【ネタバレあり】『獣道』感想・解説:内田英治監督が描く「下衆」と「居場所」とは?

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね、内田英治監督の新作映画『獣道』について語っていきたいと思います。

「けもの」と聞きますと、「けものフレンズ」が一大ブームになったのは記憶に新しいですよね。

登場キャラクターのサーバルちゃんの「すごーーい!」というセリフはネット上で大きな流行にもなっていました。

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アニメ「けものフレンズ」より引用

しかしですね、この「けもの」道という映画はですね、登場人物が全員「やばーーい!」映画なんですね。

今回はそんな映画『獣道』について語りながら、内田監督作品がなぜこんなにも心にガツンと響くのか?についても考えていけたらと思います。

良かったら最後までお付き合いください。




映画『獣道』

あらすじ・概要

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©Third Window Films. 映画「獣道」予告編より引用

ナガ
伊藤沙莉さんは本当に素晴らしい女優ですよね!

とある地方都市で生まれた愛衣は、信仰ジャンキーの母親によって宗教施設に入れられ、7年間世間から隔離された生活を送っていた。

教団が警察に摘発されたことにより、保護された愛衣は中学に通い始めるが、そこに彼女の居場所はなく、ドロップアウトした愛衣は、万引きと生活保護で生きるヤンキー一家や、サラリーマン家庭などを転々としながら、自分の居場所を必死に探していた。

愛衣に恋をし、愛衣の唯一の理解者である不良少年の亮太もまた自分の居場所を探していたが、やがて半グレたちの世界に居場所を見つけ、愛衣は風俗の世界に身を落とす。

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今作は「下衆の愛」を手掛けた内田英治監督が手掛けた実話に基づくブラックコメディ映画となっています。

地方都市で自分の居場所を求めて悩み、苦しむ少年少女たちの姿を鮮烈に描き出しています。またキャスト陣としては、愛衣役に伊藤沙莉、亮太役に須賀健太が参加しています。




映画『獣道』感想・解説(ネタバレあり)

ストレートでガツンと響くメッセージ性

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©Third Window Films. 映画「獣道」予告編より引用

映画作品を評する上で作品のメッセージ性を考えるというのは1つの批評の在り方です。

この映画を通して、監督が我々に伝えたいことは何なのだろうか?ということを作品に散りばめられた要素を1つ1つ丁寧に拾い上げて、そこから推察していくのです。

しかし、内田英治監督の映画『獣道』におけるメッセージ性というものはすごくシンプルです。そして、登場キャラクターの亮太のセリフとして劇中に何度も登場します。

「人間には居場所が必要だ。」

たったこれだけです。94分の映画で伝えたいメッセージはたったこれだけだと感じました。

作品におけるメッセージをあまり直接的に押し出しすぎるのは良くないという風潮があります。

メッセージの欠片を作中のあちこちに散りばめておいて、鑑賞する側がそれを読み取ってパズルのように完成させていくところに美徳があるなんてことが言われたりもします。

確かに、そういうメッセージの伝え方は悪くありませんし、高尚です。しかし、そんな回りくどいこと別にする必要もないんですよね。伝えたいメッセージがあるならば、セリフに乗せてストレートに鑑賞する側に伝えてしまえば良いんですよ。

内田監督はとにかくストレートにかつ単純明快に作品の主題を示し、そのメッセージ性をセリフに乗せて我々にぶつけてきます。だからこそ、我々の心にガツンと響くんだと思います。

 

綺麗ごとだけじゃ語れない

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©Third Window Films. 映画「獣道」予告編より引用

本作『獣道』はもう現代社会の闇という闇をこれでもかと凝縮した作品になっています。

新興宗教、育児放棄、ドラッグ、若者の非行、ヤクザ、暴走族、性産業などなど、もうあらゆるネガティブな要素をキュッとコンパクトに94分の映画の中に収めているのです。

しかし、それでいて本作が打ち出しているのは明るく前向きなメッセージなんですよね。

「人間には居場所が必要だ。」

メッセージはたったこれだけ。ではこれを描くために、この真っ直ぐなメッセージを伝えるために、なぜここまで社会の闇を描く必要があったのか?と考えてしまいますよね。

それに対して自分なりの答えを述べさせていただきますと、人間って結局、美談や綺麗ごとからは何にも学ばないんですよね。そんなものからはガツンと心に響くものは生まれないんです。

人間は失敗や汚い現実から学んでいくものだと思います。

だからこそ、徹底的に汚い現実を映画でこれでもかと描き尽くす必要があったのでしょう。

人間の醜い姿、暴力、社会の闇、犯罪、そういった人が普段は目を背けてしまうような汚く、暗い現実を見せつけることで、そしてそこから這い上がろうともがく少年少女の姿を描くことで、自身の伝えたいメッセージ性を際立たせているんですよね。

結局、物事は綺麗ごとだけじゃ語れないんですよ。

 

ヤンキー・不良・ヤクザ映画なのに暴力描写が弱い?

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©Third Window Films. 映画「獣道」予告編より引用

本作のレビューをいくつか読んでいて、否定的な意見の中にこんなものがありました。

ナガ
ヤンキー映画なのに、暴力描写が全然ダメ。全然怖くない。

確かに映画を見た私も、この意見には共感できます。暴力描写は完全に甘いので、ヤンキー・不良・ヤクザ映画として見るならば、この点は大きな欠点になってしまいます。

しかし、少し立ち止まって考えて欲しいのです。監督を初めとする製作陣が、こんな初歩的な弱点に気づかないでしょうか?作品を一番理解している製作陣が気づいていないはずがないと思います。

ということは、おそらく意図的に暴力描写を控えめにしているんだと思うわけです。

皆さま、以前に「ラストナイツ」という映画が公開されたのを知っていますでしょうか?紀里谷和明監督の作品ですね。

私は、この映画の監督舞台挨拶にお邪魔させていただいたんですね。その時にこんな質問をさせていただきました。

ナガ
この映画では、斬首シーンを初めとして人が殺されるまさにその瞬間のグロテスクなシーンの一切が排除されていて、また流血するシーンもほとんど見られませんでした。グロテスクな描写を避けたのには、何か意味があったのでしょうか?

この質問に紀里谷監督はこう答えてくれました。

「必要がないと判断したので描きませんでした。私が描きたいと考えているものを描いていく上で、グロテスクな描写は必要と感じなかったからです。」

グロテスクな描写というのはとてもインパクトが強いシーンになりうるわけです。

そのため作品にグロテスクな描写を多く入れてしまうと、一番伝えたい、際立たせたい他の何かが薄れてしまうことになるんですね。

今作『獣道』で暴力描写が比較的マイルドに描かれたのは、間違いなく内田監督の思惑があってこそのものだと思うのです。

内田監督は「下衆の愛」を製作した際にインタビューでこんなことを仰っていたそうです。

「日本のクソ人間には3種類あって、ゲス・カス・クズってね。僕は良い人間より悪い人間を主人公に描きたいと常々思っているんですけど、下衆というのはギリギリ愛せるっていう人ですね。」

結局のところ、内田英治監督が描く人物像は常に「下衆」なんですよね。

カスやクズではないんです。

とことん汚いですし、とことんどうしようもないキャラクターばかりが作品に登場します。

しかし、我々は、そんなどうしようもない「下衆」たちにどうしても愛着や共感、好意を感じてしまうのです。

それはまさしく内田監督が絶妙なバランスで人物像を設計しているからなんですね。だから好きじゃないけど、嫌いにはなれない絶妙なキャラクター像が出来上がっているわけです。

ナガ
こう考えた時に、暴力描写をハードにしてしまうと問題があると思いませんか?

そうなんですよ。暴力がハードすぎると、その人物はもはや「下衆」ではなく、カスやクズの方に分類されてしまうんですよね。

ヤンキー・不良・ヤクザ映画なのにもかかわらず、暴力描写をマイルドに留め、自身の描こうとする「下衆」な人物像を描き出すことを優先した作家性はもっと評価されてしかるべきだと思うわけです。




おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『獣道』についてお話してきました。

最近はどうも凝った映画が増えてきていますよね。まあそういう映画を考察していくのは自分の一番好きな分野ですので、その傾向にはむしろ好意的です。

しかし、本作『獣道』のようにもっとメッセージ性をストレートに押し出す作品が増えても良いと思うんですよね。だからこそ、ガツンと心に響くものがあるんです。

そして、内田監督の素晴らしいところは、世の中のきれいごとだけを描くことに終始しない点ですよね。汚くて、暗くて、じめじめした登場人物の悩みや葛藤、社会の闇なんかをこれでもかと作品に詰め込みながらも、作品が暗くなっていない、つまりコメディ映画として成立しているんですね。

これこそが、彼が描きたいと考えている「下衆」なんだと思います。

映画『獣道』は、まさに内田英治監督の作家性が炸裂した快作となっております。ぜひ劇場でご覧ください。

また、彼の過去の作品である「下衆の愛」も合わせてご覧ください。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

 

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