【ネタバレ】『るろうに剣心 最終章 The Beginning』解説・考察:剣心の背負う「業」の物語

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』についてお話していきます。

ナガ
『るろうに剣心』において最も評価が高いあのエピソードがついに実写化ですか…。

原作そしてアニメシリーズの方でも、多くのファンがベストエピソードに挙げる「追憶編」は、剣心と巴の過去を描いています。

2021年の4月に『るろうに剣心 The Final』が公開されましたが、そこにヴィランとして登場したのが、雪代縁という男でしたが、彼の姉にあたるのが巴という女性です。

巴はかつて剣心の妻であったわけですが、結果的に剣心が自らの手で斬殺することとなってしまいます。

なぜ、彼は巴を殺すことになってしまったのか、そして左頬の十文字の傷はどのようにしてできたのか。そうした本シリーズの最大の謎に迫る過去編が「追憶編」なんですね。

当ブログ管理人は、既に『るろうに剣心 The Final』の方も見てきましたが、これを見て改めて、「追憶編」を見せずして、縁と決着をつけてしまう今回の実写版2部作はあまり褒められないなと思います。

なぜなら、この「追憶編」というのは、剣心の「業」と「罪」の物語であり、本シリーズが描き続けてきた剣心の闘いというのは全て「罰」と「贖罪」だという点を明確にする重要なエピソードだからです。

特に、雪代縁という男は、まさしく剣心自身の行動が生んでしまったヴィランであり、彼の「業」と「罪」を象徴する存在とも言えます。

そんな縁という存在を乗り越える闘いを描く上で、その剣心の背負っている「業」や「罪」というものが曖昧な状態というのは、やはり許しがたいのです。

ただ、実写版の制作陣としては、『るろうに剣心』のアニメシリーズがちょうど2時間尺でこの「追憶編」を映像化し、とんでもない傑作に仕上げたという成功例を見ているので、それに倣いたい思いもあったのでしょう。

今回はそんな『るろうに剣心 最終章 The Beginning』について、原作、そしてアニメ版の内容にも触れながらお話していこうと思います。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事です。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




『るろうに剣心 最終章 The Beginning』

キャスト

キャスト
  • 緋村剣心:佐藤健
  • 雪代巴:有村架純
  • 桂小五郎:高橋一生
  • 沖田総司:村上虹郎
  • 高杉晋作:安藤政信
  • 辰巳:北村一輝
  • 斎藤一:江口洋介
  • 清里:窪田正孝
ナガ
過去編ということで、キャラクターも一新され、キャストも一新ですね!

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』で最も重要なキャラクターは、やはり巴です。

OVA版では、「雨の中で匂う菖蒲のような女性」だと表現されていましたが、演じた有村架純さんは独特な雰囲気を出していましたね。

他にもキーマンの1人である桂小五郎役には、高橋一生さんが起用されています。

原作やOVA版だと巴に「剣心の件を鈍らせないでくれ」なんて言うようなキャラではないんだけど…と思いつつ、あの飄々としているのに、目はギラギラとしている感じ、見事に表現しているなと感じました。

過去編におけるメインヴィランでもある辰巳を演じた北村一輝さんも存在感はありましたが、サプライズ起用だった清里役の窪田正孝さんも良かったですね。

ナガ
というより、あの役どころに主演級のキャストを持ってくるのが演出として評価すべき点じゃないかな?

有名なキャストが演じていると、どうしても彼には何かあると思わされますし、その印象が残ることで、後半に巴の婚約者が彼であると明かされる展開にスムーズに連結していきます。

 

あらすじ(原作+OVA)

 

※OVA版にしか登場していない描写はピンク色で着色しております。

※映画版は基本的にOVA版と全く同じ内容です。

 

孤児であった心太は、ある日戦いに巻き込まれたところを比古清十郎に救われる。

彼の中に可能性を見出した清十郎は、心太に「剣心」という名前を与え、飛天御剣流を伝授することに決める。

しかし、ある程度の修行を終えた剣心は、人のために剣を振るいたいと宣言し、清十郎の静止を振り切って、街へと戻ってしまう。

そうして、桂小五郎に才能を見出され、京都で「人斬り」として暗躍していた剣心は、1864年のある日、京都で「清里」という1人の男を剣心は殺害した。

また、別の日。夜道で襲撃を受け、人斬りをしていたところを通りかかった雪代巴という女性に見られてしまう。

剣心は人斬りを見て、意識を失ってしまったを自分の宿泊している宿に連れ帰った。

剣心の近くにいるようになり、そこから徐々に2人は心を通わせていき、それに伴って剣心は「人斬り」をすることに躊躇いを感じるようになる。

そんなある日、新撰組の襲撃で宿泊していた宿が破壊され、2人は京都を追われ、大津の小さな家で夫婦生活を始めることとなった。

穏やかな日々の中で、剣心は自分が守ろうとした、手に入れようとした「幸せ」とは何かを悟り、を深く愛し始める。

剣心に心を開くようになったは幼馴染で夫になる予定だった人が命を落としたことがきっかけで京都に来たと明かす。

そんな穏やかな日々が続いたある日、2人が暮らす家にの弟である縁が現れる。彼は自分が抜刀斎殺害を目論む組織「闇乃武」の刺客であることを明かし、剣心暗殺の日が近いことを伝える。

しかし、彼を愛し始めていたは組織を裏切ろうとして幽閉されてしまう。

剣心は縁によって届けられた手紙によりが結界の森の奥に幽閉されていることを知り、救出に向かう。

OVA版では…

剣心は、長州藩の検分役だった飯塚から「巴が剣心の情報を流していた間者だった。巴を斬れ。」と告げられ、動揺しながら結界の森へと向かう。(この時に巴のノートを「間者たる証拠」として読まされ、巴が清里の夫であったことを知る。)

救出に向かった剣心だが、敵に視覚や聴覚を奪われてしまい窮地に陥る。

そして、森の最深部で「闇乃武」のボスである辰巳と対峙するが、五感の大半を奪われた剣心は苦戦。

剣心を救うため、辰巳の懐に入り手に持っている小刀を奪おうとする。しかし、その刹那、自身は辰巳もろとも剣心に斬られて絶命してしまう。

ここでの手から離れた小刀が偶然、剣心の頬をかすめ、十字傷が生まれる。

OVA版では…

巴は死の間際に持っていた小刀で剣心の頬に傷をつけ、十字傷を作る。

剣心の遺した日記を読みながら、自分がかつて京都で殺害した「清里」が巴の夫になる予定の男だったと知る。

剣心は、との約束を守り、鳥羽伏見の戦いの後に「人斬り」を辞める。



OVA版と原作との違いと前者の演出的な凄みについて

「追憶編」はもちろん原作でも屈指の名エピソードなのですが、その評価が高い最大の理由は、やはり完成度の高いOVA版の存在です。

このOVA版では、原作ではぼかされていた部分が明確になっていたり、剣心の私的な回想という縛りから解放されたことで、比古清十郎のエピソードが追加されていたりと、この回想だけで1つの物語として成立しそうなほどの完成度を誇っています。

 

物語的な改変のポイント

物語的な視点で見るならば、やはり最大の改変は「剣心が結界の森へ向かうことになるきっかけ・理由」のところではないでしょうか。

『るろうに剣心 追憶編』より引用

原作での剣心は、最愛の人である巴が何者かに囚われてしまったから、彼女を救わなければならない、守らなければならないという一心で森へ向かっています。

ナガ
しかし、OVA版は原作よりもずっと残酷です。

先ほど「あらすじ」のところで書いたように、剣心は飯塚から巴の日記の存在を明かされ、彼女が間者であり、そして自分が手にかけた清里という男の妻になるはずだった女性であることを知ります。

それらを全て知って、背負った状態で剣心は飯塚から出された「巴を殺せ。」という命令に基づいて結界の森へと向かうのです。

つまり、彼は「巴を守る」という決意と飯塚からの「巴を殺せ」という命令の間で揺れ、さらに彼女の幸せを奪ってしまったこと、彼女が間者であったという事実に打ちのめされながら剣心は戦いに臨んでいるんですね。

この点で、原作とOVA版では、結界の森の戦いが内包する「重さ」が全く異なっており、やはりより剣心の感情を深く、重層的に描いている後者が高く評価されるのは当然でしょう。

 

優れた色彩感覚と「赤」のイメージ

また、OVA版が高く評価されるもう1つの大きな要因は、演出面です。

色彩、構図、エフェクト、モチーフなど映像作品として純粋に優れており、そこに惹かれるという方も多いのではないでしょうか。

色彩で言うなれば、OVA版の「追憶編」には、赤いモチーフが映像の端々に散りばめられています。

『るろうに剣心 追憶編』より引用

それは血であり、椿であり、巴の口紅であり、ナンテンやホオズキの実です。

この「赤」について、やはり最も印象に残るのは、剣心が人を殺害したときに飛び散る血の色としてでしょう。

特に、序盤の剣心による天誅の描写では、鮮やかな血の「赤」が私たちの眼に焼きつくほどに反芻されています。

そんな中、現れた巴、そして彼女の赤い口紅は、彼女が夫になるはずだった男性を剣心に殺害されているというバックグラウンドを鑑みると非常に意味深です。

つまり、巴は剣心に彼がこれまで流してきた「血=業・罪」をつきつける存在なんですよ。

その後剣心が藩の事情で、京都を離れ、大津で穏やかな生活を送るようになると、そこには椿の花やナンテン、ホオズキの実の「赤」が印象的に映し出されます。

これらは、例え人を斬らない生活を送っていたとしても彼の「罪」や「業」は消えないことを映像で表現しています。「赤」は彼の生活のどこにでも潜んでいるのです。

しかし、全ての物語を終えると、その「赤」がいつか「血=業・罪」のイメージから解き放たれる日の希望を私たちは持つことができます。

剣心が人斬りを辞め、そして「業」や「罪」を償うために人生を賭すことで、いつかきっと「赤」は「血」のイメージから解き放たれることでしょう。

そうすれば、美しい椿の花もナンテンやホオズキの実も「血」を想起させるモチーフではなく、最愛の巴を思い出させてくれるモチーフへと変化していくはずです。

こうした色彩演出に優れていた点は、まず特筆すべきでしょう。

 

巴の「あなた」と十字傷という「業」

そして、もう1つ個人的にとんでもないなと思ったのは、OVA版で巴が死の間際に剣心にかけた言葉です。

「ごめん…なさい…あなた」

『るろうに剣心 追憶編』より引用

ナガ
このセリフ考えた人、とんでもないなと思うんですよね。

何がすごいって、「あなた」という言葉のチョイスです。ここで「剣心」と言っていたら、すごく単純明快なセリフだったとは思います。

しかし「追憶編」ではここで、「あなた」という言葉を選ぶことで、そこに清里の存在を宿らせているんですよね。

「あなた」という言葉が指しているものを「剣心」と解釈するのであれば、それは自分が間者であったという事実、また彼の「弱点」となり苦しめてしまったことに対する謝罪なのかもしれません。

一方で、「あなた」という言葉が「清里」を指していたのだとすると、それは彼の無念を晴らすことができなかったことに対する謝罪であり、彼の存在がありながら剣心を愛してしまったことに対する謝罪なのでしょう。

この「あなた」の持つ二重性が、「ごめん…なさい…あなた」というセリフには内包されており、巴の最期を一層忘れられないものにしています。

さらに、原作では偶然についたに近い十字傷は、OVA版では巴が明確な意思を持ってつけたものとなっています。

この十字傷は清里と巴の思いによって形作られたものであり、それすなわち剣心の背負う「業」と「罪」の象徴です。

ナガ
文字通り剣心の背負わなければならない「十字架」ということだよね…。

原作の最終巻に、彼の十字傷が薄くなったと薫が剣心に語りかける場面がありますが、このことからも彼が人生を賭して、贖罪をすればするほどに、少しずつ「赦し」に近づいていくというモチーフでもあるのでしょう。



『るろうに剣心 最終章 The Beginning』解説・考察(ネタバレあり)

剣心の背負う「業」と「罪」の物語として

今回の『るろうに剣心 最終章 The Beginning』が描いたいわゆる「追憶編」のパートは、剣心が背負っている「十字架=十字傷」の真相に迫る物語です。

つまり、彼がなぜ不殺の信念を持ち、逆刃刀で戦い続けているのか、その理由を明らかにするための回想なんですね。

そして、記事の最初にも書きましたが、『るろうに剣心 The Final』のヴィランである縁は他でもない剣心自身が生み出した「悪」でした。

原作では、そんな縁に対して、剣心がどうすれば贖罪をできるのかを必死に考え、悩む描写があります。自分の命を捧げれば良いのではないかなんて考えてもいました。

そもそもこの「人誅編」の最大のテーマは、剣心が人斬りとして自分が犯してきた「業」やあ「罪」と向き合い、それを償う方法を自分なりに見出すことでした。

『るろうに剣心 The Final』は、「追憶編」にあたる内容をカットし、さらに薫の殺害偽装の展開を飛ばしたことで剣心の迷いや葛藤を描くことから逃げ、その上であっさりと縁と決着をつけてしまいました。

それ故に、アクション映画としては見応えがあるのですが、『るろうに剣心』のクライマックスとしてあまりにも軽すぎるという印象が拭いきれませんでした、キャラクターの感情を極めて表面的にしか描けていないんですよ。

また、『るろうに剣心 The Final』で最も手痛かったのが、剣心が彼の名前にも重なる、あの「答え」に到達しなかった点だと思います。

「剣と心を賭して、この闘いの人生を完遂する!」

(『るろうに剣心』第27巻より引用)

これこそが「剣心」という名前を持つ彼が選んだ答えであり、十字傷が象徴する「業」や「罪」に対する謝罪なんですよ。

つまり、『るろうに剣心 The Final』は剣心が背負う「業」や「罪」の何たるかを描かず、さらにそれに向き合うことから来る苦悩や葛藤、そうして見つけ出した「答え」の全てを描かなかったがために、物語として非常に薄いと言わざるを得ないのです。

ただ、『るろうに剣心 The Final』が雑になった代わりに、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』で、「追憶編」を1つの独立した物語として描けたというのはメリットではあったと思います。

『るろうに剣心』の実写版シリーズは、確かにアクション映画としてはすごいんですが、キャラクターやエモーションの部分を全く描けていないと第1作の時から常々言ってきました。

そんなシリーズが最後の最後で、キャラクターとエモーションにスポットを当てた「追憶編」を単体で2時間描くというのは、なかなか思い切った決断だったように思います。

ナガ
とりわけ、原作というよりは、OVA版の展開を意識した内容にしてきたのも良かったですね。

ただ、今後この『るろうに剣心 最終章』を見る機会がある方には、The Beginningを先に見た上で、The Finalを見て欲しいと思っています。

 

この物語は巴にとっても「贖罪」の物語であるということ

(C)和月伸宏/ 集英社 (C)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

ここまでお話してきたように「追憶編」ないし『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の主眼は、剣心が背負った「業」や「罪」にあります。

その一方で、今作は巴にとっての「贖罪」の物語であるという点を忘れてはいけません。

彼女は、夫になるはずだった清里という婚約者を祝言の直前に亡くしています。

清里は、巴と結婚するにあたり、彼女を幸せにしたいという思いから、動乱の渦中にある京都の見廻りに名乗りを上げ、彼女の元から離れて身を立てようと試みていました。

彼が、この時抱いていたのは、出世をして彼女に不自由ない生活をさせてあげたいという思いと、幕府を存続させることが夫婦の平穏な暮らしを続けるためには欠かせないという2つの思いだったのではないでしょうか。

しかし、これがきっかけで、清里は京都の動乱に巻き込まれ、結果的に剣心に斬られることになってしまいました。

そんな巴が抱いている後悔は劇中でも言及されていたように、「あの時、彼を引き留められなかったこと」なんですよね。

つまり、「今のままで十分幸せだから、京都にはいかずに江戸で傍にいて欲しい」と清里に言えなかったことです。

巴は当初、そんな自分の公開を仇である剣心を殺害することで、拭い去ろうと考えたのですが、彼と共に過ごす中でそうした考えに変化が生じます。

そうして、彼女は婚約者の清里を殺害した剣心を愛してしまうという、もう1つの「罪」を犯すのです。

清里を引き留められなかったことへの後悔、そして彼を殺した男への愛。

2つの「罪」の意識が巴の頭の中をぐるぐると駆け巡り、そうして彼女は1つの答えを出しました。

それは、「これまで多くの人を手にかけ、これからも多くの人を殺すだろうが、その先でもっと多くの人を救うであろう剣心」という人間を自分の命を賭して、この世界に引き留めるという決断です。

先ほど、剣心が物語のクライマックスで下す贖罪の意志が「剣と心を賭して、この闘いの人生を完遂する!」と表現されていることをご説明しましたが、実は巴の決意もすごく似ているんですよね。

清里は幕府を維持することで、巴との生活ひいてはたくさんの人たちの平穏な生活を守ろうとしていました。

だからこそ、彼女は剣心を助けて、いずれ訪れるであろう剣心がたくさんの人の命を救う未来を守ることで、清里の遺志をも汲み取ろうとしたんです。

命を懸けて、愛した2人の「意志」を守る。それこそが巴なりの「贖罪」でした。

「ごめん…なさい…あなた」

巴の最期の言葉を改めて振り返ってみると、それは彼女なりの「贖罪」を果たせたことに対する安堵のようにも思えます。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は、巴が2人の「あなた」の意志を未来に届ける物語とも紐解けるんですね。



物語的にも演出的にもOVAの再現ビデオになっている…。

(C)和月伸宏/ 集英社 (C)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は、ある意味全5作品の『るろうに剣心』実写版シリーズで最も王道で、最も変わった映画だと感じました。

というのも、これまでの4作品は基本的に原作をかなり改変し、映画独自のプロットと設定、演出で再構築してきた印象が強かったのです。

そのため、原作と比較すると、やはり気に入らない描写があったり、それは無いだろという改変もあったりしました。

ただ、原作の少年マンガ特有の「技名を叫んでから斬る」系の剣技を実写ベースのリアリティラインに落とし込み、実写映画として見た時に映えるアクションを追求した点など賞賛されるべき改変も多くあります。

一方で、今回の『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は、これまでの4作品と打って変わって、原作とりわけOVA版の追憶編に物語だけでなく、演出的な部分も含めて、完全準拠した作品になっていました。

つまり、良くも悪くもOVA「追憶編」の実写映像による「完全再現」なんですよね。

物語は基本的にOVAの枠からほとんど外れることなく、セリフのディテールの部分が少し変わっている程度のものです。

演出面でも、やたらと「血」の赤色を強調したり、先ほど挙げた「あなた」の二重構造を踏襲したりする部分まで完全に一致しています。

元々「追憶編」はアクション的に見せ場の多いエピソードではありませんから、一連の実写版シリーズの「売り」であるアクションについても鳴りを潜めており、これまでとは対照的に人間のエモーションの部分にスポットが当たります。

そのため、『るろうに剣心』実写版シリーズのアクション部分に惹かれていた人にとっては物足りないと思いますし、原作ファンからすると、これ見るなら別にOVA版で十分という内容なので、何とも評価しづらいんですよね。

これまでの4作品がカプレーゼにしてみたり、煮込み料理にしてみたり、あの手この手で新しい何かを模索していたのに、今回いきなり生のトマトを突き出されて、「結局、生で齧るのが一番美味いねん。」って言われてる気分なんですよ。

ポスターに「シリーズ最高傑作、誕生。」というキャッチコピーがありますが、その言葉に違わぬ作品ではあると思います。

確かに、これまでの4作と比較しても『るろうに剣心』としての出来栄えは圧倒的に高いです。

ただ、それが実写映画だからこそできたアプローチや工夫によるというよりは、単に原作ないしOVA版を特に味付けせず、そのまま活かしたからというのが複雑な気持ちにさせられます。

正直、今作は他の4作と比べても、評価が格段に難しいことは間違いありません。

あまりにも、他の4作品とはやろうとしていることや、実写化のアプローチが異なるからです。

ただ、それでもクライマックスの「結界の森」でのアクションパートは、よくぞここまで落とし込んだと思いました。

辰巳と対峙した際に、聴覚を失っているために、平衡感覚が乱れ、さらに視覚を失っているがために、がむしゃらに剣を振る剣心。

彼の反撃の一手が、相手の斬撃を受けて、それを止めることで、相手の場所を限定するという一瞬の駆け引きなんかは原作にもOVA版にも存在しないものです。

ナガ
で、結局一番どれがおすすめなの?

そう聞かれたら、やっぱり私は「OVA版」と答えると思います。あれは演出面も含めて、1つのマスターピースですので。



おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』についてお話してきました。

ナガ
やっぱり「追憶編」は最高ということを改めて確認しました…。

ただ、演出面も含めると、OVA版の完成度は今回の実写版、そして原作と比べても頭3つくらい抜けていると思っています。

ぜひ『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をご覧になった方も、OVA版の方をチェックしてみて欲しいです。

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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