【ネタバレあり】『クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲』感想・解説:この作品の凄さを改めて考える

映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』より引用

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』についてお話していこうと思います。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。

 

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』

あらすじ

70年代に大阪で行われた万博の風景を初め、20世紀の懐かしい世界観を再現した「20世紀博」というテーマパークが人気を博していた。

その自身の幼少期の世界を再現したノスタルジーに「オトナ」たちは惹かれ、徐々に「20世紀博」の魅力に憑りつかれていった。

ある夜、突然狂ったようにお菓子を食べ始めたひろしみさえは、そのまま「20世紀博」から手配された車に乗り、そのまま家から出て行ってしまった。

困惑するしんのすけひまわりだったが、何とひろしみさえだけではなく、日本中から「オトナ」がその夜のうちに消えてしまっていたのだった・・・。

そしてその夜、ラジオから「イエスタディワンスモア」と名乗る組織のリーダーであるケンチャコが、見捨てられた子供たちに投降するよう呼びかけた。

ケンたちは、21世紀に希望を持てなくなり、大人たちを洗脳し、大人だけの楽園である「オトナ帝国」を作ろうと目論んでいたのだった。

しんのすけたちカスカベ防衛隊は、「オトナ」たちとそして未来を取り戻すためにケンと立ち向かうことを決意する。

 

スタッフ

  • 監督:原恵一
  • 演出:水島努
  • 脚本:原恵一
  • 絵コンテ:原恵一&水島努
  • 作画監督:原勝徳
  • 撮影監督:梅田俊之
  • 美術:古賀徹&清水としゆき
  • 音楽:荒川敏行&浜口史郎
ナガ
今思うと、とんでもないメンツなんだよね・・・。

まずは、監督・脚本の原恵一さんですね。

彼は今や日本を代表するアニメ監督の1人ですよね。

『河童のクゥと夏休み』『百日紅』などの意欲的な作品を世に送り出し、高い評価を獲得してきました。

また、映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』の監督でもあり、同シリーズの映画黄金期を築いてきた方でもありますね。

そして2019年も監督の『バースデーワンダーランド』という新作が公開されます。

次に、演出の水島努さんですね。

ナガ
彼も今や日本を代表するアニメクリエイターの1人ですよね!!

テレビアニメ『SHIROBAKO』『ガールズ&パンツァー』シリーズで高い評価を獲得し、今や日本で最も忙しいアニメ監督と言えるでしょう。

彼も監督と同時期の映画『クレヨンしんちゃん』シリーズ黄金期を支えてきた名手であり、功労者の1人です。

上記の2人が絵コンテも担当しており、今思うと非常に豪華なタッグですよね。

他にも劇伴音楽には、『ガールズ&パンツァー』シリーズやP.A.WORKS作品で活躍する浜口史郎さんが参加していたりします。

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『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』感想・解説

ノスタルジーを超えて

1984年に押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』が公開されました。

ラムが作り出した夢の世界に囚われたあたるたち。

あたるには、「夢だから何度でもやり直しが利く」「自分の作り出す現実と何の違いもない楽しい夢の世界で思い通りに暮らす方が良い」という誘惑が突き付けられますが、彼は最後に夢からの脱却を選択します。

安定した幸せに甘んじることが許される夢の世界ではなく、未確定要素と不安定さに満ちた未来を選択するという主人公あたるの選択は、物語としても革新的であり、高い評価を獲得しました。

監督は、21世紀の始まりに、この『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』という作品を公開しました。

公開された2001年付近の出来事として1つ面白いのが1999年のノストラダムスの大予言でしょうか。

この予言は、ある種の社会を通底する「終わり」として人々の前に現前しました。

また2000年問題なんてのもありましたよね。

2000年になるとコンピュータが誤作動を起こして・・・なんて話ですが、マスメディアが騒ぎ立てて、大きな話題になりました。

90年代のバブルの崩壊、ノスタルダムスの大予言や2000年問題がただの杞憂で終わったことなど、当時の日本を支配していたのは新世紀への期待ではなくて、当たり前だったものがどんどんと崩れていくことによる無感覚な世界でした。

20世紀の人々が抱いていた、漠然とした21世紀への希望は、いきなり打ち砕かれ、暗い時代の到来を予期させたのが、本作の公開時期でもあったわけです。

確かに本作は原恵一監督版の「ビューティフルドリーマー」と言えるでしょう。

しかし、本作が素晴らしいのは、「ビューティフルドリーマー」的な物語構造に当時の時代性を落とし込み、1つの作品として完成させたところにあると言えるでしょう。

人間というものはノスタルジーやレトロというものに総じて弱く、ふと子供の頃の「懐かしさ」に惹かれて立ち止まってしまうこともあります。

山崎監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』のようなノスタルジー映画が日本で大ヒットするのも、人間心理から考えても当然のことと言えるでしょう。

しかし、ノスタルジーに囚われてしまうということは、「変わることのない過去」を生きるということであり、前を向いて生きるということを諦めることであります。

ケンたちは未来に絶望し、そして未来を生きることを拒み、21世紀へと進むことから目を背けました。

それに対してしんのすけたち家族は、「未来を取り戻す」ために、「21世紀へと進む」ために闘いました。

暗い時代の幕開けを予感させた21世紀の始まりに、20世紀を懐古し、未来を悲観した人たちがいる中で、前を向いて生きることの大切を問うたのがこの作品なのです。

ナガ
それでいて「懐かしむこと」を否定したわけではないのが、また凄いところなんだけどね。

懐かしさに浸り前を向くことを諦める姿勢を否定しているのは事実です。

しかし、人間とは時に「後ろを振り返ってみたくなる生き物」であるわけで、未来に向かって進むために、後ろを振り返り、ひと時の懐かしさに浸るというノスタルジーについては、本作はむしろ肯定的です。

 

子どもを経験した者としての「オトナ」

近年『ドラえもん』映画シリーズがこの手法のマーケティング戦略を全面に押し出しています。

(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2019

子供向けアニメを、「子供を経てオトナになった人たち」に向けて売り出そうという方針を見せているわけです。

その結果として映画『ドラえもん』シリーズの興行収入が近年右肩上がりを続けていることは言うまでもありません。

しかし、2000年代初頭にその戦略と主題性を孕んだ『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』という作品が既に公開されていたことを忘れてはいけません。

子供という存在にとって、「オトナ」とはある種の漠然とした未来であります。

一方で20世紀の日本青春映画において登場する「オトナ」とは、どこか汚く、薄汚れたものであり、子供たちは子供のままでいたいと願います。

例えば相米慎二監督『台風クラブ』がそうであり、菅原比呂志監督『ぼくらの七日間戦争』もそうであり、他の多くの青春映画のその傾向が見られました。

子供のままでいたいと願う少年少女の物語を描き、その中で大人とのコントラストを際立たせつつも、最後には青春の終わりと、「オトナ」という存在の足音が聞こえてくるところまでを描くのが1つの主流だったんです。

そう思うと、今作に登場するケンというキャラクターは、やはり「オトナ」になることを拒んでいるキャラクターなのでしょう。

それを端的に示すのが、彼らが2人の「子ども」をもうけておらず、ひろしが評したように「同棲して間もないカップル」の距離感を保っていたことです。

「子ども」とは、まさに未来を象徴する存在であり、だからこそケンたちにとっては、2人の「子ども」を持つということが自分たちが「オトナ」であることを嫌でも自覚させられる恐怖があったのではないでしょうか。

「オトナ」たちが大人になることを嫌がり、遠ざけようとするのは、まさに20世紀に日本で多数つくられた青春映画の再現でもあり、そしていつまでも青春時代の中にいたいという少年少女の願いの投影なのです。

そんな懐かしい物語設定に、「子どもを通り過ぎたオトナたち」という存在を当てはめ、ある種の主人公に仕立て上げた点が本作が「大人も楽しめるアニメ」の筆頭格として語り継がれる所以でもあります。

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ひろしの回想シーンが示した「オトナ」になることへの希望

映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』より引用

おそらく多くの人が涙したであろうシーンは、やはりひろしが自分の靴の臭いをかいで、自身のこれまでのナラタージュをし、洗脳から解ける一連のシークエンスでしょう。

この一連のシーンがどうして素晴らしいのかという点を考えていきましょう。

私は、このシーンにおいて、「足が臭い」というネガティブな特性をある種の「頑張った人間の勲章」としてポジティブに昇華し、そこに「幸せ」を見出したことが最大の要因なんだと思っております。

先ほどの章でも書きましたが、20世紀の青春映画において「大人=汚い存在」であることはしばしばであり、相米慎二監督の『台風クラブ』なんかでは特にその描き方が顕著と言えるでしょう。

つまり「大人になる」ということをある種のネガティブな視点で捉えることが青春映画のお約束みたいになっていた部分があったわけです。

そんな「汚い存在」としての大人を象徴するのが、ひろしの足の臭いでもあります。

人間は誰しも汚いものを避けて通ろうとしますし、好き好んでそんなところに足を踏み入れる人間はいないでしょう。

本作のヴィラン的立ち位置であったケンたちも、21世紀の臭いが耐えられないと述べており、自分たちが大人になることに不安と嫌悪を抱いています。

しかし、ひろしはその強烈な臭いと共に、家族の美しい記憶を取り戻し、「大人であること」を、「大人であろうとすること」を止めずに済みました。

この作品が素晴らしいのは、20世紀から21世紀への移行期の作品として完璧すぎる点です。

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』は、20世紀の「汚い大人像」を踏襲しつつも、その汚さの中にもかけがえのない希望と幸せが宿っているんだという優しい肯定の姿勢を見せています。

そしてその主題性が21世紀の初頭の漠然とした未来への不安と嫌悪が蔓延る時代に、きっとそんな時代にも希望があるんだという原監督の当時の人たちへのアンサーにもなっているんですよね。

作品が作られる際に、時代性というものは重要な意義を持ってくるわけですが、この作品が21世紀初頭に作られた意義はとてつもなく大きいと言えるでしょう。

 

ラストはしんのすけが

映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』

さて、そしてもう1つ多くの人が涙したであろうシーンは、終盤のしんのすけが階段を登り切り、タワーの頂上でボロボロになりながらケンを止めようとしたところでしょう。

このシーンの一体何がそんなに凄かったのかという点を今回は考えてみましょう。

ナガ
端的に言うと、このセリフをしんのすけに言わせたのがとにかく凄いんだよ!!

「あとは・・・オラ、大人になりたいから。大人になって、お姉さんみたいな綺麗なお姉さんといっぱいお付き合いしたいから。」

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』より引用)

子供とは、大人という汚い存在になることを拒むものなのではないかと20世紀時代の青春映画を見ていると、考えさせられるのですが、この作品は最後にしんのすけという子どもに「大人になりたい」と言わせてみせたんです。

そしてその直後のケンのセリフがこれなのが、また素晴らしいんですよね。

「20世紀は終わった。」

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』より引用)

ナガ
とんでもないセリフだよね・・・。

未来は確かに不確定で、暗い時代が続いているのかもしれません。

それでも人々が、その中でもきっと希望や幸せを見つけて、家族と共に生きていくんだという決意を見せ、「20世紀は終わった」の言葉へと繋がったのです。

つまり『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』という作品は、暦の上での21世紀の到来ではなく、人々が自分たちの意志で21世紀を生きるという決断をする瞬間を描いたんですよ。

それを、しんのすけという子どもの「大人になりたい」という言葉1つでしっかりと表現してみせています。

先ほど、本作が20世紀から21世紀への橋渡しの映画としてこの上なく優れているという話をしましたが、加えるならば、「1つの時代の終焉」を1つの映画の中で演出したことそのものがとんでもないとも言えるでしょうか。

 

おわりに

いかがだったでしょうか?

今回は映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』についてお話してきました。

やはりこの作品は何度見ても新しい発見と驚きがありますし、自分が何歳の時に、どんな状況で見るかによっても味わいが変わる映画だと思います。

ナガ
こういう映画を「名作」って言うんだろうね・・・。

そして何より21世紀の初めという時代にこの映画が作られたことそのものの意義がやはりとてつもなく大きいんだと思います。

「平成」が終わり、「令和」が始まろうとしている。

1つの時代が終わり、新たな時代が始まろうとしている今だからこそ、改めて見返してみたい作品かもしれませんね。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

 

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