【ネタバレ感想・解説】映画「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」:ラブコメと見せかけた大根流SFか?

アイキャッチ画像:©️2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会 「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」予告編より引用

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね、大根監督の最新作「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」を見てきましたので、その内容について語っていきたいと思います。

感想についてお話ししようと思ったのですが、想像以上に作品の出来がいまいちでしたので、感想にはあまり言及せずに、解説や考察を中心にお話ししていけたらと考えています。

良かったら最後までお付き合いください。

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あらすじ・概要

 絶妙な細かいディテールが人気の渋谷直角によるサブカルマンガを、妻夫木聡&水原希子の共演、「モテキ」「バクマン。」の大根仁監督により実写映画化。奥田民生を崇拝する雑誌編集者を主人公に、全編にわたって奥田民生の楽曲が使用されるラブコメディ。「力まないカッコいい大人」奥田民生に憧れる編集者コーロキが、おしゃれライフスタイル雑誌編集部に異動となった。仕事で出会ったファッションプレスの美女、天海あかりに一目ぼれしたコーロキは、あかりに見合う男になるべく、仕事に精を出し、デートにも必死になる。しかし、やることなすことすべてが空回り。あかりの自由すぎる言動に常に振り回され、コーロキは身も心もボロボロになってしまう。コーロキ役を妻夫木、あかり役を水原が演じるほか、松尾スズキ、新井浩文、安藤サクラ、リリー・フランキーらが脇を固める。

映画com.より引用)

予告編

感想:大根監督らしいが、魅力に欠ける作品

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©️2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会 「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」予告編より引用

大根監督作品といえば、圧倒的な編集力というイメージだったのですが、その武器は今作には特に見られず、平凡な作品にとどまった印象が強いです。水原希子のあかり役はすごくハマっていて、絶妙な「悪女」に仕上がっていました。

特に終盤の3人の男があかりに迫るシーンのあの編集というか繋ぎ方は無いなあと感じずにはいられませんでした。回想をあのタイミングで織り交ぜるとなんというかテンポ感や臨場感が台無しじゃないですか・・・。

あとはやはりラストシーンにしても何というか「500日のサマー」や「モテキ」のイメージを引きずっている感じは強いですね。

全体的に悪くはないですが、特筆して高く評価できる点も無いように感じてしまいました。

前作の『SCOOP』がかなり気合の入った作りになっていて、映画としての出来も素晴らしかっただけに本作は少しがっかり感が強いものとなってしまいましたね。

参考:【ネタバレ】映画『SCOOP』が示したのは映画監督としての決意と覚悟!

解説:理想と現実の間で・・・

本作の主人公コ―ロキは、奥田民生に憧れて彼のようになりたいと思い続けていた人物です。マレの編集部に配属されてからもそれは変わらずで、奥田民生のように自分の生きたいように、あるがままに緩く生きる自分を理想としていました。

しかし、思ったようにはいきませんよね。仕事にしても思ったようにいきませんし、恋愛にしてもやはり思ったようにはいきません。そういう日々が続くと、どんどんと心に余裕もなくなっていきますし、自分の理想なんてものは見えなくなっていきます。

人間はそれでも生きていくしかないんですよね。ただ、人って、ふとした瞬間に昔の自分が持っていた情熱や理想を思い出すんですよね。「あの頃は・・・」とか「昔は・・・」なんて。そしてその時自分が思い描いていた理想と、今の自分とのギャップに苦しんでしまうんですよね。

コ―ロキがみていた自分に振り向いてくれるあかりの姿というのは、ある意味彼が女性に抱いていた「理想」のイメージですよね。そして、彼が最後に見た、外国人の男と連れ添って歩くあかりの姿は「現実」なんです。

だからこそ、コ―ロキはこれからも自分の心を売りながら、「現実」と向き合って生きていくのでしょう。「理想」に囚われて生きていった者の末路は、まさにあの編集長の辿る道です。

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©️2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会 「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」予告編より引用

 本作が描いたのはキラキラしたラブコメなどでは無いのだと思います。人間はいつまでも「理想」を追い続けることはできないのです。いつかは「現実」と向き合って生きていかなければならない。そんなほろ苦いラストだったのかなと思いました。

本作ってラブコメじゃなくてSFなのでは?

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©️2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会 「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」予告編より引用

本作って一見するとというか、ジャンル的には完全にラブコメに分類される作品ですよね。

しかし、私は、この作品はSFなのではないか?と強く感じています。

というのも、この作品を見て一番最初に思い浮かべた作品は「her」という作品でした。

まずは簡単に「her」という作品を紹介しておきます。

ホアキン・フェニックス
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2015-07-08


・あらすじと概要

 「マルコヴィッチの穴」「アダプテーション」の奇才スパイク・ジョーンズ監督が、「かいじゅうたちのいるところ」以来4年ぶりに手がけた長編作品。近未来のロサンゼルスを舞台に、携帯電話の音声アシスタントに恋心を抱いた男を描いたラブストーリー。他人の代わりに思いを伝える手紙を書く代筆ライターのセオドアは、長年連れ添った妻と別れ、傷心の日々を送っていた。そんな時、コンピューターや携帯電話から発せられる人工知能OS「サマンサ」の個性的で魅力的な声にひかれ、次第に”彼女”と過ごす時間に幸せを感じるようになる。主人公セオドア役は「ザ・マスター」のホアキン・フェニックス。サマンサの声をスカーレット・ヨハンソンが担当した。ジョーンズ監督が長編では初めて単独で脚本も手がけ、第86回アカデミー賞で脚本賞を受賞。

映画com.より引用)

・予告編

あかりと人工知能

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©️2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会 「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」予告編より引用

あかりってすごく映画「her」に出てくる人工知能「サマンサ」に通ずるものがある存在だと感じたんですよね。

 「her」で描かれたのは、人工知能は同時多方向的な恋愛が可能だということです。「サマンサ」を自分だけの恋人だと思っていても、「サマンサ」には様々な人がアクセスできて、彼女はその全ての男性と個別に恋愛関係を結ぶ事ができます。

また人工知能であるがゆえに、自分の理想の恋人そのものになってくれるんですよね。またさらに言えば、恋愛相手になってくれるわけですが、画面の向こうにいる「疑似彼女」は自分には何も与えてはくれません。

これって今作「奥田民生になりたいボーイと出会う男と出会う男すべて狂わせるガール」のあかりにすごく近いと思いませんか?

コ―ロキは、あかりが自分だけの「恋人」になってくれたと思い込むのですが、実はあかりは同時に他の男の「恋人」でもありました。さらにいえば、あかりという女性はコ―ロキを含む3人の男にとって「理想の恋人」だったわけです。また、「恋人」ではありましたが、男は常に要求されるのみで、自分は何も与えてもらうことはできません。

あかりってやはりすごく人工知能のプログラムのように感じたんですね。特に今作ではSNSや電話のやり取りが多いように感じましたし、ラストに彼女は霧のように消えていきました。


そう考えると、今作には、「人工知能」との恋愛が裏テーマにあったのではないかと思うわけです。

「人工知能」が実現すれば、誰しも「理想」の異性との「疑似恋愛」が可能になります。しかし、そんな「理想」に振り回されると、どんどんと「現実」に支障をきたしていくんですよね。これが、コ―ロキを初めとした3人の男があかりに振り回される様子に現れていました。

しかし、映画「her」でも示されたように、人工知能というものは、何の罪悪感や背徳感もなく複数人と同時に恋愛関係になることができるのです。つまり、相手に合わせて常に相手の理想の異性であることができますし、それを同時に何人もの異性に行うことが可能なのです。

映画「her」でも、「理想」を追い求めた主人公が、そんな人工知能「サマンサ」の「現実」を垣間見た時、絶望に打ちひしがれていましたよね。自分のものだと思っていた女性は、自分だけのものではなかったわけです。

アニメのキャラクターなんかもある意味ではそうですよね。妄想の中では、理想の中では、自分だけの理想の異性です。しかし、「現実」に目を向けるとアニメのキャラクターは、多くのファンに自分に向けてくれているものと同じ笑顔を向けています。

技術革新というものは、人間の「理想」を次々に形にしていきます。そしてその一つが人工知能ですよね。これが確立されれば、社会は大きく変化していくと思います。VRや「バーチャル空間」なんかもその一つですよね。人間をどんどんと「理想」の世界へと誘おうとしています。

しかし、人間は決して「理想」の世界に逃げ込むことなんてできません。どんな「理想」にも綻びがあります。だからこそいつかは「現実」を見て生きていかなければならないのです。

本作には、コ―ロキの「理想」とは程遠いライターの女性が登場して、最終的にコ―ロキがその女性と恋愛関係になっているのも興味深いですよね。

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©️2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会 「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」予告編より引用

 人工知能やバーチャル空間はどんどんと人間の「理想」の領域を広げていってくれますが、そんな未来が来ても、やはり人間は変わらず「現実」を生きる、それしかないんですね。

おわりに

やはり、「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」という作品はすごくほろ苦いですよね。ビターエンドといえると思います。

予告編なんかを見ると、主人公コ―ロキがあかりという魔性の女性に振り回されていくラブコメの様相を呈していますが、内容をよくよく見てみるとSFチックですし、すごく風刺的な内容も含んでいるように思います。

映画としての出来はいまいちでしたが、作品の主題や物語的な部分は非常に興味深い内容を含んでいたように感じました。

大根監督の復活を印象づけた映画『SUNNY強い気持ち強い愛』の記事を当ブログでは扱っております。今作にはハマらなかった自分もこちらでは大絶賛です。

参考:【ネタバレあり】『SUNNY 強い気持ち 強い愛』感想・解説:大根監督が贈る最高にポップな青春映画!

短めの記事にはなってしまいましたが、今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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