【ネタバレあり】『月がきれい』第1話の感想と解説:反抗期と思春期の狭間で・・・。

アイキャッチ画像:©2017「月がきれい」製作委員会「月がきれい」予告編より引用

はじめに

さていよいよ春アニメの放送が続々とスタートしましたね!!皆さま、もう見る作品は決まりましたか?面白い作品に出会えましたでしょうか?

私も春クールは6~7作品ほどは通して見ようかなと思っておりまして、すでに放送されている第1話も10作品ほどは、鑑賞しました。私は妄信的でかつ熱心なP.A.WORKS信者なもので、放送前から「サクラクエスト」だけは期待値がすごく高くて、内容を見る前からブルーレイの予約を心に決めていました。

しかしですね、それを上回って来そうな、ここ数年での最高の作品になるんじゃないか?ってくらいに素晴らしい第1話に出会ってしまいました。

それが今回 取り上げる「月がきれい」という作品ですね。以下、簡単に概要だけは紹介させていただいて、解説の方を書いていきたいと思います。

概要

本作はfeel.が製作する恋愛アニメになります。最近のfeel.製作のアニメ作品と言いますと、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続」や「だがしかし」などがパッと浮かびますね。feel.は個人的にそんなに好きなスタジオというわけではなくて、どうもクールの終盤になると作画が安定しない印象があります。

今回も第1話は割と作画は安定していたように思いますが、所々に安っぽい人物CGが使われていて、少し気になりました。今回は最終回までなんとか作画を安定させてほしいなあと思う次第です。

監督を務めるのは、岸誠二さんですね。テレビアニメを普段から見ている人であれば、知らない人はいないのではないかくらいのビッグネームですが、なんとオリジナルアニメの監督は「結城友奈は勇者である」以来ですね。岸監督といえば、「瀬戸の花嫁」や「蒼き鋼のアルペジオ」の監督としても知られていますね。

今回はなんと恋愛アニメということで、岸監督としても新境地でしょうか?シリーズ構成・脚本に、岸監督と長年にわたってタッグを組んできた柿原優子さんも参加していて、まさに万全の体制と言える陣容だと思います。

本作は川越の中学校を舞台にした、中学3年生の男女の恋愛物語となっています。メインキャラクターは小説家志望の小太郎と陸上部の茜ですね。

解説1:「月がきれい」ってどういう意味?

「月が綺麗ですね。」というセリフが以前にPAWORKSの「グラスリップ」という作品で登場して話題になりました。

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©glasslip project 「グラスリップ」第9話より引用

登場したのは、「グラスリップ」の第9話ですね。この作品は「人類には早すぎる」アニメなので、積極的にオススメはできないのですが、「文学少女」が自分の思いを打ち明ける時のセリフに、「月が綺麗ですね。」を用いた点はすごくおしゃれな演出だったと思います。

思いを打ち明ける場面で使ったと言いましたが、そうなんです。「月が綺麗ですね。」というのはズバリ自分の恋愛感情を相手に打ち明けるためのセリフなんですね。

このセリフの源流はどこにあるのか?ということですが、一般的には夏目漱石の逸話に源流があると言われています。夏目漱石が英語の教師をしていた時に、生徒が「I love you.」の訳を求めてきたときに、「月が綺麗ですね。とでも訳しておきなさい。」と返答したという逸話があります。このことから遠回しな告白のセリフとして使われるようになったと言います。

そして、この「月が綺麗ですね。」の返答として、「死んでもいいわ。」というセリフが一般的とされています。これは、二葉亭四迷がツルゲーネフの「片戀」を訳した時に、「あなたのものよ」という意味のロシア語を「死んでもいいわ」と訳したことに起源があると言われています。

本作「月がきれい」には、文学少年であり、小説家志望の小太郎というキャラクターが登場することを考えても、このタイトルは夏目漱石の「月が綺麗ですね。」というセリフから来ていると思われます。思春期の始まりに立った文学少年の等身大の恋愛感情を象徴するような素晴らしいタイトルだと感じました。

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解説2:第1話タイトル「春と修羅」の意味とは?~「反抗期と思春期の狭間」で~

有名ですので、もちろん知ってらっしゃる方も多くいると思いますが、宮沢賢治の「春と修羅」という詩のタイトルから取ったものだと思います。「春と修羅」は昨年大きな話題になった映画「シン・ゴジラ」でも登場しましたね。

この詩は、美しい春の風景と、そこに立つ修羅(=宮沢賢治自身)を対比的に描いた詩と言われています。「修羅」というのは「阿修羅」のことでして、「阿修羅」というのはインド仏教界において悪神とされています。

皆さんは六道輪廻図というものはご存知でしょうか?これは六道、つまり上から天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道という6つの世界を表しています。先ほど紹介した「阿修羅」がいるのがこの図における修羅道の部分であると言われています。

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http://nam-students.blogspot.jp/2011/04/blog-post_20.htmlより引用

修羅道の位置づけは天道とそして人間道の下になります。ということはですよ、「阿修羅」つまり「修羅」という存在は人間よりも下の位置づけなんですね。ここから推察するに、宮沢賢治が自分のことを詩の中で「修羅」としたのは、自分を人間に満たない未熟者であると表現したかったのではないかという解釈がなされています。

ここで、「月がきれい」に話を戻すのですが、第1話のタイトルが「春と修羅」だったのは、まず作品の季節設定が「春」であること、そして登場人物の中学3年生たちを「修羅」であるとしたのではないでしょうか。

さて、ここからが今回の記事のタイトルにもした「反抗期と思春期の狭間で」という部分に関わってくるのですが、中学3年生という時期は何とも微妙な時期なんですよね。まさに「反抗期と思春期の狭間」の時期なんですよ。

だから精神的にも身体的にも成熟には向かっているもののまだまだ未熟な部分を残しているわけです。そして何より「自我」や「恋愛感情」に目覚める時期でもあります。しかしそれもまだ未熟なものとしてです。

中学生の不安定な自我を題材にした映画として私のオールタイムベストムービーである「台風クラブ」という作品があります。作品のプロットはいたってシンプルで、台風の夜に中学生が学校で暴れまわるというものですね。ただ、この作品が描き出しているのは間違いなく「反抗期と思春期の狭間」で芽生えた未熟で不安定な「恋愛感情」と「自我」なのです。ぜひ、一度鑑賞してみてください。

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2001-06-22

 

 



つまり、中学3年生という時期は、思春期に移行しきれていない、人間的に未熟な時期なんですね。ゆえにこの中学3年生の登場キャラクターたちは「修羅」に重なるのです。宮沢賢治がまだ人間になり切れていない自分を「修羅」に例えたように、思春期に移行しきれていない未熟な「月がきれい」の登場人物たちもまた「修羅」なのです。

ちなみに、第1話ではっぴいえんどのファーストアルバム「はっぴいえんど」通称「ゆでめん」に収録されている曲目で「春よ来い」という曲があって、この歌は宮沢賢治に影響を受けたとも言われているので、「春と修羅」というサブタイトルをつけた第1話で登場させてくるあたりがまた憎い演出ですね。

解説3:目立たない2人。だからこそのリアル。

本作のメインキャラクターの二人である小太郎と茜はクラスメイトとの描写を見ても明らかですが、クラスでは全く目立たない方の生徒ですよね。2人とも自分の周りに、小説や漫画の主人公たりうるような目立つ友人がいて、自分はその一取り巻きに過ぎません。はっきり言うなれば、小太郎と茜は二人ともアニメのメインキャラクターとしては弱いのです。

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©2017「月がきれい」製作委員会「月がきれい」予告編より引用

しかし、本作においてはむしろそんなキャラクター設定が功を奏していると言えましょう。皆さんも学生時代を思い返してみてください。もちろん学生時代にすごく目立つキャラで、クラスのムードメーカーだったという人もいると思いますが、そういう人ってあまりクラスに多くないですよね。何なら一人や二人の話です。大半の生徒はいたって平凡です。

私自身も学生時代はいたって平凡でした。でもそういう人ってフィクションの主人公にしてしまうとあまり映えないんですよね。だから青春モノの作品ではその一握りの目立つ生徒にスポットが当たります。ゆえに、リアルではあるんですが、大多数にとっての「リアル」とは言えないんですよ。

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©2017「月がきれい」製作委員会「月がきれい」予告編より引用

それに対して、本作はスクールカーストで言うなれば中の中みたいな平凡な生徒二人をメインキャラクターにしたことで、大多数にとっての「リアル」を獲得しているように思います。だからこそ、視聴者が自分の学生時代の経験と照らし合わせながら、時に共感しながら作品に没頭できるという性質を備えているのだと思います。

ファミリーレストランで小太郎が、茜の前で見栄を張って飲めもしないアイスコーヒーを注ぐシーンなんて誰もが経験したことがありませんか?男性諸君?私は、中学時代に女の子の前で意図的にブラックコーヒーを飲んだりしてましたよ(笑)。家で飲むときは砂糖とミルクを山ほど入れて飲んでいたにもかかわらずですよ・・・。

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©2017「月がきれい」製作委員会「月がきれい」予告編より引用

そういうキャラクターの設定のリアリティとちょっとした描写のリアリティが相まって、本作はある種の究極のリアリズムを獲得しているのです。

おわりに

まだ、第一話が放送されたにすぎませんが、いろいろなことを考えながら見てしまいました。この恋愛感情が恋愛感情になる前の何とももどかしい男女の心の動きを繊細なタッチで描き出した素晴らしい第一話だったと思います。

私が、好きなアニメで「true tears」と「青い花」というものがあるのですが、本作「月がきれい」は非常に雰囲気が似ているように感じました。

第一話なのに傑作誕生の予感です。春アニメNO.1になりうる予感です。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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