【感想・解説】ジム・ジャームッシュ初期3部作に見る映画観・物語観・人物観を読み解く

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

いよいよジムジャームッシュ監督の最新作「パターソン」が明日、8月26日から公開になります。フィルマークスのアプリのクリップ数なんかを見てみましても、映画ファンからの関心が非常に高い作品であることが伺えます。

そんな中で、皆さまはジムジャームッシュ監督作品をどれくらいご覧になっているでしょうか?いかに簡単なフィルモグラフィを書いておきます。

  • 1980年:パーマネント・バケーション
  • 1984年:ストレンジャー・ザン・パラダイス
  • 1986年:ダウン・バイ・ロー
  • 1989年:ミステリー・トレイン
  • 1991年:ナイト・オン・ザ・プラネット
  • 1995年:デッドマン
  • 1997年:イヤー・オブ・ザ・ホース
  • 1999年:ゴースト・ドッグ
  • 2003年:コーヒー&シガレッツ
  • 2005年:ブロークン・フラワーズ
  • 2009年:リミッツ・オブ・コントロール
  • 2013年:オンリー・ラヴァーズ・レフト

とまあ実に多くの作品を残されているジムジャームッシュ監督なんですが、今回の記事ではこの中でも「パーマネント・バケーション」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「ダウン・バイ・ロー」のいわゆるジムジャームッシュ初期三部作から彼の映画観・物語観・人物観なんかを考えていきたいと思います。

各作品のあらすじと概要

パーマネント・バケーション

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©1980 Cinesthesia Productions Inc. 映画「パーマネント・バケーション」より引用

本作はジムジャームッシュ監督のデビュー作として知られています。また彼がニューヨーク大学の大学院映画学科の卒業制作として本作を製作したという点も驚くべき点です。

ストーリーはいたってシンプルで、主人公のパーカーが夜のニューヨークの街を歩き回って、出会った人と会話し、徐々に心情が変化していく。その過程を淡々と描き出しています。

ストレンジャー・ザン・パラダイス

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©1984 Cinesthesia Productions Inc. 映画「ストレンジャー・ザン・パラダイス」より引用

 ニューヨークでヤクザな暮らしをしているウィリーが、ハンガリーから渡米してくる従妹エヴァをしばらく預かるハメに。最初は邪険にしていたウィリーだったが、賭博仲間エディともどもだんだん彼女が気になり始めて……。(映画com.より引用)

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」はジムジャームッシュ監督の長編映画第2作目になります。ジャームッシュ監督が、ヴィム・ヴェンダース監督から「ことの次第」の端尺フィルムを譲り受けて1/3を仕上げ、短編として出品したロッテルダムでの受賞を受けて、長編映画として完成させたカメラ・ドール受賞作でもあります。

物語は「The New World,」「One Year Later,」「Paradise,」から成る三部構成になっています。

ダウン・バイ・ロー

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©1986 Black Snake Inc. 映画「ダウン・バイ・ロー」より引用

 刑務所で同房になった3人の男が奇妙な友情で結ばれ、やがて脱獄してそれぞれの道を歩み始めるまでを独特のユーモアで描く。(映画com.より引用)

本作は、デビュー作以来の常連ジョン・ルーリーに、ミュージシャンのトム・ウェイツ、“イタリアのウディ・アレン”ことロベルト・ベニーニを迎えたジャームッシュ監督の長編映画第3作になります。ミュージシャンのウェイツは本作に自身の楽曲を提供しています。「ダウン・バイ・ロー」というのは、刑務所におけるスラングで、「親しい兄弟のような間柄」を意味しています。

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ジムジャームッシュ監督の映画観

ジムジャームッシュ監督の初期三部作は基本的に登場人物の会話劇が主体になっています。そのため基本的に派手な演出は無く、ホームカメラで登場人物たちの日常や交流を自然に切り取っているような印象を与えます。また、遠距離から登場人物を捉えるカットや登場人物が無言で映し出されているカットも多く、鑑賞する人は「垣間見」をしているかのような気分になります。

彼の初期三部作の中で共通している場面がいくつかあります。

ベッドシーン

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©1980 Cinesthesia Productions Inc. 映画「パーマネント・バケーション」より引用

一般的にベッドシーンと言うと、セックスシーンのことになるとは思いますが、彼が描いているベッドシーンはそういう類のものではありません。純粋に睡眠をしているシーン、ベッドの上や脇で語り合うシーンなど、純粋に「ベッドシーン」を映し出しているのです。

3部作に共通して登場するということは、これは間違いなく意図的な演出であるわけです。まず、みなさんは「ベッド」にどんなイメージを持っているでしょうか?私は「人間が最も長く動かずに続けて留まる場所」であることが「ベッド」の持つ大きな意義であると考えています。また、当たり前のことですが「睡眠をする場所」という点も大きな役割であり、意義です。

この2つの点からジムジャームッシュ監督作品における「ベッドシーン」を紐解いていきます。まず睡眠というのは「周期的に繰り返す、意識を喪失する生理的な状態」と定義づける事ができます。この「無意識」状態に陥るという点は非常に重要だと考えています。

加えて、ベッドとは人間が「動くことなく長時間留まる場所」でもあるわけです。そう考えると、彼が登場人物がベッドにいるシーンや、登場人物が寝ていたであろうベッドをフィルムに収めるのは、登場人物の心理描写であるわけです。

それも意識に上っていない無意識の中にある登場人物の感情をベッドを媒介として視覚的に鑑賞するものに伝えようとしているのです。

そのため、登場人物によってベッドにおける佇まい、睡眠の姿勢などが異なっていますし、登場人物が寝た後のベッドもきちんと整えられていたり、ぐちゃぐちゃになっていたりと異なっています。そこには間違いなく登場人物の心理状態が大きく関係していますし、同時に登場人物の暮らしぶりや性格、気質なんかも読み取れるわけです。

登場人物がカメラに横並び正対の状態での会話シーン

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©1986 Black Snake Inc. 映画「ダウン・バイ・ロー」より引用

ジムジャームッシュ監督の初期3部作では、登場人物が横並びで会話しているシーンを正面から撮影したカットが必ず登場します。映画において、こういうカットはあまり使われない印象があります。

というのもニュース番組における対談のようになってしまって、どうも映画っぽくない印象を与えがちです。しかし、ジムジャームッシュ監督は臆することなく、デビュー作である「パーマネント・バケーション」からこのカットを多用しています。

「パーマネント・バケーション」では主人公と相手という2人での会話が目立っていたので、それほど意識することはありませんでしたが、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」や「ダウン・バイ・ロー」で、3人が横並びになって会話するシーンが増えてくるとこの演出は絶大な効果を発揮し始めました。

3人で会話していても、話し手が聞き手の2人のうちの1人に向けて話しているということは多々あります。映画においてそういう場合では3人での会話であってもその2人に焦点を当てて、切り取るのが定石です。しかし、ジムジャームッシュ監督はそういう場合であっても、3人を均等に映し出します。すると見えてくるのは、会話に含まれない「3人目」の表情や仕草なんですね。

こういう演出を取ることで、会話における「話し手」「聞き手」「3人目」の表情や仕草、心情などの情報が均等に伝わってくるのです。そしてこの演出こそがジムジャームッシュ監督の会話劇における真骨頂であると考えています。

右から左へ歩いていく登場人物のカット

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©1980 Cinesthesia Productions Inc. 映画「パーマネント・バケーション」より引用

ジムジャームッシュ監督は作中での空間の移動がある場合にはしばしば登場人物が右から左へ歩いていくカットまたは暗転を挿入します。これは後で論じる彼の物語論にも深く関わる演出でもあります。

彼は映画を1つの物語として作ろうとしていないんですね。小さな物語を組み合わせていって、その結果一つの大きな物語になっていた、という作り方をしています。その際に物語と物語を結びつける接着剤として「右から左へと歩いていくシーン」が多用されています。いわば、本のページをめくるような感覚ですね。

また、この登場人物が歩くカットを正面からではなく、横から撮っているという点が彼の心理描写の表現方法の一つなのではないかと考えています。正面から撮れば、登場人物の表情を印象的に映し出す事ができます。しかし、横から映した場合にはその表情の情報量はきっちり半分になってしまいます。

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©1984 Cinesthesia Productions Inc. 映画「ストレンジャー・ザン・パラダイス」より引用

一方で、横から映した場合には、登場人物の姿勢や歩き方などが強調されます。実は歩き方には、人間の性格や気質が大きく関係しています。歩く姿勢、歩く速さ、歩くリズム、歩く時の視線。これらはすべて登場人物の内面描写として有効に機能します。

一般的には、正面から撮り、表情で人物の感情を表現しようとしますが、ジムジャームッシュ監督はあえて横から撮って見ることで、正面からでは分かりにくい潜在的な情報を引き出しているわけです。

他にも語りたい要素は多くありますが、今回は特にジムジャームッシュ監督の映画における心理描写にスポットを当てました。彼は人物の感情を表面的に切り取るのではなく、その人物の内面奥深くにあるものをフィルムに焼き付けているのです。

ジムジャームッシュ監督の物語観

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©1984 Cinesthesia Productions Inc. 映画「ストレンジャー・ザン・パラダイス」より引用

彼の物語観については先ほど少し言及しましたが、実は「パーマネント・バケーション」の冒頭で明確に説明されています。

「物語は点と点を結んで最後に現れるものだ」

「本作は”そこ”から”そこ”、”ここ”から”ここ”の物語だ」

この「パーマネント・バケーション」の冒頭で、主人公のパーカーの物語観として語られたこの言葉がまさしく、ジムジャームッシュ監督自身の物語観に一致するように思うのです。

彼の初期3部作における物語構成はいたってシンプルです。登場人物が会話をする。移動する。登場人物が会話をする。移動する。この繰り返しです。つまり物語を作ろうとして物語を作っていないということが言えるのです。

あくまで、会話という物語を並べているのです。そしてそれを移動という接着剤が結び付けていきます。一見連続性を持たない「物語=会話」が、映画が進行するにつれて繋がっていき、見終わるころには一続きの大きな物語として完成するようになっているのです。これが彼の優れた物語観だと考えています。

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ジムジャームッシュ監督の人物観

ジム・ジャームッシュ監督が初期3部作で描き出した人物像は一貫しています。一言で言うなれば、「ここじゃないどこかを探し求める人物」を描くことに徹しています。

彼が初期3部作でこのような人物を描くことにこだわったのには、彼の人生とそして当時の社会状況が大きく関係しているように思います。

まず、彼の人生についてご説明します。彼はアメリカのオハイオ州で生まれた、ドイツ、アイルランド、チェコの血を引くヨーロッパ系アメリカ人です。彼は高校を卒業するときにシカゴに移住、ノースウェスタン大学に進学しますが、すぐにコロンビア大学に編入。その後パリに移住し10か月を過ごしますが、再びニューヨークに戻り、ニューヨーク大学大学院を卒業しています。

このように彼自身も「移動」の連続の若年時代を送っています。また当初はジャーナリズムを専攻していましたが、後に作家を志し、最終的には映画の道に進んでいるのです。

つまり「ここじゃないどこか」を求め続けた彼の人生がそのまま反映されたのが、彼の初期三部作なのです。初期三部作に登場する「ここじゃないどこか」を追い求める人物たちというのは、ジムジャームッシュ監督自身の人格を分けた存在であるわけです。

次に、当時の社会状況にも触れておきます。ジムジャームッシュ監督が初期三部作を製作したのは、1980年代です。作中の時間軸も「パーマネント・バケーション」でベトナム戦争が終わったことに触れていることから、現実の時間軸と同じと考えてよいものと思います。

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©1980 Cinesthesia Productions Inc. 映画「パーマネント・バケーション」より引用

1980年代アメリカというのは、景気のどん底にある時期でした。軍拡が国家予算を圧迫し、社会福祉予算がどんどんと減少し、貿易においても日本製品の流入が国内工場に大打撃となり、工場が次々に閉鎖され、失業者に溢れました。いわば、80年代はアメリカ暗黒期なんですね。

そのため、彼の初期三部作に登場する人物は金銭的に裕福でない、経済的に行き詰っている人物が多いように思います。そういった登場人物たちが、「ここから出て、どこかほかのところに行けば、自分は成功するかもしれない。」「今、自分が行き詰っているのは自分が悪いのではなく、自分の住んでいる土地が悪いのであって、他のところに行けば自分は成功できる。」という風に考えるのは人間として当然の心理であるわけです。

そういった社会状況も、ジムジャームッシュ監督作品に登場する人物に大きく影響を与えています。

そしてそんなジムジャームッシュ監督の人物観を象徴するようなセリフが実は「パーマネント・バケーション」に登場しています。

「どの人間も住んでいる部屋に似ていて、定着したら終わりだ。」

人間は自分が今いる環境に馴染んで、そこにあった人間に適応していくということを意味しているのだと思います。日本でも「田舎者」「都会っ子」なんて言葉がありますが、まさしくこのことですよね。人間性というものは自分が身を置いている環境に左右されるのです。

ジムジャームッシュ監督の初期三部作では、その適応を「悪」として常に「ここじゃないどこか」を求める人物を描いています。つまり、ある一つの土地に定住して、馴染んでしまうことは人間としてつまらないんじゃないか?ということを提言しているのです。

そう考えると、最新作の「パターソン」の主人公の設定はこの頃から、ジムジャームッシュ監督の人物感がいささか変容していることも感じさせてくれます。

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©2016 Injekt Inc. 映画「パターソン」より引用

映画「パターソン」の主人公の名前はパターソンで住んでいる町の名前もパターソンです。これは住む場所や環境が人間を形作るという彼の人物観を象徴的に表現している設定ともいえます。しかし、「パターソン」で描かれるのは、おそらくその町で淡々と日々の生活を送る男の物語です。

つまり、ジムジャームッシュ監督は自身の初期3部作で「悪」であるとバッサリ切り捨てた、「適応」を中心に据えて描こうとしているのです。もちろん、90年代、2000年代の彼の作品を見ていると少しづつ彼の人物感が変化していることは感じ取れたのですが、ついに自身の初期作品で描いた人物とは正反対の人物を「パターソン」で描こうとしています。

こういう意味でも初期三部作における彼の人物観を知った上で、「パターソン」を見ると、楽しめるのではないかと個人的には考えています。

おわりに

今回はジムジャームッシュ監督の初期三部作における映画観・物語観・人物観の3つのポイントを紹介しました。

映画「パターソン」はいよいよ明日から公開になります。今回紹介した3つの観点から、作品を紐解いていくと楽しめるのではないでしょうか?

まだ「パーマネント・バケーション」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「ダウン・バイ・ロー」を見ていないという方はこの機会にぜひ一度ご鑑賞してみてはいかがでしょうか?

参考:【ネタバレ考察】『パターソン』が描き出した現代を生きる人々の「ここにない何か」とは?

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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