します。

彼らは勇気を出して、あのドームを壊し、社会へと出て行く決断をしました。

その先にあるのは、もしかすると人間とミュータントの共存を模索するX-MENなのかもしれないですね。

そういう意味でも、『ニューミュータント』という作品は、名も無き小さな正義の勃興を描いた今ドキのヒーロー映画だったと思います。

 

アニャ・テイラー=ジョイが素晴らしいから、全人類見てくれ

そして、最後にどうしても言っておきたいのが、本作のメインキャラクターであるイリアナを演じているアニャ・テイラー=ジョイが本当に良いので、ぜひチェックしていただきたいということです。

シャマラン監督の『スプリット』以来注目を集め、今や『クイーンズギャンビット』で大ブレイク中の彼女ですが、今作の役どころも最高です。

Twitterの方に投稿したのですが、まさしくこういうことです。

ナガ
リアル「デビルメイクライ」じゃん…(笑)

セクシーで完全なる「陽キャ女子」感を全面に漂わせているのに、いつむぬいぐるみを手放せなくて、しかも怖がりというキャラクター性と彼女の演技がガッチリとマッチしていて、唯一無二の魅力を放っていました。

また、右手が変化していくとき、そして刀を構え、敵と戦う時の立ち振る舞い、所作。全てが決まっていて、クールでした。

ナガ
正直、これを見るだけでもお金を払う価値があると思うので、当ブログ管理人は『ニューミュータント』の購入、並びにレンタルを全面的に推奨いたします。



おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『ニューミュータント』についてお話してきました。

ナガ
ホラー映画としては期待外れだったけど、思わぬ収穫がありました!

やっぱり、評判が悪くても、自分の目で確かめてみるのが大切だと、こういう映画を見るたびに思いますね。

前作の『X-MEN ダークフェニックス』はかなり薄味だったので、そこから比べると、本作の方が数段面白いです。

加えて、プロットそのものはよく出来ていますし、テーマ性も明確なので、個人的には意外と好きだったりします。

ただ、どうしてもあの予告編を見た時の期待が大きすぎたのもあって、小粒に感じてしまった部分は大きいですね。

ナガ
「ヒーロー映画×ホラー映画」を「閉鎖病棟」シチュエーションでがっつりやれるとしたら『X-MEN』シリーズくらいかな?と思っていたので期待していただけに、残念でした。

『X-MEN』シリーズの権利もディズニーに渡ったわけですが、今後どのようなコンテンツが展開されていくのか、個人的にも楽しみです。

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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