『コンフィデンスマンJP プリンセス編』ネタバレ感想・解説:観客の「信用」を逆手に取る史上最大のコンゲーム

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』についてお話していこうと思います。

ナガ
ドラマシリーズからのファンの1人としても待望の続編です!

コロナ禍の中で映画館の救世主になることが期待される本作ですが、いろいろと公開前から話題の絶えない映画でもありました。

まず、ボクちゃんを演じる東出昌大さんの不倫騒動が話題になった際に、今作が延期になるとか何とか話題になっていました。

まあ不倫問題は、人様の家の問題ですから、その中で決着を着ければいい問題ですから外野がとやかく言う必要もないでしょう。

そして、もう1つが先日、日本中の人に衝撃を与えたジェシー役の三浦春馬さんが亡くなったというニュースですね。

当ブログ管理人としても、個人的な思いをTwitterの方では綴らせていただきました。

本当に素晴らしい、そしてこれから日本を代表する俳優になっていくポテンシャルを秘めていただけに悔やまれるばかりです。

舞台挨拶の後に劇場から出て行くお客さんから「三浦春馬について何にもなかったね。」と話している声も聞こえてきました。

色々な意見があると思いますし、当然共演されたキャストの皆さんは特別な思いを持って、舞台挨拶の場に立たれていたと思います。

だからこそ、この初日舞台挨拶で彼について言及しないという判断を個人的には支持したいですし、これは製作陣・キャスト陣からの「あくまでもジェシーを見て笑顔になって欲しい」というメッセージなのだと受け止めました。

東出さんが本作を一言で表すならということで「笑」という言葉を挙げておられました。

本編の上映中に、ジェシーが登場するシーンでは、満員の劇場ですすり泣きする声も聞こえてきました。

彼が演じたジェシーのクールでコミカルで、どこか情けない演技。

(C)2020「コンフィデンスマンJP」製作委員会

色々な思いがあると思いますが、今は彼がジェシーとして見せてくれた素晴らしい演技を心行くまで味わうことが私たちにできることなのかな?と思っております。

ナガ
映画の主題歌のタイトルも「Laughter」で、これはまさしく「笑い」という意味ですからね!

『コンフィデンスマンJP プリンセス編』の本編はいつも通りの笑いどころ満載の内容でありながら、シリーズのテーマを突き詰めた非常に素晴らしいプロットでした。

今回の映画版ですが、一応はドラマ版と前回の劇場版「ロマンス編」からの続編となっております。

こちらのレビューについては当ブログの別記事にてまとめてありますので、良かったらご一読ください。

さて、それではこの記事では、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』について個人的に感じたことや考えたことを綴っていきます。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となります。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




『コンフィデンスマンJP プリンセス編』

あらすじ

ダー子ボクちゃんリチャードの3人は、世界有数の大富豪フウ家の当主レイモンドが他界し、謎めいた遺書を残したと知り、大金を手に入れるために動き始める。

彼の残した遺書には「ミシェル・フウ」という自分の子息に遺産の全てを相続させたいという意志が書かれていたが、肝心の「ミシェル・フウ」がどこにも存在せず、彼の3人の子どもたちも困り果てていた。

そこに目をつけたダー子は偶然出会った孤児の心(コックリ)を「ミシェル・フウ」に仕立て上げ、自らはその母親となってフウ家に介入する計画を立てる。

当初は、潜入し、手切れ金だけをもらって姿を眩ませる予定だったが、勢いでフウ家の3人の子息に「あんたたちには遺産を相続させない!」と大見得を切ってしまい、引くに引けない状況に。

ダー子は仲間を呼び寄せ、何とかして脱出の策を練るが、上手くいかない。

そんな時に、偶然フウ家の象徴とも言える「玉璽」の存在を知り、これを何とかして手に入れようと画策し始める。

1か月後に開催される「ミシェル・フウ」への授与式に向けて、計画は動き始めるのだが、そこに宿敵赤星の影がちらつき始めて…。

 

スタッフ・キャスト

スタッフ
  • 監督:田中亮
  • 脚本:古沢良太
  • 撮影:板倉陽子
  • 照明:緑川雅範
  • 編集:河村信二
  • 衣装:朝羽美佳
  • 音楽:fox capture plan
  • 主題歌:Official髭男dism
ナガ
基本的にはドラマ、そして劇場版前作と同じ面々だね!

まずは監督をドラマ『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズでも演出を担当していた田中亮さんが引き続き務めます。

医療ドラマの演出に長けているとドラマファンの間では知られていて、2020年にはドラマ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』の監督も務めました。

こういった経緯があってか『コンフィデンスマンJP』のテレビドラマシリーズにも病院が絡む回がありましたね。

一方の脚本には、ドラマ・映画ファンであれば知らない人はいないであろう古沢良太さんがクレジットされています。

特に最近は似たような詐欺師モノで『Great Pretender』というNetflix配信のアニメ作品の脚本も担当するなどし、活躍の場を広げています。

撮影と照明のお2人も基本的にはシリーズを支えてきた功労者ですし、編集の河村信二さんもそうですね。

また劇伴音楽を、こちらも引き続きfox capture planが提供し、主題歌にはOfficial髭男dismの「Laughter」が起用されています。

Official髭男dism人気に火をつけたのはこの『コンフィデンスマンJP』シリーズと言っても過言ではないので、継続して主題歌を担当していただけるのは嬉しいです。

キャスト
  • ダー子:長澤まさみ
  • ボクちゃん:東出昌大
  • 五十嵐:小手伸也
  • リチャード:小日向文世
  • アンドリュウ・フウ:白濱亜嵐
  • 心(コックリ):関水渚
  • クリストファー・フウ:古川雄大
  • トニー・ティン:柴田恭兵
  • レイモンド・フウ:北大路欣也
  • スタア:竹内結子(ロマンス編より)
  • ジェシー:三浦春馬(ロマンス編より)
  • 韮山波子:広末涼子(運勢編より)
  • モナコ:織田梨沙(ロマンス編より)
  • ブリジット・フウ:ビビアン・スー
  • ホテルの支配人:滝藤賢一
  • ユージーン:濱田岳
  • 元某国大統領夫人:デヴィ・スカルノ
  • 城ケ崎善三:石黒賢(美術商編より)
  • 鈴木さん:前田敦子
  • ホー・ナムシェン:生瀬勝久(ロマンス編より)
  • 赤星栄介:江口洋介(ゴッドファーザー編より)
ナガ
このシリーズは本当にゲストキャストが豪華だよね!

前作でも、ちょっとした端役に有名俳優を起用していたことで話題になりましたが、今回も非常に豪華でついつい映画を見ていると目で追ってしまいます。

さて、メインキャストについては基本的にシリーズではお馴染みの顔ぶれとなっています。(上記に赤色で着色しました。)

その中でも、やはり三浦春馬さんが演じたジェシーについては改めて語っておきたい思いもありますね。

本作の脚本を著した古沢良太さんがご自身のTwitterで三浦春馬さんの印象について語っていたのが印象的だったので以下に引用させていただきます。

個人的にですが彼はご自身の内から滲み出る人柄を巧く役に溶け込ませることができる役者だなと思っていた次第です。

ドラマ『オトナ高校』の主人公なんかは言動だけを見ていると、かなりのクズっぷりなのに三浦さんが演じるとどこかそれがマイルドになって「憎めない奴」という印象になっていました。

映画やドラマでいわゆる「汚れ役」を演じることもありましたが、その際は逆に自分の内から滲み出る好青年感や人の良さを「裏切る」ことができるんですよね。

そういった役者としての自分と演じるキャラクターとしての自分の絶妙な着地点を見出して、演技として見せるという点において、これほど秀でた役者はなかなかいないだろうと思います。

脚本の段階で想定されたキャラクター通りのものが可視化されるのではなくて、それを役者三浦春馬が演じたからこそ「ジェシー」というキャラクターが完成したのだという先ほどの古沢さんの言葉も、まさしくそんな彼の魅力を体現しています。

今回の『コンフィデンスマンJP プリンセス編』にてそんな彼の素晴らしい演技を見ることができたという幸せをいつもより深く噛み締めました。

さて、シリーズ的な視点で見ると、やはりドラマシリーズの「ヴィラン」たちが再び登場していたのもファンとしては非常に嬉しかったですね。

ぜひドラマシリーズとそして前作の「ロマンス編」またテレビスペシャルで放送された「運勢編」も合わせて鑑賞して欲しいです。

ナガ
ぜひぜひ劇場でご覧になってみてください!



『コンフィデンスマンJP プリンセス編』感想・解説(ネタバレあり)

偽物も本物になれる!シリーズのテーマを突き詰めた最高傑作!

(C)2020「コンフィデンスマンJP」製作委員会

さて、今作は紛れもなく『コンフィデンスマンJP』シリーズの最高傑作でしょう。

このシリーズはそもそも「コンゲーム」を題材にしてきたわけで、「偽物を本物に見せる」ことで、ターゲットを陥れ、主人公たちは金銭を稼いだり、誰かを救ったりしてきたわけです。

「偽物を本物に見せる」というのがこのシリーズの根幹にある主題だったわけですが、今回の『コンフィデンスマンJP プリンセス編』は、それをさらに突き詰めていたように感じます。

それこそが、今回ダー子がたびたび口に出していた「偽物も本物になれる!」というメッセージだったのでしょう。

このシリーズの醍醐味は、終盤に作品のプロットや構造を丸ごとひっくり返してしまうというある種の「どんでん返し」です。

ただ、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』は、「どんでん返し」のスイッチを押しながらも、全てをひっくり返さないというアプローチを取っています。

つまり、いつものようなダー子の手のひらで踊らされていたという「種明かし」の快感も残しつつ、そこに「本物」を絶妙に紛れ込ませているのです。

ナガ
感動したのに、騙されたよ!というのがお決まりなんだけどね?

まさしくその通りで、今作は結構涙を誘うような展開があったりして、終盤にそれがひっくり返されると、「あの時の涙を返せよ!」と言いたくなるような状況に陥ることもあります。

今回の劇場版でも、かなり感動的な展開があり、当ブログ管理人が座っていた周辺でも感極まって涙しているお客さんが多々見られました。

そういう人たちを見ながら、自分は「どうせこれも嘘だし、ひっくり返されるんだから…(笑)」と内心ニヤニヤしていたわけですが、むしろ自分の方が「裏切られる」というまさかの展開でした。

ナガ
シリーズのこれまでのエピソードでは「全部仕込みでした!」がオチなのに、今回は仕込みではない「リアル」が混じってるんだよ!

つまり、「どうせ嘘なんでしょ!茶番なんでしょ!」というこれまでのシリーズを見てきた人が陥りがちな先入観を逆手に取ってきたわけですよ。

「あの時、君が流した涙があったよな。あれは嘘だ。」という『コマンドー』的なオチが定番だったのに、今回は「あの時、君が流した涙があったよな。あれは本当だ。」と言われて面食らうようなそんな感覚でした。

つまり、これまで「偽物」に感動させられ、いつもダー子に振り回されていた私たちが、いつの間にかそこに紛れ込んだ「本物」に足元をすくわれるという新手の「コンゲーム」を仕掛けられていたわけですよ。

ナガ
このプロットにはもう脱帽でしたね…。

そしてラストのダー子心(コックリ)の別れの場面も大好きでした。

前者は「私は本物にはなれないから」とコンフィデンスマンとして生きる道を選び、後者は「偽物」から本物の「プリンセス」になりました。

それぞれの場所で、それぞれの生き方でという西部劇を思わせるような熱い「別れ」のシーンに胸がいっぱいになりましたね。

そして、信じることで「偽物」を「本物」に見せかけるのではなく、それが「本物」になることがあるのだというシリーズの積み重ねがあってこそのメッセージも非常に素晴らしかったと思います。

もちろん、それを可能にしたのは、心(コックリ)の行動があったからですが、自分の生まれや境遇に左右されない「可能性」が確かにあるのだと、本作は伝えてくれました。

自分は何者にもなれないと諦めてしまうのではなく、自分は何者かになったつもりで生きてみる。

そうすると、いつしか自分は望んだ自分になっているなんてそんな話ですよね。

『コンフィデンスマンJP』シリーズは「信じた者が馬鹿を見る」というコンゲームを扱ってきたわけです。

そんな作品が「信じた者が信じる自分になれる」というメッセージを打ち出すからこそ、私たちの心に響くのではないでしょうか。

『コンフィデンスマンJP プリンセス編』は、シリーズの積み重ねがあったからこそできたメタ的な「大どんでん返し」だと感じましたし、観客を巻き込んだテーマ的な「コンゲーム」になっていたと思います。



「プリンセス」というコンセプトの落とし込み方の巧さ

(C)2020「コンフィデンスマンJP」製作委員会

今作は「プリンセス編」というサブタイトルがつけられているわけですが、古沢良太さんはそのモチーフの使い方が非常に巧いんですよね。

元々「プリンセス映画」と言えば、ディズニーの専売特許みたいなところがありますが、かつては外の世界を知らないプリンセスが、外からやってきた王子様に出会って恋に落ちてなんて物語のマザータイプが存在していました。

その一方で、近年ディズニーもこのジャンルにアップデートを施していて、その中でプリンセスの「アイデンティティ」ないし「自分らしい生き方」というものにスポットが当たるようになりました。

今作『コンフィデンスマンJP プリンセス編』では、まさしくフウ家の3人の子息たちが、そういった自分自身の生き方とフウ家の子息としての生き方の間で揺れています。

彼らは近年のプリンセスの抱えている「自分らしさ」という問いを抱えており、最終的には父からの言葉を受け取る形で自分らしい生き方を選択することができました。

「プリンス」「プリンセス」として生きなければならないというある種の称号や肩書に縛られる人生ではなく、自分の人生を生きるのだと決意できたわけです。

その一方で、本作は孤児の心(コックリ)が自分の力で「プリンセス」になるというストーリーでもありました。

彼女は孤児であり、貧しい育ちであり、そして自分の母親代わりの存在に犯罪の片棒を担がされて、失敗すると暴力を振るわれているという言わば現代の「シンデレラ」なんですよね。

そんな彼女をダー子は引き取り、自分の計画に参加させることにするわけですが、彼女は最初に「あなたは何もしなくていいからね」と心(コックリ)に告げました。

「シンデレラシンドローム」という言葉がありますが、これは「待っていればいつか幸せが訪れる」という心情のことを指します。

心(コックリ)に訪れたチャンスも、ある種の偶然であり、突然やって来たものです。そしてダー子は当初自分が計画をすべて首尾よく進めていき、彼女の力に頼るつもりはあまりなかったでしょう。

それでも、そんな筋書きを自らの意志と決断で書き換えたのも心(コックリ)でした。

彼女は、「玉璽」を受け取るセレモニーの際に自分の意志で会場に爆破目的でやって来た男性に寄り添い、そして抱きしめました。

ただ待っている、誰かの指示通りに動く存在から脱して、彼は「弱いものに寄り添えうことができる」という自分らしさを初めて意識することができたのです。

「待っているだけ」では何も起きないわけで、自ら行動を起こさなければならないという「プリンセス」像は近年のディズニーの傾向にも通じる部分でしょうか。

そして、今作はさらにどんな人でも「プリンセス」になれるという可能性の物語にもなっています。

アメリカで先日ハリー・ベイリーという黒人系の女優が『リトルマーメイド』のヒロインであるアリエルを演じることになったというニュースがあり、世界中で賛否がありました。

ナガ
もちろん、このキャスティングには色々な意見があって良いと思います!(差別的なものはもちろんNGですが)

その中で、当ブログ管理人が感銘を受けたのは、がこの役を批判を受けることが分かっていても、引き受けたことに対しての言葉です。

彼女がアリエル役に選ばれたのは、オーディションでの演技や歌声などのパフォーマンスや、容姿などを総合的に判断したうえで、最もアリエル役にふさわしいと劇団やディズニーに評価されたからだが、やはり今回のように、有色人種がアリエル役を演じていることに対してバッシングがあった。だが、アメリカにおける少数の人種にあたるアジア系アメリカ人の子どもたちの希望になるということから、彼女はときに非難を受けながらも役を演じ続ける決意をしたのだという。

Cinra『リトル・マーメイド』主演に黒人俳優起用で賛否。背景や意義を考察する

これからを生きる子どもたちに、自分の生まれた境遇によって「なれないもの」があると感じて欲しくなかったという思いなのだと当ブログ管理人は解釈しました。

つまり黒人に生まれついたとしても『リトルマーメイド』のヒロインになることができるのだという無限の可能性を彼女は自分自身が先頭に立って示したいという強い意志を持って役を引き受けたわけです。

ナガ
もちろん演技や歌唱の素晴らしさで選ばれたのが大前提ということも忘れてはいけませんよ!

本作『コンフィデンスマンJP プリンセス編』の物語には、これに通じる部分を感じます。

心(コックリ)は生まれが貧しく、孤児であるわけですが、そういった境遇を背負いながらも「プリンセス」になることができたのです。

そして、彼女は自分がそうであったように、世界中の恵まれない子供たちに「可能性」を示す存在になっていくはずです。

そういう意味でも、本作は古沢良太さんなりの「プリンセス映画」の1つの形なのでしょうね。



おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』についてお話してきました。

間違いなくシリーズ最高傑作と言える出来だと思いましたし、これまでの積み重ねがあってこそできた真価が本作には確かに宿っていました。

古沢良太さんの脚本は本当に流石としか言いようがないですね。

単にどんでん返し的な構造として見事なだけでなく、作品全体のテーマの掘り下げ方もお見事でした。

今作は「水戸黄門」的に無限にシリーズ化できるタイプの作品なので、今後とも1年に1回作品を見られると良いなぁなんて思いますね。

新型コロナウイルスの第2波により感染者数が増加傾向にありますので、映画館で鑑賞される際は対策を徹底した上で臨んでくださいませ。

ナガ
また、映画版の前作もチェックしてから臨んでくださいね!

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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